シェリーちゃんやハンナさん、エマと牢屋敷の外を探しに行く前に、私は一人で牢に戻っていました。スマホをベッドに置きっぱなしにしていることに気がついたからです。
ですが、そこで私の牢でこそこそとしているノアを見つけました。
何をしているんだろう…と不思議になって私はこっそりノアの行動を見守ってみることにしました。
すると、シューッと吹き出る音と共に私のベッド近くの壁にノアはお絵描きをし始めました。
何を描いているのかまでは確認できなかったのですが…それでも、許可も無しに勝手に描くのは流石に私でも怒ります。
なので、後ろから声を掛けました。
「ノア、何で私のベッドのところに絵を描いてるのぉ?アトリエが、あるよね?」
その私の声に、やっと気がついたノアは少し気まずそうにしながら…でも口を膨らませ拗ねたように答えました。
「…だって、のあとの約束全然叶えてくれないんだもん。忘れてるのかなって…だから」
約束…一体何のことでしょう?私はノアと約束なんてしていない筈です。だって、私は医務室で会った時とアトリエで会った時以外会ってませんから。
不思議に思って、私は聞きました。
「ノア、約束ってなぁに?私、そんなことしたっけ…」
「むー、ハルちゃんとはしてないけどぉ…したんだもん。だから、お絵描きしたの。これなら思い出すかなって、思ったんだよ」
…一体、どういうことなのでしょう。したけどしてない約束、なぞなぞですかね?ただ、悪意があったわけではないのなら、許してあげましょう。
「そっかぁ、あっ。じゃあ、今日一緒にお外に行こ?それで描くことを許してあげます!今度こそはちゃんと守る約束…っ!」
小指を差し出して、私はそう言いました。ノアは少しだけきょとんとした顔をして、その後にへらと笑って小指を結びました。
「うん、ちゃんと守ってねぇ?」
「ふふん、任せなさいですわ~!」
「わぁ、それハンナちゃんの真似~?似てないねぇ」
「うぐ、酷い…っ!これでも練習したのにぃ…。ほら、行こ!」
無邪気で、少しだけ辛辣なノアと手を繋いで私達は長い階段を上りました。
手を繋いだ私達を見て、シェリーちゃんとエマは少し不思議そうでしたがノアもついてくることを言ったらエマは嬉しそうに笑いシェリーはしょうがないですねと言いながらノアの手を取りました。
けど、そこにはハンナさんが居なくて二人に聞きました。
「あれ、ハンナさんは何処に行ったの?」
「あっ、その…ハンナちゃんは先に遠くの方を見に行くって。ハルちゃんが遠くまで行くと体力が持たないかもだから…」
「しょうがないですよね!ハルちゃんは、貧弱ですから~」
うぅ、確かに言う通りです。私はそこまで体力ありませんから。でも、笑いながら言うシェリーちゃんは酷いと思います。
「のあより体力ないもんねぇ」
ノアも酷かったです。うぅ、私の仲間はエマしかいません。
「エマ、擁護して…」
「えっ…!?え、えっと…ハルちゃんも良いところいっぱいあるよ!優しいところとか…!」
「貧弱については~?」
「うぅ、それは…えっと、可愛いよね─なんて」
酷い、反論もせず濁されちゃいました。エマも敵だったみたいです。
そんなこんな言い合っていたら、私達は三つある小屋に着きました。
シェリーちゃんが言うにはそこは外部から人が来たときの為のゲストハウスなんじゃないかということを教えてもらってから、少しだけ休憩して私達はハンナさんと集合してから近場の塀に向かいました。
その間ハンナさんが見つけてきてくれた情報について私達は耳を傾けました。
ハンナさんの話によるとここは島であること逃げられそうな場所はなく、森にはあの可愛いまんまるさんみたいなのがいっぱい飛んでいるとのことでした。
脱走はやっぱり厳しそうです…。
「わ、大きいねえ。それに頑丈そう…」
「そうですねぇ、アリサさんの話によると魔法も聞かないんだとか」
「それなら、わたくしの魔法がもっと強くなっても越えれないかもですわね…」
「…あれ、ハンナさんの魔法ってなぁに?」
「浮遊ですわ!空に浮かべれるんですわよ?」
空に、浮かべる…!?それって、ヒーローや魔法使いみたいに…?じゃ、じゃあ…!
「へぇ!?凄い、凄いっ!ねぇねぇ、ハンナさんっ!それって私も飛べるの~?」
「ふふん、飛べますわよ?今は少しだけですけど…」
「じゃあ、じゃあ!約束っ!ハンナさんがもっと飛べるようになったら、一緒に飛ぼっ!」
「えー!じゃあ私もやりたいですぅ~!良いですよねハンナさんっ!」
「い、や、ですわっ!ハルはともかくあなたは何をしでかすか分かりませんもの!あぁ、早く…早くここを出ないと」
何時もみたいに、私達のことを怒ってからハンナさんは小さな声で何かを呟いた。
とても、辛そうな顔で…。
だから、手を握って落ち着かせようとして…私の手は払われた。
「…っ、ハ…ハンナ、さん?えっと、あの…私─なにか、しちゃったのかなぁ。ごめんなさい、ごめん─」
痛くはなかった。でも、ハンナさんにそれをされたことが苦しくて…私は上擦った声で何かしちゃったのか不安になりながら声をかけた。
「ちがっ、違いますわっ…ただ、そう。急で驚いてしまっただけですの!」
その、焦った顔には嘘はなくて…でも辛そうな顔を隠そうとして笑ったハンナさんの笑顔は…その、笑顔をどこかで─。
「ごめ、んなさい…。わたし、わたし─」
勝手に私の口は謝りつづける。なんでかは、分からなくて。でも言わないといけなかったの。私は、謝らないと…っ?
「ハルちゃん、こちょこちょですよー!ほら、こちょこちょこちょ~☆」
「…わっ、ちょっ─ふふっ…やめ、やめてよぉ、シェリーちゃ、あははっ!」
こちょこちょ、くすぐったくてシェリーちゃんから離れようとしても抱き付かれていて離れられなくて、呼吸が苦しくなるまで笑い続けるしかなかったです。ひどい…。あれ、私何を考えていたんでしたっけ?
「…あ、あの…わたくしは─っ」
「ハ…ハンナちゃん、こっちで一緒にノアちゃんを止めて欲しいな。ノアちゃん、塀にお絵描きしたら看守が来るかもしれないから…」
「むー、のあはお絵描きしたいのに。いいよね?お絵描きぐらいなら看守も来ないもん」
「─っ、ダメですわよ!お絵描きはあのアトリエにしてちょうだいですわ!」
「むー、じゃあ今からアトリエに行こぉ?ハルちゃんも!」
やっとシェリーから解放されて肩で息をしていたら、私はノアに手を取られて引っ張られました。
「─ノ、ノアぁ…はぁ、あふ…息、整え…させてぇ─」
「あぁ、ハルちゃんの顔が真っ青になっちゃってるっ!ノアちゃん、離してあげて?このままじゃハルちゃん、また寝込んじゃう…」
エマ…っ!やっぱり、エマは救世主です…!ほんとに、本当に今回ばかりは気絶するかと思いました。
「はぁ、はぁ…ありがとぉ、エマぁ…すぅ、ふぅ…」
「あれれー?やり過ぎてしまいましたかね?久しぶりだから腕が奮ってしまったみたいですぅ!」
「わらい、ごとじゃ…ないぃ─」
か細い声で、やっと私は突っ込んでそのまま地面へ倒れ込みました。もう、今日は動ける気がしません。この後は絶対ふて寝してやります…っ!
その日の夕食、ハルはエマ達とご飯を食べようとしていた。
そして、その時何時ものように食事に愚痴を溢すハンナを見てハルは皆に声を掛ける。その傍にはエマとシェリーが立っておりハルを落ち着かせるように手を握っていた。
「み、皆…ここのご飯美味しくないよ、ねぇ?だから…えいっ!」
少女達の目を見ながらハルは祈るようにしながら、持ち上げた食べ物を手で隠し…そして─。
「じゃっじゃーん!美味しい美味しい、卵かけご飯の出来上がり~!」
「─いや、なんで卵かけご飯なんだよっ!そこはもっと特別なものにしろよっ!」
「卵かけご飯、美味しいのに…」
「あーっ!ココ、エマを悲しませたからやんなーい!他の子は食べたいもの教えてくれたら変えてあげるよぉー?」
「ちょっ、分かったって!あてぃしが悪かったよぉ…!あてぃしだってこんな美味しくない食事いやだしぃ!」
ここに来て初めて、少女達は暖かで美味しい食事を食べた。その事実に喜ぶ少女達の顔を見ながら、ハルはとてもとても嬉しそうに笑う。
久しぶりについた嘘の味は、ハルの心を満たし…そして皆の心も癒やす。けれど、ハルの食べた理想のご飯は泥のように不味く気持ち悪い味がした…。
それでも、ハルは気付かない。何事もなく食べ、そして皆とシャワーを浴びた。
その帰り道、シェリーがハル達にある事を教えた。
それは、レイアが配信しているということ。ハルはそれに興奮しながら配信を見る。
ハルにとって、配信とは未知のもので目の前で喋っているわけじゃないのに話せているように感じるそれに魅力を感じていた。
「─私も、やってみたいなぁ」
小さな声で呟いたハルの声はハンナのスマホを奪い逃げ回るシェリーと怒るハンナの声によって掻き消された。
けれど、ハルの好奇心までは消せなかった。
だから次の日の自由時間、早速ハルは配信のプロであるココの元に足を運んだ。
「ココ、配信について教えてーっ!」
「いや、何時だと思ってんの?ハル、常識ないんじゃないぃ?あてぃし今日はレイアとコラボするから忙しいんだっつーの!それともなに?手伝ってくれるわけ?」
「─っ!いいのー?手伝って…!やった、やったぁー!」
「─はぁっ?いやいや、そこは断るところでしょ。あぁもう、保護者達はどこ行ってんだよぉ…。というか、にじり寄ってくんなし!あぁ、もうっ!」
目をキラキラさせながらにじり寄るハルにココは文句を言おうとして…折れた。そして、ぶっきらぼうにしながら20時までに手作りであろう看板に文字を書くように伝えた。
「わぁ、これに書けばいいんだねぇ!そうだ、ココ!私も配信出てみたいんだぁ!お喋り得意になりたいの」
「調子ノんなし、まずは見習いだっつーの!まぁ?今回の準備が上手く行ったら出させてやるかもね~?」
「ほんと、ほんと!?じゃあ、頑張るねぇ!」
「はぁ、やっとどっか行ったし。でも、ぜってぇあれやらかすだろ。あとでザコに見に行かせるかぁ…というかレイアにも伝えとかないと、めんどぉ…」
ぜえぜえと息を吐きながらゆっくりと看板を持っていくハルを見ながら、めんどくさそうにココはため息を漏らし、またスマホを弄り出した─。
それに、気がつくこともなくハルは機嫌良く看板を装飾するか考えていた。
その足取りは不安定で、けれど真っ直ぐある部屋に向かった。
それは、ノアのアトリエ…そこにあるインクでいっぱい色を付けることにしたのだ。
「こんこーんっ!ノア、居る?って、あれーいないや。珍しい…まぁいいかぁ─」
ごそごそと部屋を漁り、ハルは幾つかのペンキの缶と筆を用意した。
そして、自信満々に描き始める。
「ふんふーんっ!これで皆驚くかなぁ…っ!そうだぁ、配信出れたら何喋るかも考えないとぉ─!」
赤を黒を、好き放題にハルは塗り続ける。看板以外見ず、いっぱい…いっぱい─。
「やっぱり、ココみたいに…しねとか言うべきなのかなぁ?でも、シェリーちゃんにバカにされそう─」
幾つもの空想を、考えながら楽しそうに─。
いつしか、その部屋の音は消えて…そして、次の日の朝になってその部屋で最後に聞こえたのは甲高い悲鳴だけだった…。
─やはり、人は醜いものです。どれだけ無垢であろうと、悪意によって殺されてしまうのですから…。
エマは、何時ものようにハルを起こしに行こうとベッドから出て、相変わらず早起きなシェリーと合流した。
「おはよう、シェリーちゃん。今日こそは脱出口見つかるといいよね」
「そうですねぇ。でもでもシェリーちゃん的にはそろそろ事件なんか起きてくれないかなーって思ってますよ!」
「もう、不謹慎なこと言わないでよ。ってあれ…?メルルちゃん、どうしたんだろう」
牢の外で、メルルはキョロキョロと辺りを見渡していた。何時もならハルを起こそうと肩を揺すっている筈なのに…。
「…あっ!エマさん、シェリーさんっ!ハルさんのこと何処かで見ませんでしたか…っ!?昨日の夜からずっと、戻ってきてないんです…!」
顔に涙を浮かべながら、メルルはそうエマ達に話しかける。それを聞いて、エマとシェリーにも緊張が走った。
「もしかして、何処かで倒れているかも…。ハルちゃん、何時も自分の限界知らないから…っ」
「そうですね、たしか昨日ココさん達と配信ごっこしてみるみたいなこと言ってませんでしたか?ココさん達なら居場所を知っているかもしれませんっ!早く聞きに行きましょうー!」
三人はココのいる牢へと走った。きっと、そこにココが居るだろうから。
「ココさん!ハルさんのこと知りませんかっ!」
牢についた途端、シェリーは何時もより大きな声で叫ぶ。その声にハンナとココは起き上がって声をあげた。
「うるっさいですわねっ!一体なんなんですの!」
「それな~?というかなんであてぃしなんだよ!」
「その、昨日ココちゃんの所にハルちゃん行ったでしょ…?だから、知ってないかなって」
エマがそう聞くと、ココは機嫌が悪そうに返す。
「ちっ、たしかに昨日ハルはあてぃしのとこ来たけど約束破りやがったんだよっ!配信するために準備を手伝うとか言ったから看板渡してやったのにさぁ?」
「それ、何処で準備するかって聞いてないですか…?ハルちゃんのことだから何かあったんだと思います。だってハルちゃんは約束を破るような人じゃないですから!」
シェリーがそう言い返して…二人の間に険悪な雰囲気が流れた時、誰かが叫んだ。
「御巫が、御巫が…死んでた…っ!」
その声に、皆振り返った。そこに居たのは顔面を蒼白にしたアリサで…。
「…うそっ、うそ─だよね…?」
エマの震える声だけが、静かな牢に響いた。
「…っ!アリサさん、現場に連れていってくださいっ!ただ、気絶しているだけかもしれませんから…!早くっ!」
「…分かった、行くぞっ!」
その二人についていくことをエマは選ばなかった。信じたくなかったのだ…だけど、シェリーによって引っ張られてエマはそこについた。
二階にある、ノアのアトリエに…。
「…ひっ!」
誰よりも無垢な少女、御巫ハルは死んでいた。
誰よりも人のことを真っ直ぐに見つめていた瞳は、空虚を見つめていた。もうその目に、何かが写ることはない。
純白だった髪は幾つものペンキに汚され、何色だったのかも分からないほどだった。
そして、飛び散ったペンキの上に寝転がる彼女の傍を蝶が舞っていた。
まるで死に至った彼女を祝福するかのように。
「なんで、なんで…なんでっ!」
「嘘、ですよね…?ハルちゃん…相変わらず、嘘をつくのが下手なんですから─!」
少女達の悲鳴が、嘘だと叫ぶ声が鳴り響く…。それでも、現実は変わらない。
そして、無慈悲にスマホからゴクチョーの声が鳴る。彼女が死んでいることを決定付ける、その声が─。
俺はただ、眺めていた。ハルが楽しそうに、看板に色を付けているのを。
どうすれば、ココ達が喜んでくれるかな。ハルが思っていたのはただそれだけだった。
けれど、突然身体に鋭い痛みが走り、ハルはペンキを倒しながら床へ倒れた。
何が起きたのか、俺には分からなかった。ただ、ハルの命が危険だということだけは分かって…俺は何度も、何度も硝子を殴った。
割れろ、割れろ…割れろっ!!
その願いが叶ったのは、もう身体中が死に行く寒さから天に昇る前の暖かさを感じている時だった。
もう、手遅れだ。そう経験から、分かった。ハルは死んだ…俺はハルのことを守れなかった。
深い後悔と、忘れたくても忘れられない過去が俺の頭を支配する。
それはきっと、魔女化するのに充分で─。
俺の、ハルの身体は息を吹き返した。もう、ハルの魂はここにはないのに─。
また、俺だけが…俺、だけが─生き残った…。
殺意が、俺の頭を支配する。ハルを殺したやつを殺してやる…!守れなかった俺を殺してやるっ…!
でも、何故か俺はその泥のような悪意の中…意識を取り戻した。
けれどそれは、一瞬与えられた猶予にしか過ぎない。きっと、このまま生き延びれば俺は魔女となって誰かを殺す。
だから、俺はこの現場にハルの魔法を掛け維持したまま…走り出した。
魔女をも殺せる薬品のあるあの場所へ。
パスワードは覚えている。けれど伸びきった爪ではパスワードを打つことが出来なかった。だから、中のものだけを守るように魔法をかけて力の限り金庫の扉をぶん殴る。
すると一発で、分厚い金庫の扉は砕けた。ははっ…これじゃ、シェリーより怪力だな…。
呆れた笑い声が漏れて、既にもう限界を向かえつつあることを知って…けれど、俺は最後にせめて生き残る皆が幸せであれるようにと…剣を取った。
溢れでる殺意から、自分の精神を守るために魔法を使って…どうにか、俺はそこへたどり着いた。
幾つもの悲劇と、後悔を生み出す裁判所へと…。
そして、ハルの魔法で偽りながら俺は歩を進める。
今回の殺人事件の、本当の黒幕の元へ…。
ころせ、ころせ…ころせっ!
どれだけ守っても頭の中でその声が、木霊する。だから、従ってやった。
俺とメルルを貫くように、毒を塗った剣を向けて…そして突き刺した。
あぁ、痛い…痛い─っ!忘れられない、痛みだ。あぁそうだ…また俺が、殺した─。
あの日…俺は壊れてしまったあの子を、殺したんだ。自らの手で─。
俺が守る、小さな妹の手を握った時彼はそう誓った。
けれど彼の妹は、誰よりも劣っていた。勉強も運動も、何の才能も持っていなかった。
そして、その代わりのように彼は何でも出来た。
それが、世間からしたら妹のサボりのように思えたらしい。
だからあの子は、ずっと言われたのだ。もっとしっかりしなさい。兄のようになりなさいと…親からも友達からも、そして先生からですら、言われ続けたのだ。
幼い頃の彼は、それを知らなかった。知ったのは、彼の前で友達の弟が彼の妹を罵倒していた時だった。
その時に悟ったのだ。守ろうとしていた彼女のことを傷つけているのは彼自身なんだと。
彼と比べられるのが妹にとってどれ程の苦痛だったのか彼には察することが出来なかった。
ただ、それでも泣いているあの子のことを慰め続けた。彼の聞こえるところで言うその声に反論した。
けれど、年を取るごとにその機会は減っていき─。
その結果起きたことは…惨殺事件だった。妹が、殺したのだ。親を…何度も何度も刺して─。
彼はただ、それを見ていた。どうすればいいのか、分からなくて…怖くて。ただ、眺めて…そして、目の前にあの子が来て─。
ナイフを渡された…。そして、あの子は言った。お兄ちゃんが、私を殺してと…。
嫌だと叫んだ…!それで揉み合いになって…彼は、彼は─。刺してしまったのだ。あの子の心臓を…。
どくどく、血が溢れて床が真っ赤になって彼の手も真っ赤になっていって…それをまた、彼はずっと見ていた。
あぁ、殺したのだ。俺があの子の心を、あの子の命を壊したのだ。
償わなくてはいけない。けれど、こんな俺は生きていてもいけない。
だから自らの死によって償おう。死んでまた、地獄で償おう。そうして首に縄をかけて、彼は椅子を蹴った。
あぁ、きっとあの子はもっと苦しかったんだろう。この痛みを長い間味わったのだろう。宙にぶら下がり踠きながら、彼はただそう思った。
そしてあの子の罪が、祓われるそんな日を願いながら彼は息を止めた─。
原罪【硝子の向こう側】
彼は見ていたと思い込んでいた。
それが、磨り硝子越しの景色だと知らず。
そしてまた、無意識に歪な線を引く。自らと他人を分けるその境界の線を。それ故に最愛なる家族を失ったのにも関わらず。
わぁ!ちっぽけな一歩のせいで主人公が死んじゃった!
この展開を予想できた読者の方はいらっしゃるのでしょうか…?居たら怖いですね!
この後はそのまま二週目に行きますが、アンケートでこのハルが死んだ後を見たいって方が多かったら少し書くかもしれません。
では、新しく1件の感想、25個のお気に入り、2人の方からの評価…そして1件の誤字報告。大変嬉しく、これからも精一杯書きますのでこれからもどうぞご贔屓にしていただけたら嬉しいです。
6話の結末のあとのエマ達について
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書いて欲しい
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書かなくてもいい