トランパー本部、中央会議室。
赫刀化現象についての合同会議が終わった数日後。
白のJOKER様は、ふと気になったことがあった。
「……なあ、黒いの」
「何だ、白いの」
「セナが赫刀化させた、あのアンチマテリアルライフルの弾頭のことなんだが」
「ああ、あれか」
「そもそも、どうして暴発しなかったんだ?」
黒のJOKER様が首を傾げる。
「どういう意味だ?」
「赫刀化したとき、かなりの高熱が発生したんだろう? 弾薬なんて、そんなものに触れさせて大丈夫なのか?」
「……確かに」
白のJOKER様は、すぐに廃棄物管理担当者を呼び出した。
しばらくして、担当者が会議室に入ってくる。
「お呼びでしょうか、JOKER様」
「ああ。少し確認したいことがある」
白のJOKER様は、例の弾頭の写真をスクリーンに映した。
「これだ。セナが赫刀化させた弾頭だが、どうして弾薬が暴発しなかったんだ?」
担当者は写真を一瞥した。
「ああ、こちらの件ですね」
「そうだ。赫刀化の際には相当な高熱が発生したと聞いている。弾薬にそんな熱が加われば、暴発する可能性もあるんじゃないか?」
担当者は、少しも慌てることなく答えた。
「弾薬としての状態では保管しておりませんでしたので」
「……ん?」
「廃棄予定の弾薬については、信管と弾頭を除去した上で、薬莢の中のガンパウダーも全て抜いてあります。その後、薬莢、弾頭、ガンパウダーに分けて管理しておりました」
「…………」
「廃棄物とはいえ弾丸、危険物ですからね。事故が起きないよう、危険な部分は事前に処理しておくのが当然です」
会議室に沈黙が落ちた。
白のJOKER様は、ゆっくりと黒のJOKER様を振り返る。
「……黒いの」
「何だ」
「ものすごく真っ当な理由が返ってきたな」
「真っ当どころか、管理担当者として極めて適切な対応だろう」
「いや、そうなんだけどさ……」
白のJOKER様は、もう一度スクリーンの写真を見た。
そこには、赫刀化して赤く変色した弾頭が映っている。
「つまり、セナが赫刀化させたのは、弾薬じゃなくて、弾薬を構成していた部品の一つだったわけか」
「そうなります」
担当者は淡々と答える。
「薬莢も、弾頭も、火薬も、それぞれ別々に管理しておりました。ですので、今回の件で弾薬が暴発するようなことはありませんでした」
「なるほど……」
白のJOKER様は、腕を組んで考え込む。
「いやあ、よかった。もし暴発していたら、怪我人どころか死者が出ていた可能性もあるからな」
「そのような事故を起こさないための管理です」
「うん。ご苦労だった」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
担当者は一礼して退室した。
担当者が去った後。
白のJOKER様は椅子の背もたれに体を預けた。
「……危なかったな」
「何がだ?」
「いや、セナの思いつきがさ。今回は廃棄物管理がきちんとしていたからよかったけど、管理が杜撰だったら大問題になっていたかもしれない」
黒のJOKER様は頷く。
「だからこそ、先日の合同会議で不用意な実験を控えるよう通達したのだ」
「そうだったな」
少し間を置いて、白のJOKER様が呟く。
「しかし、廃棄物管理担当者は優秀だな。ああいう人材が組織を支えているんだ」
「同感だ。派手な戦闘能力だけが組織の価値ではない」
「……ところで、黒いの」
「今度は何だ」
「セナに、この話を伝えておいた方がいいと思うか?」
「当然だ。廃棄物だからといって、何でも自由に触れてよいわけではない。今回のように安全管理がなされていたとは限らないからな」
「だよな」
その頃、当のセナは四人専用訓練区域で、ミヤビと赫刀化について話し合っていた。
「ねえミヤビ。今度は別のものでも試してみようかなって思ってるんだけど」
「まあ! 何を試すおつもりですの?」
その瞬間、白のJOKER様から通信が入った。
『セナ! ちょっと待て! 何か試す前に必ず相談しろ!』
「ええっ!? まだ何もしてないよ!」
『まだ、だろうが!!』
ミヤビは口元を押さえて笑った。
「ふふっ。すっかり警戒されてしまいましたわね」
セナは少し不満そうに頬を膨らませた。
「……ちゃんと安全確認してからにするのに」
『その安全確認も含めて相談してくれ!!』
こうして白のJOKER様は、廃棄物管理担当者への感謝と、セナへの警戒心を同時に深めることになった。