この冬に、アイドルを堕とします。   作:ゴスちゃん

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注意

この作品に登場するアイドル、また、それに関連する芸能事務所や企業、業務内容、イベントは本作オリジナルのものであり、現実のものとは異なります。


第五話 アイドルをソープに堕とせ(前)

この冬に、アイドルを堕とします。 第一章 第五話

 

 

 有田(ありた)市はオーベイツという超大企業が運営する実験都市であり、そのテーマは自然と科学の共生。近未来都市構造のモデルとして日夜開発されている。

 全部で五つからなる区で構成されており、中でもセントラルと呼ばれる中央区には、市役所兼オーベイツの本社ビルがある。

 窓を排したこの黒塗りのビルは景観破壊の面が強く、多くの市民にとって不満の対象でもあった。

 そんなビルに、一人の男が入って行く。

 男は慣れないスーツを着飾り、緊張した面持ちで目的たる『お姫様』の部屋へと足を運んだ。

 

「飯島です。失礼いたします」

 

 悠斗がドアをノックすると、お姫様は「入って」と入室の許可を出した。

 そうして今宵、凡そひと月ぶりの悠斗とお姫様の謁見が始まる。

 

*

 

side飯島悠斗(いいじまゆうと)

 

 室内には荘厳な空気が張り詰めているように感じた。俺の格好を眺め見て、お姫様は嘲笑うように鼻を鳴らした。

 俺は軽く腰を降り、頭を下げた。

 

「お久しぶりです。亜里香(ありか)さん」

「十三分。随分と早かったわね?」

 

亜麻色の髪が左右に揺れる。

 

「え?……ああ、はい。偶々その場に居合わせた知人に車で送ってもらいました」

「…………」

 

 お姫様の眉が潜まる。

 疑っている表情だった。

 彼女に嘘は通じない。久しぶりに会うせいで、誤ってふざけた返答をしてしまった。

 

「ええと」

「近況を報告なさい」

 

 直ぐに訂正をしようとするも、先手を打たれる。彼女の瞳は、退屈させるなと言いたげであった。

 

「以前始めたライターのアルバイトを辞めました。その代わりに、波留プロダクションという芸能事務所で、マネージャーの仕事を始めました。今日がその初勤務日でした」

「それで?」

「……」

 

 一瞬思考が止まる。

 直さま何を話すべきか逡巡し、口を開く。

 

「担当するアイドルは、美空玲奈(みそられいな)という女です。勤務終わりに彼女の車でこちらまで伺いました」

「経緯を」

 

 再び、短い問いが飛んでくる。

 

「美空玲奈がプライベートで異性と話している様子をカメラで捉えました。それを危惧したのか、彼女の方から俺に接触して来ました。結果的に、写真を流出しない代わりに、月五十でマネージャーとして雇うとの契約を結びました」

「金稼ぎに必死ね?悠斗」

「…………」

「まあ、私に一億もの借金があるものね。月五十なら十七年ってところか。無事に返済できるといいわね?ねえ、悠斗?」

 

 静かなる圧力に、心が甚振られる。

 

「はい。……必ず」

 

 口ではそう言うものの、途方もない道のりに思えた。

 

「今日も、そんなお前の手助けをしてあげようとここに呼んだのよ」

「お心遣い、感謝致します」

 

 借金返済の手助け……要は俺に仕事を与えるって事だ。仕事で成功すれば稼げた分だけ借金が減る。逆に失敗すれば損失分だけ借金が増える。

 生きた心地のしない仕事が与えられるのだ。

 

 お姫様はサディスティックな表情を浮かべる。

 

「金稼ぎの良い機会ね。波留プロダクションのアイドル……誰でもいいわ。一人、風(・)呂(・)に(・)沈(・)め(・)な(・)さ(・)い(・)」

「あ、え……?風呂に、ですか」

 

 所謂、ソープのことだ。

 

「才能がなく金にならない雌でも、身体を売れば今より何十倍もの金になるわ」

 

 文字通りの鬼畜だった。お姫様はヒトを人間として見ていない。金のなる動物としか思っていないのだ。

 

「それこそ」

 

 嫌味ったらしい語気で彼女は続ける。

 

「昨年の音楽祭で優勝を果たした美空玲奈がソープに堕ちたら、どれだけの莫大な金になるでしょうね」

「…………」

 

 言葉を失う。

 アイツ、音楽祭の優勝者だったのか。それも去年の。少し調べれば分かるようなことさえ、俺は知ろうともしていなかったと自覚する。

 

 アイツに身体を売れと?

 ……そんなバカな。

 

「冗談でしょう?……あの女は音楽祭で優勝を果たすぐらい才能があります。わざわざ身体を売らなくても、本業で十分稼げるはずです」

「一例に挙げただけなのに、随分と噛みつくわね。まさか、もう情が湧いた?」

「いえ、そんなことは決して」

 

 俺だってアイツの弱みを握って金を稼ごうとした口だ。だが、お姫様のやり方はあまりにも直球で、残酷で、抵抗感があった。ただそれだけのことだった。

 

「まあいい。誰にするかはお前の判断に任せるわ」

「ですが、俺はただのマネージャーでしかなくて、そんなの」

 

 アイドルたちを雇う側であれば容易いだろう。それこそこの業界には枕なんて概念もある。しかし俺にそんな権力はない。アイドルをどうこうできる権力はないのだ。

 

「悠斗、お前は家畜なの?」

「え」

 

 鋭く冷たい眼差しに睨み付けられる。

 

「言い訳を付け並べるだけなら家畜でも出来る。現状の問題に対して、打開策を考えて行動に移し、解決するのが人間。違う?」

「違わないです」

 

 胃がはち切れそうだった。

 

「頭を使いなさい、悠斗」

「はい」

「お前は雄で、相手は雌よ。やり方なんていくらでもあるでしょう?」

「……なる、ほど……」

「恋仲を装うなり、心を壊すなり、何でもいいわ。雌は誰かに依存する状況に追い込まれれば、その誰かに対しては従順になるものよ」

「……はい」

 

 あんただって女だろう?

 自分で言ってて酷いとは思わないのか。

 そんな言葉を言いたくなるが、無意味だと悟る。オーベイツ現会長の総富賀(ふさとみか)。その養子たる岸辺亜里香(きしべありか)に、人に対する慈悲や思いやり、心配なんて感情は皆無なのだ。

 

「出来るわね?」

 

 肯定以外を許さぬ雰囲気があった。断れば殺(・)さ(・)れ(・)る(・)、そう感じる程に。

 

「出来ます」

 

 言い切ると、お姫様は満足そうに不敵な笑みを浮かべた。そうして、俺は金の亡者へと心を変えるのだった。




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