ローズがセナに赫刀化の指導を頼んでから、一ヶ月ほどが経過した。
その間、ローズは通常のカード投擲訓練とは別に、赫刀化の練習を続けていた。
最初は十枚程度のカードをまとめて握るところから始めたものの、なかなか変化は起こらなかった。
枚数を増やせば力の伝わり方が変わり、握り方を変えれば今度は全体に力を行き渡らせられない。
一度だけ偶然成功したこともあったが、再現性はなかった。
しかし、ローズは諦めなかった。
そして一ヶ月後――。
四人専用訓練区域。
「では、始めますわね」
ローズは二十枚のカードを揃え、両手でまとめて持った。
セナ、オウル、ミヤビの三人が少し離れたところから見守っている。
「いけるかな?」
「この一ヶ月、かなり練習していましたからね」
オウルが答える。
ローズは目を閉じた。
呼吸を整え、全身の力を手元へと集中させる。
「…………」
数秒後。
カードの束に変化が現れた。
赤い色がカードの表面に浮かび上がり、縁の一部が黒く染まっていく。
同時に、周囲へじんわりと熱が広がった。
赫刀化成功
「……できましたわ」
ローズは目を開け、カードの束を確認した。
二十枚すべてが、赫刀化している。
しかも、今回は偶然ではない。
「おおっ! ローズ、成功だね!」
セナが嬉しそうに声を上げる。
「ええ。ようやく、安定してできるようになりましたわ」
ローズはカードの束を少し持ち上げた。
その表情には、控えめながら確かな達成感があった。
ミヤビも感心したように頷く。
「一ヶ月で二十枚ですか。素晴らしいですわね」
「ありがとうございます。もっとも、二十枚を超えると、まだ安定しませんの」
オウルが尋ねる。
「二十一枚では?」
「成功することもありますけれど、失敗することの方が多いですわね。三十枚となると、現状ではほとんど無理ですわ」
「なるほど。現時点での安定限界が二十枚ということか」
「ええ。まずはこの枚数を確実に扱えるようにしたいと思いますわ」
実際に投げてみる
「ところで、ローズ」
セナが尋ねた。
「赫刀化したカードって、投げたらどうなるの?」
「それは、もちろん試しますわ」
ローズは訓練用の標的へ向き直った。
二十枚のカードを手に持ち、軽く構える。
「では……」
次の瞬間。
シュバババババッ!!
カードが一斉に飛び出した。
標的の表面に次々と突き刺さる。
通常のカード投擲と同じく、ローズの投擲速度と精度は健在だった。
ただし、今回はカードそのものが赫刀化している。
標的に突き刺さったカードの表面は赤く、縁は黒く変化したまま、熱を帯びていた。
「……なるほど」
オウルが標的を観察する。
「少なくとも、赫刀化した状態を維持したまま投擲できているようだな」
「ええ。投げた瞬間に解除されるようなこともありませんでしたわ」
ミヤビが目を輝かせる。
「つまり、ローズさんのカード投擲に、新しい性質が加わったということですわね!」
「そうなりますわね」
ローズは満足そうに微笑んだ。
その日の報告
後日、白と黒のJOKER様にも報告が上がった。
「ローズが二十枚のカードを安定して赫刀化できるようになったそうだ」
白のJOKER様が報告書を眺める。
黒のJOKER様は頷いた。
「一ヶ月で二十枚か。着実に習得しているな」
「しかも、投擲後も赫刀化状態を維持できるらしい」
「なるほど。これは戦術的にも興味深い」
白のJOKER様は少し考えた後、ぽつりと言った。
「……ところで、ローズは次に何枚を目指すんだ?」
「報告によれば、まずは二十枚を完全に安定させ、その後は枚数を増やすつもりらしい」
「そうか」
白のJOKER様は報告書を閉じた。
「……百枚とか言い出さないよな?」
黒のJOKER様は答えなかった。
ただ、少しだけ沈黙した。
その頃、訓練区域ではローズが新しいカードの束を手にしていた。
「さて……次は二十一枚ですわね」
セナが隣で応援する。
「頑張って、ローズ!」
ローズは微笑んだ。
「ええ。焦らず、少しずつですわ」
一ヶ月前には十枚でも苦戦していた彼女が、今では二十枚を安定して赫刀化できる。
そして彼女のカード投擲術に、新たな可能性が加わり始めていた。