エマ達は、レイアの悲鳴が未だ聞こえるような気がして閉じられた床を眺めていた。まだ、心の整理が追い付いていないのだ。
ハルが死んだなんて、信じたくない。誰よりも、皆のことを思って…ハンナのことを思って魔法すら使っていたのに…そのせいで、殺されたなんて…。
けれど、ゴクチョーの閉廷という言葉で少女達は裁判所から出るしかなかった。
そんな中、すすり泣く声と帰ろうとのそのそと動く音だけが聞こえる裁判所で銃声が鳴り響いた。
驚いた少女達が振り返り、見えた光景はゴクチョーを撃ち殺し少女達へと銃口を向けるナノカの姿だった。
そして…その近くで、死んだ筈のハルとメルルが剣で貫かれていたのだ。
「…ハ、ルさん─どうし…っ」
メルルの言葉はそこで止まった。死んだのだ、ハルと共に。
誰一人、声を発せれる者は居なかった。理解が出来なかったのだ。
何故なら、そもそもハルは死んでいた筈で…その罪で少女達はレイアを殺したのだから。
もし、レイアがハルを殺せていなかったのなら…少女達は無実の人を殺したことになる。
例え、それが魔女化しかけて居たのだとしても…殺人ではなく殺人未遂だったのならこの裁判事態が過ちなのは変わらない。
エマは真実を選べてなかったのだ…その事実がエマの心を蝕む。
けれど─。
「ハレ、ちゃん…?どうして、どうしてなの?のあ、分かるんだよぉ…?約束、守るって…言ったのに─っ」
「首の絞め跡、本当ですね。この人は、ハルちゃんじゃありません。ノアさんが言うようにハレさん、なのでしょう。教えて、くださいよ。なんで、こんなことしたんですか…知りたいんです、教えて─」
泣きながら叫ぶノアと虚ろに呟くシェリーの声で、エマはその人がハルではなくハレだと知った。
エマに後でちゃんと話すと言いながら何一つ教えず、ハレはメルルを殺し息を引き取った。
「これでは、裁判は出来ませんねぇ…。死んでいたと確認した筈なのですが…。それに─」
いつの間にか、死んでいた筈のゴクチョーは戻ってきていた。
けれど、困惑するように首を曲げ呟いた。
「まさか、メルル様が殺されるとは…やれやれ、どうしたものでしょう。それにしても、彼女はどうやって知ったのでしょうかねぇ…メルル様魔女であることを─」
「待ちなさい、それは黒幕の魔女が氷上メルルだったということかしら」
ゴクチョーが飛び立つ寸前に、硬直から戻ったナノカはそう聞いた。ゴクチョーは困りながらもその質問に答える。
「えぇ、そういうことになるんでしょう…。これから、どうしましょうかねぇ…」
淡々と言われたその答えに、エマの頭の中は真っ白になった。
メルルは、彼女はそんなことをする人ではないと叫びたかった。けれど、刺され死に行く身体でメルルを刺したハレのことも信じたかった。
困ったように笑いながら誤魔化すあの人が、悪意で人を殺すなんて考えたくなかったのだ。
「なら、なら…ここからわたくし達を出しなさいよっ!もう、嫌ですわっ!こんな…こんな場所っ!」
「それは、出来ませんねぇ。残念ですが、貴方達は悪者なので…このままここで規則を破ることなく健やかに生活していただかなければ行けませんので。はぁ、やれやれ。それでは皆さん速やかに牢に戻ってくださいねぇ…。外出禁止時間ですので…」
「嫌ですわ、帰して…帰して─」
取り乱すハンナに肩を貸しながら、エマ達は牢へ戻った。
暗い牢の中、エマの頭に浮かぶのはハルとの思い出だった。
誰よりも弱い女の子、ハルのことを形容するのならばその言葉が適切だろう。
エマがハルに初めてあった日も、道端で倒れているところを保護したのだ。
そして、いつの間にか誰からもうっすら嫌われるエマを大好きと言ってくれたのはハルが初めてだった。
嬉しくて、エマはその出来事をヒロに話した。それから、三人は何時も一緒だった。
それなのに、中学では─。
ハルはエマのことを置いていった。エマが虐められているのに、ハルは他の子の手を取ったのだ。
嫌いとは言われなかった。それでも、嫌われちゃったんだろう…そう思って、でもここで会ってそうではないことを知った。
きっと、何か事情があったんだ。ハルはどこまでも自由だから…エマはそれが分からなかっただけなんだ。
だから、それを聞こうとしていたのに…なのに─。
ハルは殺された…優しさが理由に。そしてハレは最期の力で皆を守るために黒幕を殺したのだ。優しいあの子達は、全部人のために動いて…。
(ずるい、ずるいよ…っ!どうして、助けてって言ってくれなかったの…っ?遊ぶって、言ってどうせ一人で危険なことをしたんだ。いつもいつも、自分の事なんて省みないで…っ)
恨み言が、エマの頭を支配する。それでも、怒ることなんて出来なくて涙だけがただ流れていく。
ヒロもハルも失ったエマは、それでも諦めることは出来なかった。
ヒロなら、ここで立ち上がる。ハルなら、皆を幸せにするために動く。
だからこそ、泣いているだけじゃダメなんだ。そう思いながら、万年筆を握り締めエマは目を閉じた。
次の日の朝、エマは皆をラウンジへと呼んだ。そして来たのはナノカとアリサ以外の全員。
その人数がいても誰一人、笑顔を浮かべることはなかった。ハルが居たらきっと笑顔にするために何か突拍子もないことをシェリーとしただろう。
けれど、今はハルは居ない。その事実が重く身体にのし掛かり、震える声で話した。
「ボクは、本気でここから脱出しようと思うんだ。だから、皆の力を貸して欲しい…っ!」
ヒロならもっと、はっきりと言えた。ハルならもっと、皆を笑顔にしながら提案をした。
それでも、エマは頑張ってその二人に追い付けるように走り出した。とても遠くて、もう手に届かない二人の影を追うように。
けれど、返ってきた反応は酷いものだった。特にハルとの関わりを持っていた少女達は何処か壊れてしまったかのようで─。
「あてぃしだって、こんなとこから出たいし。けど、あてぃしはアイツのお願いを叶えきゃ…。配信に、あの看板使ってあげなきゃじゃんか…?」
「逃げなきゃ、ですよね!でもでも、ハルちゃんはもう死んじゃったんですよねぇ~。脱出する意味なんて、ありますか…?ハンナさんもおかしくなっちゃいましたし…。でも、エマさんがそう言うなら手伝いますよ~!」
「そうですわ、帰らないと…けれど─わたくしは、わたくしは…わた、くしが─ハルを殺したんですのよ…あの時、手を振り払ったからっ!あの子は、隠していた魔法を使って…それで目立ってしまったんですわ。わたくしの、せいでっ─」
「のあ、描いてたのに…。ハルちゃんも、ハレちゃんも破ったんだ。見るって、言ってたのにぃ…」
暗い空気は、変わらない。それでも、エマは止まれなかった。
「ハルちゃんは、死んじゃったよ…。でも、ハルちゃんが見たいのは、ボクたちの悲しい顔なんかじゃないと思う。楽しく、笑っているそんな姿なんだよ。だから、だから…」
「あら、私は協力することには賛成よ。ハルちゃんのことを信じたから、とは言えないけれど黒幕が死んだ今なら脱出出来る穴がきっと出来ているもの」
「マーゴちゃん…!」
唯一、声を掛けてくれたのはマーゴだった。たった一人、それでもエマはその一歩に喜んで…そして、傷ついた他の子へと近づいた。
少しでも、希望へと歩き出せるように…声をかけるために。
その背後で、具合が悪そうにしている二人の少女には気がつくことを出来ずに…。
少し、少しずつエマの動きで牢屋敷は活気を取り戻してきた。
泣き続けていたハンナに、エマはハルが魔法を使ったのは皆の笑顔が見たかったからでハンナだけのせいじゃないと説得し、彼女は前を向き脱出するために色んなものを作った。
ハルの牢の中でお絵描きをし続けたノアには、ハルやハレはノアのお絵描きが楽しいものじゃないと悲しむと伝え、その結果、ノアは皆が楽しめるようにと人通りの多いところに絵を描く。
配信をし続けていたココには、ハルはココの自分らしく楽しそうに喋る配信こそ楽しかったと言っていたことを教え、ココはほんの少しだけ周りに頼り配信をすることにした。
それでも、完全に魔女化を止めることは出来なかった。
そしてハンナは、ある日首を吊り死んでいた。犯人はシェリーだった。理由は魔女になる前に殺して欲しいと頼まれたから。誤魔化すことなく、シェリーはそう口にした。
前を向いたと思っていたハンナはただ、隠していただけだった。傷をどうにか縫って、普通に見せかけていただけだったんだ。
シェリーも、同じだ。ハルとの思い出が大きすぎて、生きる気力を失っていた…ただそれでも友達を大切にしていた、それだけで…。
そう…エマは、なれなかったのだ。ハルの代わりにも、ヒロのようにも。見ているだけだった、エマには荷が重かった。
それでも、エマは動き続けた。シェリーの遺言でこの施設について知っても、諦めず脱出のために…。
皆と話して、思いを知って…少しずつ、少しずつまた希望が見えてきた…。
けれど、そんな希望も皆で作った気球は壊れたことで消えたのだ。そのまま誰か壊したのか、言い合いになって…皆、お互いを信じれなくなった。
それでも、エマは諦めなかった。ヒロもハルもシェリーもハンナも、誰も居なくなっても…たった一人で脱出することを目指して。
ある日もある日も、探し続けた。脱出する道を、生き残る方法を。
そして、気付いたのだ。そんなもの、元々なかったのだと。
エマは失意の中、静かになった牢へ戻った。
もう、エマにはなにも残ってなかった。信じるべき真実も、愛すべき友も…救いのある道も─。
どれ一つなかったのだ。
だから、エマは諦めたように笑う。あの時のように─。
私を見て、ハルを見て…ただ呆然と笑うだけだったあの頃のように。
そして、エマは私のように自らの首を吊ることにしました。
穢れても、エマは壊れきれなかったんです。あの子が、ハレが頑張ってしまったから…。メルルが生きていれば、エマはきっと私を見てくれたのに…。
ハルの罪も、私の罪も包み込んで…エマをハレが守ってしまったのです。
命は、守れなかったのですが…。あぁ、また探さないといけませんね─。
エマの代わりを…。
もうこの復讐心は…もう鈍ることはないでしょう。
誰よりも無垢だったハルも、優しいエマも、私を守ったヒロももう居ないのですから─。
誰かがなれはてになり、悲鳴の鳴り響く牢屋敷で彼女は次の策を考え続ける。その熱は、もう冷めることはないだろう─。
ちなみに、最後になれはてになったのはアリサです。
そして、それから隠れたココもなれはてになり…ミリアは殺されてアンアンは自らの罪に気がついたらなれはてになるかもです。
ナノカは、看守に守られたらなれはてになるかも?というか黒幕が死んだ後ナノカがすることってなんなんですかね。なれはてから直す方法を探すとかかな…?
ちなみにここまでの救いのないバッドエンドを書いたのは初めてなので荒れそうで怖いです…。次からはちゃんと二週目のお話になりますので…!
では、新しく1件の感想、23個のお気に入り、3人の方からの評価。大変嬉しく、これからも精一杯書きますのでこれからもどうぞご贔屓にしていただけたら嬉しいです。