三尾の妖狐と僕の帰る場所   作:ゆくじろ

3 / 3
次回から少し文字数増やす…予定!
主人公が恋珀を名前呼びし始めるシーンを描写し忘れたので初投稿です!
もし要望があれば自己紹介その他諸々含め番外編を作るかも?


第三話 妖狐の変化

廃墟での暮らしが始まって、しばらく経った。

 

最初は互いに警戒していた僕たちも、今では同じ空間で過ごすことが当たり前になっていた。

 

朝になれば目を覚まし、簡単な食事を用意する。昼間は建物の掃除や必要なものの調達をして、夜になれば火のそばで過ごす。

 

そんな何気ない日々が続いていた。

 

「お主、そこにあるものを取るのじゃ」

 

「これ?」

 

「そうじゃ。それじゃ」

 

恋珀が指さしたのは、少し離れた場所に置いてある道具だった。

 

僕がそれを手渡すと、彼女は満足そうに頷いた。

 

「うむ。ご苦労」

 

「自分で取りに行けばいいのに」

 

「ワシは今、忙しいのじゃ」

 

「何してるの?」

 

「……考え事じゃ」

 

そう言って、恋珀は腕を組んだ。

 

どう見ても、ただ座っているだけにしか見えない。

 

「そっか」

 

僕が笑うと、恋珀は少しだけ頬を膨らませた。

 

「なんじゃ、その顔は」

 

「いや、何でもないよ」

 

「まったく……人間というものは、余計なことばかり考える」

 

そう言いながらも、彼女の口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

その日の夕方。

 

僕は外から戻り、手にしていた荷物を床に置いた。

 

「ただいま」

 

返事はなかった。

 

いつもなら何かしら文句を言いながら顔を出す恋珀が、今日は姿を見せない。

 

少し不思議に思い、建物の奥へ向かった。

 

すると、窓際に恋珀が座っていた。

 

三本の尾を身体の周りに広げ、外の景色を眺めている。

 

「恋珀?」

 

「……む。戻ったか」

 

「何してたの?」

 

「外を見ておっただけじゃ」

 

僕も彼女の隣に座った。

 

窓の向こうには、夕日に染まった景色が広がっていた。

 

しばらく二人で眺めていると、恋珀がぽつりと口を開いた。

 

「お主は、ここで暮らしていて退屈ではないのか?」

 

「どうして?」

 

「人間はもっと賑やかな場所を好むものじゃろう。街へ行けば人も多い。店もある。楽しめることも多いはずじゃ」

 

「僕は、今の生活が好きだよ」

 

「……そうか」

 

恋珀はそれ以上、何も聞かなかった。

 

ただ、少しだけこちらに身体を寄せてきた。

 

その距離が、以前より近くなっていることに気づく。

 

「恋珀は?」

 

「何がじゃ」

 

「僕と暮らすの、嫌じゃない?」

 

彼女は驚いたようにこちらを見た。

 

そして、少し考えるように目を伏せた。

 

「……嫌なら、とっくに追い出しておる」

 

「そっか」

 

「それに、お主が戻ってくると、この場所が少し賑やかになる」

 

「それは褒めてる?」

 

「好きに受け取るがよい」

 

恋珀は顔をそらした。

 

けれど、隠しきれないほど頬が赤くなっていた。

 

僕はそれ以上からかわず、再び窓の外を眺めた。

 

夕日はゆっくりと沈んでいく。

 

この場所に来る前の僕は、明日が来ることに何の期待もしていなかった。

 

けれど今は、明日も彼女と過ごせることを、少しだけ楽しみにしている。

 

それはきっと、小さな変化だった。

 

恋珀にとっても、同じだったのかもしれない。




溜めてた分はここまで
よければコメント、評価、よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。