ポケモン現代入り(非公式二次創作)   作:生獣(なまけもの)

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閑話「技術屋たちは、今日も帰れない」

 

 

 七月。

 

 午前八時二十分。

 

 工場のシャッターが開いた。

 

「おはようございまーす」

 

「おう」

 

「社長、昨日のやつどうなりました?」

 

「朝一番の会話がそれかよ」

 

「気になるじゃないですか」

 

「お前、昨日何時に帰った?」

 

「八時です」

 

「夜の?」

 

「朝の八時に帰ってたら今ここにいませんよ」

 

「……まあ、そうだな」

 

 社長はため息をついた。

 

 町工場。

 

 従業員はそれほど多くない。

 

 昔から付き合いのある取引先の部品加工を請け負い、旋盤やマシニングセンタを使って金属部品を作る。

 

 どこにでもある、小さな工場。

 

 ……だった。

 

 少なくとも、数か月前までは。

 

「社長!」

 

「今度は何だ!」

 

「昨日のスーパーボール、測定結果出ました!」

 

「おう」

 

「十二個中、十一個合格です!」

 

「……一個は?」

 

「寸法不良です!」

 

「どこだ?」

 

「内側の溝!」

 

「またかよ!」

 

 朝から元気な職場だった。

 

 工場の入口側。

 

 そこでは、通常のモンスターボールが作られていた。

 

 赤と白の、小さな球体。

 

 今や世間でも広く知られるようになった、ポケモンを捕獲するための道具だ。

 

 もっとも、一般人が簡単に購入できるほど普及しているわけではない。

 

 その製造技術自体が、まだ新しい。

 

 この工場では、ある匿名の依頼主から送られてきた図面をもとに、製造を続けていた。

 

「おーい、今日の通常ボール、何個上がる?」

 

「予定じゃ三個です」

 

「検査待ちは?」

 

「二個」

 

「昨日の不良品は?」

 

「直せます」

 

「本当か?」

 

「たぶん」

 

「たぶんで工程表に書くな!」

 

 怒鳴り声が響く。

 

 だが、誰も気にしない。

 

 いつものことだからだ。

 

 最初の頃は、一個作るだけでも大変だった。

 

 図面通りに削る。

 

 組み立てる。

 

 プログラムを読み込ませる。

 

 動作を確認する。

 

 失敗する。

 

 分解する。

 

 原因を調べる。

 

 また作る。

 

 そんなことを繰り返していた。

 

 それが今では、週に十個以上を安定して作れるようになっている。

 

 ……少なくとも、以前よりは。

 

「なあ」

 

 旋盤担当の職人が声を上げた。

 

「これ、最初に作ったやつ覚えてるか?」

 

「どれです?」

 

「一号機」

 

「ああ、あのクソ面倒くさかったやつ」

 

「言い方!」

 

「実際面倒だったでしょうが!」

 

 職人が笑う。

 

「今なら、あれ半分くらいの時間で作れるぞ」

 

「いや、もっと短縮できますよ」

 

「本当か?」

 

「工程組み直せば」

 

「じゃあやれ」

 

「今ですか?」

 

「今」

 

「通常の納期あるんですけど」

 

「……じゃあ後で」

 

 そんな会話が、毎日のように交わされていた。

 

 技術が進歩する。

 

 加工時間が短くなる。

 

 不良品が減る。

 

 それだけで、彼らは少し嬉しかった。

 

 そして。

 

「……よし」

 

 職人が完成した外殻を手に取る。

 

 表面を指でなぞる。

 

 小さく頷いた。

 

「こいつはいいな」

 

 その言葉だけで、隣の作業者が嬉しそうに笑った。

 

 

 

 一方、工場の中央。

 

 こちらでは、スーパーボールの量産工程を作っていた。

 

「……だから、ここを共通化すればいいんですよ」

 

「それは分かる」

 

「じゃあ何が駄目なんです?」

 

「加工はできる。問題は検査だ」

 

 CAD担当の若手と、工場長が図面を見ていた。

 

 モンスターボールとスーパーボール。

 

 見た目は似ている。

 

 だが、内部の構造には違いがある。

 

 共通化できる部品もあれば、できない部品もある。

 

「ここ、通常ボールの治具を使えません?」

 

「使えるけど、位置決めが甘くなる」

 

「許容範囲じゃないですか?」

 

「一個ならな」

 

「……ああ」

 

「十二個作って一個外れた。百個作ったら何個外れる?」

 

「……八個くらい?」

 

「その計算は雑すぎるだろ」

 

「いや、割合で」

 

「そういう話じゃねえ」

 

 工場長が図面を指差した。

 

「一個作れるのと、同じものを何個でも作れるのは違うんだよ」

 

 若手が黙る。

 

「今は腕のいい奴が調整してるから通ってる。だけど、毎回そいつを呼ぶのか?」

 

「……無理ですね」

 

「だろ?」

 

 工場長は椅子にもたれた。

 

「誰が作っても同じ精度になるようにする。それが量産だ」

 

「……じゃあ専用治具、作ります?」

 

「作る」

 

「社長に怒られません?」

 

「金は依頼主が出すって言ってる」

 

「いや、設備費じゃなくて」

 

「何だ?」

 

「また仕事増やすのかって」

 

「……」

 

 二人はしばらく黙った。

 

「……先に作るか」

 

「ですよね」

 

 話が早かった。

 

 

 

 工場の奥。

 

 そこは、別の意味で危険な場所になっていた。

 

「……違う」

 

 ベテラン職人が呟いた。

 

 作業台の上には、黒と黄色の球体。

 

 ハイパーボール。

 

 その試作品だった。

 

「……違うな」

 

 もう一度、呟く。

 

 隣では電子制御担当がノートパソコンを睨んでいた。

 

「どこが違うんです?」

 

「感触」

 

「感触?」

 

「閉まる時の感触」

 

「……それ、測定値で言ってもらえません?」

 

「嫌だ」

 

「なんで!?」

 

「触れば分かる」

 

「俺は電子制御担当なんですよ!」

 

 ベテランは試作品を開閉した。

 

 カチッ。

 

 もう一度。

 

 カチッ。

 

「……ほら」

 

「何が!?」

 

「ここ」

 

「どこ!?」

 

「分かんねえかなあ」

 

「分かんねえから聞いてんでしょうが!」

 

 そこへ中堅の職人がやってきた。

 

「何やってんだ?」

 

「ハイパーの閉まり方が気に入らないらしいです」

 

「貸してみ」

 

 試作品を受け取る。

 

 開ける。

 

 閉める。

 

 もう一度。

 

「……ああ」

 

「分かるか?」

 

「ちょっと重いな」

 

「だろ?」

 

「なんで分かるんだよ!!」

 

 電子制御担当が叫んだ。

 

 中堅は首を傾げる。

 

「いや、普通に分かるだろ」

 

「普通じゃねえよ!」

 

 ベテランが満足そうに頷いた。

 

「やっぱりな」

 

「やっぱりじゃねえんですよ!」

 

 電子制御担当は頭を抱えた。

 

 そもそも、ハイパーボールはまだ完成していない。

 

 外殻の加工。

 

 内部機構。

 

 捕獲機能。

 

 どれも調整が必要だった。

 

 そして、何より。

 

「……なあ」

 

 中堅が図面を見る。

 

「これ、どうやって量産するんだ?」

 

 沈黙。

 

 ベテランが答える。

 

「……まず一個完成させてから考えろ」

 

「それもそうか」

 

 技術屋たちは、今日も目の前の問題から片付けることにした。

 

 

 

 昼休み。

 

 休憩室のテレビでは、北海道のニュースが流れていた。

 

『道内では新たなポケモンの目撃が相次いでおり――』

 

「北海道も大変っすね」

 

 新人が弁当を食べながら呟いた。

 

「シンオウってやつだろ?」

 

「そうっす」

 

「また種類増えたんだな」

 

「増えましたねえ」

 

 新人はスマホを操作した。

 

 画面には、野生のコリンクの写真。

 

「これ、かわいくないです?」

 

「おお」

 

「飼いたいっす」

 

「感電するぞ」

 

「……やめときます」

 

 隣の職人が笑う。

 

「お前、先月も同じこと言ってただろ」

 

「ポチエナの時ですか?」

 

「そう」

 

「かわいいじゃないですか」

 

「お前、飼う前に部屋片付けろよ」

 

「なんで知ってるんです?」

 

「前に写真見せただろ」

 

「……ああ」

 

 テレビでは、ポケモンの捕獲についても解説されていた。

 

『捕獲には専用の道具が必要となりますが、現在は製造数に限りがあり――』

 

 新人が箸を止める。

 

「……そういや、うちって結構すごいことやってません?」

 

「今さらかよ」

 

「いや、テレビでこういう話聞くと」

 

 社長が味噌汁を飲みながら答えた。

 

「まあ、すごいことはやってるな」

 

「ですよね」

 

「でも、納期は変わらんぞ」

 

「……ですよね」

 

「午後も仕事だ」

 

「夢がねえなあ」

 

「夢で給料払えるか」

 

「払ってほしいっす」

 

「俺も払いたいよ」

 

 休憩室に笑い声が広がった。

 

 

 

 午後三時。

 

 事務所のパソコンに、一通のメールが届いた。

 

 送信元は、例の依頼主。

 

「……お」

 

 社長が画面を見る。

 

「追加注文か?」

 

 件名。

 

『製造状況の確認と今後の進め方について』

 

「……珍しいな」

 

 内容を開く。

 

『いつも製作ありがとうございます』

 

『通常のモンスターボールについては、現在の生産数で十分足りています』

 

『スーパーボールについても、急いで量産する必要はありません。安定して製造できるようになることを優先してください』

 

『ハイパーボールについては、試作に時間がかかっても構いません』

 

『その他のボールについても、現行の製造に支障が出ない範囲で検討していただければと思います』

 

『設備や治具の追加が必要な場合は、これまで通り費用を負担します』

 

 社長は最後まで読んだ。

 

「……ありがたい話だな」

 

 横からCAD担当が覗き込む。

 

「何です?」

 

「依頼主から」

 

「新しい図面!?」

 

「違う」

 

「……なんだ」

 

「お前、ちょっと残念そうだな」

 

「いや、別に」

 

「……」

 

「……ちょっとだけ」

 

 社長は呆れた顔をした。

 

「ハイパーボールもまだ完成してねえだろ」

 

「それはそれ、これはこれです」

 

「一緒だよ!」

 

 社長はメールを閉じようとした。

 

 だが、最後にもう一文あった。

 

『なお、今後の製造方法について、そちらで改善案があれば自由に提案してください。図面の構造を変更する必要がある場合も、相談していただければ対応します』

 

「……ほう」

 

 社長が目を細めた。

 

「どうしました?」

 

「おい、工場長呼んでこい」

 

「何です?」

 

「面白いこと書いてある」

 

 数分後。

 

 工場長がやってきた。

 

 メールを読む。

 

「……へえ」

 

「どう思う?」

 

「いいんじゃないですか?」

 

「だよな」

 

 工場長は腕を組んだ。

 

「これまで、送られてきた図面をそのまま作ることが多かったですからね」

 

「ああ」

 

「こっちから加工しやすい形を提案できるなら、量産もだいぶ楽になりますよ」

 

 社長が頷く。

 

「……それに」

 

「それに?」

 

「図面をいじれるってことだろ?」

 

 工場長が笑った。

 

「……そうですね」

 

 社長も笑った。

 

「……面白くなってきたな」

 

 その会話を聞いていた新人が、ぽつりと呟いた。

 

「……嫌な予感がする」

 

 

 

 午後四時。

 

 工場内で、小さな打ち合わせが始まった。

 

「まず通常ボール」

 

 工場長がホワイトボードに書く。

 

『モンスターボール』

 

『スーパーボール』

 

『ハイパーボール』

 

「通常ボールは今の生産数を維持。スーパーボールは量産工程を確立する」

 

「ハイパーは?」

 

「試作継続」

 

「プレミアは?」

 

「試作品はできてる。追加の依頼が来るまでは、無理に増やさない」

 

「じゃあ、ほかのボールは?」

 

 その一言で、空気が変わった。

 

 工場長は少し考えた。

 

「……検討だけなら、いいんじゃないか?」

 

「おお」

 

「ただし、通常の仕事に支障を出すなよ」

 

「はい」

 

「あと、勝手に材料発注するな」

 

「はい」

 

「勝手に機械を占領するな」

 

「はい」

 

「勝手に徹夜するな」

 

「……」

 

「おい」

 

「……はい」

 

 工場長はため息をついた。

 

 そして、ホワイトボードにもう一つ書き加える。

 

『新規ボール:検討』

 

「……どれからやる?」

 

 その瞬間。

 

 全員の目が輝いた。

 

「ヘビーボール!」

 

「いや、スピードボールだろ!」

 

「ルアーボールの構造、先に見たいです!」

 

「俺はムーンボール!」

 

「ウルトラボール!」

 

「お前はまだ駄目だ!」

 

 工場長が叫んだ。

 

「ウルトラは一旦置いとけ!」

 

「なんでですか!」

 

「今の設備で何とかなる範囲からやれ!」

 

「だから調べたいんですよ!」

 

「調べるだけで済まないだろ、お前!」

 

 会議は開始から五分で脱線した。

 

 

 

 午後六時。

 

 通常業務が終わった。

 

「お疲れさまでしたー」

 

「おう」

 

 新人が帰ろうとする。

 

 すると。

 

「おい」

 

「何です?」

 

「ちょっとこれ見てくれ」

 

 中堅が呼び止めた。

 

 画面には、ヘビーボールの図面。

 

「……何です?」

 

「この部分」

 

「……ああ」

 

「どう思う?」

 

 新人はしばらく図面を見た。

 

「……これ、材質変えた方がよくないです?」

 

「だよな?」

 

「ただ、こっちの部品との相性が」

 

「そうなんだよ」

 

「……ちょっと待ってください」

 

 新人が椅子に座った。

 

 CADを開く。

 

 寸法を確認する。

 

 断面を表示する。

 

「……あ、これ」

 

「何?」

 

「こっちから組めばいいんじゃないですか?」

 

「……」

 

 中堅が黙った。

 

 画面を覗き込む。

 

「……ああ?」

 

「ほら、ここの組立順序変えて」

 

「……おい」

 

「何です?」

 

「お前、天才か?」

 

「……いや、普通に思いついただけですけど」

 

「ちょっと工場長呼んでくる!」

 

「え、ちょっと!」

 

 中堅が走っていった。

 

 新人は時計を見た。

 

 午後六時十五分。

 

「……」

 

 帰るつもりだった。

 

 本当に。

 

「……まあ、もうちょっとだけ」

 

 画面へ向き直った。

 

 

 

 午後八時。

 

「……おい」

 

 社長が工場へ戻ってきた。

 

 まだ明かりがついている。

 

 嫌な予感がした。

 

「……お前ら」

 

 中へ入る。

 

 すると。

 

「ここをこうすれば!」

 

「いや、それだと芯が出ない!」

 

「治具作ればいいだろ!」

 

「また治具かよ!」

 

「材料何使う!?」

 

「まず試作だろ!」

 

 全員いた。

 

「……おい」

 

 返事がない。

 

「お前ら!」

 

「はい!?」

 

 ようやく工場長が振り返った。

 

「何やってんだ!」

 

「ヘビーボールの検討です!」

 

「検討!?」

 

「はい!」

 

「加工機回ってるだろうが!」

 

「……試作も少し」

 

「少しじゃねえ!」

 

 社長は額を押さえた。

 

 そして、作業台を見る。

 

 そこには、まだ組み立てられていない部品が並んでいた。

 

「……何だこれ」

 

「ヘビーボールです」

 

「それは分かる」

 

「組立順序を変えたら、かなり楽になるんですよ」

 

「……ほう」

 

 社長が部品を手に取った。

 

 確認する。

 

「……ああ」

 

 もう一度見る。

 

「……なるほど」

 

 工場長が笑う。

 

「どうです?」

 

「……いいな」

 

「でしょう?」

 

「こっちの加工も簡単になるか?」

 

「なると思います」

 

「……」

 

 社長はしばらく考えた。

 

 そして。

 

「……明日、もう一回検証するか」

 

 新人が叫んだ。

 

「社長まで乗らないでくださいよ!」

 

 

 

 午後九時。

 

 ようやく工場の電気が消えた。

 

 社長は事務所に戻り、パソコンを開いた。

 

 例の依頼主への返信を書く。

 

『いつもお世話になっております』

 

『通常のモンスターボールは予定通り製造を継続しています』

 

『スーパーボールは量産工程の改善中です。品質の安定を優先して進めています』

 

『ハイパーボールは引き続き試作を行っています』

 

『また、他のボールについても加工方法の検討を開始しました』

 

 そこまで書いて、少し考える。

 

 そして、一文を追加した。

 

『今後、製造しやすい構造への変更について、いくつか提案させていただく予定です』

 

「……よし」

 

 送信。

 

 椅子にもたれる。

 

 疲れた。

 

 今日も忙しかった。

 

 明日も忙しいだろう。

 

 通常の仕事は山ほどある。

 

 モンスターボールの生産も続けなければならない。

 

 スーパーボールの量産工程はまだ改善途中。

 

 ハイパーボールも完成していない。

 

 そして、図面だけは大量にある。

 

「……まったく」

 

 社長は苦笑した。

 

「変な仕事、引き受けちまったな」

 

 だが。

 

 後悔はしていなかった。

 

 むしろ、少し楽しい。

 

 何十年も加工の仕事を続けてきた。

 

 図面を見て、材料を削って、部品を作る。

 

 それは今も変わらない。

 

 ただ、作っているものが違う。

 

 昨日まで世界になかったものを、今日、自分たちの手で作っている。

 

 その事実が、何とも言えず面白かった。

 

「……さて」

 

 社長はパソコンを閉じた。

 

 帰ろう。

 

 明日も仕事だ。

 

 そう思った時。

 

 机の端に置かれた紙が目に入った。

 

『ヘビーボール 加工工程変更案』

 

 工場長が置いていったものらしい。

 

「……」

 

 社長は紙を手に取った。

 

 眺める。

 

 しばらく考える。

 

「……いや」

 

 机に戻した。

 

「明日だ、明日」

 

 立ち上がる。

 

 電気を消す。

 

 事務所を出る。

 

 そして。

 

 三十秒後。

 

 戻ってきた。

 

「……ちょっと見るだけ」

 

 再び電気がついた。

 

 

 

 一方、その頃。

 

 北海道。

 

「……お」

 

 俺のパソコンにメールが届いていた。

 

『製造状況についてのご報告』

 

 開いてみる。

 

「……へえ」

 

 通常ボールは順調。

 

 スーパーボールは量産工程を改善中。

 

 ハイパーボールは試作継続。

 

 そして、ほかのボールについても加工方法の検討を始めたらしい。

 

「……すごいな、あの工場」

 

『ポリ』

 

「いや、本当に」

 

 正直、ここまでやってくれるとは思っていなかった。

 

 最初は、モンスターボールを数個作ってもらえれば十分だった。

 

 それが今では、量産まで進んでいる。

 

「……ありがたいなあ」

 

 俺は返信を書いた。

 

『ご報告ありがとうございます』

 

『急ぎませんので、無理のない範囲で進めてください』

 

『構造変更の提案についても、ぜひお願いします』

 

『今後ともよろしくお願いいたします』

 

 送信。

 

「……よし」

 

 これでいいだろう。

 

 あの工場なら、きっと何とかしてくれる。

 

 ……というか。

 

「……俺より詳しくなってないか?」

 

『ポリ』

 

「だよなあ」

 

 俺はモンスターボールの構造を知っている。

 

 図面も持っている。

 

 だが、実際に材料を削り、部品を組み立て、安定して製造する技術については、彼らの方が遥かに詳しい。

 

 当たり前だ。

 

 それが彼らの仕事なのだから。

 

「……餅は餅屋ってやつだな」

 

 俺は椅子にもたれた。

 

 そして、机の上に置かれたバンギラスのボールを見る。

 

「……さて」

 

 こちらも仕事をしなければならない。

 

 今度は、怪獣の世話だ。

 

「……あいつ、今日も機嫌悪いんだろうなあ」

 

『ポリポリ』

 

「笑うなって」

 

 日本のどこかにある小さな町工場では、今日も職人たちが未知の技術と格闘している。

 

 そして、その依頼主は。

 

 そんなことも知らずに、バンギラスの機嫌をどう取るか考えていた。

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