ACECOMBAT8 国連軍からの帰還兵   作:冬元 鈴

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時系列が前に飛びます。
ゲームでは一切匂わせもないのでてんこ盛りです。


ep.01 The First Day After Returned From IUN ~帰還兵の初日~

「それじゃ、今日からだから」

 

2029年6月1日。

僕は両親と朝食を食べながら、しばらくの実家滞在期間が終わることを告げる。

僕は長かったIUNへの出向を終え、FCU空軍第142飛行隊に原隊復帰することになった。

 

「そういえば、聞いていなかったな。次は何に乗るんだ?」

 

そんな質問を投げかけてきたのは親父だ。

元海軍の航空隊所属だったので、何かと僕の任務について聞いてくる。

そして折に触れては親父と同じ海軍ではなく空軍を選んだことについてグチグチ言ってくるので、実家では極力仕事の話はしないようにしていた。

 

もっとも、IUN本部があるエキスポシティに両親が突然引っ越してきてからは、当然僕が実家で過ごす頻度も多くなり、親父に捕まることも増えてしまった。

 

「IUN時代と同じくラプターだよ。基本、パイロットは搭乗機を生涯変えない。父さんだって知ってるだろ」

 

答える僕の言葉に若干トゲがあるのは、親父の質問の意図が手に取るようにわかるからだ。

 

「はぁ……俺の教え子も含めて、どいつもこいつも最新鋭機希望ばっかりだ。ホーネットの良さがわからんやつが、大成するとは思えんな」

 

ほらこれだ。

親父は大のホーネットシンパなのだ。

 

「あのねえ。FCU空軍はホーネットなんて制式採用してないよ。もし希望を出したって叶いっこないよ」

 

別に希望を出せたとしても、ホーネットに乗るつもりはないのだが。

 

「まあまあ、いいじゃない。あなたの頃とは時代も違うし、一人息子が高性能な機体に乗っているというのは少しばかり安心できるというものじゃない」

 

朝から険悪になりかけた雰囲気をうまく和らげてくれるのは、母さんだ。

でも、こういう時は決まって……

 

「でも、単座式だとナビゲーターの子との出会いがないわよねえ」

 

そら来た。

親父は海軍とホーネットについてうるさいが、お袋と来たら口を開けば嫁の話だ。

親父とお袋はその昔ホーネットのパイロットとナビゲーターとして出会ったんだそうだ。

同僚にも同じ馴れ初めの夫婦が1組いるらしく、軍人の出会いの場はコックピットの中だと思っている節がある。

ホーネットといっても、今やメインで運用されている新型のE型は単座だ。

複座のF型も少数混成で運用されてはいるが、複座型の旧型ホーネットは今やロートルたちが乗っているばかりで、彼らの除隊と共に退役する予定のはずだ。

僕がよしんばホーネット乗りになっていたとしても、ナビゲーターとのラブストーリーは生まれないはずだ。

 

「あのなあ母さん。軍ってのは婚活パーティー会場じゃない。それにナビゲーター人員の9割は男だよ」

 

正直、僕が原隊復帰する当日の朝までお決まりの展開なのには食傷気味だ。

まあ、この時にもなって親にこんな話をさせている僕にも大いに省みるべき所があるんだろうが。

 

「そんなもんかねえ。それはそうと、次の勤務地は危険はないのかい?」

 

心底腑に落ちない顔で、先日もされたような気がする質問が飛んでくる。

まあ、一人息子の安全が気になって仕方ないのは親心というものなのだろう。

まだ結婚もしていないが、この歳になると少しずつ親心というものがわかってきたような気がする。

 

「7月からフォートグレイスだよ。エルジアの反対側だし、自由エルジアとの交戦もほとんどない基地だから、まあ安全だと思うよ。むしろ向こうの交代人事を待つまでジーヴにいる間の方が、自由エルジアの蜂起に動員される可能性があるくらいだよ」

 

フォートグレイス基地。

ユージア大陸の南東に位置するフォートグレイス諸島の要所だ。

とはいっても、この10年以上、というか前回の灯台戦争のさらに前の戦争からだからかれこれ30年以上にもなる自由エルジアとの戦いは、ほとんどエルジア側、つまりFCUの西側で起こっている。

フォートグレイスが戦いに巻き込まれることなんて、それこそ海の向こうのユークトバニアが攻めでもしてこない限りはないだろう。

 

そしてその自由エルジア自体も、灯台戦争前後を境にほとんど活動を耳にしなくなり、数少ない蜂起の際にはIUNが出動することがほとんどだった。

FCU軍にいながら危険な任務に赴くことになる可能性は、少なくとも現時点ではかなり低いと言える。

 

「そうだったわ。しばらくシーヴだったわね。シーヴならいい子も沢山いるでしょう。フォートグレイスに転属になる前に素敵な子を見つけておくのよ」

 

「…………」

 

ため息が出る。

親心が少し分かってきたと言ったが、孫の顔というのはそんなにも見たいものなのだろうか。

 

「まあまあ、母さん。縁というものは急いでも仕方のないものだよ」

 

見かねたのか、親父が宥め始めている。

この流れを作ったのは果たして誰だったか。

これが我が家のいつもの光景である。

 

「そろそろ行くよ」

 

僕はとっくに朝ごはんを食べ終わり、シーヴ行きの列車にはまだ少しだけ時間もあったが、これ以上ここにいてもいい事もなさそうなので、退却することにする。

まあ両親ともに健康だし、僕が無事ならまだ何度でも顔を合わせる機会はあるだろう。

 

「あら、もう行くの?」

 

お袋はまだ名残惜しそうだ。

 

「うん。2人とも、体には気をつけて」

 

僕はお袋から差し出された靴べらを受け取りながら、別れの言葉を口にする。

 

「おい」

 

「ん?」

 

親父がリビングにいたまま呼び止めてくる。

意外感を感じたのは、これまで親父が出る間際に呼び止めてきたことがなかったからか。

 

「気を付けろよ」

 

一体どうしたというのか。

らしくない。

 

「だから、フォートグレイスにいる間は心配ないって。今までのIUN所属の時の方がよほど危なかったさ。親父こそ、尿酸値高いんだろ?酒は程々にな」

 

「酒はもう絶っている」

 

つくづく調子が狂う。

本当か、とお袋に目配せをしたらこくりと頷く。

そういえばここ数年、親父が酒を飲む姿を見ていなかったな。

今更気づいた。

 

「そう。昔は毎日飲んでたのに。じゃあ長生きしてくれそうだな」

 

どうにも居づらくなったので、軽口を叩いて玄関のドアを開ける。

もう親父もお袋も何も言わない。

ドアが閉まる前、一瞬だけ見えた両親の顔。

それは安全な勤務地だと言ったにも関わらず不安でいっぱいの、祈るような二対の瞳だった。

 

やっぱり、親心というものは分からない。

実際に親にならないと分からないものなのだろう。

親になってみるのもいいか、などと一瞬思ったが、その前に結婚相手を見つけなければいけない事実に思い至り、げんなりしたのでその事を考えるのは辞めた。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、すみません。FCUエアフォースのオフィスはこのビルですか?」

 

最悪だ。

列車に揺られて数時間、こんなこともあろうかと相当早めの列車を取っていたからまだいいものの、案の定迷った。

 

「FCUエアフォースですか?ここから随分ありますけど……駅を挟んで反対側ですよ?」

 

ビルのクラーク嬢は困惑したような顔でこちらを見上げてくる。

この信じられない、という顔が効く。

どうも駅の出口から間違っていたらしい。

10分は歩いたから、かなりの時間を浪費したことになる。

 

「ありがとうございます。ご親切に」

 

ばつの悪い僕は逃げるようにクラーク嬢から目をそらすと、足早にビルを立ち去る。

 

「駅の反対側だと、ボレアススタジアムの方か」

 

ビルを出ると、丁度他のビルの間に丸いドーム状の屋根が見える。

あれを目印にすれば迷わなさそうだ。

 

 

 

 

足早に歩けば、FCUエアフォースのオフィスがあるビルまで12分で着いた。

定刻まで30分はある。

転属初日で遅刻なんてしたら、確実にフォートグレイスまでその噂を流され、僕のフォートグレイスでの生活は惨めなものになる。

結果論、迷いはしたものの想定よりは早くついて本当に良かった。

この歳になると、いい加減自分の苦手なこと、得意なことは分かるようになってくるものだ。

 

陸は障害物が多くて迷いやすい。

いつからか、僕は陸での移動はかなり余裕を持って行動するようになった。

空ならこうは行かない。

風の影響も考えて瞬時に最短の経路が頭に浮かぶ。

長距離移動なら、自転のコリオリまで考慮に入れて最短距離を叩き出せる。

 

お前にとって風は友のようだ、とまであの人に言わしめた奴は周りの知る限り僕だけらしい。

 

とは言っても僕のスコアは彼との共同撃墜1のみ、実戦経験自体は豊富だが、内地勤務を断れるほど派手な戦果を持っている訳でもない。

 

 

 

「あ、ちょっと」

 

FCUの制服を着た人達の流れに乗って、受付を素通りしようとしたらちょっと厳しそうな顔の女性士官に呼び止められた。

 

「?」

 

僕ですか?と自分を指さして顔で尋ねてみたところ、女性士官の顔つきがキッと鋭くなったので慌てて彼女の元に駆け寄る。

 

「見ない顔ですけど、所属と名前を教えてくれますか?」

 

初手からガン詰めだ。

一応、FCUの制服に佐官の徽章まで付いてるんだけど……

 

「ええと……」

 

手帳はどこにしまったっけ。

そんなことを思いながらカバンをガサゴソとやっていると、

 

「済まなかったね、マリアス中尉。そういえば、今日転属の者がいるのを伝え忘れていた。通していいよ」

 

思わぬ助け舟が来た。

救世主は中年、いや初老の男だ。

その風体、中尉に対して気安いタメ口。

どう見てもお偉いさんだ。

僕は階級章を確認もせずに最敬礼をする。

 

「君がIUN帰りの。すまないね、IUNの異動とFCUの異動が1ヶ月違うことによる弊害は大きいんだが、どちらが合わせるかで未だに揉めててね」

 

マリアス、と呼ばれた女性士官と揃って最敬礼をする僕たちを、手で制するような動作をしながら、かなり気安い口調で話しかけてくる。

 

これはどうもこの1ヶ月の上司は当たりらしい。

 

「まあ、それ以外のところはIUNへの出向経験者によってかなり改善しているはずだ。この1ヶ月と、フォートグレイスでの在任期間中は、是非IUNに比べてFCUに足りないものを教えてくれよ。一機撃墜、今やスコア持ちは希少だ。君の言うことには皆少なからず耳を傾けてくれるはずだよ。最近はようやく風通しもよくなってきたところだ。私よりも上の老人が退役したのが大きいかな。私も早くお役御免と行きたいものだ」

 

まあ一機撃墜とは言ってもおこぼれなのだが。

この幹部の言う通り、一生撃墜0で戦闘機を降りるパイロットの方が圧倒的多数だ。

おこぼれだろうがまぐれだろうが、スコア持ちと言うだけで一目置かれるのだろう。

IUNは比較的実戦経験のある者が多く、エースならともかくスコアを持っているだけで一目置かれるようなことはなかった。

 

だが、これを悪いことだとは思わない。

軍人なんて給料泥棒のままが一番いいのだ。

空軍に入ったのも、空を飛びたかったからだ。

本気で空で殺し合いをしたくて空軍に入ったヤツなど、いないだろう。

いたとしたらそいつは危険人物だ。

パイロット適性なしと判断されるべきだ。

 

市民はこの国の政治家を散々に叩いているが、軍人を穀潰しでいさせられているあたり、僕はこの世界ではなかなか優秀だと思う。

 

ともあれ、僕のシ―ヴ初日は、完璧とはいえないまでも想定の中では最上に近い滑り出しとなったのであった。




お気づきかと思いますが筆者の中ではレックスが鋭いのは空だけです。
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