貞操逆転観念世界で男女の友情が成立すると思った愚かな少年⋯⋯を傍観する彼女持ち男子の話〜周りがギスギスしててもイチャイチャしたい〜   作:タワマン太郎

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第四話

 

 

六月。

 

梅雨の気配が少しずつ濃くなり始めた頃。

 

ボクたちの通う高校では、一つの大きなイベントが近づいていた。

 

そう。

 

体育祭である。

 

「……というわけで、今年の体育祭について説明するぞ」

 

朝のホームルーム。

 

担任の先生が教壇に立ち、教室を見渡した。

 

「今年も例年通り、クラス対抗形式で行う。競技は男女混合のものも含めて全十二種目だ。クラスごとに代表者を決めてもらうから、各自で相談してくれ」

 

「先生!」

 

早速、女子生徒の一人が手を挙げた。

 

「何だ?」

 

「男子生徒が参加できる競技は、どれくらいありますか?」

 

「基本的には全種目参加可能だ。ただし、男子生徒の身体的負担なども考慮して、男子限定の特別競技も用意されている」

 

「特別競技?」

 

「ああ。男子生徒の参加を前提とした競技だ。もちろん、本人の希望が最優先だから、無理に参加する必要はないぞ」

 

なるほど。

 

男女比が一対六の社会では、男子生徒が参加する競技にも色々と配慮が必要らしい。

 

……とはいえ。

 

「ねえ、優凛くん」

 

「ん?」

 

「一緒に出る競技、もう決めた?」

 

「まだだよ」

 

「じゃあ、私と二人三脚に出ない?」

 

「いいよ」

 

「本当!? やった!」

 

「私も優凛くんと出たい!」

 

「えっ、じゃあ私も!」

 

……うん。

 

早速、女子たちが集まってきた。

 

ボクとしては、誰と組んでも構わないのだけれど。

 

「ちょっと待って」

 

そこに、健太が割って入った。

 

「お前ら、優凛を取り合う前に競技を決めろよ」

 

「えー、でも優凛くんと出たいし」

 

「それは分かるけどさ……」

 

健太は呆れたようにため息をついた。

 

「ちなみに天羽、お前はどうするんだ?」

 

「俺?」

 

暁は少し考えた後、いつもの明るい笑顔で答えた。

 

「俺は何でもいいぞ!」

 

「……そうか」

 

健太の目が遠くなった。

 

ちなみに、暁の周囲にも女子生徒が集まっている。

 

桜庭美咲。

 

白石莉乃。

 

そして、その他のクラスメイトたち。

 

全員が、彼と同じ競技に出たいらしい。

 

「暁くん! 私と二人三脚に出ようよ!」

 

「え? いいぞ!」

 

「本当!?」

 

「おう!」

 

「……じゃあ、私も一緒に出たいな」

 

「え?」

 

美咲が静かに手を挙げた。

 

「暁、私とも何か一緒に出てほしいな」

 

「もちろん! 何がいい?」

 

「…………」

 

美咲は一瞬だけ言葉に詰まった。

 

そして、小さく笑う。

 

「あとで考えておくね」

 

「おう!」

 

……なるほど。

 

こちらもなかなか大変そうだ。

 

     ◇

 

ホームルーム終了後。

 

ボクは彩姫とメッセージをしていた。

 

『体育祭の競技、何に出ることにした?』

 

『まだ決めていないよ』

 

『そう。私もまだなの』

 

『一緒に何か出る?』

 

『いいの?』

 

『もちろん』

 

すぐに返信が来る。

 

『じゃあ、二人三脚がいいわ』

 

『分かった』

 

『……楽しみにしているわね』

 

『ボクも』

 

彩姫とは別のクラスなので、体育祭の競技も基本的にはクラスごとに決めることになる。

 

ただし、いくつかの男女混合競技では、クラスを越えたペアでの参加も認められているらしい。

 

その一つが二人三脚だった。

 

つまり、彩姫と一緒に出られる。

 

これは嬉しい。

 

……そんなことを考えていると。

 

「優凛!」

 

暁がこちらへやってきた。

 

「どうしたの?」

 

「お前、体育祭は何に出るんだ?」

 

「まだ全部は決めてないけど、彩姫と二人三脚に出るよ」

 

「へぇ! いいな!」

 

「暁は?」

 

「俺は美咲と二人三脚に出ることになった!」

 

「そうなんだ」

 

「ああ!」

 

暁は嬉しそうに頷いた。

 

「幼馴染だし、息も合うと思うんだよな!」

 

「……そうだね」

 

その瞬間。

 

背後から、何やら気配がした。

 

「……暁くん」

 

「ん? 莉乃?」

 

「私とも何か出ようよ」

 

「おお! いいぞ!」

 

「本当?」

 

「もちろん!」

 

「……じゃあ、二人三脚」

 

「え?」

 

「私と出てほしいな」

 

「いや、でも俺、美咲と出ることになってるんだよな」

 

「…………」

 

莉乃は笑顔を浮かべた。

 

「そっか。じゃあ、別の競技にしようかな」

 

「おう! 何でも言ってくれ!」

 

……うん。

 

どうやら体育祭は、競技以外の部分でも波乱がありそうだ。

 

     ◇

 

そして、数日後。

 

体育祭実行委員による競技の組み合わせが発表された。

 

ボクのクラスでは、以下のように決まった。

 

- 短距離走

- 障害物競走

- 綱引き

- 玉入れ

- 大縄跳び

- 男女混合リレー

- 二人三脚

- 借り物競走

 

そして、男子生徒には別枠の特別競技として、男子限定の障害物リレーが用意されていた。

 

……男子限定。

 

つまり、クラスに五人しかいない男子生徒が中心になる競技だ。

 

「優凛くん!」

 

「ん?」

 

「障害物リレー、一緒に頑張ろうね!」

 

「うん。頑張ろう」

 

「私たちも応援するからね!」

 

「ありがとう」

 

女子たちは嬉しそうに話している。

 

その一方で、男子たちは少し複雑そうだった。

 

「……なあ、優凛」

 

「何?」

 

「これ、絶対に女子の応援がすごいことになるよな」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ」

 

健太は遠い目をした。

 

実際、男子生徒が少ないこの学校では、男子が参加する競技はかなり注目される。

 

特に、男子限定の競技ともなればなおさらだ。

 

「まあ、頑張ろうよ」

 

「お前は余裕そうだな……」

 

「そう?」

 

「そうだよ」

 

健太は深いため息をついた。

 

すると、暁がこちらへやってきた。

 

「おう! 二人とも!」

 

「暁」

 

「男子限定の障害物リレー、楽しみだな!」

 

「そうだね」

 

「俺、絶対に一位を取るぞ!」

 

暁はやる気満々だった。

 

……ちなみに。

 

彼が一位を取れば、女子たちの歓声は凄まじいことになるだろう。

 

そして、もし転べば、心配する女子たちが殺到する。

 

どちらに転んでも大変だ。

 

     ◇

 

体育祭前日。

 

放課後。

 

ボクは校庭で、彩姫と二人三脚の練習をしていた。

 

「せーの」

 

「いち、に」

 

「いち、に」

 

最初は少しぎこちなかったけれど、何度か繰り返すうちに自然と息が合うようになってきた。

 

「上手くなってきたね」

 

「ええ。優凛が合わせてくれるから」

 

「彩姫も上手だよ」

 

「ふふ。ありがとう」

 

彩姫は嬉しそうに笑った。

 

そして、少しだけボクの肩に寄りかかる。

 

「……明日、楽しみね」

 

「うん」

 

「優凛と一緒に競技に出られるなんて」

 

「ボクも嬉しいよ」

 

「絶対に勝ちましょうね」

 

「もちろん」

 

そんな会話をしていると、校庭の反対側から声が聞こえた。

 

「暁くん、もう少し右!」

 

「こうか?」

 

「うん! そうそう!」

 

視線を向けると、暁と美咲さんが二人三脚の練習をしていた。

 

その様子を、少し離れた場所から莉乃さんが見ている。

 

「…………」

 

莉乃さんは笑顔だった。

 

けれど、その視線はどこか真剣だった。

 

やがて、暁たちが練習を終える。

 

「お疲れ様!」

 

「おう! ありがとう!」

 

「明日も頑張ろうね!」

 

「ああ!」

 

美咲さんは嬉しそうに笑った。

 

その一方で、莉乃さんが暁に近づく。

 

「暁くん!」

 

「ん?」

 

「私、明日の借り物競走に出るんだ!」

 

「おお! 頑張れよ!」

 

「うん! 応援してね?」

 

「もちろん!」

 

「……絶対だよ?」

 

「おう!」

 

莉乃さんは満足そうに笑った。

 

そして、ちらりと美咲さんを見る。

 

二人の視線が交差した。

 

ほんの一瞬。

 

けれど、そこには言葉にしなくても伝わるものがあった。

 

……なるほど。

 

どうやら、体育祭は恋愛模様にも影響を与えそうだ。

 

     ◇

 

そして、体育祭当日。

 

朝から校庭は大勢の生徒たちで賑わっていた。

 

色とりどりのクラス旗。

 

競技用具。

 

テントの下に並べられた応援席。

 

そして、観客席には保護者や関係者の姿もある。

 

「優凛!」

 

「あ、彩姫」

 

振り返ると、彼女がこちらへ歩いてきた。

 

今日は体育祭用のクラスTシャツに、動きやすい短パン姿。

 

髪も普段とは違うまとめ方をしている。

 

「似合ってるね」

 

「ありがとう。優凛も似合っているわ」

 

「ふふ。ありがとう」

 

彩姫はボクの胸元に目を向けた。

 

そこには、彼女が用意してくれた小さな月のワッペンがついている。

 

「ちゃんとつけてくれたのね」

 

「もちろん」

 

「嬉しいわ」

 

彼女は満足そうに微笑んだ。

 

すると、暁が駆け寄ってくる。

 

「優凛! 彩姫さん!」

 

「おはよう、暁」

 

「おはよう!」

 

「おう! 今日は頑張ろうな!」

 

「うん」

 

暁は元気いっぱいだ。

 

その後ろには美咲さんと莉乃さんもいた。

 

「おはよう、優凛くん」

 

「おはよう」

 

「聖道さんもおはよう!」

 

「おはようございます」

 

美咲さんは暁の隣に立っている。

 

莉乃さんはその反対側。

 

……まるで、両側から挟み込んでいるようだ。

 

「じゃあ、開会式に行こうぜ!」

 

「そうだね」

 

ボクたちは入場門へと向かった。

 

     ◇

 

午前九時。

 

体育祭が始まった。

 

開会式が終わり、最初の競技は短距離走。

 

その後、障害物競走、玉入れと続いていく。

 

ボクは障害物競走に出場した。

 

結果は二位。

 

悪くない結果だと思う。

 

「優凛くん、お疲れ様!」

 

「ありがとう」

 

「すごかったよ!」

 

「ふふ。どうも」

 

女子たちが笑顔で迎えてくれる。

 

その中には彩姫もいた。

 

「お疲れ様、優凛」

 

「ありがとう。彩姫も頑張ってね」

 

「ええ」

 

彼女はボクの額の汗をタオルで拭いてくれた。

 

……こういうところが好きだ。

 

そんなことを考えていると、隣から声がした。

 

「優凛、ちょっといいか?」

 

「健太?」

 

「次の男子限定障害物リレーのことなんだけどさ」

 

「うん?」

 

「俺たち、アンカーを誰にするか決めてなかっただろ?」

 

「ああ」

 

「暁がやりたいって言ってるんだけど、どうする?」

 

視線を向ける。

 

暁はやる気満々で手を挙げていた。

 

「俺、アンカーやりたい!」

 

「いいんじゃない?」

 

「本当か?」

 

「うん。暁なら大丈夫だと思うよ」

 

「よし! 頑張るぞ!」

 

健太は苦笑した。

 

「まあ、お前がそう言うならいいか」

 

そして、ボクたちもそれぞれの位置についた。

 

     ◇

 

午前十一時。

 

男子限定障害物リレー。

 

校内放送が響いた。

 

『続いての競技は、男子限定障害物リレーです!』

 

観客席がざわついた。

 

何せ、この学校の男子生徒は少ない。

 

そのため、男子限定競技は毎年かなりの注目を集める。

 

『各クラスの男子生徒が協力し、障害物を越えながらバトンを繋いでいきます!』

 

「優凛くん、頑張ってー!」

 

「暁くん! 応援してるよー!」

 

「健太くんも頑張って!」

 

……すごい歓声だ。

 

ボクは苦笑しながらスタート位置についた。

 

競技が始まる。

 

第一走者が走り出し、障害物を越えていく。

 

第二走者へバトンが渡る。

 

そして、第三走者。

 

ボクの番だ。

 

「優凛!」

 

観客席から彩姫の声が聞こえた。

 

「頑張って!」

 

「うん!」

 

ボクはバトンを受け取ると、障害物を越えて走り出した。

 

結果は二位。

 

次の走者へバトンを渡す。

 

そして、アンカー。

 

「暁!」

 

「おう!」

 

暁は勢いよく走り出した。

 

前を走る他クラスの男子生徒との距離はわずか。

 

それでも、暁は最後まで諦めずに走る。

 

そして――。

 

『ゴール! 一位は二年三組!』

 

歓声が上がった。

 

「やったぁ!」

 

「暁くん、すごい!」

 

「おめでとう!」

 

女子たちが一斉に駆け寄る。

 

「暁!」

 

美咲さんが真っ先に近づいた。

 

「すごかったよ!」

 

「おう! みんなのおかげだ!」

 

「……もう」

 

美咲さんは嬉しそうに笑った。

 

そして、暁の手を取る。

 

「頑張ったね」

 

「ありがとう!」

 

その様子を見ていた莉乃さんが、少しだけ頬を膨らませた。

 

「……暁くん」

 

「ん?」

 

「私も応援してたんだけど?」

 

「おお! ありがとう!」

 

「それだけ?」

 

「え?」

 

「……何でもない!」

 

莉乃さんは笑顔を作った。

 

うん。

 

こちらも大変そうだ。

 

     ◇

 

午後。

 

体育祭は後半戦に入っていた。

 

そして、ボクの次の競技は二人三脚。

 

彩姫と一緒に出る競技だ。

 

「優凛」

 

「うん?」

 

「少し緊張するわね」

 

「大丈夫だよ。練習したんだから」

 

「そうね」

 

彩姫はボクの手を握った。

 

「……一緒に頑張りましょう」

 

「うん」

 

スタート位置につく。

 

隣には他クラスのペア。

 

そして、少し離れたところには暁と美咲さんの姿もあった。

 

「お互い頑張ろうな!」

 

「うん!」

 

暁が笑顔で手を振る。

 

美咲さんもこちらを見て微笑んだ。

 

『位置について――』

 

放送が響く。

 

『よーい……』

 

パンッ!

 

号砲とともに、ボクたちは走り出した。

 

「いち、に!」

 

「いち、に!」

 

彩姫と息を合わせる。

 

最初は少し遅れたけれど、すぐにペースを取り戻した。

 

そして。

 

ゴール。

 

『一位、二年三組!』

 

「やった!」

 

「ふふっ! 勝てたわね!」

 

彩姫が嬉しそうに笑った。

 

「うん。彩姫のおかげだよ」

 

「優凛のおかげでもあるわ」

 

彼女はそのまま、ボクに抱きついた。

 

「……大好き」

 

「ボクも」

 

観客席から歓声が上がる。

 

……まあ、これは仕方ない。

 

ボクたちは恋人なのだから。

 

     ◇

 

そして、体育祭最後の競技。

 

借り物競走。

 

「私、行ってくるね!」

 

莉乃さんがスタート位置についた。

 

「頑張れよ!」

 

「うん!」

 

号砲とともに、選手たちが一斉に走り出す。

 

それぞれが紙を引き、書かれたお題に合うものを探していく。

 

莉乃さんも紙を開いた。

 

そして。

 

「…………!」

 

彼女の目が大きく見開かれた。

 

次の瞬間、こちらへ向かって走ってくる。

 

「暁くん!」

 

「ん?」

 

「ちょっと来て!」

 

「え? 俺?」

 

「うん!」

 

莉乃さんは暁の手を取った。

 

そのまま、ゴールへ向かって走り出す。

 

「お、おい! 何なんだ!?」

 

「いいから!」

 

そして、ゴール。

 

『白石さん、ゴールです!』

 

実況の声が響く。

 

『お題は何だったのでしょうか?』

 

莉乃さんは手に持っていた紙を開いた。

 

そこに書かれていたのは――。

 

『好きな人』

 

…………。

 

………………。

 

会場が静まり返った。

 

そして。

 

『おおっと! これは大胆なお題ですね!』

 

実況の声が響く。

 

莉乃さんは顔を真っ赤にしながら、暁の手を握っていた。

 

「……莉乃?」

 

「うん」

 

「お題、好きな人だったのか?」

 

「……そうだよ」

 

「へぇ。じゃあ、俺を選んでくれたのか?」

 

「…………」

 

莉乃さんは一度だけ目を閉じた。

 

そして、暁をまっすぐ見つめる。

 

「うん。だって、私が好きなのは暁くんだから」

 

「…………」

 

今度こそ、暁は固まった。

 

会場のあちこちから、小さなざわめきが起こる。

 

美咲さんも、彩姫も、そしてボクも。

 

全員が二人を見つめていた。

 

莉乃さんは続ける。

 

「友達としてじゃないよ」

 

「……え?」

 

「男の子として。恋愛対象として、暁くんが好き」

 

はっきりとした言葉だった。

 

誤解の余地はない。

 

それでも。

 

「……そうだったのか」

 

暁は驚いたように目を瞬かせた。

 

「うん」

 

「…………」

 

少しの沈黙。

 

そして、暁は口を開いた。

 

「ありがとう、莉乃」

 

「……うん」

 

「でも、今すぐ返事はできない」

 

「…………」

 

「莉乃のことは大切な友達だと思ってる。でも、今までそんなふうに考えたことがなかったから……ちゃんと考えたい」

 

「……そっか」

 

莉乃さんは少しだけ寂しそうに笑った。

 

「うん。それでいいよ」

 

そして、彼女は暁の手を離した。

 

会場には、まだざわめきが残っている。

 

けれど、ボクは少しだけ安心していた。

 

少なくとも、今回は暁もちゃんと理解したらしい。

 

……いや。

 

まだ分からない。

 

何せ、相手は天羽暁だ。

 

     ◇

 

体育祭終了後。

 

夕暮れの校庭。

 

ボクは彩姫と一緒に、片付けを終えた校庭を歩いていた。

 

「今日は楽しかったわね」

 

「うん。彩姫と一緒に競技に出られたし」

 

「私もよ」

 

彩姫はボクの手を握った。

 

「それに、優凛が一位を取ってくれたのも嬉しかったわ」

 

「彩姫も一位だったじゃない」

 

「ふふ。そうね」

 

そんな会話をしていると、少し離れた場所に暁たちの姿が見えた。

 

暁、美咲さん、莉乃さん。

 

三人で何かを話している。

 

「……天羽くん、どうするのかしら」

 

彩姫が呟いた。

 

「どうだろうね」

 

「白石さんの告白、受け止めたみたいだけれど」

 

「うん」

 

「美咲さんも、きっと複雑でしょうね」

 

ボクは二人の少女を見た。

 

美咲さんは笑顔で暁と話している。

 

莉乃さんも、いつも通り明るく振る舞っていた。

 

けれど、二人の目には確かな想いが宿っている。

 

「……青春だねぇ」

 

「そうね」

 

彩姫は小さく笑った。

 

そして、ボクの肩に頭を寄せる。

 

「でも、私たちは私たちでいいわよね」

 

「うん」

 

「優凛」

 

「なに?」

 

「今日のご褒美、欲しい?」

 

「ご褒美?」

 

「ええ。体育祭、頑張ったでしょう?」

 

「そうだね」

 

彩姫は少しだけ背伸びをした。

 

そして、ボクの頬にキスをする。

 

「お疲れ様」

 

「……ありがとう」

 

「ふふ。どういたしまして」

 

夕暮れの校庭。

 

ボクたちは手を繋いで帰路についた。

 

……さて。

 

明日からは、またいつもの学校生活だ。

 

ただし。

 

暁の周囲は、少しだけ変わるかもしれない。

 

何せ、白石莉乃さんがついに告白したのだから。

 

そして、もう一人。

 

桜庭美咲さんも、そろそろ本気で動く必要があるだろう。

 

天羽暁。

 

男女の友情が成立すると信じていた少年。

 

君はようやく、自分に向けられた好意の一つを理解した。

 

けれど。

 

それが新たな問題の始まりになることを、まだ知らない。

 

――ちなみに。

 

その日の夜。

 

暁からボクにメッセージが届いた。

 

『優凛』

 

『どうしたの?』

 

『俺、莉乃のことをちゃんと考えてみようと思う』

 

『そっか』

 

『でも、どうしたらいいのか分からないんだ』

 

『焦らなくていいんじゃないかな。自分の気持ちをゆっくり考えてみたら?』

 

『……そうだな』

 

『うん』

 

そこで会話は終わった。

 

……うん。

 

少しは前進したらしい。

 

そう思っていたのだけれど。

 

数分後。

 

『ところで優凛』

 

『なに?』

 

『好きってどういう感覚なんだ?』

 

…………。

 

………………。

 

ボクはスマートフォンを伏せた。

 

そして、彩姫にメッセージを送る。

 

『彩姫』

 

『なに?』

 

『暁、まだまだ大変そう』

 

『……そうでしょうね』

 

すぐに返信が来た。

 

『優凛は私のことだけ考えていてね?』

 

『もちろん』

 

……どうやら。

 

天羽暁の恋愛相談は、まだまだ続きそうだ。

 

 

 

 

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