前回の赫刀化講習から数日後。
トランパー本部の訓練施設では、再び一般党員と幹部級を集めた赫刀化の講習が行われていた。
今回も講師は、オウル、ローズ、セナ、ミヤビの4人。
そして、両JOKER様も参加している。
セナ「じゃあ、前回の続きからやってみようか」
参加者A「……あの、セナさん」
セナ「ん?」
参加者A「そもそも、万力って何なんでしょうか……?」
参加者B「自分は万力である、と言われましても……」
参加者C「どういうイメージを持てばいいのか、いまひとつ掴めないんです」
参加者D「全身を万力にする、というのが抽象的すぎるというか……」
セナ「あー……」
セナは腕を組み、しばらく考え込んだ。
セナ「うーん……万力、万力ねぇ……」
オウル「まあ、確かに言葉だけでは伝わりにくいかもしれませんね」
ローズ「セナさんが最初に習得したときは、どのように考えていたんですか?」
セナ「私は普通に、自分の身体を万力だと思って握ってたけど……」
ミヤビ「それが出来れば苦労はしませんわね」
セナ「うーん……」
そして、数秒後。
セナ「あっ!」
参加者たち「!」
セナ「じゃぁ、あれだよ。あのぉ……うーん……」
セナは右手を顔の前に持ってきて、何かを掴むような仕草をした。
セナ「あっ、嫌いな人の顔を引っ掴んでいるイメージを思い浮かべて――」
参加者たち「…………?」
セナ「『このまま握り潰してやる、この野郎!!!』って頭の中で思いながら、ってのはどうかな」
参加者たち「…………」
オウル「…………」
ローズ「…………」
ミヤビ「…………」
白のJOKER「…………」
黒のJOKER「…………」
数秒間、沈黙が続いた。
参加者A「……セナさん?」
セナ「うん?」
参加者A「それは……万力なんでしょうか?」
セナ「えっ、違う?」
オウル「いや、言いたいことは分からなくもないんですが……」
ローズ「ずいぶんと物騒な例えになりましたわねぇ……」
ミヤビ「セナ様、もう少し穏便な表現はございませんの?」
セナ「えー? でも、全身で力を集中させるイメージとしては分かりやすくない?」
黒のJOKER「分かりやすいかどうかと、教えていい内容かどうかは別問題だ」
白のJOKER「しかも、嫌いな人の顔を握り潰すイメージとは……」
セナ「いや、実際にやるわけじゃないよ? あくまで頭の中の話!」
黒のJOKER「分かっている。分かっているが……」
試してみる参加者たち
セナ「とりあえず、やってみてよ。対象物を持って、全身でそのイメージを作るの」
参加者B「……分かりました」
参加者Bは訓練用の金属片を手に取った。
参加者B(嫌いな人の顔を……掴んで……)
参加者B(このまま握り潰してやる、この野郎……!)
参加者B「ぬぅぅぅ……!!」
参加者C「……なるほど」
参加者C(この野郎……! この野郎……!)
参加者C「ぐぬぬぬぬ……!」
参加者D「自分も……!」
参加者D「この野郎おおおおおおおお!!!」
オウル「声に出す必要はありませんよ」
参加者D「す、すみません!」
セナ「うんうん、いい感じ!」
ローズ「セナさん、何だか皆さんの表情が変わってきましたわね」
ミヤビ「確かに、先ほどより全身に力が入っているように見えますわ」
白のJOKER「……効果があるのか?」
黒のJOKER「それが一番困るところだな」
まさかの成功者
そのとき。
参加者C「……あ」
手元の金属片が、わずかに赤く色づいた。
参加者C「えっ?」
セナ「あっ!!」
オウル「赫刀化の兆候です!」
参加者C「う、嘘だろ……!?」
参加者Cの手元で、金属片が赤と黒の特徴的な色へと変化していく。
赫刀化 成功
参加者C「で、できた……!」
セナ「おおー! おめでとう!」
ローズ「まあ! 素晴らしいですわ!」
ミヤビ「お見事ですわね!」
オウル「なるほど……イメージの補助として機能したようですね」
参加者C「……嫌いな人の顔を握り潰すイメージで?」
オウル「そこはあまり深く考えない方がいいでしょう」
講習後
白のJOKER「セナ。今回の説明について、ひとつ確認したい」
セナ「なに?」
白のJOKER「今後、赫刀化の講習でその例えを標準的に使うつもりか?」
セナ「うーん……分かりやすいなら、いいんじゃない?」
黒のJOKER「よくない」
セナ「えー」
黒のJOKER「一般党員に余計な物騒なイメージを植え付けるな」
ミヤビ「わたくしも、もう少し別の例えを考えた方がよろしいと思いますわ」
ローズ「そうですわね。例えば、硬いものを両手で挟み込んで、絶対に逃がさないようにするイメージとか……」
オウル「それなら、まだ平和的ですね」
セナ「そっかぁ……」
少し残念そうなセナ。
その横で、赫刀化に成功した参加者Cが、まだ変化した金属片を見つめていた。
参加者C「……でも、あのイメージで成功したんだよな」
参加者B「俺も、ちょっと分かってきた気がする」
参加者D「次は自分も成功させてみせる……!」
黒のJOKER「……白いの」
白のJOKER「何だ?」
黒のJOKER「次回から、講習の開始前に説明内容を確認することにしよう」
白のJOKER「賛成だ」
セナ「えっ、私の説明そんなに駄目だった?」
オウル「成功者が出たこと自体は素晴らしいんですけどね……」
ローズ「例えが少々、刺激的でしたわね」
ミヤビ「少々どころではないと思いますわ」
セナ「むぅ……」
その後、講習資料には新たな注意書きが追加された。
『赫刀化のイメージトレーニングにおいて、特定の人物への危害を想像する必要はありません』
なお、参加者Cは後日、別のイメージでも赫刀化に成功した。
ただし、本人曰く、
「最初のイメージが一番分かりやすかった」
とのことだった。