戦闘は、
現実を舞台にした、スリルあるゲーム。
時には、苦戦することや、負けることだってあるだろう。
だがそれでいい。だからこそ、面白い。
敗北から学び、己を更に磨き上げ、次の勝利へ繋げる。
故に、もう一度言おう。
戦闘は、
―#コンパス―
ある者は口から火を噴き。ある者は肉体を変質させ。またある者はゴリラのような怪力を得た。本来、人類が持つはずのない異能の力。人々はそれを
最初こそ一人しか確認されなかった個性発現者は、続々とその数を増やしていき、いつしか現代は、世界総人口の八割が個性を持つ、超人社会へと変化していく。
しかし、どんな力も善なる者が使えば発展をもたらし、悪意ある者が使えば災害をもたらす。
結果、世界には二つの勢力が生まれた。
己の為だけに個性を使い、悪用する犯罪者。通称――【
個性を平和のために使い、
もはや、ヒーローは空想でも幻想でもない。一つの
そして、そんなヒーローを育成する教育機関。その中でも最も高い知名度を誇る名門――【雄英高校】。
そこでは今日、新たなヒーローの卵を迎え入れるための入試が行われていた。ヒーローとはいえ、立派な仕事の一つというわけだ。なりたいからと、なれる職業ではない。
雄英高校の入試は、筆記と実技の二つに分けられる。どちらも、国内最高峰と呼ばれるに相応しき難易度ではあるが、より厳しいのは実技試験の方だ。
ヒーローに相応しき
雄英高校内に設置された模擬市街地。そこに解き放たれた
開始のカウントダウンもなく、
そんな中、ただ一人、焦りも動揺も緊張も恐怖も見せず、喧騒の中をゆっくりと歩く受験生がいた。
小柄で華奢な少女だった。内側だけが淡い青白色に染まった背中まで伸びる白銀色の長髪に、どこか異質な印象を与えるアイスブルーの瞳。
他の受験生たちは、個性の使用を妨げないよう動きやすい体操服やジャージを着用しているというのに、彼女は白いオーバーサイズのジャケットに黒のインナーとボトムスを合わせた、いかにも普段着といった格好。
まさに自然体。まるで散歩でもしているかのように、呑気に戦場を歩く彼女の異質さに気付く余裕がある受験生は、まだ一人もいなかった。
「……コンパス、起動」
やがて、試験会場の中央で彼女は足を止め、静かに呟いた。
「ヒーロー認証、【Voidoll】」
機械のように、人形のように。彼女は熱のない声色で告げる。
「カードデッキ、セットアップ」
まるで何かを確認するように。あるいは、ただ事実を読み上げているだけのように。感情のこもらない、無機質な言葉が淡々と並んでいく。
「全システム、オールグリーン」
そして、少女は首から提げたペンダントに付いている、
「リンクスタート」
その瞬間、少女の全身が光に包まれる。
目を眩ませるほどの強烈な光が収まると、近くにいた受験生たちはようやく彼女の存在を認識し始める。しかし、その姿はもう先ほどの私服姿の少女とはまるで違う。
白銀色の髪は左右に大きく広がるツインテールへと変化し、その結び目には巨大なリボン状の白い機械パーツが備わっていた。黒いインナースーツの上から、胸部や腰、両腕、両脚を覆う純白の機械装甲を装着していて、装甲の隙間から覗く腕や太腿のスーツ部分は青白く染まり、電子的な光を放っている。
その姿は先ほどまでの面影を残しながらも、どこか機械的な印象を漂わせていた。
少女は閉じていた瞼をゆっくりと開くと、軽く地面を蹴った。そして、まるで重力など感じていないかのように、その身は浮かび上がる。
「……カピッ。最短ルートで勝利を目指しまス」
そして少女は走り出した。いや、走るというよりは超低空飛行に近いだろう。足場の悪さなどまるで気にした素振りもなく、迷いなく進んでいく。
すぐにロボット――すなわち、仮想
「標的ホ――」
「発射」
……が、ノータイムで放たれたサマーソルトキックによって、セリフを言い切る前に蹴り砕かれる。
彼女は、ロボットが機能停止するところを見届けることなく、そのまま低空飛行で進んでいく。時間の無駄と言わんばかりに。少女が変身した瞬間を見ていた受験生たちが、その姿を見失うのに、そう時間はかからない。
少女の戦い方は、非常に合理的かつ効率的だった。
最初から位置を把握していたかのように、最短距離で残っている3
ヒーローというよりも、ゲーマー。感情を一切挟まず、最低限の動きでロボットを次々と破壊していく彼女の戦闘スタイルからは、そんな印象すら感じられた。
「……現代の技術力はこの程度ですカ。話になりませんネ」
少女らしい高い声と機械的な無機質さを帯びた声。二つが重なったような声が、彼女の口から放たれる。
気づけば、序盤こそポイントを稼いでいなかった彼女が、その試験会場では、誰よりも高いポイントを手にしていた。
そんな時だった。地震と勘違いしてしまいそうなほどの激しい揺れと地響きを伴い、文字通りビルよりも巨大なロボットが現れたのは。
「おヤ……?」
模擬市街地に解き放たれた仮想
事前説明を行った、雄英高校の教師であり現役のプロヒーローでもあるプレゼント・マイクは言った。――0P
なんて性格の悪い。その巨体を見れば、戦っていい相手じゃないことぐらい一目でわかる。しかも、事前の説明ではここまでの大きさだと聞かされてすらいない。
『たたかう』なんて選択肢すら最初から切り捨てて、受験生たちは走り出した。当然だ。いくらヒーローを目指すとはいえ、中学生が自身の何十倍もの大きさを誇るロボットに挑めるはずがない。ポイント稼ぎよりも身の安全。全員が逃げ出した。
「人間は、無駄が好キ。知っていましたガ、入試ごときでここまでやりますカ」
ただ一人を除いて。
周囲が恐怖に顔を歪めて走り出す中、彼女だけは地面から数十センチ浮いたまま、他の受験生とは逆方向へ進んでいく。そう、つまり……0P
「お粗末な構造ですガ、巨大ロボとは素晴らしイ。ロマンを分かっていますネ。認めましょウ。この学校ガ、ワタシに相応しい場所であるト」
すると彼女は、フィギュアスケートの選手のように、片足を軸に、その場で何度も回転し始めた。
回数を重ねるごとに速度は増していき、彼女の周囲には薄緑色の光の帯が生み出されていく。
「……であれバ、こちらも
やがて、スピンを終えると、彼女を中心に半径10メートルほどの円を描くように、光の帯が広がった。
「空間転移装置、起動しまス。……残り三十秒。温存しておいて正解でしタ」
そして彼女は、躊躇いもなく超低空飛行で0P
「ちょ、おいっ! 何してんだっ!」
上半身をさらけ出した赤髪の男子が、少女の身を案じて叫ぶ。しかし、彼女は止まる素振りを見せない。
0P
「ワタシのヒーロースキルの利点ハ、体の一部でも効果範囲内に入れば、避けられない点にありまス。…………3」
少女は0P
「そしテ、アナタのサイズとスピードでは、回避は不可能…………2」
次の瞬間には踏み潰されるかもしれない。そんな状況でも、彼女は余裕を崩さない。いや、そもそも彼女の計算に、そんな未来は存在しないのだろう。
「つまリ、何が言いたいかといえバ……。…………1」
彼女はそのまま白い装甲に覆われた腕で、0P
「……おやすみなさイ、ベイべー。予告はしましたヨ」
0ポイント
「……は?」
「え、なんで……」
「う、嘘っ。どうしてっ」
他の受験生達が唖然とする中、今度は会場の別の場所から、ズドォォンッ!! という衝撃音が響き渡る。咄嗟に、その場にいた誰もが音の聞こえた方へ視線を向けると、そこにあったのは、頭部から模擬市街地に落下し、動かなくなった0P
彼女が事前に予告していたように、会場の上空へと空間転移させられた0P
歓声は上がらない。そこにあったのは、ただ信じられないという思いから生まれた静寂だけだった。
「……ゲームクリア。私の勝ち」
いつの間にか元の服装に戻っていた少女は、周囲から向けられる視線に僅かに口元を緩める。そして、試験終了を知らせるプレゼント・マイクの声を聞くと、自信に満ちた足取りで試験会場の入口へと向かっていく。
その顔からは、合否への不安など微塵も感じられなかった。
#コンパス 管理委員会
【本日の戦闘データ】
・使用ヒーロー:Voidoll
・カード構成:【機航師弾 フルーク・ツォイク】
【反導砲 カノーネ・ファイエル】
【帝皇機神 ケーニヒ・イェーガー】
【魂を司る聖天使 ガブリエル】
・簡易説明:
・作者からのコメント:「ボイドールにフルカノ入れんな。もっと状態異常を撒け」