チャッピーに考えてもらった架空組織   作:缶コーヒー好き

8 / 13
ローズ・スノウ、しれっと肉弾戦に目覚める

トランパー本部、4人専用訓練エリア。

その日、オウル・ドロウはローズ・スノウに投げナイフの指導をしていた。

……はずだった。

「ローズ、今の投げ方だが、少し重心が前に寄りすぎている」

「そうですの?」

「そうだ。投擲後の姿勢が崩れている。次の動作に移るまでに隙ができる」

「ふむ……」

ローズは投げナイフを手の中で弄びながら、オウルの説明を聞いていた。

「投げた後、相手が接近してきたらどうする?」

「カードを投げますわ」

「それが間に合わなかった場合は?」

「……カードを投げますわ?」

「ローズ」

「冗談ですわよ」

オウルは小さく息を吐いた。

「投擲だけで対応できるとは限らない。近距離での攻防も覚えておいた方がいい」

「つまり、格闘術ですの?」

「そうだ。最低限、自分の身を守れる程度にはな」

「なるほど。では、ご指導をお願いできますかしら?」

こうして、ローズはオウルから肉弾戦の訓練を受けることになった。

数日後

「……ローズ」

「はい?」

「少し確認したい」

「何でしょう?」

オウルは、訓練場の床に転がっている標的を見た。

その標的は、先ほどまでローズと組手をしていた訓練用の人形である。

現在は、関節部があらぬ方向を向き、上半身が大きく歪んでいた。

「お前、いつの間にそんな動きができるようになった?」

「オウルさんに教えていただいた通りに動いただけですわ」

「俺が教えたのは、重心の置き方と打撃の基本だ」

「ええ。ですから、それをカード投擲の動作と組み合わせてみましたの」

「……組み合わせた?」

「投げるときの体重移動、腕の振り、手首の返し。それらを近距離で使えば、打撃にも応用できるのではないかと思いまして」

ローズは、軽く拳を握った。

「なかなか面白いですわね」

オウルは黙った。

彼女は、カード投擲を極める過程で培った身体操作を、肉弾戦に転用し始めていたのだ。

しかも、ただの打撃ではない。

相手の動きを観察し、最小限の動作で攻撃を避け、反撃を叩き込む。

オウルの観察眼を活かした戦闘スタイルを、ローズなりに吸収している。

「……ローズ」

「はい?」

「お前、肉弾戦を覚える気はあるか?」

「ありますわよ?」

「どこまで?」

ローズは少し考えた。

「カードを投げる必要がないくらいには?」

「…………」

オウルは、指導方針を考え直すことにした。

さらに数週間後、幹部合同報告会

「では、今回の訓練成果を確認する」

黒のJOKER様が報告書を開いた。

「オウルは投げナイフの技術を習得。セナは真空波。ミヤビはオーラ球。そしてローズは……」

そこで黒のJOKER様の視線が止まった。

「ローズの項目が妙に長いな」

白のJOKER様が横から覗き込む。

「ええと……投擲技術の応用による打撃技術の習得?」

「そうですわ」

ローズは優雅に頷いた。

「オウルさんにご指導いただきましたの」

「ほう。具体的には?」

「打撃、回避、体捌き、近距離での反撃などですわね。まだまだ勉強中ですけれど」

「……待て」

黒のJOKER様が報告書を読み返した。

「お前、いつから肉弾戦を始めた?」

「オウルさんに教わってからですわ」

「つまり、最近か?」

「ええ」

「最近……?」

黒のJOKER様は、報告書を机に置いた。

そこには、こう書かれていた。

ローズ・スノウ 能力分類(暫定)

カード投擲

投げナイフ

肉弾戦

※肉弾戦はオウル・ドロウによる指導を契機に新規習得。今後も伸長する可能性あり。

「……スキルツリーが増えているではないか」

白のJOKER様が、思わず笑った。

「本当だ! ローズに肉弾戦の枝が生えてる!」

「しかも、本人はずいぶん楽しそうですわね」

ハートのクイーンが微笑む。

当のローズは、特に気にした様子もなく紅茶を口に運んでいた。

「せっかく教えていただいたのですもの。使えるようになった方がよろしいでしょう?」

「それはそうだが……」

黒のJOKER様は、オウルの方を見た。

「オウル。お前は何を教えた?」

「基礎的な体捌きと打撃です」

「それだけか?」

「はい」

「それだけで、ローズに肉弾戦のスキルツリーが生えたのか?」

「……本人の適応力が高かったのだと思います」

ローズが微笑む。

「オウルさんの教え方が上手でしたのよ」

「いや、俺はそこまで大したことは……」

「謙遜なさらないでくださいませ」

二人のやり取りを見ていたセナが、ふと口を開いた。

「……ローズさん」

「何ですの?」

「もしかして、今後はカードを投げずに私と組手をしてくださるんですか?」

「ええ、もちろん」

「本当ですか!?」

「ただし、わたくしの肉弾戦はまだ発展途上ですわ。お手柔らかにお願いしますね」

セナは嬉しそうに拳を握った。

一方、オウルは小さく呟く。

「……教えた相手が、俺より強くなりそうな気がする」

「オウルさん?」

「何でもない」

そして黒のJOKER様は、報告書を閉じながら言った。

「……もういい。あの四人には好きに訓練させろ」

白のJOKER様も頷く。

「そうだね。どうせ止めても、本人たちはやるんだろうし」

ただし、その日の会議の最後に、ひとつだけ新しい懸念事項が追加された。

『ローズ・スノウの肉弾戦能力の伸長について、継続的に観察すること』

その項目の横には、幹部の誰かが小さく書き添えていた。

『カードを使わなくても怖い人になってきた』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。