三尾の妖狐と僕の帰る場所   作:ゆくじろ

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すごい筆が乗ったので初投稿です!


第九話 恋珀と廃施設

木の実を食べた翌日、僕はいつもより早く目を覚ました。

 

窓の隙間から差し込む朝の光は、まだ薄い。

外では鳥の声が聞こえ、昨日までと変わらない静かな時間が流れていた。

 

隣を見ると、恋珀はまだ眠っていた。

 

長い白髪が頬にかかり、三本の大きな尾が身体を包むように広がっている。

普段は気配に敏感な彼女も、こうして眠っているときだけは、少し幼く見えた。

 

起こさないように、そっと身体を起こす。

 

そのまま入口の近くまで歩き、外の空気を吸った。

 

冷たい風が頬を撫でる。

 

昨日、恋珀と一緒に木の実を拾った場所。

その先に続く木々の間の小道。

少しずつ、この周辺の景色にも馴染んできた気がする。

 

ここへ来たばかりの頃は、ただ雨風をしのげる場所があればよかった。

誰かと話すことも、明日のことを考えることも、あまり必要だとは思っていなかった。

 

けれど今は違う。

 

朝になれば恋珀がいて、食事をすれば向かいに座り、何気ない話を交わす。

そんな日々が、いつの間にか当たり前になっていた。

 

「……湊?」

 

背後から声がした。

 

振り返ると、恋珀が入口に立っていた。

寝起きの白髪を片手で整えながら、こちらを見ている。

 

「おはよう、恋珀」

 

「おはようなのじゃ。こんな早くから何をしておる?」

 

「少し外の空気を吸ってた」

 

「そうか。まだ冷えるからの、あまり長く外におるでないぞ」

 

「うん」

 

恋珀は僕の隣まで歩いてくると、同じように外を眺めた。

 

「今日は何をするつもりじゃ?」

 

「特に決めてないよ」

 

「ならば、昨日の続きをしてもよいな。木の実もまだ残っておるし、別のものを探してみるのも面白そうじゃ」

 

「そうだね」

 

そう答えたものの、僕の意識は別の場所へ向かっていた。

 

ふと、思い出したのだ。

 

この近くに、かつて僕が暮らしていた施設がある。

 

もう長いこと訪れていない。

今では建物も使われなくなり、周囲の景色も変わっているだろう。

 

あの場所で過ごした日々を、忘れたわけではない。

楽しかった記憶も、苦しかった記憶も、僕の中には残っている。

 

けれど、もう一度行こうとは思わなかった。

 

思い出したくないというより、わざわざ振り返る必要がないと思っていたからだ。

 

「湊?」

 

恋珀の声に、僕は我に返った。

 

「どうしたのじゃ。何か考え込んでおるようじゃが」

 

「少し、昔のことを思い出してた」

 

「昔のこと?」

 

「僕が子供の頃に暮らしていた場所が、この近くにあるんだ」

 

恋珀の耳が、こちらへ向いた。

 

「以前話してくれた、施設のことか」

 

「うん。今はもう使われていないみたいだけど」

 

「そこへ行ってみたいのか?」

 

すぐには答えられなかった。

 

行きたいのかと聞かれると、少し違う気もする。

ただ、ふと思い出した。

それだけのことだった。

 

「……分からない。でも、もう一度見ておきたい気はする」

 

恋珀は僕の顔を見つめていた。

 

無理に理由を尋ねることも、行くべきだと勧めることもしない。

ただ、僕の答えを待っている。

 

「嫌な思い出もあるんだろう?」

 

「あるよ。でも、全部が嫌だったわけじゃない。そこで出会った人もいたし、覚えている場所もある」

 

「そうか」

 

「少しだけ、気になってるんだ。今どうなっているのか」

 

恋珀は静かに頷いた。

 

「ならば、行ってみるとよい」

 

「いいの?」

 

「お主が自分で見てみたいと思ったのじゃろう。ワシが止める理由はない」

 

「でも、恋珀は外に出るのが苦手だろ?」

 

彼女の三本の尾は、身体に対して大きすぎるほど立派だ。

人目につく場所へ行くのは難しい。だからこそ、普段は人の気配がない場所を選んで散歩していた。

 

「人の多い場所ならば行かぬ。じゃが、その施設は人がいないのじゃろう?」

 

「たぶん。少なくとも、今は誰も住んでいないはずだよ」

 

「ならば、ワシも行こう」

 

「一緒に?」

 

「当然じゃ。お主が昔暮らしていた場所を見に行くのじゃろう。ならば、隣にいるのが自然というものじゃ」

 

その言葉に、胸の奥が少し温かくなった。

 

「ありがとう」

 

「礼を言われるようなことではないのじゃ」

 

恋珀はそっぽを向いた。

けれど、耳の先がほんの少し赤くなっている。

 

「ただし、無理はするでないぞ。気分が悪くなったらすぐに戻る。何か妙な気配を感じた場合も同じじゃ」

 

「分かった」

 

「本当に分かっておるのか?」

 

「分かってるよ」

 

「ならばよい」

 

その日の朝食を済ませたあと、僕たちは出かける準備をした。

 

恋珀はいつもの赤い着物を整え、淡い橙色の帯を結び直す。

三本の尾は隠せないため、外を歩くときは人目につかない道を選ぶ必要がある。

 

僕は廃墟の中に置いてあった古い鞄を手に取り、水筒と簡単な食べ物を入れた。

 

「それでよいのか?」

 

「うん。遠くまで行くわけじゃないから」

 

「念のためじゃ。何があるか分からぬからの」

 

恋珀はそう言うと、入口の外へ出た。

 

僕もその後に続く。

 

廃墟を離れ、木々の間を進んでいく。

昨日歩いた小道とは違う方向だった。

 

しばらく歩くと、舗装の剥がれた古い道路が見えてきた。

草が伸び、ひび割れた地面の隙間から小さな植物が顔を出している。

 

「この先にあるの?」

 

「ああ。もう少し進んだところだよ」

 

「お主が暮らしていた頃は、どのような場所だったのじゃ?」

 

「普通の施設だったよ。大きな建物で、子供も何人かいた。庭もあったし、遊ぶ場所もあった」

 

「楽しかったか?」

 

「楽しいこともあったよ。でも、そうじゃないことも」

 

「……そうか」

 

恋珀は、それ以上聞かなかった。

 

僕も、すぐに話す気にはなれなかった。

 

ただ、歩きながら少しずつ記憶が蘇ってくる。

 

玄関を入ったところにあった受付。

廊下の端に並んでいた靴箱。

食事の時間になると聞こえてきた食器の音。

外で遊ぶ子供たちの声。

 

そして、そこにいた人たちの顔。

 

懐かしいと思う気持ちと、できれば思い出したくないという気持ちが、胸の中で交差していた。

 

「湊」

 

「ん?」

 

「話したくなったら話せばよい。無理に思い出す必要はないのじゃ」

 

「うん。ありがとう」

 

恋珀は僕の隣を歩いている。

 

その小さな手が、そっと僕の手に触れた。

僕が握り返すと、彼女も指を絡めるように握り返してくる。

 

やがて、木々の向こうに建物が見えた。

 

大きな建物だった。

 

外壁はところどころ剥がれ、窓には板が打ちつけられている。

敷地を囲んでいたフェンスは傾き、入口には伸びた草が絡みついていた。

 

かつて、僕が暮らしていた場所。

 

今は誰もいない、古びた建物。

 

「……ここだよ」

 

僕が足を止めると、恋珀も立ち止まった。

 

彼女は建物を見上げ、周囲の様子を確かめるように視線を巡らせた。

 

「ずいぶん古くなっておるな」

 

「そうだね。僕がいた頃とは全然違う」

 

「中へ入るのか?」

 

「うん。少しだけ見てみたい」

 

「分かった。ワシも一緒じゃ」

 

敷地の入口には、錆びた看板が残っていた。

文字は色褪せ、ところどころ読めなくなっている。

 

僕はその前で立ち止まり、しばらく看板を眺めた。

 

ここで暮らしていた頃の僕は、今の自分を想像できただろうか。

 

十九歳になり、仕事を辞め、行く当てもなく彷徨い、妖狐と一緒に暮らしている。

そんな未来を想像できるはずもない。

 

「湊」

 

恋珀が僕の顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫か?」

 

「うん。大丈夫」

 

「そうか。ならば行こう」

 

彼女の手を握ったまま、僕は敷地の中へ足を踏み入れた。

 

草を踏み分け、建物の入口へ向かう。

近づくにつれて、記憶の中にあった景色が少しずつ重なっていく。

 

玄関の扉は、片側が外れかけていた。

 

押すと、ぎい、と鈍い音を立てて開く。

 

中には、埃の匂いが満ちていた。

 

薄暗い玄関。

壁に残った古い掲示物。

床に散らばった紙片。

 

誰もいなくなってから、かなりの時間が経っているようだった。

 

僕は一歩、また一歩と中へ進む。

 

「ここが玄関か?」

 

「そう。ここで靴を履き替えてた」

 

「なるほどのう」

 

恋珀は僕の後ろを歩きながら、周囲を観察していた。

 

「昔の面影は残っておるか?」

 

「少しだけ。あの靴箱とか」

 

壁際に並んだ靴箱は、扉がいくつも外れていた。

その一つに、薄く名前の跡が残っている。

 

僕はそこに目を留めた。

 

懐かしい。

けれど、思い出の中の景色とは違う。

 

「……変わっちゃったな」

 

「建物は、時が経てば変わるものじゃ」

 

「そうだね」

 

「じゃが、お主がここで過ごした時間まで消えるわけではない」

 

恋珀の言葉に、僕は小さく頷いた。

 

廊下の奥へ進むと、いくつかの部屋が見えた。

食堂、職員室、子供たちが過ごしていた部屋。

 

僕は一つずつ、かつての記憶と照らし合わせるように眺めていく。

 

やがて、体育館へ続く通路が見えた。

 

「あっちが体育館だよ」

 

「行くのか?」

 

「うん。少し見てくる」

 

恋珀は僕の顔を見つめた。

 

「ワシはどうすればよい?」

 

「恋珀は外で待っていてくれる? グラウンドを見てきてもいいし」

 

「一人で大丈夫なのか?」

 

「大丈夫。すぐ戻るよ」

 

恋珀は少し考えたあと、頷いた。

 

「分かった。では、ワシはグラウンドにおる。何かあればすぐに呼ぶのじゃぞ」

 

「うん」

 

「約束じゃ」

 

「約束する」

 

僕は恋珀と別れ、体育館へ向かった。

 

彼女は一度だけこちらを振り返り、それから外へ出ていった。

 

体育館の扉を押すと、重たい音を立てて開いた。

 

広い空間に、埃の匂いが漂っている。

天井の一部は傷み、床には枯れ葉や細かな破片が散らばっていた。

 

それでも、体育館の形は昔のままだった。

 

「……懐かしいな」

 

自然と、そんな言葉がこぼれた。

 

壁際には、古いボールがいくつか転がっている。

そのうちの一つは泥で汚れ、空気も抜けていた。

 

僕はそれを拾い上げた。

 

昔、誰かと一緒に遊んだ記憶が浮かぶ。

名前はもう思い出せない。

けれど、笑い声だけは不思議とはっきり覚えていた。

 

ボールを元の場所に戻し、体育館の中をゆっくり歩く。

 

隅には、跳び箱やマットが積まれていた。

その奥に、用具倉庫の扉がある。

 

子供の頃、何度も出入りした場所だ。

 

僕は懐かしさに誘われるように、倉庫へ近づいた。

 

扉に手をかける。

少し重かったが、ゆっくりと押すと開いた。

 

中にはボールや縄跳び、古い遊具などが雑然と置かれている。

棚の上には、埃をかぶった箱が積まれていた。

 

「まだ残ってるんだな」

 

思わず笑みがこぼれる。

 

そのとき、倉庫の奥から小さな音がした。

 

かさり。

 

何かが動いたような音。

 

僕はそちらへ目を向けた。

 

「誰かいるの?」

 

返事はない。

 

気のせいだろうか。

そう思って、もう一歩中へ入った。

 

その瞬間だった。

 

バタンッ。

 

背後で大きな音が響いた。

 

振り返ると、倉庫の扉が閉まっていた。

 

「え……?」

 

すぐに扉へ駆け寄り、取っ手を引く。

 

開かない。

 

もう一度、力を込めて引いてみる。

けれど、扉はびくともしなかった。

 

「ちょっと、待ってよ……!」

 

外側から何かが引っかかっているのか。

古い扉が歪んでしまったのか。

 

理由は分からない。

 

僕は扉を叩いた。

 

「誰か! 外にいる?」

 

返事はなかった。

 

体育館の中にも、廊下にも、誰かがいる気配はない。

 

スマートフォンを取り出そうとしたが、圏外になっていた。

 

「参ったな……」

 

小さく息を吐く。

 

恋珀を呼べば、きっと気づいてくれるだろう。

けれど、彼女は今、グラウンドにいる。

 

ここから声が届くとは思えなかった。

 

僕は倉庫の中を見回した。

 

窓はない。

明かりもほとんど入らず、入口から差し込む光だけが床を照らしている。

 

その光が、少しずつ薄くなっているように見えた。

 

「……?」

 

不思議に思って振り返る。

 

扉の隙間から差し込んでいたはずの光が、黒い何かに覆われていた。

 

最初は影だと思った。

 

けれど、それは床を這うように広がり、壁を伝い、棚の下からも滲み出してくる。

 

黒い霧のようなもの。

 

それが、倉庫の中に満ち始めていた。

 

「何だ、これ……」

 

後ずさる。

 

黒い霧は、僕の動きに合わせるように揺れた。

 

その奥から、声が聞こえた。

 

『……どうして』

 

小さな声だった。

 

誰かが泣いているようにも聞こえる。

 

『どうして、誰も来なかったの』

 

「誰かいるの?」

 

『助けてって言ったのに』

 

声が増えた。

 

一つではない。

いくつもの声が重なり、倉庫の壁や床から響いてくる。

 

『ここにいるよ』

『忘れないで』

『どうして、見てくれなかったの』

 

耳を塞ぎたくなるほど、声が近い。

 

僕は扉を叩いた。

 

「誰か! 開けて!」

 

けれど、声は届かない。

 

黒い霧が足元に触れた。

 

冷たい。

 

まるで、氷のような手で足首を掴まれたようだった。

 

振り払おうとしても、霧は離れない。

むしろ、僕の足を伝って身体へと広がってくる。

 

『お前も、忘れるの?』

 

「違う……!」

 

『ここにいたことを』

『私たちがいたことを』

『なかったことにするの?』

 

声の一つ一つが、胸の奥に直接響いてくる。

 

僕は膝をついた。

 

身体が重い。

息がうまく吸えない。

 

それでも、頭の片隅では考えていた。

 

この声は、誰のものなのだろう。

 

ここにいた子供たちなのか。

それとも、誰かの記憶が残したものなのか。

 

『忘れないで』

 

その声を最後に、視界が大きく揺れた。

 

僕は床に手をつき、どうにか身体を支えた。

 

恋珀。

 

名前を呼ぼうとした。

 

けれど、声が出ない。

 

その頃、グラウンドでは恋珀が草木を眺めていた。

 

施設の建物から少し離れた場所。

かつて子供たちが走り回っていたであろう広い地面には、背の高い草が伸びている。

 

恋珀はしゃがみ込み、足元に咲いた小さな花に目を向けていた。

 

「こんな場所にも、花は咲くものじゃな」

 

指先で花びらに触れる。

風が吹き、草が静かに揺れた。

 

「人がおらずとも、季節は巡る……か」

 

彼女は穏やかな表情を浮かべていた。

 

湊が昔暮らしていた場所。

その記憶を、彼はどんな気持ちで見つめているのだろう。

 

無理に聞くつもりはなかった。

彼が話したくなったときに、聞けばよい。

 

そう考えていたときだった。

 

「久しぶりね」

 

背後から声がした。

 

恋珀の耳がぴくりと動く。

 

振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

 

落ち着いた佇まいの女性だった。

長い髪が風に揺れ、その顔には穏やかな微笑みが浮かんでいる。

 

しかし、恋珀の表情は一瞬で変わった。

 

「……お主」

 

女性は恋珀を見つめたまま、ゆっくりと近づいてくる。

 

「元気そうでよかったわ」

 

「何をしに来た」

 

「そんなに警戒しないで。少し話をしに来ただけよ」

 

「話すことなどない」

 

恋珀は立ち上がった。

 

三本の尾が、警戒するように揺れる。

 

女性はその様子を見ても、特に気にした様子はなかった。

 

「一緒にいるのね。あの子と」

 

「湊のことを知っておるのか」

 

「ええ。朝比奈湊くんでしょう?」

 

恋珀の目が細くなる。

 

「何者じゃ。なぜ湊の名を知っておる」

 

「今は、それを話しに来たわけではないの」

 

女性は建物の方へ視線を向けた。

 

その表情から、先ほどまでの穏やかさが消えている。

 

「恋珀。あの子を一人にしてはいけない」

 

「……何?」

 

「今、この施設の中で何かが起きているわ」

 

恋珀の耳が、ぴんと立った。

 

「どういうことじゃ」

 

「この場所に残されたものが、あの子に触れようとしている」

 

「残されたもの?」

 

「あなたなら分かるはずよ。ここに積もっているものが、ただの妖気ではないことくらい」

 

恋珀は建物を見つめた。

 

その瞬間、胸の奥に小さな違和感が走った。

 

いつもなら感じ取れるはずの湊の気配が、ひどく弱くなっている。

 

「湊……?」

 

女性は静かに告げた。

 

「急いだ方がいい。もう、時間がないかもしれない」

 

恋珀は女性を見た。

 

「お主は何を知っておる」

 

「説明している時間はないわ」

 

「答えよ!」

 

恋珀の声がグラウンドに響いた。

 

しかし、女性は答えなかった。

 

ただ、建物の奥を見つめている。

 

その視線を追った恋珀は、すぐに駆け出した。

 

「湊!」

 

三本の尾を揺らし、施設の入口へ向かう。

 

背後から女性の声が聞こえた。

 

「恋珀。あの子を連れて帰ってあげて」

 

恋珀は振り返らなかった。

 

今はただ、湊のもとへ向かう。

 

倉庫の中では、黒い霧がさらに濃くなっていた。

 

床に倒れた僕の視界に、いくつもの影が揺れている。

 

その影は、子供のような形をしていた。

 

小さな手が、こちらへ伸びてくる。

 

『忘れないで』

 

その声を聞きながら、僕の意識は少しずつ遠のいていった。

 

そして、閉ざされた扉の向こうから、誰かが僕の名前を呼ぶ声がした。

 

「湊――!」

 

その声は、確かに恋珀のものだった。

 

けれど、僕の意識はもう、その声に応えることさえできなくなっていた。




一体この女性は誰なんでしょうかね?
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