トランパー本部、四人専用の訓練施設。
三日間の完全休養を終えた四人は、さっそく赫刀化の訓練を再開していた。
ただし、今回の課題は以前とは少し違う。
「……うーん」
セナが柳葉刀を手に、首を傾げている。
「どう頑張っても10秒を切れないなぁ……」
「私もですわ」
ローズが手元のカードの束を見つめる。
「何度やっても、最短で10秒少々。安定しているとはいえ、これ以上短縮できませんわね」
オウルも腕を組んで考え込んでいた。
「俺の投げナイフも同じだ。力の入れ方を変えても、結局10秒前後で頭打ちになる」
ミヤビはドスを手にしたまま、少し不満げに呟いた。
「わたくしもですわ。もっと早く赫刀状態に移行できれば、戦闘中の選択肢が増えるのですが……」
四人が悩んでいるのは、赫刀化そのものではない。
赫刀化が完了するまでの時間だった。
「一応、確認しておきたいんだけど」
オウルが三人に尋ねる。
「全身の力を対象に集約するところまでは、全員できているんだよな?」
「もちろんですわ」
「そこは問題ありません」
「うん。私もそこは安定してるよ」
「では、なぜ10秒を切れないのか……」
オウルは腕を組み直した。
セナが柳葉刀を持ち上げる。
「私の場合、最初に習得したときから、だいたいこのくらいだったんですよねぇ」
「発端となった本人でも、そこは変わらないのか」
「はい。最初はもっと時間がかかっていましたけど、今は10秒ちょっとで安定しています」
ローズがカードを軽く揃えながら言う。
「わたくしの場合は、30枚まとめて赫刀化することもあって、そこに時間がかかっている可能性もありますわね」
「俺はナイフ一本だから、枚数の問題ではないな」
「わたくしもドス一本ですわ」
「……となると、単純な対象の数だけでは説明できないね」
四人は再び考え込んだ。
そこへ、訓練場を訪れた黒のJOKER様が声をかけた。
「何を唸っている?」
「JOKER様。赫刀化の速度について、少し悩んでおりまして」
オウルが説明する。
「どう頑張っても、発動まで10秒を切れないんです」
「10秒?」
黒のJOKER様は四人を見回した。
「……それは、遅いのか?」
「いえ、通常の訓練としては十分実用的です。ただ、戦闘中に使うとなると、もう少し短縮したいんです」
「なるほどな」
黒のJOKER様は少し考えた後、セナに尋ねた。
「セナ。最初に赫刀化したとき、どうやって成功した?」
「えっと……全身全霊で握り込んで、対象に力を伝える感じです!」
「では、今は?」
「同じです!」
「……同じか」
「はい!」
黒のJOKER様は、少しだけ首を傾げた。
「ならば、今のやり方が完成形だと決まったわけではないだろう。何か別の方法があるかもしれない」
「別の方法……」
セナが呟く。
ローズもカードを見つめた。
「力の集約方法そのものを見直す、ということですわね」
「あるいは、発動までの過程を細分化して考えるか……」
オウルが続ける。
ミヤビはドスの柄を握り直した。
「ふふっ。まだまだ研究の余地があるということですわね」
黒のJOKER様は頷いた。
「ただし、焦るな。速度を求めて無理をする必要はない。以前のオウルのように、腕が使い物にならなくなっては本末転倒だ」
「……あれはもう勘弁してほしい」
オウルが苦笑する。
黒のJOKER様が去った後。
四人は再び訓練に戻った。
セナが柳葉刀を握り込む。
ローズがカードを揃える。
オウルが投げナイフを手に取る。
ミヤビがドスを構える。
そして、ほぼ同時に呟いた。
「……10秒かぁ」
「……10秒ですわね」
「……切れないな」
「……悩ましいですわ」
四人とも、すでに赫刀化そのものは習得している。
しかし、今度はその発動速度という壁にぶつかっていた。
ちなみに、その日の訓練日誌には四人それぞれ、ほぼ同じ内容が記されていた。
『赫刀化の発動時間、約10秒。短縮方法を引き続き検討する。』
そして最後に、セナが書き加えた。
『うーん……なんでだろう?』
……どうやら、発端となった本人も、まだ答えを持っていないらしい。