オウルとセナが遠距離攻撃の習得について会議を始めてから、数日後。
トランパー本部に、三名分の申請書が提出された。
申請内容は、個別の長期訓練環境の整備。
申請者は、オウル・ドロウ、セナ・シウン、そして――。
「では、わたくしも申請致しますわ〜!」
ミヤビ・ヒメハナだった。
当初、申請書を確認した幹部たちは、少しばかり困惑した。
「三人とも、同じ訓練施設を使うのでは駄目なのか?」
「いえ。各自が自分の能力を限界まで試せる環境が必要だと考えます」
オウルは真面目に答えた。
「特に、遠距離攻撃の試験には十分な距離と安全な空間が必要です」
セナも続ける。
「私も、思い切り蹴りを振り抜ける場所が欲しいです!」
ミヤビは笑顔で手を挙げた。
「わたくしも、オーラ球の練習をしたいですわ!」
幹部たちは顔を見合わせた。
そして、最終的に申請は承認された。
ただし、承認されたのは三名分ではなかった。
4人専用の訓練エリア
建造されたのは、4人専用の広大な訓練区域。
その規模は、一人につき1ヘクタール。
つまり、四人のためだけに合計4ヘクタールもの土地が割り当てられたのである。
しかも建造名義は、
『JOKER様両名ならびに幹部陣の合同名義』
という、トランパーでも相当に大仰なものになった。
理由は単純だった。
「もう、あの四人が訓練するたびに通常の訓練施設を修繕するのは嫌だ」
という幹部たちの総意である。
なお、ローズにも当然ながら一人分の区画が割り当てられていた。
ただし、ローズ本人は当初、そこまで乗り気ではなかった。
「わたくし、別に今のままでも困っていませんけれど?」
そう言いながらも、結局は自分の区画を使うことになった。
数か月後、訓練成果の報告
そして、死ぬほど訓練を続けた三人から、成果報告が提出された。
その内容を確認した幹部たちは、揃って書類を読み直した。
オウル・ドロウ
投げナイフの技術を習得。
その精度、速度、投擲の安定性は、ローズ・スノウと同じレベルに到達した。
もともと異常な観察眼を持つオウルは、投擲対象の動きや風の影響を読むことに長けていた。
最初はナイフの握り方から始めたものの、反復訓練を重ねるうちに、狙った場所へ正確に投げ込めるようになったのである。
ただし、ローズのカード投擲とは別物。
ローズがカードという特殊な道具を自在に扱うのに対し、オウルはナイフを用いた精密な投擲を完成させた。
セナ・シウン
二種類の真空波を習得。
蹴りを振り抜くことで発生させる真空波。
腕を振り抜くことで発生させる真空波。
特に蹴りによる真空波は、セナの脚力と身体操作能力を活かしたものとなった。
一方、腕による真空波は、ロシアンプロレスで培った上半身の力と動作の連動を利用している。
これによって、セナは相手に接近しなくても攻撃を仕掛けられるようになった。
本人はかなり満足しているらしい。
「これで、遠くにいる相手にもロシア式のご挨拶ができます!」
なお、幹部たちはこの発言を聞いて、何とも言えない顔をした。
ミヤビ・ヒメハナ
偶然発生させたオーラ球を、完全に使いこなせるようになった。
オーラ球の規模
射程
約50m
弾速
約200m/s
当初は偶然に発生しただけだったオーラ球を、今では狙った方向へ意図的に撃ち出せる。
射程は約50m。弾速は約200m/s。
つまり、発射から50m先に到達するまで、単純計算で約0.25秒。
しかも、直径約2mの球体である。
ミヤビは、これを実に嬉しそうに報告した。
「ふふっ、ようやく思い通りに飛ばせるようになりましたわ!」
幹部合同報告会
「……確認するぞ」
黒のJOKER様が、報告書を机に置いた。
「オウルはローズと同等の投げナイフ技術を習得した」
「はい」
「セナは、蹴りと腕の両方から真空波を飛ばせるようになった」
「はい!」
「ミヤビは、直径2メートルのオーラ球を、射程50メートル、秒速200メートルで撃てるようになった」
「ええ!」
「……そうか」
黒のJOKER様は、しばらく黙った。
白のJOKER様が隣から報告書を覗き込む。
「いやあ、すごいじゃないか! 三人ともよく頑張ったねえ!」
「白いの」
「何だい、黒いの?」
「我々は、あの四人に専用の訓練エリアを与えたな」
「そうだね」
「一人につき1ヘクタールだ」
「そうだね」
「その結果、三人が遠距離攻撃を習得した」
「そうだねえ」
黒のJOKER様は、ゆっくりと顔を上げた。
「……残る一人は?」
その場にいた幹部たちの視線が、自然とローズに集まった。
ローズは優雅に紅茶を飲んでいた。
「わたくしですか?」
「お前は何をしていた?」
「わたくしは、いつも通りカードを投げていましたわ」
「……それだけか?」
「ええ。何か問題でも?」
幹部たちは、誰も答えなかった。
というのも、ローズはすでに秒間2000枚という非常識なカード投擲能力を持っている。
今さら何かを習得しなければならない立場でもない。
むしろ、今回の三人の成長を見て、幹部たちが心配しているのは別のことだった。
この四人、これ以上どこまで強くなるつもりなのだろうか。
そして、白のJOKER様は、ふと思い出したように呟いた。
「……ところで、あの四人は幹部への昇格については?」
幹部全員が沈黙した。
黒のJOKER様が頭を抱える。
「それとこれとは、まったく別問題だ……」
その頃、訓練エリアでは。
「オウルさん! 今度は真空波を受け止めてみませんか!?」
「いや、まずは投げナイフの精度を確認したい」
「では、わたくしのオーラ球を的にしてみます?」
「待てミヤビ。的にするには大きすぎる」
四人は今日も、それぞれの区画で訓練を続けていた。
そしてトランパーの幹部たちは、4ヘクタールの訓練エリアを建造した判断が正しかったのか、少しずつ自信を失いつつあった。