トランパー、四人専用訓練区域。
その日、セナ・シウンは柳葉刀の手入れを終えたあと、倉庫に置かれていた廃棄予定品の一覧を眺めていた。
「……ん?」
彼女の目に留まったのは、アンチマテリアルライフル用の弾薬だった。
正確には、廃棄予定となっていた弾頭部分である。
「これ、もしかして……」
セナは弾頭を一つ手に取った。
そして、ふと柳葉刀の柄を握り込んだときの感覚を思い出す。
全身の力を、武器の一点へと集中させる。
あのとき、刃は赤く染まり、峰は黒く変化した。
ならば。
「刀じゃなくても、いけるんじゃない?」
セナは弾頭を片手で包み込んだ。
もちろん、ただ握るのではない。
全身全霊で。
「……っ!」
しばらく沈黙が続く。
やがて――。
弾頭の表面に、じわりと変化が現れた。
赤い光が浮かび上がり、金属の表面が赤熱したような色へと変わっていく。
そして、弾頭の一部には黒い変色が走った。
独特の熱気。
焼けた金属を思わせる臭い。
セナは目を丸くした。
「…………あ」
手を開いて、弾頭を確認する。
「できちゃった」
その声を聞きつけたローズが、訓練場の入口から顔を出した。
「セナさん? 何をなさって……」
「見て見て、ローズ!」
セナは赤く変化した弾頭を見せた。
ローズは数秒、黙ってそれを見つめる。
「……それは、まさか」
「うん。赫刀と同じ現象!」
「刀ではありませんわよね?」
「弾頭だね!」
「……弾頭ですわね」
そこへオウルもやってきた。
「何かあったのか?」
「オウル、これ見て!」
「……なるほど。刀身ではなく、弾頭そのものに現象を起こしたのか」
オウルは興味深そうに観察する。
「つまり、赫刀という呼び方は、現象の本質を正確には表していない可能性があるな」
「そうそう! 私も今そう思ってた!」
最後にミヤビがやってくる。
「あら、皆様お揃いで……って、セナさん。それは何ですの?」
「赫刀になった弾頭!」
「…………え?」
ミヤビは弾頭を覗き込む。
赤い弾頭。黒く変化した部分。周囲に漂う熱気。
「……刀以外でも、赫刀化できるということですの?」
「うん。片手だけど、全身全霊で握り込んだらできたよ!」
「まあ……!」
ミヤビは自分のドスを取り出した。
「ということは、わたくしのドスで成功したのも、決して偶然ではなかったということですわね」
「そうだね!」
ローズは腕を組んで考え込む。
「しかし、弾頭にまで適用できるとなると……武器の種類という概念そのものが、あまり意味を持たなくなってきますわね」
オウルが静かに付け加えた。
「少なくとも、赫刀は刀剣限定の現象ではない。武器や金属製品に対して、同じ原理を適用できる可能性がある」
「なんだか、すごいことになってきましたわね……」
ミヤビが感心する。
セナは赤く染まった弾頭を見つめ、満足そうに笑った。
「いやあ、ちょっと試してみただけなんだけどね!」
その日の夕方。
JOKER様と幹部全員に、セナの新発見が報告された。
報告書の表題は――
『赫刀現象の適用対象拡張について』
そして、添付写真には赤く変化したアンチマテリアルライフル用弾頭が写っていた。
白のJOKER様は写真を見たまま、しばらく沈黙した。
「……黒いの」
「なんだ、白いの」
「刀だけじゃなかったらしいぞ」
黒のJOKER様も写真を覗き込む。
「…………弾頭?」
「弾頭だ」
「……セナは、何を目指しているんだ?」
その場にいた幹部の一人が、ぼそりと呟いた。
「そもそも、あの四人は一般党員の『2』なのですが……」
白のJOKER様は写真を机に置いた。
「そこだよ!! そこが一番おかしいんだよ!!」
なお、セナ本人は後日、こう語った。
「いや、だって……できるかなって思ったら、できちゃったんだもん」
幹部たちは、また一つ頭を抱える理由を増やしたのだった。