トランパー本部、最上階の大会議室。
その日、開催されたのは、JOKER様両名ならびに幹部陣総員による合同会議だった。
参加者は、白のJOKER様、黒のJOKER様、そしてエースからジャックまでの幹部16名。
議題は一つ。
「一般党員2番に所属する、例の4名の戦術体系について」
会議の冒頭、スペードのエースが資料を配布した。
「これまでの訓練報告と実戦記録をもとに、4名の戦術を整理しました。今回は各人の得意分野だけでなく、攻撃距離、戦闘の組み立て、対応可能な状況についてもまとめています」
黒のJOKER様が頷く。
「よし。始めてくれ」
1. オウル・ドロウ
戦術分類:観察・精密投擲・衝撃打撃型
主な武器:拳、投げナイフ
「オウルは、観察能力を中心に戦闘を組み立てるタイプです」
資料には、以下のように記されていた。
観察・分析: 相手の癖、重心移動、攻撃の予備動作を素早く見抜く。
近接打撃: マシンガンジャブ、ショットガンブローなど、単純な打撃を高精度で使い分ける。
衝撃波: 拳撃による衝撃波を発生させ、離れた標的にも攻撃を届かせる。
投擲: ローズと同等レベルの投げナイフ技術を習得。
「つまり、相手の動きを見抜き、最適な攻撃を選択する戦術家ということか」
ダイヤのキングが確認する。
「そうです。本人は派手な技を好むわけではありません。必要な動作を、必要なだけ行う傾向があります」
白のJOKER様が感心したように頷いた。
「シンプルだからこそ、対応しづらいんだねえ」
オウルは会議の端で、少し居心地悪そうに座っていた。
2. ローズ・スノウ
戦術分類:高速投擲・拘束・組み技制圧型
主な武器:カード、投げナイフ、肉弾戦
「ローズは、従来のカード投擲に加え、投げナイフと肉弾戦を習得しています」
資料の項目が、少し多かった。
カード投擲: 最大秒間2000枚。衣服を壁に縫い付ける拘束から、急所への精密攻撃まで対応。
投げナイフ: 高い精度と速度を持つ投擲技術。
タックル: 相手の懐に入り、体勢を崩して転倒させる。
シュート: 倒した相手を組み技で制圧する。
肉弾戦: オウルの指導を受け、回避・体捌き・打撃なども習得中。
ハートのクイーンが資料を見ながら言った。
「以前は、近づかれる前にカードで仕留める印象でしたけれど……今は近づかれても、むしろ組み伏せる選択肢があるのですね」
「はい。ローズは相手との距離を選ばず、状況に応じて戦い方を変えられるようになっています」
「本人は、どの戦い方を好んでいるのだ?」
黒のJOKER様の問いに、ローズは微笑んだ。
「その場に応じて、ですわ」
「……便利な回答だな」
3. セナ・シウン
戦術分類:投げ技・空中制御・真空波型
主な武器:投げ技、打撃、真空波
「セナは、ロシアンプロレスを軸にした戦闘スタイルです」
投げ技: ロシアンプロレスを主体とし、相手の体勢を崩して大技につなげる。
打撃: 投げ技だけに依存せず、打撃も組み合わせる。
空中制御: エリアルロシアンスラムなど、空中での投げ技や姿勢制御が可能。
蹴りの真空波: 蹴りを振り抜いて発生させた真空波を飛ばす。
腕の真空波: 腕を振り抜くことで発生させた真空波を飛ばす。
「もともとは打撃偏重だったが、今は投げ技の比重が増しているのだったな」
スペードのキングが尋ねる。
「はい。現在は投げ技3、打撃2程度の割合と本人は説明しています」
「そこに遠距離攻撃まで加わったわけか」
セナは元気よく頷いた。
「はい! これで遠くにいる相手にも、近くにいる相手にも、ロシア式の歓迎ができます!」
会議室の何人かが、苦笑した。
4. ミヤビ・ヒメハナ
戦術分類:喧嘩空手・特殊オーラ・連続攻撃型
主な武器:ドス、拳脚、赤黒いオーラ
「ミヤビは、我流の喧嘩空手とドスを基礎に、特殊なオーラを組み合わせる戦闘スタイルです」
資料には、かなり細かく技が列挙されていた。
基本戦闘: 独特の構えから、喧嘩空手とドスを組み合わせて戦う。
ネジ込み: 相手の防御を崩すための技。
ギロチン: 左アッパーで相手を打ち上げ、追撃して地面へ叩きつける。
ズームグラップ: 左腕の関節を外してリーチを伸ばし、相手を引き寄せて右拳のオーラ攻撃につなげる。
連続コンボ: 頭部を地面に叩きつけた後、ズームグラップで引き寄せ、ドリル状に形成したオーラをまとった右拳で追撃する複数の連係を持つ。
オーラ球: 直径・高さ約2mの球体を射程約50m、弾速約200m/sで飛ばせる。
「特にオーラ球は、本人が意図的に制御できるようになったことが大きい」
クラブのエースが資料を指でなぞる。
「以前は偶然発生したものだったが、現在は狙って撃てる。近接戦闘の選択肢を維持したまま、遠距離への攻撃能力まで獲得している」
ミヤビは、嬉しそうに微笑んだ。
「まだまだ練習中ですわ。もっと精度を上げたいと思っていますの」
黒のJOKER様は、静かに資料を閉じた。
「……練習中、か」
4人の戦術比較
ここで、ダイヤのエースが比較資料を提示した。
「こうして見ると、4人とも遠距離攻撃を持つようになったのですね」
ハートのキングが感慨深げに呟く。
「しかも、戦術の方向性はまったく異なる。互いに似た能力を獲得したわけではない」
白のJOKER様が満足そうに頷いた。
「いいねえ。個性がきちんと残っている」
会議の結論
黒のJOKER様が全員を見回した。
「今回の整理で、ひとつ明確になったことがある」
会議室が静まる。
「この4人は、単純な戦闘能力の高さだけでなく、それぞれ異なる戦術体系を持っている。しかも、互いの訓練を見て刺激を受け、自分の戦い方を更新し続けている」
「うん。誰かの真似をするのではなく、自分に合った形に変えているね」
白のJOKER様が続ける。
「今後も4人の訓練成果を記録し、戦術体系を定期的に更新する。これでいいんじゃないかな」
幹部たちも異論はなかった。
……ただし。
「ところで」
黒のJOKER様が、ふと4人の方を向いた。
「お前たち、今回の成果を踏まえて、幹部昇格について考え直す気はないか?」
四人は顔を見合わせた。
そして、ほぼ同時に答えた。
「「「「私(俺)では幹部級の名を穢してしまいますので」」」」
沈黙。
白のJOKER様は天井を仰いだ。
黒のJOKER様は机に額をつけた。
スペードのエースが小さく呟く。
「……戦術体系の整理はできたのに、昇格問題だけは一向に整理できないな」
ハートのクイーンが、苦笑しながら答えた。
「それはもう、別の議題として永久に残りそうですわね」
その日の合同会議は、4人の戦術体系を正式に整理したという点では大成功だった。
ただし、最後に記録された会議メモには、こんな追記が残された。
『4名の戦闘能力に関する懸念事項は継続審議。なお、幹部昇格については今回も進展なし。』