IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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一夏vsセシリアのあたりは省きます
なぜなら主人公が参戦していないから!!
てなわけで始まるよ♪


第12話 負けちまった悲しみに

「――ん……」

 

 深いまどろみの中から浮かび上がる感覚と共に目を開けると、俺はベッドの上に横になっていた。窓から差し込む日の光がオレンジ色をしていることから、夕方だということが分かる。

 ふと見ると、ベッドの横の椅子に腰かけ、ベッドに突っ伏して寝ている人物がいた。布仏さんだった。なんだかおなかのあたりが苦しいと思ったら、布仏さんの頭が乗っていた。

 とりあえず、俺は上体を起こそうと体を持ち上げるが、布仏さんの頭が乗っているので、起きあがりずらい。布仏さんを起こしてしまえば簡単なのだが、よく寝ているので起こすのは忍びない。何とか起こさないようにそっと布仏さんの頭の位置を調節しながらベッドの上に座る形で上体を起こす。

 周りを見渡すと、どうやら保健室らしい。ベッドのわきには何かのモニターがピッ…ピッ…と一定のリズムで何かの数値を刻んでいる。よく見るとそのモニターからコードが俺の方に伸びており、俺の胸のあたりに吸盤のような先端でくっついている。どうやそのモニターの数値は俺の心拍やら血圧なんかの数値らしい。

 

「んん……」

 

 今は俺の膝の上に頭が乗っている布仏さんが顔の向きを変える。起きたのかな?と思ったら、

 

「もう食べられないー……くぅ……」

 

 マンガみたいな寝言を呟いている。

 俺はなんとなく布仏さんの頭を撫でる。

 

「ん……」

 

 布仏さんは寝ているのにそれが心地良いのか、嬉しそうにほほ笑んでいる。

 

「あ、目が覚めたんですね」

 

 突然仕切られていたカーテンの向こうから山田先生が現れる。

 

「どうですか、具合は?」

 

「んー、特に異常はないです。しいて言うなら二か月より前の記憶が無いです」

 

「あはは、じゃあ問題ない…のかわかりませんが大丈夫そうですね」

 

 俺が冗談めかして言うと、山田先生が苦笑いしながら言った。

 

「あの、二、三聞いてもいいですか?」

 

「ええ、私で答えられることなら」

 

「俺ってどうなったんでしたっけ?オルコットさんの攻撃を受けたとこまでは覚えてるんですが…。てか、俺ってどのくらい寝てたんですか?」

 

「えっと、試合からまだ二時間も経ってません。どうなったかですが、簡単に言えば衝撃による気絶です。梨野くんの機体、打鉄のシールドエネルギーが残り少なかったために爆発の衝撃を殺しきれなかったみたいで」

 

「なるほど」

 

 勝つためとはいえ無茶しすぎたかもしれない。

 

「あれ?俺ら空中で戦ってましたけど、空中で気絶して俺大丈夫だったんですか?」

 

 ふと浮かんだ疑問を訊く。

 

「織斑くんが助けてくれたんですよ。彼、気にしてましたよ。自分をかばったせいでって」

 

 それは悪いことをしてしまったかもしれない。あの時は咄嗟だったので、俺も無茶したとは思う。

 

「あとで礼を言っときます」

 

「それがいいですね」

 

 俺が笑いながら言うと、山田先生もほほ笑んだ。

 

「じゃあ、試合結果ってどうなったんですか?」

 

「ああ、えっと……」

 

 山田先生が苦笑いする。

 

「簡潔に言えば織斑くんが負けたんですが……。なんというのか、いろいろおかしなことになりまして……」

 

「おかしなことって?」

 

「その…。まず、あの爆発と同時に、織斑くんの白式がフォーマットとフィッティングが終って一次移行(ファースト・シフト)したんですよ」

 

「へ~、あの時後ろからも光ってたのってそれだったんですね」

 

 通りであっちもこっちも眩しかったわけだ。

 

「あれ?でも一次移行しても一夏は勝てなかったんですか?」

 

「はい。実はその後、織斑くんが攻撃を仕掛けたら、シールドエネルギーが0になったんですよ」

 

「あらら。攻撃しかけて逆に返り討ちにされたんですか?」

 

「あ、いえ。織斑くんは攻撃を受けていません」

 

「へ?」

 

 攻撃を受けずにシールドエネルギーが0?なぜに?

 

「俺斑くん、武器の特性を考えずに使ったらしくて……」

 

「えっと、つまりそれって……自滅…ですか?」

 

「……自滅ですね」

 

「………」

 

 俺がかばって、かっこよく一夏の勝利、を期待したのだが……。

 

「ま、まあ、それはともかく、もう一つ聞いてもいいですか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「……なんで布仏さんがここに?」

 

 俺はこの会話の間もずっと寝ている布仏さんを指さしながら訊いた。

 

「ここに梨野くんが運び込まれてからすぐにやってきて、それからずっとここで見守っていたんですよ。いつのまにか寝てしまったみたいですけど……」

 

「……そうですか」

 

 もう一度視線を布仏さんに戻す。気持ちよさそうに眠っている。

 

「……あの、私からも訊いてもいいですか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「梨野くんと布仏さんって……付き合っているんですか?」

 

「………は?」

 

 正直質問の意図がよくわからない。なんでそう思ったんだろう。

 

「えっと…なんでですか?」

 

「いや、だって、布仏さん、梨野くんが運び込まれて心配してましたし。今だってすごく自然に頭撫でてますし」

 

 指摘されていまだに頭を撫でていたことに気づく。

 

「えっと、付き合ってないです」

 

「本当ですか?」

 

「本当ですよ。ここで嘘つく理由はないですし」

 

「そうですか」

 

 俺の言葉に納得したようにうなずく山田先生。

 

「ただ…」

 

「ただ?」

 

「なんていうのか、嬉しかったんですよ」

 

「嬉しい?」

 

 俺の言葉に山田先生が首をかしげている。

 

「俺、記憶ないから家族とか友達っていたのか知らないじゃないですか。ちゃんと入学するまで一人で宿直室にいましたし。…だから、嬉しかったんですよ。『ただいま』『おかえり』って言い合える相手がいるのが」

 

「…そうですか」

 

 俺が照れてはにかむのを見て山田先生は優しく笑っていた。

 

 

 ○

 

 

 

「ここにいたのか」

 

「あっ」

 

 第三アリーナ・Aピットのゲートの床に座ってアリーナを見ていた俺の背後から声がかかる。振り返ると、織斑先生だった。

 

 あの後、寝ていた布仏さんを起こし、先に部屋に帰ってもらった。早く帰るように言う山田先生に忘れ物があると言って、一人ここにやってきた。

 

 

「織斑先生はどうしてここに?」

 

「山田先生がお前に渡すはずのものを渡し忘れてな。仕事が残っていたらしいので、私がわざわざ渡しに来てやった」

 

「ど、どうも…」

 

「ほら、ISの規則の本だ。ちゃんと読んで、全部覚えろ」

 

 どさっ。

 俺の差し出した手の上にすごく分厚いうえに一枚一枚がペラペラの紙でできた本が渡される。

 うわぁ。これ全部か~。

 

「……どうした?こんなところに一人で。織斑たちが捜していたぞ」

 

「…………」

 

「……何かあったか?」

 

「何もなかった」

 

「…そんなことはないだろう。何もなければこんな――」

 

「何もなかったんです!……この試合で…俺にできたこと」

 

「………」

 

「何もでぎながっだっ!!!!」

 

 俺の中にあった色々なものが涙と共に溢れ出す。

 

「…強くなるって決めたのに!!何もできなかった!!!」

 

「……気にするな。それに、お前は何もできなかったわけじゃ――」

 

「――だから」

 

 だから俺は――

 

「俺は変わる。今の俺じゃダメだ。今のままじゃ。だから俺は――鍛える!『頭』も『体』も『心』も!」

 

「……くっ。…くくっ。…ハハハハハハハハハッ!」

 

「!?」

 

 俺の言葉を静かに聞いていた織斑先生がなぜか急に笑い出した。

 

「え?なんですか?」

 

「いや…すまん。落ち込んでいると思ったら…まさか…。くくくっ」

 

 織斑先生が目元を人差し指で拭っている。涙出るほどですか先生。

 

「……お前、まだ毎朝走ってるのか?」

 

 ひとしきり笑った後、織斑先生が訊く。

 

「え?はい、やってますよ。走るだけじゃなくて先生がやれって言ったトレーニングは」

 

「そうか…」

 

 織斑先生が一瞬考えるような間をあける。

 

「毎週土曜の朝は空けておけ。私が稽古をつけてやる」

 

「……え?」

 

 一瞬先生が何を言っているのかわからなかった。

 

「――えっ、んん!?いっ、いいんですか!?」

 

「なんだ?私が相手では不満か?」

 

「いやいやいや!不満どころかこちらからお願いしたいくらいですけど…」

 

「だったら問題ないな。土曜の朝、お前が毎朝トレーニングしているころに行う。私が行くまでに軽く体を温めておけ。それじゃあ、私は行くぞ。お前も早めに寮に戻れ。夕食には遅れるなよ」

 

「は、はい」

 

 呆然とする俺を置いて、織斑先生はさっさと行ってしまった。なんだかよくわからないうちに織斑先生に稽古をつけてもらえることになってしまった。なんとも実感のわかない話で、手の中にあるISルールブックと書かれた本の重みだけがずっしりとのしかかってきていた。

 

 

 ○

 

 

 サアアアアアアア………。

 学生寮の一室でセシリアはシャワーを浴びていた。水滴はセシリアの肌に当たっては弾け、ボディラインをなぞるように流れていく。

 シャワーを浴びながら、セシリアは物思いに耽っていた。

 

(今日の試合――)

 

 どうしていきなり一夏のシールドエネルギーがゼロになったのかは未だ分かっていない。けれど、あの最後の一撃が当たっていたら、どうなっていたかはわからない。

 

(――織斑、一夏――)

 

 セシリアは一夏を思い出す。あの、強い意志の宿った瞳を。

 他者に媚びることのない眼差し。それは、セシリアに父親のことを逆連想させた。

 

(父は、母の顔色ばかりうかがう人だった……)

 

 名家に婿入りした父。母に多くの引け目を感じていたのだろう。幼い頃からそんな父親を見ていたセシリアは、『父のような情けない男と結婚しない』と幼いながらに心に抱いていた。

 そして、ISが発表されてから態度は益々弱いものになった。

 だが、その両親はもういない。三年前に事故で他界した。越境鉄道の横転事故。死者百万人を超える大規模な事故だった。

 両親の死によりセシリアの手元には莫大な遺産が残った。それを金の亡者たちから守るためにあらゆる勉強をした。その過程で受けたISの適性テストでA+が出た。政府からの様々な好条件。両親の遺産を守るために即決した。第三世代装備ブルー・ティアーズの第一次運用試験者に選抜された。自分は選ばれた人間だ。自分は優れている。自分はエリートだ。自分はだれにも負けない。そう思ってきた。

 

「織斑、一夏……」

 

 その名を口にするだけで、不思議と胸が熱くなる。どうしよもなくドキドキする。熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。

 

「梨野、航平……」

 

 その名を口にすると、まるで冷水を浴びせられたように、熱を持ちドキドキとうるさいほどだった胸が静まっていく。

 

(彼の言う通りですわ……)

 

 自分は選ばれた人間だと調子に乗っていた。人よりも優れていると。エリートであると。今までの自分がどれほど小さかったかを自覚した。

 

(私は……私は……)

 

 セシリア・オルコットの中で新たな決意が沸き上がった瞬間である。




これでクラス代表決定戦も終わりました。
ここまで来るの長かったです。

途中の主人公と千冬さんの会話のシーンはこれのタグにもあるトライピースの中での会話を元にしています。
こんな感じでトライピースであったネタなどをたまに出しますがトライピースを知らなくても楽しめるように、また、ISの世界観を損なわないようにしますので、ご安心ください。
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