トランパー本部、全幹部合同会議室。
この日の議題は、赫刀化に伴って確認された、ある奇妙な現象についてだった。
議題名は、
『赫刀化時におけるオウル・ドロウの身体的変化について』
白と黒のJOKER様、そしてエースからジャックまでの幹部階級総員。さらに当事者である四人が出席していた。
黒のJOKER様が口を開く。
「まず、確認しておきたい。赫刀化を行う際、オウルにだけ通常とは異なる身体的変化が現れる。これは間違いないな?」
「はい」
オウルが答えた。
白のJOKER様が資料を示す。
「セナ、ローズ、ミヤビの三人には、同様の変化は確認されていない。一方、オウルには顔面と両手に太い血管が浮き上がる現象が見られる」
資料には、赫刀化を行っている最中のオウルの写真が添付されていた。
額、こめかみ、頬、そして手の甲から指にかけて、普段より明らかに太く浮き出た血管。
特に手の甲は、握り込む動作に合わせて血管が目立っていた。
「……改めて見ると、なかなかのものだな」
スペードのキングが写真を眺める。
「顔にまで出るのか」
ハートのクイーンも少し驚いた様子だった。
「オウルさん、痛みなどはないんですか?」
ダイヤのジャックが尋ねる。
「特にありません。赫刀化を終えれば、しばらくして元に戻ります」
「息苦しさや、頭痛は?」
「ありません」
「手の痺れは?」
「ありません」
「握力の異常な増加などは?」
「普段より力が入っている感覚はありますが、特別な変化は感じません」
オウルは淡々と答えていく。
セナの見解
「えーっと……」
セナが手を挙げた。
「私も最初に見たときはびっくりしました。私の場合は、赫刀化しても顔や手にあそこまで血管は浮かばないので」
「セナさんは、どう思います?」
ローズが尋ねる。
「うーん……。オウルは、私たちと比べて握り込むときの力の入れ方が違うのかもしれません」
「違う?」
「はい。赫刀化って、全身の力を対象を握る動作に集約するじゃないですか。オウルはそのとき、私たちよりも身体に強く力が現れているのかなって」
オウルは自分の手を見た。
「確かに、意識している感覚はある。だが、力を入れすぎているつもりはない」
「でも、顔にも出ているんですよねぇ」
「それは俺も気になっている」
ミヤビが口元に手を添える。
「わたくし、オウルさんが赫刀化しているところを何度か拝見しましたけれど、あの血管の浮き上がり方は相当なものですわね」
ローズも頷く。
「まるで全身の力を、手に無理やり押し込んでいるようにも見えますわ」
「……言い得て妙だな」
オウルは少し苦笑した。
幹部たちの意見
クローバーのエースが発言する。
「単純に考えれば、赫刀化の際に血流や血圧に変化が生じている可能性はある」
「ただし、外見上の変化だけで断定はできないな」
スペードのクイーンが続ける。
「本人に自覚症状がないとしても、継続的に観察する必要はあるでしょう」
ダイヤのキングも同意した。
「特に、顔面にまで変化が出るという点は気になりますね。本人が問題ないと言っているからといって、放置するべきではありません」
ハートのジャックが以前から気になっていたことを口にする。
「そもそも、赫刀化は刀剣類に限らない現象です。対象の種類によって身体的な反応が異なる可能性もありますが……」
「オウルの場合は、投げナイフでも同じ変化が出るのか?」
白のJOKER様が尋ねた。
「はい。対象が変わっても、顔と手の血管が浮く現象は同じです」
「なるほど」
黒のJOKER様は腕を組んだ。
「では、対象物の違いによるものではなさそうだな」
JOKER様両名の判断
一通り意見が出たところで、白のJOKER様がまとめに入った。
「現時点で、オウルの身体に異常が発生していると断定できる材料はない。だが、他の三人には見られない変化がある以上、経過観察は必要だ」
黒のJOKER様も続ける。
「オウル。今後、赫刀化の際に痛み、痺れ、頭痛、息苦しさ、その他の異常を感じた場合は、直ちに中断して報告しろ」
「承知しました」
「それから、血管の浮き上がりを無理に強めようとするな。これは訓練の成果でも、見栄えを競うものでもない」
「はい」
セナが少し申し訳なさそうに手を挙げた。
「……私、オウルに教えたとき、こういう現象が起こるとは思っていませんでした」
白のJOKER様は穏やかに答えた。
「セナ、お前が悪いわけではない。そもそも、赫刀化そのものがまだ解明されていない現象だ」
「そうですか……」
「ただし、今後は四人とも、身体に変化が現れた場合は必ず報告すること」
「承知しました!」
四人が揃って返事をした。
会議終了後
会議が終わり、四人は廊下を歩いていた。
ローズがオウルの顔をちらりと見る。
「それにしても、オウル。あなたの血管、なかなか迫力がありますわね」
「褒められているのか、それは」
「もちろんですわ。……ただ、少し怖いですけれど」
「正直だな」
セナが横から覗き込む。
「でも、あれって本当にオウルだけなんですよねぇ」
「そうだな」
ミヤビは少し考えてから言った。
「もしかすると、オウルさんは赫刀化の際、わたくしたちとは違う形で全身の力を集約しているのかもしれませんわね」
「俺もそう考えている。だが、まだ分からない」
オウルは自分の手を見つめた。
「……まあ、原因が分かるまでは、無理をしないことにする」
「ええ。それがよろしいですわ」
その頃、会議室に残った黒のJOKER様は、白のJOKER様に向かって呟いていた。
「白いの」
「なんだ?」
「赫刀化という現象、最初は武器が赤くなるだけの話だと思っていた」
「私もだ」
「今では、弾頭が赫刀化し、カードが赫刀化し、投げナイフが赫刀化し、挙げ句の果てにはオウルの顔に血管が浮き出る」
「……そうだな」
「一体、我々は何を研究しているのだろうな」
白のJOKER様は、資料を閉じた。
「さあな。ただ一つ言えることはある」
「なんだ?」
「まだまだ分からないことだらけだ」
二人は同時に深いため息をついた。
赫刀化の研究は、まだまだ終わりそうになかった。