56話の続きからAIにお願いしてます。
# 第57話「怪獣は懐かない」
バンギラスの治療を終えてから、五日が経った。
「……そろそろいいかな」
スマホの画面には、図鑑アプリが表示されている。
『バンギラス Lv.58』
相変わらず、手持ちの中では一番レベルが高い。
ただし、こいつが俺の手持ちで一番強いかと聞かれれば、少し考える。
単純な力なら間違いなく上位だ。
何しろバンギラスである。
山を崩し、地形を変える怪獣。
ゲームでは頼もしい600族だが、現実に連れ歩くとなると話が違う。
何より。
「……言うこと聞かないんだよなあ」
『ポリ』
「知ってるよ」
ポリゴン2が短く鳴いた。
先日、久しぶりにボックスから出したバンギラスは、こちらの予想通りに暴れた。
結果として、手持ち総出で戦うことになった。
その後、傷の治療はしたものの、ひんしになったバンギラスを再びボールへ戻している。
つまり。
バンギラスからすれば、目が覚めたら自分を倒した連中に囲まれていた、という状況がまた繰り返されるわけだ。
「……そりゃ機嫌も悪くなるか」
とはいえ、いつまでもボックスに入れておくわけにもいかない。
以前、傷を放置してしまったのは完全に俺の失敗だ。
あんなことは二度としたくない。
「今日は傷の確認だけにしよう」
『ポリ?』
「無理そうならすぐ戻す。戦闘になったらそれで終わり」
ポリゴン2が少し身体を揺らした。
「……何?」
『ポリ』
「また暴れるって?」
『ポリ』
「……だよなあ」
自分で言っていて悲しくなる。
七月。
北海道にシンオウ地方のポケモンが現れてから、しばらく経った。
テレビでは連日のように新しいポケモンの目撃情報が流れている。
街中でコリンクが発見されたとか、道路にイシツブテが現れたとか、農地にビッパが住み着いたとか。
以前なら大騒ぎになっていたようなニュースも、今では多少落ち着いて扱われるようになっていた。
もちろん、危険がなくなったわけではない。
むしろ、ポケモンがいることを前提にした生活へ、少しずつ変わっている途中なのだろう。
『本日、道内の複数地域で確認されている野生ポケモンについて――』
テレビからニュースが流れてくる。
俺は朝食を食べながら、画面を眺めていた。
『新たに確認されたポケモンの中には、地中を移動する種類も含まれており――』
「……モグリューじゃなくて、たぶんフカマルか?」
『ポリ』
「いや、まだ分かんないけど」
ニュースの映像には、地面に開いた小さな穴が映っていた。
シンオウ地方なら、地中を移動するポケモンはいくらでもいる。
フカマル。
ヒポポタス。
あるいは、地面を掘る技を覚えた別のポケモンかもしれない。
「……まあ、政府に図鑑情報は渡してあるしな」
俺がいちいち解説する必要はない。
既に、今後の出現地域についても情報を提供している。
あとは研究者や行政の仕事だ。
……俺だって、たまには普通に生活したい。
『ポリ』
「何?」
ポリゴン2が、机に置かれたバンギラスのボールを見る。
「……ああ」
そうだった。
普通の生活。
そのためには、まずこの怪獣をどうにかしなければならない。
「……行くか」
山の中。
以前バンギラスを出した場所とは別の、さらに広い岩場へやってきた。
近くに人家はない。
人が通る道からも離れている。
ただ、ここなら絶対安全というわけではない。
バンギラスが本気で暴れれば、山の地形が変わりかねないからだ。
「……本当に厄介なポケモンだよな」
『ポリ』
「いや、褒めてるんだよ。一応」
まず、周囲の安全確認。
ポリゴン2に周辺を調べてもらい、リザードンには上空を警戒してもらう。
ゲンガーは俺の近く。
バタフリーは少し離れた場所で待機。
そしてリングマは。
「グマァ!」
「お前は向こうで待ってて」
「グマ?」
「いや、今日はなるべく顔合わせたくないんだって」
リングマが不満そうに鳴いた。
だが、素直に離れてくれる。
……本当に成長したなあ。
最初の頃なら、こんな指示を出しても聞いてくれなかった。
何度も戦い、何度も訓練して、ようやくここまで来たのだ。
それを考えると、バンギラスにも同じくらいの時間が必要なのかもしれない。
「……さて」
俺はモンスターボールを取り出した。
「出てこい、バンギラス」
赤い光が広がる。
巨大な身体が形を取った。
「グルルルル……」
太い脚。
緑色の装甲。
鋭い牙。
そして、こちらを睨みつける目。
「……おはよう」
「グルルルッ!」
「……はい」
挨拶は不評だった。
バンギラスは周囲を見渡す。
ポリゴン2。
バタフリー。
リザードン。
ゲンガー。
そして、少し離れたところにいるリングマ。
「グオオオオッ!!」
「うおっ!?」
バンギラスが吠えた。
そしてリングマの方へ歩き出す。
「待て待て待て!」
俺は慌てて声を上げた。
「今日は戦いに来たんじゃないって!」
「グルルル!」
聞いてない。
いや、聞いてはいるのかもしれない。
ただ、従う気がない。
「……リングマ、動くなよ!」
「グマ!」
リングマはその場に留まっている。
偉い。
対するバンギラスは、完全に喧嘩を売る気満々だ。
「……ああ、もう!」
俺はボールを構えた。
「バンギラス! 戻れ!」
赤い光が伸びる。
バンギラスの身体を包み、ボールへ吸い込んだ。
……静かになった。
「…………」
『ポリ』
「……終了?」
『ポリ』
「……まだ三分も経ってないんだけど」
今日の目標。
傷の確認。
結果。
失敗。
「……先が長いなあ」
それから二日後。
「……よし」
俺は再び山へ向かった。
今度はリングマをボックスに預けている。
バンギラスがリングマを見ると戦おうとするなら、最初から会わせなければいい。
単純な話だ。
「……これで少しは落ち着くかな」
『ポリ』
「何その反応」
ポリゴン2は答えなかった。
……嫌な予感がする。
そして、その予感は見事に的中した。
「グオオオオオッ!!」
「うわあああっ!?」
バンギラスを出した瞬間、巨大な岩が飛んできた。
「リザードン!」
「グォッ!」
リザードンが俺の前へ飛び出す。
岩を叩き落とした。
ドゴンッ!
地面に大きな穴が開く。
「……おい」
俺はバンギラスを見た。
「いきなり攻撃するなよ!」
「グルルル!」
「……いや、怒りたいのはこっちだよ!」
バンギラスは俺を睨んでいる。
完全に敵を見る目だった。
……まあ、そりゃそうか。
こいつからすれば、俺は自分を倒して捕まえた相手だ。
しかも、先日も手持ち総出で倒している。
信頼関係なんて、あるはずがない。
「……分かった」
俺はボールを構えた。
「今日はもう終わり」
バンギラスが再び吠えた。
だが、構わずボールへ戻す。
赤い光が収まる。
静寂。
「…………」
『ポリ』
「……二回目も失敗か」
ポリゴン2が小さく鳴いた。
「……笑ってない?」
『ポリ』
「いや、絶対笑ってるだろ」
さらに三日後。
俺は再び山へ来ていた。
「……今日は作戦を変える」
『ポリ?』
「こっちから近づかない」
前回までは、バンギラスを出した後、俺が話しかけたり近づいたりしていた。
それが気に入らないのかもしれない。
だから、今回は何もしない。
ただ外に出して、様子を見る。
それだけだ。
「……よし」
ボールを投げる。
赤い光。
そして。
「グルルル……」
バンギラスが現れた。
周囲を見渡す。
リザードン。
ポリゴン2。
バタフリー。
ゲンガー。
そして俺。
「……」
俺は動かない。
話しかけもしない。
ただ、距離を取って座っている。
バンギラスがこちらを見た。
「グルル……」
低く唸る。
だが、攻撃はしてこない。
「……」
俺は黙ったまま。
バンギラスも動かない。
一分。
二分。
三分。
……おお。
これは。
いけるんじゃないか?
そう思った、その時。
バンギラスがゆっくりと歩き出した。
「……ん?」
俺の方ではない。
岩場の端へ向かっている。
そして。
ドンッ!
巨大な岩を蹴り飛ばした。
ゴロゴロゴロッ!
岩が斜面を転がっていく。
「……おい!」
思わず立ち上がる。
「何やってんだ!?」
「グルルル!」
バンギラスがこちらを睨んだ。
……しまった。
声を上げたのがまずかったか。
だが、あんな岩を転がされたら危険だ。
「……ポリゴン2、下の確認!」
『ポリ!』
幸い、岩は途中で止まった。
下に人やポケモンもいない。
だが、これ以上は危険だ。
「……戻れ、バンギラス」
赤い光が伸びる。
そして、三回目の訓練も終了した。
「…………」
俺はボールを見下ろす。
「……難しいなあ」
正直、少し甘く考えていた。
リングマも最初は大変だった。
だから、バンギラスも時間をかければ何とかなる。
そう思っていた。
だが。
バンギラスは、リングマとは違う。
強さも。
気性も。
危険性も。
何より、こちらへの敵意が強い。
「……どうしたもんかな」
俺は岩に腰掛けた。
ポリゴン2が横へ来る。
『ポリ』
「……ん?」
ポリゴン2がバッグを見る。
中には、持ってきた食料が入っている。
「……ああ」
そういえば。
「飯、まだだったな」
翌日。
俺は再び山へ来ていた。
今回は、最初から食料を用意している。
木の実。
ポケモン用の食料。
それから、少量の岩塩。
バンギラスが何を好んで食べるのか、まだ分からない。
だから、いくつか試してみるつもりだ。
「……よし」
食料を岩場の中央に置く。
そして、十分に距離を取った。
「出てこい、バンギラス」
赤い光が広がる。
「グルルル……」
バンギラスが現れた。
すぐに周囲を見渡す。
俺を見つけると、低く唸った。
だが。
「……グル?」
地面に置かれた食料に気づいた。
「……」
俺は黙っている。
バンギラスは食料を見る。
そして、俺を見る。
もう一度、食料を見る。
「グルル……」
警戒している。
当然だ。
知らない相手から食べ物を渡されたところで、すぐに信用できるわけがない。
ましてや、自分を倒した相手だ。
バンギラスはしばらく動かなかった。
そして。
ドンッ!
地面を踏み鳴らした。
「……うおっ」
だが、今回は攻撃してこない。
ただ、こちらを威嚇している。
「……分かったよ」
俺はさらに距離を取った。
十メートル。
二十メートル。
岩陰まで下がる。
バンギラスがこちらを見ている。
そして。
ゆっくりと、食料へ近づいた。
「……お」
バンギラスが木の実を見下ろす。
鼻を近づける。
匂いを嗅いでいるらしい。
そして。
ガンッ!
「……え?」
バンギラスが木の実を踏み潰した。
ぐしゃり。
地面に果汁が広がる。
「…………」
『ポリ』
「……食わないのかよ」
バンギラスは、さらにもう一つ踏み潰した。
そして、俺の方を見る。
「グルルル」
……なんだろう。
すごく馬鹿にされている気がする。
「……まあ、いいか」
食べないなら仕方ない。
俺はボールを取り出した。
だが。
「……ん?」
バンギラスが動いた。
今度は、岩塩の塊へ近づいている。
そして。
ガリッ。
「……お?」
かじった。
もう一度。
ガリッ。
「……食べてる?」
『ポリ』
「……マジか」
バンギラスは岩塩を噛み砕いている。
ただし、全部食べるわけではない。
少しかじったところで、興味を失ったように顔を上げた。
「……なるほど」
岩石や鉱物に興味があるのかもしれない。
いや、単に岩塩が気に入っただけかもしれない。
まだ判断はできない。
だが。
「……一応、食べたな」
小さな進歩。
それだけで十分だ。
俺はボールを構えた。
「今日はここまでにするか」
バンギラスがこちらを見る。
そして、低く唸った。
「グルル……」
「……またな」
赤い光が伸びる。
バンギラスはボールへ戻った。
俺は、地面に残された食料を見た。
踏み潰された木の実。
少しだけ削れた岩塩。
「……」
正直、成功とは言い難い。
傷の確認もできていない。
こちらへの敵意も消えていない。
指示だって、相変わらず聞かない。
だが。
「……まあ、昨日よりはマシか」
『ポリ』
「だろ?」
ポリゴン2が身体を揺らした。
……そうだ。
焦る必要はない。
リングマだって、最初から言うことを聞いてくれたわけじゃない。
何度も戦って。
何度も訓練して。
少しずつ、今の関係になった。
バンギラスも、きっと同じだ。
……いや。
同じとは限らない。
もっと時間がかかるかもしれない。
そもそも、最後まで懐いてくれない可能性だってある。
「……それでも、まあ」
俺はボールをポケットへしまった。
「やれるだけやってみるか」
その日の夜。
俺はパソコンの前に座っていた。
画面には、北海道で確認された野生ポケモンの情報が並んでいる。
シンオウ地方のポケモンが出現してから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも、既に様々な問題が起きているらしい。
農地への侵入。
道路の破損。
野生ポケモン同士の縄張り争い。
そして、飼育を始めた人間とのトラブル。
「……まあ、そうなるよな」
ポケモンはゲームのキャラクターではない。
現実に生きている生物だ。
人間の都合だけで動いてくれるわけではない。
……俺も、それを身をもって実感しているところだ。
画面をスクロールする。
すると、一つの記事が目に入った。
『北海道内で確認された野生ポケモンの行動変化について』
「……ん?」
内容を読んでみる。
最近、山間部で野生ポケモンの移動が活発になっているらしい。
特に、これまで確認されていなかった大型ポケモンの目撃が増えているという。
「……大型ポケモンか」
シンオウ地方なら、候補はいくらでもいる。
ドサイドン。
カバルドン。
マンムー。
ガブリアス。
どいつもこいつも、現実で遭遇したくない相手ばかりだ。
「……北海道も物騒になったなあ」
『ポリ』
「いや、俺が言うのもなんだけどさ」
手元には、バンギラスのモンスターボール。
山を崩す怪獣が、今まさに俺の家にいる。
……うん。
人のことは言えない。
俺は記事を閉じようとした。
その時。
画面の端に、小さな通知が表示された。
『新着情報:道内の野生ポケモン調査について』
「……ん?」
開いてみる。
どうやら、研究機関が野生ポケモンの生態調査を始めるらしい。
調査対象は、北海道内で新たに確認された大型ポケモン。
特に、人間の生活圏へ近づいている個体について、行動範囲を調べるという。
「……へえ」
俺は少し興味を持った。
ポケモンが現れたことで、現実の生態系は大きく変化している。
その影響を調べるのは重要だ。
……まあ、俺が直接関わる必要はないだろう。
政府には既に情報を渡している。
今さら匿名有識者として出ていけば、また面倒なことになるだけだ。
「……頑張ってくれ、研究者の皆さん」
俺は画面を閉じた。
そして、バンギラスのボールを手に取る。
「……お前もそのうち、普通に外で過ごせるようになるといいな」
返事はない。
当然だ。
ボールの中にいるのだから。
「……まあ、明日も頑張るか」
俺はボールを置いた。
その時。
カタッ。
「……ん?」
ボールが、ほんの少しだけ動いた。
「……え?」
俺は目を凝らす。
もう一度。
カタッ。
「…………」
……おい。
「……まさか」
俺はゆっくりとボールを持ち上げた。
「……出たいのか?」
返事はない。
ただ。
カタッ。
もう一度、ボールが動いた。
「……」
俺はしばらく考えた。
そして。
「……駄目」
ボールを机に戻した。
「こんなところで出したら家が壊れるだろ」
カタカタッ!
「……暴れるなって!」
机の上で、ボールが小さく揺れ続ける。
俺は額を押さえた。
「……先が思いやられるなあ」
『ポリ』
「……笑うなよ」
ポリゴン2は、楽しそうに身体を揺らしていた。
……まったく。
怪獣を飼うというのは、本当に大変らしい。