トランパー本部、中央会議室。
その日、珍しく黒のJOKER様が自ら議題を提出し、合同会議の開催を宣言した。
招集されたのは、各階級・各スートの幹部たち。そして白のJOKER様。
会議室前方のスクリーンには、大きく議題が表示されていた。
『セナを起源として、最近組織内で広まりつつある「赫刀、又は赫刀化」と呼ばれる現象について』
黒のJOKER様は壇上に立ち、ゆっくりと口を開いた。
「諸君。本日の議題は、最近我が組織内で確認されている、ある現象についてだ」
白のJOKER様が隣で頷く。
「赫刀、あるいは赫刀化。セナ・シウンが柳葉刀で再現したことを発端として、ミヤビ・ヒメハナもドスで再現。さらに最近では、アンチマテリアルライフル用の弾頭にまで同様の変化が確認された」
スクリーンに三枚の写真が映し出される。
* 赤い刃と黒い峰に変化した柳葉刀。
* 同じく赫刀化したドス。
* 赤く変色したアンチマテリアルライフル用弾頭。
幹部たちは、それぞれ写真を見つめた。
「……刀剣限定の現象ではない、ということですか」
「現時点ではそう考えるべきだろう」
黒のJOKER様が答える。
「問題は、この現象がセナ個人の技術として留まらず、組織内で広まり始めていることだ」
そこで白のJOKER様が挙手した。
「ちなみに、俺も試した」
全員の視線が白のJOKER様に集まる。
「……え?」
黒のJOKER様が、ゆっくりと隣を向いた。
「白いの。何をしている」
「いや、気になるだろ? 俺も自分の武器で試してみたんだよ」
「成功したのか?」
「いや、全然」
「なら報告することはない」
「冷たいな!?」
会議室に小さな笑いが起きた。
黒のJOKER様は咳払いを一つして、議題に戻す。
「まず確認したい。赫刀化を実際に再現できた者は?」
幹部たちの間で、ちらほらと手が挙がった。
「私の刀剣で成功しました」
「こちらもです」
「短剣でも再現できました」
「私の武器では、まだ不安定ですが……」
黒のJOKER様は頷く。
「よろしい。では、現時点での共通点を整理しよう」
スクリーンに文字が表示された。
現時点で確認されている赫刀化の特徴
* 武器などを全身全霊で握り込むことで発生する。
* 対象の一部が赤く変化し、別の部分が黒く変化する場合がある。
* 灼けるような熱と、独特の臭いを伴う。
* 発動と解除を意図的に行える者がいる。
* 刀剣以外の金属製品でも発生する可能性がある。
「ただし、すべての対象で同じ変化が起こるとは限らない。弾頭の例も含め、まだ検証が必要だ」
そこで、スペードのキングが手を挙げた。
「一つよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「この現象を、今後は正式に『赫刀化』と呼称するのでしょうか。それとも、セナ殿が最初に再現したことから『赫刀』を正式名称とするのでしょうか」
黒のJOKER様は少し考えた。
「現象の総称としては『赫刀化』。現象が発生した状態を『赫刀状態』と呼ぶのが適切だろう。刀剣に限らない以上、正式名称を刀に限定する必要はない」
「なるほど」
「ただし、セナが最初に再現したという経緯は記録に残す」
白のJOKER様が口を挟む。
「つまり、セナが元祖ってことだな!」
「そうだ」
「すごいじゃないか、セナ!」
その場にいた幹部たちも、自然とセナの方を見る。
当の本人は、少し照れくさそうに頬を掻いた。
「いやあ……そんな大層なことじゃないんだけどね」
「大層なことだよ!!」
白のJOKER様が即座に返す。
黒のJOKER様は続けた。
「もう一つ、重要な点がある。赫刀化を習得した者は、必ずしも戦闘能力が向上したと判断できるわけではない。現象そのものと、使用者の技量は分けて評価する必要がある」
「確かに。赫刀化できたからといって、扱いに習熟しているとは限りませんね」
「その通りだ。各自、無理な再現や不用意な実験は控えること。特に、弾頭のような特殊な物品については、セナの成功例をそのまま模倣しないように」
セナは小さく手を挙げた。
「はい。あれは廃棄予定のものだったからね」
「セナ」
「はい?」
「今後、何か思いついたら、実行する前に一度報告してくれ」
「……えっ」
「えっ、ではない」
白のJOKER様が肩を震わせている。
「黒いの、気持ちは分かるけどな……」
「お前も笑うな、白いの」
会議後
会議が終わり、幹部たちがそれぞれの部署へ戻っていく。
その中で、セナ、ミヤビ、ローズ、オウルの四人は、廊下で立ち話をしていた。
「赫刀化、正式に組織内の技術として扱われることになりましたわね」
ミヤビが嬉しそうに言う。
「うん。なんだか面白いね!」
「ただ、セナさんが起源であることも明記されましたわ」
ローズが微笑む。
オウルは少し考え込んでいた。
「現象の仕組みが分かれば、さらに応用範囲が広がる可能性がある。今後の研究価値は高いな」
「オウルも何か試すの?」
「必要があればな」
「わたくしは、もう少しドスの赫刀化を安定させたいですわね」
「私は柳葉刀の方も、もっと練習したいかな」
四人はそれぞれの考えを口にする。
そのとき、少し離れた場所から黒のJOKER様の声が飛んできた。
「セナ!」
「はーい?」
「くれぐれも、次の思いつきを実行する前に報告するように!」
セナは笑顔で手を振った。
「分かったよー!」
黒のJOKER様は一瞬だけ安心したようだった。
しかし、隣の白のJOKER様がぼそりと呟く。
「……あれ、絶対また何か思いつくぞ」
「分かっている」
「しかも今度は、何を赫刀化するか分からん」
「だからこそ会議を開いたんだ……」
こうしてトランパーでは、赫刀化現象が正式な研究・技術課題として扱われることになった。
ただし、組織の幹部たちには一つの共通認識が生まれていた。
セナが「ちょっと試してみようかな」と言い出したときは、先に報告を受けること。
それが、今回の合同会議で最も実務的な結論だった