トランパー本部、JOKER様両名の執務室。
その日、珍しくオウル・ドロウが自主的に訓練を休んでいた。
しかも、たった一日ではない。
三日間である。
普段のオウルを知る者からすれば、かなり珍しい出来事だった。
そして本人は、白と黒のJOKER様の前に姿を現した。
「JOKER様。少々、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「おお、オウルか。どうした?」
白のJOKER様が応じる。
オウルはいつも通り丁寧に一礼した。
「実は、お願いがございます」
「聞こう」
「まず、これから三日ほど、休暇をいただけないでしょうか」
黒のJOKER様がわずかに首を傾けた。
「三日? 珍しいな。何かあったのか?」
「はい。順を追ってご説明いたします」
オウルは一度息を整えた。
「先日、赫刀化現象についての話を聞きまして。私も投げナイフで再現できないかと考え、訓練の合間に試してみたのです」
「ほう。投げナイフを赫刀化か」
「はい。しかし、発動には至りませんでした」
「なるほど。まあ、簡単にできるものでもないだろう」
「問題は、その後です」
オウルの声が少し沈む。
「どうやら、力の入れ方を誤ったようでして……全身が筋肉痛になりました」
白のJOKER様が頷く。
「それは災難だったな」
「特に二の腕が酷く、握力が著しく低下しております」
「握力が?」
「はい。食器を支えるのが、どうにかギリギリという程度です」
「……それは困るな」
「さらに、ドアノブを回すことすら難しくなってしまいました」
白のJOKER様と黒のJOKER様は、黙ってオウルの話を聞いていた。
オウルはそこで、少しだけ俯いた。
「先ほども、たまたま通りかかった階級『4』の方にドアを開けていただかなければ、部屋から出ることすらままならないところでした」
「…………」
「階級『2』の一般党員でありながら、上位階級の方にドアを開けていただくとは……この体たらく、誠に不甲斐ない限りです」
オウルは深々と頭を下げた。
「以上の事情から、三日ほど休養をいただきたく存じます」
数秒の沈黙。
白のJOKER様は、黒のJOKER様を見た。
黒のJOKER様も、白のJOKER様を見た。
そして。
「いいぞ」
「えっ?」
オウルが顔を上げる。
白のJOKER様は即答した。
「三日と言わず、必要なら延ばしてもいい。今はしっかり休め」
黒のJOKER様も頷く。
「筋肉痛が酷い状態で無理に訓練を続けても意味はない。握力がそこまで落ちているなら、なおさらだ」
「……よろしいのですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます!」
オウルは深々と頭を下げた。
その表情には、休暇を得られた安堵と、自分の不甲斐なさへの悔しさが混ざっていた。
その後
オウルが退室した後。
白のJOKER様は、椅子に深く腰掛けた。
「……投げナイフの赫刀化か」
「発想としては面白い。だが、相当無理をしたのだろうな」
「二の腕が酷いって、どれだけ握り込んだんだ……」
「本人は失敗したと言っていたが、そもそも赫刀化を試みること自体が相応の負荷を伴うのかもしれん」
白のJOKER様は少し考えてから、ぽつりと言った。
「それにしても、あのオウルが自主的に三日も休むとはなぁ」
「休むべきと判断したのだろう。そこは尊重するべきだ」
「そうだな。……しかし」
「何だ?」
「階級『4』の人にドアを開けてもらったことを、あそこまで気にする必要はないだろうに」
黒のJOKER様は小さく息を吐いた。
「オウルらしいと言えば、らしい」
一方、階級「4」の党員
その頃、オウルのためにドアを開けた階級「4」の党員は、同僚に話していた。
「いや、驚きましたよ。オウル殿がドアの前で立ち止まっていらっしゃったので、どうされたのかと思ったら……」
「何かあったのか?」
「ドアノブが回せないと」
「……え?」
「二の腕の筋肉痛で、握力が落ちてしまったそうです」
同僚はしばらく黙った。
「オウル殿が?」
「ええ。投げナイフの赫刀化を試した結果だそうです」
「……あの方、何を目指しているんだ」
「私にも分かりません」
二人は揃って首を傾げた。
三日後
オウルは無事に休養を終え、訓練に復帰した。
握力も回復し、食器もドアノブも問題なく扱えるようになった。
そして復帰初日。
ローズが尋ねた。
「オウルさん、三日間のお休みはいかがでした?」
「おかげさまで、十分に休養できました」
「それは何よりですわ。……ところで、投げナイフの赫刀化は?」
「まだ諦めてはいません」
「まあ」
「ただし、今後は負荷を確認しながら、慎重に取り組むつもりです」
そこへセナがやってきた。
「オウル、私も最初は柳葉刀で一ヶ月くらい練習したよ!」
「そうでしたね。焦らず取り組みます」
ミヤビも微笑む。
「オウルさんなら、きっと習得できますわ」
「ありがとうございます」
四人はそれぞれ訓練場へ向かう。
その背中を見送りながら、白のJOKER様は黒のJOKER様に小声で言った。
「……次はローズが何かやらかすんじゃないか?」
「やめろ。余計な予言をするな」
しかし、トランパーの幹部たちはまだ知らない。
赫刀化現象が、四人の間で新たな試行錯誤を生み出しつつあることを。