コードゼロ   作:アホアホマン

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第2話 子供の旅は大変

ヒート村を旅立ったゼロとミラ。

二人は王都へ向かう交易商人の馬車に乗せてもらい、グランド学園を目指していた。

ミラは魔法使いの初級装備である魔法杖と帽子を身につけ、身体には自分の体格に合ったレザーアーマーを着ている。

一方、ゼロは魔力がほとんどないため魔法を使うことができない。

そのため、村の武器屋の親父から、

 

『せめてこれくらいは持っていけ!』

 

と渡された初級剣士用の装備を身につけていた。

 

片手剣に兜、小手。そして、こちらも体格に合わせたレザーアーマー。

 

見た目だけなら、二人とも立派な冒険者のようだった。

 

「ねえ、ゼロは学園に入ったら何がしたい?」

 

馬車に揺られながら、ミラが尋ねる。

 

「僕は魔法が使えないからね。まずは剣の練習かな。少しでも戦えるようになって、ミラを守れるようになりたいんだ」

 

「ふふっ、嬉しいけど無理しちゃだめよ?」

 

「分かってるよ。でも、僕だって努力はするさ。それで、ミラは何がしたいの?」

 

「私は前にも言ったように、魔法の勉強をするわ。そして、ゆくゆくは大賢者になるの!」

 

ミラは胸を張って答える。

 

「そのためにも、色んな魔法を覚えるつもりよ。今はまだ初級魔法しか使えないけど、これからもっと勉強していくんだから!」

 

「そっか。お互い頑張ろうね」

 

「もちろんよ!」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

これから始まる学園生活。

 

どんなことが待ち受けているのか、二人とも期待に胸を膨らませていた。

 

――その時だった。

 

「うわああああっ!!」

 

突然、御者の悲鳴が聞こえた。

 

ガタンッ!!

 

馬車が急停止する。

 

「きゃっ!」

 

「おっと!」

 

突然の揺れに、二人は慌てて体勢を立て直した。

 

「どうしたんだ?」

 

ゼロは馬車の外を確認するため、ミラと一緒に降りる。

 

そこには――

 

大きなイノシシのような魔物がいた。

 

茶色い皮膚に、鋭く伸びた二本の牙。

 

通常のイノシシよりも一回り大きく、全身には鍛え上げられたような筋肉がついている。

 

成長した個体なのだろう。

 

その魔物は、馬車と御者をじっと睨みつけていた。

 

「どうしました?」

 

ゼロが御者に尋ねる。

 

「モ、モンスターだ! ワイルドボアがいやがる! あいつがいるせいで先に進めねえ!」

 

「ワイルドボア……」

 

ゼロは魔物を見つめる。

 

すると、ミラが一歩前に出た。

 

「なるほど、分かったわ。私に任せて!」

 

「ちょ、ちょっとミラ!」

 

ゼロも慌てて前に出ようとするが、ミラに止められる。

 

「危ないわよ、ゼロ。ここは私に任せて」

 

「ミラ、勝てるの?」

 

「正直、分からないわ。でも、倒さなきゃ先に進めないでしょ?」

 

ミラは杖を構える。

 

その姿を見て、ゼロは小さく息を吐いた。

 

「分かった。僕も一緒に戦うよ」

 

「えっ?」

 

ゼロはミラの前に出て、片手剣を構えた。

 

自然と、前衛と後衛の立ち位置になる。

 

「もう! 怪我しても知らないわよ!」

 

「その時は治してくれるだろ?」

 

「もう……!」

 

ミラは呆れたように笑った。

 

しかし、ゼロには分かっていた。

 

自分の剣の腕はまだまだ素人同然だ。

 

魔力による身体強化もできない。

 

正面からぶつかれば、あのワイルドボアに勝つのは難しいだろう。

 

それでも、何か方法はあるはずだ。

 

(あれを使うか……いや、しかし)

 

ゼロは昨日、夜の広場で調べていた自分のスキルを思い出す。

 

(ええい、迷っていても仕方ない!)

 

「ミラ!」

 

「何?」

 

「なんとかして、あいつを誘導して隙を作る。隙ができたらミラが止めを刺してくれ!」

 

「……分かったわ!」

 

ミラは短く答えた。

 

ゼロは剣を構え直す。

 

そして、ワイルドボアをじっと見つめた。

 

「ハッキング!」

 

その瞬間、ゼロの視界に青白い画面が浮かび上がる。

 

昨日と同じ画面。

 

だが、今回は違った。

 

目の前のワイルドボアに、照準のようなカーソルが表示される。

 

 

さらに、その周囲にいくつかの情報が浮かび上がった。

 

【対象:ワイルドボア】

 

【状態:警戒】

 

【攻撃対象:馬車】

 

「……見つけた」

 

ゼロは画面を集中して見つめる。

 

どうやら、このスキルは対象の情報を解析するだけではないらしい。

 

(攻撃対象……これを変更できれば!)

 

ゼロは指先を画面に伸ばした。

 

そして、表示された攻撃対象の項目を操作する。

 

しかし、思うように反応しない。

 

(くっ……結構難しいな!)

 

ワイルドボアが前足で地面を掻き始める。

 

「ゼロ! 来るわよ!」

 

「もう少し……!」

 

ゼロは必死に画面を操作する。

 

指先を動かし、表示された項目をスワイプする。

 

そして――

 

【攻撃対象:馬車】

 

その文字が切り替わった。

 

【攻撃対象:前方の樹木】

 

「よしっ!」

 

次の瞬間。

 

ワイルドボアが大きく地面を蹴った。

 

ドドドドドッ!!

 

「えっ!?」

 

ミラが驚きの声を上げる。

 

ワイルドボアは二人には目もくれず、目の前にあった大木へと突進していった。

 

ドゴォンッ!!

 

鈍い音が林道に響く。

 

ワイルドボアは勢いよく木にぶつかり、頭を振りながらふらついた。

 

「今だ!」

 

ゼロは一気に駆け出した。

 

剣を両手で握り、体勢を崩したワイルドボアの足元へと踏み込む。

 

「はああっ!」

 

ザシュッ!!

 

剣がワイルドボアの足を切り裂いた。

 

「ブオオオオッ!!」

 

ワイルドボアは悲鳴を上げ、その場に横倒しになる。

 

「ミラ! 今だ!」

 

「分かったわ!」

 

ミラが杖を構える。

 

杖の先端に、赤い光が集まり始めた。

 

「炎よ、集え!」

 

小さな火球が形成され、徐々にその大きさを増していく。

 

「ファイヤーボール!」

 

放たれた火球が一直線にワイルドボアへと飛んでいく。

 

ドォンッ!!

 

炎が弾け、ワイルドボアの身体を包み込んだ。

 

「ブオオオ……!」

 

やがて、その鳴き声も聞こえなくなる。

 

こうして、ワイルドボアとの戦いは終わった。

 

「やったわ、ゼロ! うまくいったわね!」

 

ミラが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「うん。なんとかね」

 

ゼロは剣を下ろし、安堵の息を吐いた。

 

「それにしても、さっきのワイルドボアの動き……少しおかしくなかった?」

 

「え?」

 

「私たちに向かってきたはずなのに、急に方向を変えて木に突進したでしょ?」

 

ミラはゼロの顔を覗き込む。

 

「もしかして、あなたのスキル?」

 

「うん。どうやら、対象の情報を調べるだけじゃなくて、少しだけ操作することもできるみたいなんだ」

 

「操作……?」

 

「攻撃対象を変更したんだよ。まだ詳しくは分からないけどね」

 

「へえ……そんなことまでできるのね」

 

ミラは興味深そうに頷いた。

 

「やっぱり、面白いスキルじゃない!」

 

「そうだね。ただ……」

 

ゼロは少しふらついた。

 

「あれ?」

 

「ちょっと!?」

 

ミラが慌ててゼロの身体を支える。

 

「大丈夫!? ゼロ!」

 

「大丈夫だよ。少し疲れただけさ」

 

「本当に?」

 

「ああ。慣れていないから、結構集中しなきゃいけないみたいだ。今日は初めて実戦で使ったしね。少し休めば治るよ」

 

「もう! だから無理しちゃ駄目だって言ったのに!」

 

ミラは心配そうにゼロを見つめた。

 

「ごめんごめん」

 

「謝ればいいってものじゃないわよ!」

 

そう言いながらも、ミラはゼロの身体を支え続けていた。

 

その時だった。

 

「おーい! 大丈夫か!?」

 

林道の向こうから、一人の男が走ってきた。

 

腰には剣を下げ、背中には荷物を背負っている。

 

どうやら冒険者のようだ。

 

「さっき悲鳴が聞こえたんだが……君たちか?」

 

男は周囲を見渡す。

 

「そうですけど、大丈夫です」

 

ゼロが答える。

 

「本当に? しかし、君たちの様子を見る限り、無事とは思えないんだが……」

 

男の視線が、地面に横たわるワイルドボアへと向いた。

 

「……なるほど。こいつを倒したのか?」

 

「はい。なんとか」

 

「へえ……こんな成長したワイルドボアを二人でねえ」

 

男は感心したように二人を見る。

 

「まあ、とりあえず危険がなくて良かった。ところで、君たちはどこへ向かっているんだ?」

 

「私たちはグランド学園に向かっているんです」

 

ミラが答える。

 

「グランド学園か。そうか、僕もそちらへ向かう予定だったんだ」

 

男は少し考えた後、笑顔で提案した。

 

「よければ、僕が護衛しようか? この先にも魔物が出る可能性があるからね」

 

「本当ですか!?」

 

ミラの表情が明るくなる。

 

「もちろん。ただし、無理をする必要はないよ。君たちはまだ子供なんだから」

 

「ありがとうございます! でも、お金が……」

 

ミラが申し訳なさそうに言うと、御者が口を開いた。

 

「おらが払いますだ。助けてもらった礼もありますし、護衛してもらえるならありがてえ」

 

「そうか。それなら遠慮なく引き受けよう」

 

「ありがとうございます!」

 

ミラは深々と頭を下げた。

 

その後、ゼロは馬車の中で休ませてもらうことになった。

 

ミラは隣に座り、ゼロの様子を気にかけている。

 

「本当に大丈夫?」

 

「大丈夫だって。少し休めば治るよ」

 

「ならいいけど……」

 

ミラは小さく息を吐いた。

 

「まったく、心配させないでよね」

 

「ははは、ごめん」

 

「もう……」

 

ミラは呆れながらも、ゼロの肩にそっと手を添えた。

それからは特に大きな問題もなく、馬車は林道を進んでいった。

途中、護衛の冒険者が周囲を警戒してくれたこともあり、二人は無事に旅を続けることができた。

そして――

 

「おおっ! 見えてきたぞ!」

 

御者の声に、ゼロとミラは馬車の窓から外を覗いた。

そこには、巨大な城壁に囲まれた街が広がっていた。

高くそびえる塔。

多くの人々が行き交う大通り。

そして、街の奥にはひときわ大きな建物が見える。

 

「あれが王都……」

 

ゼロは思わず呟いた。

 

「すごいわね……!」

 

ミラも目を輝かせている。

 

「そして、あそこにあるのがグランド学園だ」

 

冒険者が指差した先には、立派な校舎がそびえ立っていた。

二人がこれから通う場所。

新しい出会いと、数々の試練が待ち受ける場所。

 

「いよいよね、ゼロ!」

 

「ああ。ここからが本番だな」

 

二人は顔を見合わせ、笑った。

 

こうして、ゼロとミラは無事に王都へと到着した。

魔力ゼロの少年と、賢者を目指す少女。

二人の新しい生活が、今まさに始まろうとしていた。

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