三尾の妖狐と僕の帰る場所   作:ゆくじろ

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文才がないので初投稿です!
そのうち文字数を倍くらいに増やしたいな


第二話 妖狐との日常

「……お主、まだおるのか」

 

翌日、廃墟の一室で目を覚ました僕に、聞き覚えのある声が降ってきた。

 

目を開けると、赤い着物を着た白髪の少女が、少し離れた場所に立っていた。

 

稲荷恋珀。

 

昨日出会った、五千年を生きるという狐の妖怪だ。

 

「おはよう」

 

「挨拶をしておる場合ではない。ここから出ていけと言ったはずじゃぞ」

 

「でも、ほかに行く場所もないし」

 

「それはお主の都合じゃろう」

 

彼女は呆れたようにため息をついた。

 

僕だって、彼女の住処を勝手に使うつもりはなかった。ただ、ここは思っていた以上に居心地がよかった。

 

それに、彼女が本当に妖怪なのか、まだ確かめたい気持ちもあった。

 

「君は、ずっとここに住んでいるの?」

 

「質問に答える義理はない」

 

「そっか」

 

「……まったく、調子の狂う人間じゃな」

 

恋珀は僕をじっと見つめた。

 

警戒しているのは分かる。けれど、今すぐ追い出そうとする様子はなかった。

 

しばらく沈黙が続いたあと、彼女は口を開いた。

 

「よいか。ここに住むことを許したわけではないぞ。ただ、今すぐ追い出すのが面倒になっただけじゃ」

 

「じゃあ、しばらくいてもいい?」

 

「話を聞いておったか?」

 

そんなやり取りが、何日も続いた。

 

僕は建物の壊れた部分を片づけたり、使える場所を掃除したりした。恋珀は最初こそ不満そうにしていたが、僕が何をしても特に文句を言わなくなった。

 

ある日、僕が水道の蛇口をひねっていると、恋珀が不思議そうに眺めていた。

 

「人間は水がなければ生きていけぬのか?」

 

「そうだね。君は違うの?」

 

「ワシとて水は使う。じゃが、人間ほど不便ではない」

 

そう言って、彼女は手のひらを軽く掲げた。

 

次の瞬間、小さな炎が浮かび上がる。

 

僕は思わず手を止めた。

 

「……それ、どうやったの?」

 

「火を起こしただけじゃ」

 

「手から?」

 

「そうじゃが?」

 

彼女にとっては、たいしたことではないらしい。

 

その炎は彼女の手のひらの上で揺れ、周囲をほんのりと暖めていた。

 

僕はその光景をしばらく眺めていた。

 

「便利だね」

 

「ふん。ようやくワシの力を理解したか」

 

少し得意げな顔をする恋珀。

 

その表情が、妙に印象に残った。

 

それから僕たちの生活は、少しずつ形になっていった。

 

水は残された水道を使い、火は恋珀の力で起こす。食べ物は僕が外から調達してくる。

 

決して快適とは言えない暮らしだったが、不思議と不自由には感じなかった。

 

恋珀は相変わらず偉そうで、何かにつけて「人間はこれだから困る」と口にする。

 

けれど、時折見せる仕草には、年相応の少女のような幼さもあった。

 

ある晩、僕が火のそばで座っていると、恋珀が隣にやってきた。

 

「お主、なぜここにおる?」

 

「ここが落ち着くから」

 

「……ほかに行く場所はないのか?」

 

「ないわけじゃないけど、帰りたい場所もないかな」

 

恋珀は何も言わなかった。

 

三本の尾が、ゆっくりと床の上を揺れる。

 

「人間というものは、帰る場所を欲しがるものではないのか?」

 

「そうなのかもしれないね」

 

「ならば、お主は変わっておる」

 

「そうかな」

 

「そうじゃ」

 

彼女は炎を見つめたまま、少しだけ声を落とした。

 

「……ここを帰る場所だと思うのなら、好きにすればよい」

 

僕は彼女の方を向いた。

 

「いいの?」

 

「何度も言わせるでない。ワシが許したわけではないぞ。お主が勝手に居座っておるだけじゃ」

 

「ありがとう」

 

「礼を言うな。調子が狂う」

 

そう言いながらも、彼女は僕の隣から離れなかった。

 

その夜、僕は初めてこの廃墟を、自分の家のように感じた。

 

そして恋珀もまた、僕がいることを少しずつ当たり前のように受け入れ始めていた。

 

まだ、お互いのことをほとんど知らない。

 

それでも、僕たちの間には小さな日常が生まれ始めていた。

 




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