トランパー本部、合同幹部会議室。
黒のJOKER様の呼びかけで、赫刀化に関する定期報告会が開かれていた。
議題は単純。
「例の四人が、赫刀化をどこまで使いこなせるようになったか」
白のJOKER様が資料をめくる。
「では、順番に報告してもらおう。まずは発端となったセナからだ」
「はい!」
セナはいつもの調子で手を挙げた。
「えーっと、最初は柳葉刀で成功して、その後、ミヤビさんに教えて、ローズさんとオウルさんにも教えて……」
「そこまでは把握している」
「それで、ちょっと思いついたので、対物ライフルに使われる弾頭でも試してみたんです」
「…………」
白のJOKER様の手が止まった。
「セナ」
「はい?」
「その話は、以前も聞いた」
「はい。あのときは、なんかできちゃったんですよねぇ」
「その軽い言い方をどうにかしろ」
黒のJOKER様が横から口を挟む。
「そもそも、なぜ弾頭で試そうと思った?」
「なんとなくです!」
「なんとなくでやるな!!」
セナは悪びれる様子もなく、にこにこしている。
「でも、ちゃんと分離された弾頭でしたよ?」
「そこは確認している。問題は発想の方だ」
「あと、どうして自分は熱くないのかって聞かれたんですけど……」
セナは少し胸を張った。
「サソリが自分の毒で死ぬワケないわね? そういうことよ」
「…………」
幹部たちの視線が一斉にセナへ集まった。
「つまり?」
「赫刀化を行っている本人は、赫刀化による熱の影響を受けない、ということです!」
「説明になっているようで、なっていないぞ」
「でも、実際そうなんですよねぇ」
白のJOKER様は、頭を抱えた。
「……この現象、研究すればするほど分からないことが増えるな」
「次はローズ」
「はい」
ローズは優雅に一礼した。
「わたくしの方は、カードの赫刀化が順調ですわ」
「何枚まで安定した?」
「現在は30枚です」
「おお!」
セナが嬉しそうに声を上げた。
「すごい! 前は20枚だったよね!」
「ええ。30枚までは、ほぼ安定して赫刀状態にできますわ。もちろん、投擲後も状態は維持されます」
「40枚は?」
「まだ安定しませんわね。成功することもありますけれど、再現性に欠けますの」
オウルが頷く。
「一度に扱う枚数が増えるほど、全身の力を対象に集約するのが難しくなるんだろうな」
「ええ。ですから、今は無理に枚数を増やすより、30枚を確実に扱えるようにしておりますわ」
白のJOKER様は資料に目を落とした。
「秒間約2000枚の投擲能力に、赫刀化したカード30枚か……」
「はい。使いどころは選びますけれど、選択肢としては面白いですわね」
「相手からすれば、選択肢に入れられるだけでたまったものではないだろうな」
「次、ミヤビ」
「はい、JOKER様」
ミヤビは姿勢を正して答えた。
「わたくしは、ドスの赫刀化を引き続き維持しておりますわ」
「何か新しい発見は?」
「特にはございません。ただ……」
ミヤビは自分のドスを思い浮かべるように、少し視線を落とした。
「ドスはあまり使わないですが、活躍してくれるタイミングもそこそこありますから、出来ておいて損はないですわね」
「なるほど。普段の戦闘スタイルを変えるつもりはないと」
「ええ。わたくしには、わたくしの戦い方がございますもの」
ミヤビらしい、実に落ち着いた回答だった。
セナが横から笑顔で尋ねる。
「でも、赫刀状態のドスって格好いいよね!」
「もちろんですわ。刃が赤く、峰が黒く……。あの色合いは実に素晴らしいですわね」
「そこは気に入っているんだな」
「ええ、とても!」
「最後はオウル」
「はい」
オウルは一歩前に出た。
「以前は何度試しても失敗していましたが、セナに教えてもらってからは安定しています」
「もう問題なくできるのか?」
「はい。投げナイフでも、意識して赫刀化できるようになりました」
「おお、よかったじゃない!」
ローズが嬉しそうに笑う。
「以前は、腕だけで何とかしようとしていたからな。全身の力を握る動作に集約する。そこを理解してからは、かなり安定した」
「ペットボトルを開けられなくなった甲斐がありましたね!」
セナが明るく言う。
「その話はもういいだろ……!」
「ふふっ。あのときは大変でしたわね」
「ローズまで……」
オウルは少しだけ顔をしかめた。
だが、以前のような焦りはもうない。
「まあ、結果的にはセナに教わって正解だった。今では自分の武器でも再現できる」
「それはよかったです!」
セナは満足そうに頷いた。
一通りの報告が終わったところで、白のJOKER様が資料を閉じた。
「整理しよう」
* セナ:赫刀化の発端。柳葉刀に加え、分離された対物ライフル用弾頭でも成功。本人は熱の影響を受けないと説明。
* ローズ:カード30枚まで安定して赫刀化。投擲後も状態を維持。
* ミヤビ:ドスの赫刀化を習得済み。使用頻度は高くないが、必要な場面に備えて維持。
* オウル:セナの指導後、投げナイフの赫刀化が安定。
黒のJOKER様が資料を眺めながら呟く。
「……最初は、セナ一人の妙な現象だったはずなのだが」
「今では四人全員が使えるようになったな」
「しかも、カード30枚だの、投げナイフだの、弾頭だの……」
「白いの」
「なんだ、黒いの」
「これ以上、対象を増やす前に安全管理の規則を整備しよう」
「全面的に賛成だ」
そのとき、セナが元気よく手を挙げた。
「あ、ちなみに!」
「なんだ?」
「今度は、もっと大きいものでもできるか試してみようかなって!」
「セナ!!」
「まだ何もしてませんよ!?」
「おう、だから、試す前に相談しろよ、とな!」
「分かっております!」
「よろしい!」
会議室に響くJOKER様たちの声。
ローズは口元を隠して笑い、ミヤビは上品に微笑み、オウルは静かにノートへ書き加えた。
『赫刀化の研究において、最大の課題は現象そのものではない。セナの好奇心である。』