トランパー本部、ある日の休憩室。
オウル・ドロウは、鏡を片手に自分の顎を眺めていた。
「……年々、色が抜けて茶色みがかっているなぁ……」
顎から頬にかけて、そこそこ立派に伸びた髭。
確かに、以前よりも黒々とした色ではなく、少し茶色が混じったような色合いになっている。
オウルはしばらく観察したあと、洗面台へ向かった。
そこへ、ローズが通りかかる。
「あら、オウル。今日はどうしたんですの?」
「髭を剃ろうと思ってな」
「……あら? もうそんな時期でしたかしら」
「そうだ。年に一度の恒例行事だ」
「恒例行事って……(笑)」
ローズが笑う。
「毎年、同じように伸ばして、同じように色を確認して、最後に剃るんですの?」
「まあな。伸ばしている間は特に気にしないんだが、ある程度伸びると色が気になってくる」
「それで、毎年剃ってしまうんですね」
「そういうことだ」
オウルは電気シェーバーを手に取った。
数分後。
洗面台には、剃り落とされた髭が少しずつ溜まっていた。
「……やはり、茶色みが強くなっている」
「そんなに違います?」
ローズが覗き込む。
「以前はもっと黒かった。少なくとも、ここまで茶色くはなかったはずだ」
「髭の色って、そんなに変わるものなんですのね」
「さあな。年齢のせいなのか、体質なのか、それとも別の理由なのか」
そこへセナとミヤビがやってきた。
「あっ、オウル! 髭剃ってるんですか?」
「年に一度の恒例だ」
「えっ、年に一度なんですか?」
「そうだ」
セナは興味深そうに、剃る前の写真と現在の写真を見比べた。
「本当だ……。ちょっと茶色っぽくなってる!」
ミヤビも上品に頷く。
「確かに、以前より柔らかい色合いになっておりますわね」
「本人としては、少し気になるところだ」
「でも、似合っていると思いますよ?」
セナの言葉に、オウルは少しだけ笑った。
「そうか。まあ、伸ばしている間は特に不便もないしな」
その日の午後。
幹部会議の前に、オウルはすっかり髭を剃り終えていた。
白のJOKER様が彼の顔を見て、少しだけ首を傾げる。
「おや、オウル。髭を剃ったのか」
「はい。年に一度の恒例です」
「そういえば、毎年この時期だったな」
黒のJOKER様も思い出したように言う。
「確かに、以前はもっと黒かった気がする」
「ええ。年々、色が抜けて茶色みがかっています」
「……それが気になって剃るのか?」
「はい」
黒のJOKER様は少し考えたあと、率直に尋ねた。
「別に伸ばしたままでもいいんじゃないか?」
「そうですね。ただ、毎年一度は剃っておきたいんです」
「そうか」
それ以上、特に追及はしなかった。
ただ、会議が始まる直前、ローズが小声でセナに囁いた。
「来年もまた、同じことを言うのでしょうね」
「『年々、色が抜けて茶色みがかっているなぁ……』って?」
「ええ(笑)」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして翌年も、おそらくオウルは鏡を見ながら同じことを呟くのだろう。
「……年々、色が抜けて茶色みがかっているなぁ……」
そうして、年に一度の髭剃りを始めるのである。