セナ・シウンが柳葉刀を手に入れてから、一ヶ月。
彼女の専用訓練エリアでは、毎日のように刀を振るう音が響いていた。
最初の頃は、刀の重心や振り抜き方、構え直しに苦労していたものの、今では一連の動作が驚くほど滑らかになっている。
そして、その日。
セナ「……よし。これなら、ひとまず使いこなせるようになったかな!」
柳葉刀を軽く回し、鞘へ収める。
一ヶ月でここまで仕上げたこと自体、十分に異常な成長速度だった。
しかし、セナはふと何かを思い出したように首を傾げた。
セナ「……あ、そういえば」
刀を抜き、刃を眺める。
セナ「アニメで『顔に血管が浮くほど思いっきり力一杯、柄を握り込んだら、刃が赤く、峰が黒く変わり、登場人物の一人は灼けるような熱とニオイを感じ取った』って描写あったよねぇ」
少し考え込む。
セナ「確か……『赫刀(しゃくとう)』だか、読み方を変えてカクトウだか、っていってたっけ……?」
セナは柳葉刀の柄を見つめる。
セナ「……やってみようかな」
もちろん、普通ならアニメの演出を現実の刀で再現できるとは考えない。
しかし、ここはトランパーの四人専用訓練場。
しかも、セナ・シウンである。
彼女は柳葉刀を両手で握り直した。
セナ「よぉぉぉぉ……っ!」
全身全霊。
腕だけではない。肩、背中、腹、脚に至るまで、全身の力を柄へ込める。
ぎゅううううっ!!
その瞬間。
キィィィィン……!
刀身が、かすかに震えた。
セナ「……ん?」
刃の表面に、赤い色が浮かび始める。
それは徐々に鮮やかさを増し、やがて刀身全体が赤く染まった。
一方、峰の部分は対照的に黒く変色していく。
セナ「…………」
セナは握る力を緩めない。
赤い刃。
黒い峰。
そして、刀身から立ち上るような熱気。
セナ「…………え?」
しばらくして、セナはゆっくりと手を緩めた。
しかし、色は戻らない。
セナ「……えっ、できた?」
彼女は刀を少し離して眺める。
セナ「えっ。えっ? いや、待って。できちゃったんだけど!?」
その後、セナはすぐに三人を呼んだ。
最初に駆けつけたのはオウルだった。
オウル「何があった?」
セナ「これ!」
セナが柳葉刀を見せる。
オウル「…………」
オウルは黙って刀身を観察した。
オウル「刃が赤い。峰が黒い……」
セナ「でしょ!?」
オウル「塗装ではないな。表面だけの変化でもなさそうだ」
続いてローズとミヤビが到着する。
ローズ「あら? 何か新しい技でも完成したの?」
セナ「技っていうか……これ!」
ミヤビ「……まあ!」
ミヤビは刀を見て、目を丸くした。
ミヤビ「これは、随分と鮮烈な色合いですわね」
ローズ「赤い刃に、黒い峰……。セナ、何をしたの?」
セナ「えっとね。アニメで見た赫刀っていうのを思い出して、全力で柄を握ってみたら……」
オウル「それだけで?」
セナ「うん」
ローズ「…………」
ミヤビ「…………」
三人とも、しばらく言葉が出なかった。
オウル「……再現したのか」
セナ「なんか、できちゃった」
ローズ「ふふ……。あなた、本当に発想が自由ねェ」
ミヤビ「しかし、握り込んだだけで刀身の色まで変化するとは……。興味深い現象ですわ」
セナは刀を持ち上げ、少しだけ表情を引き締めた。
セナ「それでね。実は、これ……」
彼女は刀身に顔を近づける。
セナ「ちょっと熱いんだよね。それに、なんか独特なニオイもする」
オウル「熱と臭気か。外見だけの変化ではない可能性が高いな」
ローズ「そのまま使って大丈夫なの?」
セナ「そこはこれから確認するつもり。まだ何が起きているのか分からないしね」
ミヤビ「賢明ですわ。新しい力を得たからといって、すぐに実戦投入するものではございませんもの」
セナ「うん。まずは調べてみる!」
数日後、幹部会議室。
四人の訓練状況を確認していた幹部たちのもとに、新しい報告書が届いた。
キング・スペード「……セナが柳葉刀を使いこなせるようになったそうです」
クイーン・ハート「一ヶ月でしたね。順調で何よりです」
キング・スペード「それだけではありません」
エース・クローバー「まだあるのか?」
キング・スペード「刀の柄を全力で握り込んだところ、刃が赤く、峰が黒く変色したそうです」
ジャック・ダイヤ「…………は?」
キング・スペード「本人はアニメに登場した赫刀を再現しようとした、と」
沈黙。
黒のJOKER様「……白いの」
白のJOKER様「なんだ、黒いの」
黒のJOKER様「あいつは、今度は何を始めたんだ?」
白のJOKER様「知らん。私にも分からん」
クイーン・ダイヤ「そもそも、アニメを参考にして再現できるものなのでしょうか……?」
エース・ハート「セナさんですからね……」
白のJOKER様は報告書を置き、深く息を吐いた。
白のJOKER様「……とりあえず、現象の調査と安全確認を優先させろ」
黒のJOKER様「ああ。あと、あいつらの訓練場には、もう何が起きても驚かんようにしておけ」
ジャック・スペード「それは無理があると思いますが……」
そして、白のJOKER様は最後に一言。
白のJOKER様「……しかし、アニメを見て新技術を思いつくとはな」
黒のJOKER様「次は何を見るんだろうな」
幹部一同は、誰も答えられなかった。
なお、セナ本人はその頃、訓練場で柳葉刀を眺めながら、
セナ「……これ、カッコいいなぁ」
と、たいそうご満悦だった。
後日談
この一件以降、幹部たちの間では妙な警戒が生まれた。
セナがアニメや漫画の話をしていると、誰かが必ず尋ねるようになったのだ。
「……それ、まさか再現するつもりじゃないよな?」
セナは毎回、笑顔で答える。
セナ「えー? まだ分かんないよ?」
その返答が、幹部たちにとって一番恐ろしかった。