「…あうあうあう、あの…ハルさん、起きてください…っ!このままじゃ…うぅっ」
「…うぅ、もう少しだけ─っ?」
「あぁもう!本当にこのゴリラ女の力強すぎですわ~!?エマさん、後どれぐらい持ちますの!?」
「うぅ、もう無理だよ…っ!メルルちゃん!早くハルちゃんのこと起こして…っ!」
か細い声とその後に聞こえる騒音、そして身体が揺らされる感覚で私は目を覚ましました。
誰だろう、不思議で目を開けて周りを見渡すとにこにこと私を見るシェリーちゃんがエマとハンナに押さえつけられて、その光景に涙を溢しているメルルがいました。
「─えぇ…?何があったの?」
寝起きの不快さは驚きで吹き飛ばされて、ただぼんやりと混乱する頭で私はメルルに聞きました。
「…あの、エマさんとシェリーさんで朝ごはんの後探索するみたいで…一緒に来ないか聞きに来たみたいなんですけど…その、寝ているハルさんを見たシェリーさんが…お布団に潜り込もうとして、その騒ぎでハンナさんも来て─」
あぁ、きっとシェリーちゃんは私を起こすために潜り込もうとしたんですね。それを見た皆が突発的な行動で驚いてしまったのでしょう。
「…シェリーちゃん。やるならちゃんと周りの人に伝えないとダメだよ?ビックリしちゃうもん」
「えぇ!?でもそれじゃあハルちゃんが起きちゃうかもしれないじゃないですか~!ハルちゃんは寝起きが悪いのでビックリしないとご飯食べてからも長い間ねむねむですから!」
確かに、そうかもしれない。寝起きの悪さは─あれ…誰に怒られていたんだっけ─?お医者さんだっけ…。
まぁだから、シェリーちゃんの言う通りなんだけど。けど、もう少しまともなやり方がありますよね…?
「うぅ、疲れましたわ~っ!!朝から本当にっ、疲れましたわ~っ!」
「うん、大変だったね。ボクも、もうヘトヘトだよ…」
「えー!?今日はまだまだこれからですよ!ハルちゃんが起きたなら朝ご飯を食べて探索しに行くんですから!」
「一体、誰のせいだと思ってやがりますのっ!あなたのせいですわよっ!?」
お姫様が怒って、シェリーちゃんが笑って…それにつられてエマも私も笑いました。あぁ、幸せです。大切な友達が居て…皆で笑い合えて、ご飯だって皆と食べれる。
幸せ…なんです。その、筈なんです。なのに、なのに─私は隣の空いている席に目が向きました。誰もいないのに、居るような…居て欲しいようなそんな気がして。
「…どうしたんですの?そっちには誰もいませんわよ?それに、もうこんなに口を汚して…。昨日はもっと綺麗に食べてましたのに」
「─え?…わぁ、本当だ。汚れちゃった、むぐっ」
ハンナのその言葉で、食べることに集中してなくて汚れた口に気がついて拭おうとして…。ハンナが布巾で私の口を拭ってくれました。
「わぁ、ハンナさん…ハルちゃんが隣で座っているとなんだかお姉さんみたいですね!」
「…別に、そんなことないですわよ。ほら、次からはもう少し綺麗に食べるんですわ」
「…うん。ありがとう、ハンナ…ちゃん」
「あぁー!ハルちゃん、ダメですよっ!ちゃん付けはシェリーちゃんの特権ですからね!」
「それはあなたが決めることではないんじゃねーですの?」
二人がそうやって話していて、それを聞いていて…私は安心感を覚えました。なんだか、いまさっきまでの違和感も薄れたような気がして…。
だけど…だけど、悲しそうに私のことを見てくるエマの顔色を見て、きっと何かあったんだろうって分かってしまって…。
だから、私はエマが笑えるように元気良くシェリーちゃんとハンナちゃんのお話に混ざりました。
「そっかぁ。じゃあ…ハンナお姉ちゃん?」
「えぇー!?なんだかそっちの方が特別な感じありますぅ!ズルいです!」
…確かに、これだと家族みたいかも。それは流石にハンナちゃんが嫌かもしれないですから─。
「うぅん、じゃあ…ハンナ嬢?」
「うーん、ハルちゃん。それはなんだか違う気がしませんか?どちらかというと、おこ…いえ、なんでもありません!」
「今なんて言おうとしたんですの!?このゴリラ女っ!」
「ふふふ、何でしょうね~!」
「あぁ、もう!逃げるんじゃねえですわ~っ!!」
「…ふふっ」
ハンナちゃんから逃げるシェリーちゃんを見て、エマはあの頃のように笑ってくれました。もう、辛そうな顔をしていません。
だから、だから─私はエマの手を取って二人のことを追いかけました。でも─。
「…二人とも、待ってぇ─。うぅ、ぜぇ…ぜぇ─」
食堂から出るだけで、私の体力は消え去りました。しょうがないですよね、私運動できませんから…。うぅ。
「わぁ!もう疲れちゃった…!?シェリーちゃん、ハンナちゃん!ハルちゃんがこのままだと倒れちゃうから待ってーっ!」
「あれ?本当ですねぇ、私が知ってた頃はもう少し体力があった気がするんですけど、もうお年ですか?」
「シェリーちゃん…それ、言っちゃダメじゃないかな…」
ひぃん、シェリーちゃんが虐めます。私だって、もう少し体力があった気がしますけど、流石に言い過ぎです…!あぁ、でももう突っ込む体力も…。
「もう…しょうがないですわね、ほら背負いますわよ」
「…はぅ、ふぅ…いいの?ありがと─おねえ、ちゃん…」
「だから、わたくしはあなたのお姉ちゃんではありませんの。はぁ、しょうがないですわね…」
あったかい、小さくてもその背中は…安心できて。心臓の音がどくん、どくんと響いて─目を閉じた…。
ちいさな、ちいさな…でも私よりも大きな背中。私より健康で、頭も良くて…私は全て劣っていて─でも、その人は優しくしてくれた。それは…いつかいた筈の姉のようで、夢の中で私はそう呼んだ。
名前も、顔も…もう覚えてない。けれど、けれど─その熱は忘れられない。私を撫でる熱も、私の傍で─跳び跳ねた熱も…。
暖かくて、大切で…だから─だから、願ったの。幸せの時のその光景を、ずっと…ずっと見ていたいって。
そして…私は、夢の中でその幻を見た。幸せで、大切で…ずっとずっと─続いて欲しかった理想の世界の…。
~~~~
「…大丈夫ですか。ハルさん─?」
私のことを呼びながらメルルは頭を撫でてました。そして、目を開いた私から流れる雫を拭き取ってくれます。
もう大丈夫と呟きながら、あやすように。
「…?どうしたの、メルル。私は特に何も─」
「…泣いていました。きっと、悪夢を見たんです…。ですから、今はこのまま…」
「─大丈夫、だから。そういえば、シェリーちゃんやエマ達は…?」
そんなことより私は医務室の中を見渡しても見えない三人について、気になってメルルに聞きました。
「エマさん達は、ハルちゃんが起きる前に面白そうなことを見つけようってシェリーさんの提案で色々探しに行っちゃいました。その、ハルさんは今熱が出ているので…治るのを待つよりもその方が、ハルさんも喜ぶって…」
…確かに、シェリーちゃんならそう言いそう。というか、熱が出ているから何時もより体力が無かったんだ。
そういえば…私の他にもここにいる人がいるみたいです。
その子も、熱なのかな…?そう思って、メルルに聞いてみることにしました。
「…ねぇ、メルル?あの子も熱なの…?」
「えっと…はい、微熱が出てて。でも、その前に貧血を出してしまったみたいなんです…。あっ─、あの子の名前はアンアンさん、ですよ」
メルルは最後に私だけに聞こえるように彼女の名前を囁いてくれました。そのお陰で、私は彼女の名前がしれたので声を掛けてみることにしたんです。
「…アンアン、大丈夫─?私はもう、全然平気になったんだけど…良かったら、ね?遊ばない…?」
けれど、アンアンから言葉が返ってくることはなくて、スケッチブックに彼女は文字を書いて私の方に向けました。
【わがはいは平気じゃない。一人で遊んでおけ】
「そっかぁ。うーん…じゃあ、メルルと遊ぼっかな」
「だ、だめですぅ!ちゃんと休んでください…!ハルさんは、微熱じゃないんですから…!」
そうなんだ、確かにそう言われると身体が重い感じがします。けれど、体調なんて良く崩しますからこれぐらいじゃあ問題無い気もして…。
メルルが目を離した隙に、脱走でもしてみようかと思って眠る振りをしてみました。すると、バタバタと歩く音が聞こえて誰かの声が聞こえました。
「アンアンちゃん大丈夫?…あれ─?」
誰だろう、そう思ってコッソリと目を開いてその子がラウンジで物を弄っていた子だと思い出しました。
その子は、アンアンに用事があったみたいですが何故か私の方を向きました。
特に関わりがない筈なのに、何ででしょう?
「ねぇねぇ、メルルちゃん。ハルちゃんも倒れちゃったの?やっぱり赤は怖いのかなぁ」
「あ…いえ、ハルさんはノアさんのアトリエを見た訳じゃなくって、体調を元々崩していただけみたいなんです…」
「…そっかぁ。あ、じゃあ二人に、お絵描きしてあげる!のあね、ちょうなら綺麗に描けるんだ…だから─」
何処からか取り出したペンキで、ノアという子は空に蝶を描きました。アンアンには紫の蝶を、私には白い蝶を。
空を舞うその蝶を見て、私は思わず声を漏らしてしまいました。
「わぁ、凄いね!ノア、綺麗…あっ─」
「…あぅあぅあぅ。私、寝ててくださいって言いましたよね…?起きていたら治るものも治らなくなってしまいますぅ…。ですから、ノアさんもまた後で来てくれませんか…?」
「─えー、のあもっとお絵描きしたいのに。でも、そっかあ…じゃあまた後で来るねぇ」
「はい、お願いします。このままじゃ、ハルさんはきっと寝てくれないと思いますから…」
うぐっ、何で分かるの…?もしかして、エマかシェリーちゃんから告げ口が…?
しょうがない、今度こそは寝ることにしましょう。もし悪化したら面倒ですし。
ノアも帰ってしまいましたから。
それに、きっとシェリーちゃんなら色んな面白いお話をお土産として持ってきてくれるだろうから、ちゃんと体調を良くしなきゃ。
聞くだけじゃなくて、後でそのお話を確認に行きたいですから。
ほんの少し暑い熱の中に、私は沈み込みました。
そして次に目を覚ました時には、次の日になっていました。
シェリーちゃんとエマ、ハンナちゃんはその日食べ物を持ってきてくれて、私が食べている間に色んなことを教えてくれました。
娯楽室には、色んな遊ぶための道具や白黒の映画があってミリアって子がそこでココって子の配信?を見ていただったり。
図書館には、色んな本があったけれど変な血で描かれた文字があったりそもそも読めない文字で書いてあって、そこにはマーゴって子がタロットカードで占いをしてくれた、だったり。
地下の懲罰房には今アリサって子が捕まって居たり、房の近くにはあまり近づかない方がいいかもしれないだったりと昨日は牢屋敷の中を探したみたいでした。
そして、今度は外を探索しに行ってみようかと思っているとのことで…けれど先ずは私のリハビリがてら一緒に牢屋敷の中をもう一回探索することになりました。
「ねぇ、ハルちゃん。本当に、もう大丈夫?辛かったら何時でもボクに言ってね…?」
「もぅ、エマは心配性だね?私はもう元気なんだよ?」
「でも、そう言いながら良く倒れていましたよねぇ~?私何回も無茶をするハルちゃんのこと運んだか覚えてませんよぉ?」
二人とも、やっぱりそうなんだみたいに私のことを問題児扱いしました。別に、たまにそうなってしまうだけです。私は自分の体調に少し疎いみたいで…けど本当にたまにですから。風評被害です。
「うぐっ、そんなことないもん。ハ、ハンナさんは信じてくれるよね…?」
「信じるも何も、昨日既にぶっ倒れたじゃねーですか。わたくしが運んだこと忘れたんですの?」
「うぅ、仲間なのにぃ…誰も信じてくれないよぉ」
「自業自得ってやつですね!」
楽しい探索の筈なのに悲しい気持ちになりました。でも、昨日三人の探索では見つけれなかった情報を得れました。
なんと、魔女図鑑には名前の書いてなかった部屋が昨日聞いたノアのアトリエだったのです。
そして、そこには名前の通りノアが居ました。
「んー?皆どうしたの?のあに何か用かな?でも今はお絵描き中だから後にしてほしいんだぁ」
「こ、この絵…っ!?バルーンじゃねぇですの!」
「わぁ、本当ですねぇ。それなら邪魔するのは止めておきましょうか」
バルーン…?風船?一体何のことだろう…?そう不思議がっているのは私だけじゃなかったみたい。私の隣で手を繋いでいるエマも不思議そうにしていました。
だから、二人でコッソリと予想をしてみました。
「ねぇ、エマ…?バルーンって、風船だよね。つまり、風船のアートなのかな」
「でも、ハルちゃん…ノアちゃんが今さっき描いてたのは蝶だったよ?それに、風船じゃなくてペンキを使っていたみたい」
「…じゃあ、芸術家ってやつなのかなぁ。凄いねぇ」
「うん、そうみたい。あ…そうだ、後で一緒にノアちゃんの絵を見に行ってみようよ」
その予想は有名な芸術家というものになりました。昨日蝶を描いていたのもあって、その答えは正解な気がしています。
それに、エマと二人で何処かに行くのも久しぶりだから見に行くのが楽しみになりました。
「あー、二人でこそこそ何を話しているんですか~?」
けど、そこでこそこそ話がシェリーにバレてしまって─。
「何でもないよぉ。そうだ、シェリーちゃん。配信ってどうやって見るの?ココって子がまた配信してるみたいなんだぁ」
私は誤魔化すために、不思議だったスマホの操作方法について聞きました。
「でもでも、ココさんの配信を見るぐらいなら探索の方が楽しいですよ?」
「シェリーちゃん、それ…言っちゃダメなやつ─」
「別にそこまでではないんじゃなくて?暇潰しにはちょうど良かったりしますわよ。ほら、ハル。こう操作するんですわ」
二人の批判的な反応とは別にハンナさんはほんの少しだけ肯定的な反応を見せました。そしてハンナさんの教えでココの配信を見てみた私の評価は─。
「凄いねぇ!何であんなにいっぱいお話しできるんだろ。真似してみようかなぁ…あれ、どうしたの二人とも?」
「その、ハルちゃんは見ない方がいいかなってボクは思うな…」
「はい、ハルちゃんは素直ですし移りやすいですからきっとココさんの暴言が移ってしまいます。ですからハルちゃん、閉じませんか?」
私の反応に二人は、どうしてもココの配信を見ないようにと言ってきました。失礼ですね、私は別に移りやすくも素直でもないのに。
「やだぁー。ハンナさんガード!」
「ちょっ、なん何ですの!?わたくしを盾にしねぇでくださいまし!」
「くっ、ズルいですね!ではこっちはエマさんソードです!えーい☆」
「えっ、えぇっ!シェリーちゃんっ!?わ、わぁっ…!」
私とシェリーの攻防戦はハンナさんとエマの犠牲の末、案の定ですが私の敗北になりました。くそぅ…!
「別に犠牲にはなってないですわよっ!エマさん、大丈夫ですの?」
「う、うん…少し目が回っちゃっただけだよ」
「いやぁー、良い勝負でしたね…!これでハルちゃんと私の勝負は0対28ですね…!」
「ちょっと、ハルは一度勝ってないじゃないですのっ!」
しょうがないですよね、怪力と病弱ですから。勝てるわけないのです。
「うぅ、わたしかてるもん…!いつかかつもん…!」
「わ、ハルちゃんが壊れちゃった…!」
エマの一言に、私達は笑って…その日は楽しい空気のまま過ぎました。
相変わらず、美味しくはないご飯ですがそれでも皆と居ればそれだけで幸せで…。だから、ここは牢獄なんかじゃなく本当に高校生活のように感じていました。
ある事件が、起こるまではそう…思っていたんです─。
今回は日常回です。多分これからどんどんなくなる平穏回、ですがこれもまのさば魅力ですよね。
ですがこんな平穏の中で急に来るバッドエンドルートも書きたい気持ちもあり私の心の中は大変複雑です。
では、新しく2件の感想、96個のお気に入り、7人の方からの評価。大変嬉しく、これからも精一杯書きますのでこれからもどうぞご贔屓にしていただけたら嬉しいです。