トランパー本部、全幹部合同会議室。
白と黒のJOKER様、そしてエースからジャックまでの幹部階級総員が集められていた。
今回の議題は、赫刀化に関する新たな疑問。
『赫刀状態の武器は、接触した対象を瞬時に炭化させるほどの熱を持つ。それにもかかわらず、なぜ武器本体は溶融・燃焼しないのか』
黒のJOKER様が議題を読み上げる。
「……改めて考えると、実に妙な話だ」
白のJOKER様も頷く。
「対象を瞬時に炭化させるほどの熱がある。ならば、武器自身も相応の熱を受けているはずだ。にもかかわらず、刀身は溶けず、柄も燃えず、通常どおり保持できている」
「しかも、赫刀化を行っている本人も火傷をしない」
「そうだ。セナの言い分では『サソリが自分の毒で死ぬワケないわね?』だそうだが……」
「説明としては、あまりにも感覚的だな」
会議室のあちこちから小さな笑い声が漏れた。
当のセナは、少しだけ頬を膨らませる。
「だって、実際にそうなんですもん……」
まずは現象の整理
スペードのキングが資料を開いた。
「現在確認されている事実を整理します」
* 赫刀状態の武器は、接触した対象を瞬時に炭化させるほどの熱を持つ。
* 武器自体は溶融・燃焼しない。
* 赫刀化を行っている本人は、その熱によって火傷を負わない。
* 赫刀状態は任意に解除できる。
* 投擲されたカードやナイフも、命中後まで赫刀状態を維持する場合がある。
* 刀剣以外の対象にも赫刀化が成立する。
「この六点を前提として、考察を進めたいと思います」
「ふむ」
白のJOKER様が頷く。
「では、仮説を出してくれ」
仮説その一:熱が外側にだけ発生している?
ダイヤのクイーンが手を挙げた。
「一つ考えられるのは、赫刀化による熱が、対象物の内部ではなく、外側の接触面にのみ発生している可能性です」
「つまり、武器の内部は通常の状態を保っていると?」
「はい。対象に接触した部分にだけ、極端な熱作用が発生するのであれば、武器本体が損傷しない理由にはなるかもしれません」
ハートのキングが首を傾げる。
「しかし、それでは武器の表面そのものが高温になっているように見える現象を説明しきれないのでは?」
「そうですね。あくまで仮説の一つです」
仮説その二:熱の影響を受ける対象が限定されている?
今度はクローバーのクイーンが発言する。
「私は、赫刀化による熱が、通常の熱伝導とは異なる性質を持っている可能性を考えます」
「具体的には?」
「赫刀化した武器は、接触した対象に対してだけ熱作用を及ぼす。つまり、熱が周囲へ無差別に伝わるのではなく、接触した対象を選んで作用しているのではないでしょうか」
「なるほど。武器自身や使用者には作用しない、と」
「ええ。ただし、なぜ対象を選別できるのかは分かりません」
オウルが静かに口を開いた。
「俺も、その考え方には興味がある」
「オウル、何か気づいたことが?」
セナが尋ねる。
「赫刀化の際、俺の顔や手には血管が浮き上がる。だが、火傷や熱による痛みはない。つまり、少なくとも俺の身体は、赫刀化による熱作用の対象になっていない」
「確かに……」
「武器についても同様だ。赫刀化した対象そのものが熱で損傷するわけではない。熱の作用範囲が限定されている、と考えれば一応の説明はつく」
仮説その三:そもそも普通の熱ではない?
ここでセナが手を挙げた。
「あの、私、ちょっと思ったんですけど」
「聞こう」
「これって、本当に普通の熱なんでしょうか?」
会議室が静かになる。
「対象を炭化させるくらいの熱があるのに、武器も自分も平気。だったら、普通の熱とは違う仕組みなのかもしれません」
ミヤビが頷いた。
「確かに。わたくしたちは便宜上『熱』と呼んでおりますけれど、実際には赫刀化特有の作用なのかもしれませんわね」
ローズも続ける。
「それなら、武器が熱で溶けないことも、使用者が火傷しないことも、同じ仕組みで説明できる可能性がありますわ」
「つまり、赫刀化した対象は、通常の物理現象とは異なる形で熱作用を発生させている、と?」
「はい。ただ、これもまだ推測です」
黒のJOKER様は腕を組んだ。
「……なるほど。熱という言葉を使っているから、我々は普通の熱現象として考えていた。しかし、実際には別の現象かもしれないわけか」
四人の実感
白のJOKER様は、当事者である四人に視線を向けた。
「実際に赫刀化を扱っているお前たちは、何か感じることはないか?」
セナが柳葉刀を持つような仕草をする。
「私の場合、全身の力を握る動作に集約している感覚はあります。でも、発動した後は、武器が熱くなっているというより……なんというか、武器そのものが別の状態になった感じがします」
ローズはカードの束を指先で揃えた。
「わたくしも同じですわ。赫刀状態のカードは確かに熱を帯びていますけれど、手に持っている間は問題ありません。投げた後も状態が維持されますし、単純な熱伝導とは違うのかもしれません」
ミヤビはドスの柄に手を添える。
「わたくしの場合も、赫刀化したドスを持っていて熱さを感じることはありませんわ。鞘は焦げてしまいましたけれど」
「……鞘は焦げたんだよな」
黒のJOKER様が確認する。
「はい。そこは間違いございませんわ」
「武器本体は無事で、鞘は焦げる。ますます分からんな……」
最後にオウル。
「俺の場合、赫刀化の際に身体的変化が起きる。血管の浮き上がりもそうだ。もしかすると、赫刀化とは対象物だけでなく、使用者自身にも何らかの変化を及ぼす現象なのかもしれない」
「その変化が、熱作用から使用者を保護している?」
「可能性はある。ただし、俺の血管の変化と熱への耐性が直接関係しているかは分からない」
JOKER様両名の結論
一通りの意見が出たところで、白のJOKER様がまとめた。
「現時点では、結論を出すには情報が足りない。だが、少なくとも一つ分かったことがある」
「何だ、白いの」
「赫刀化による熱作用は、通常の熱伝導とは異なる可能性が高いということだ」
黒のJOKER様は頷いた。
「武器本体、使用者、接触対象。それぞれで作用の仕方が異なっている可能性がある。今後の研究では、単純に温度を測るだけでなく、どこに、何に、どのように作用しているのかを調べる必要がある」
「ただし、実験は必ず事前申請を行うこと」
白のJOKER様の言葉に、セナが少しだけ背筋を伸ばした。
「特に、セナ」
「……はい」
「新しい対象を見つけても、勝手に試すな」
「分かってますよぉ……!」
ローズが隣で小さく笑う。
会議終了後
幹部たちが退室し始めた頃、ハートのジャックがダイヤのクイーンに小声で話しかけた。
「……結局、分からないことが増えましたね」
「ええ。ですが、少しずつ輪郭は見えてきた気がします」
「普通の熱ではない、という可能性ですか」
「そうですね。そもそも赫刀化という現象自体が、我々の知っている物理現象に当てはまるとは限りませんから」
その少し前を歩いていたセナが、二人の会話に気づいて振り返った。
「あっ、そういえば!」
二人が顔を向ける。
「私、最初から熱いなぁとは思ってましたけど、なんで自分が火傷しないのかは、あんまり考えたことなかったです!」
ハートのジャックは苦笑した。
「……でしょうね」
「えっ、どういう意味ですか!?」
ダイヤのクイーンが上品に笑う。
「いえ、セナさんらしいなと思いまして」
一方、会議室に残った黒のJOKER様は、白のJOKER様に問いかけていた。
「白いの。今回の議題、結局どうなった?」
「結論は保留だな」
「そうか」
「ただ、今後の研究方針は決まった」
「何だ?」
白のJOKER様は、資料の表紙を指で叩いた。
『赫刀化は、単純な高温現象ではない可能性がある』
「……また厄介な研究が始まりそうだな」
「そうだな」
二人は、揃ってため息をついた。
トランパーにおける赫刀化の研究は、また一つ、新しい謎を抱えることになった。