「――う~~~ん」
翌日の朝。俺は難問にぶつかっていた。場所は一年生寮の食堂。俺の手には朝食ののったトレー。俺の目はその中のおかずの一品、目玉焼きを見ていた。
「俺の記憶がたしかならば……、これにかけるものは…」
このIS学園の食堂は色々な調味料が揃っている。色々な国籍の生徒がいるためか、各国の調味料がおかれている。俺はそれをじっくりと見て、その中から…
「……これだ!!」
緑色のチューブを選び出す。側面には『100%生わさび』。
「アホか」
パコッ。
「って」
背後から誰かが俺の頭を軽くチョップした。言うほど痛くない。突込み程度のチョップだ。
「お前の記憶ほどあてにならんものはないな、梨野」
「あ、織斑先生。おはようございます」
振り返ると、呆れ顔の織斑先生が立っていた。
「とりあえず、醤油でもかけておけ」
「あ、はーい」
織斑先生の指さす容器を取り、目玉焼きにかける。
「ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」
「あ、ちょっと待て。一つ大事なことを訊き忘れていた」
待ち合わせしている一夏の元に向かおうとする俺を織斑先生が呼び止める。
「? なんですか?」
「お前、クラス代表になりたいか?」
「……はい?」
言ってる意味が分からない。俺と一夏はオルコットさんに負けたのだからクラス代表にはオルコットさんがなるのではないのだろうか?
「昨日の夜、オルコットがクラス代表を辞退すると言いに来てな。あいつもこの試合で何か思うところがあったのだろう」
オルコットさんが辞退するとは。決める時はあんなにやりたがっていたのに。
「で、オルコットが辞退したわけだから必然的にお前か織斑がやるというわけだ」
「はあ。なるほど」
納得納得。
「で?やりたいか?それともやめておくか?」
「………やめておきます」
少し考えた後、俺は答えた。
「俺が一番最初に脱落したんで。それに、なんとなく一夏の方が適任な気がするんで」
「……そうか。ならクラス代表は織斑だな。時間を取らせて悪かったな」
「いえいえ」
織斑先生が去って行くのを見て、俺も一夏の元に向かう。
「お待たせ」
「いや。そんなに待ってないぜ。それより、さっき千冬姉と話してなかったか?」
「ああ。ちょっと――」
そこで一瞬考える。クラス代表の件はどうせ今日のうちに発表になるし、今言わなくてもいいか。
「――目玉焼きに何をかけるかについて」
「なんだそりゃ?」
一夏が首をかしげる。
「何かけていいかわからなかったから、俺の記憶に従ってわさびかけようとしたら止められた」
「わさびって…。目玉焼きは何かけてもいいと思うが、わさびってのは初めて聞いたな」
一夏が苦笑いしている。
「で、醤油でもかけとけって感じのことを…」
「なるほどな」
納得したのか一夏がうなずいていた。
○
「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
朝のSHRで山田先生が嬉々として喋っている。そしてクラスの女子も大いに盛り上がっている。指名された一夏は暗い顔をしているが。
「先生、質問です」
一夏が質問するために挙手をする。うん、基本だ。
「はい、織斑くん」
「どうして俺はいつの間にかクラス代表になっているんでしょうか?俺、負けましたよね?」
「それは――」
「それはわたくしが辞退したからですわ!」
がたんと立ち上がるオルコットさん。
「勝負はあなた方の負けでした。しかし航平さんにも指摘されましたが、わたくし、少し天狗になっておりました」
今さらっと俺のこと航平さんって言わなかった?
「それで、いろいろと自分の行いを反省しまして。一夏さんと航平さんにクラス代表を譲ることにしたんですの」
ほほう。オルコットさんもいろいろ考えてるんですな。てか、一夏のことも名前で呼んだ?
「いやあ、セシリア分かってるね!」
「そうだよねー。せっかくがいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないと」
「私たちは貴重な体験を積めるし、他のクラスの子に情報が売れる。確かに一粒で二度おいしいね」
だから、人で商売するんじゃないよ。
「……半分はわかりました。でも、だからなんで俺なんですか?航平だっているじゃないですか」
「それは――」
「それは俺が辞退したからだ」
今度は俺が立ち上がって言った。
「俺が一番最初に脱落したんだ。俺よりも一夏の方が適任だろうと思う。それに、やっぱり俺にはクラス代表の仕事をこなせるかわからないしな」
「……まあ、そういうことなら」
一夏も渋々ではあるが了承したらしい。これで一件落着。俺は椅子に座ろうとすると、
「…あの!少しよろしいでしょうか?」
オルコットさんが言った。そして、教卓の方に行く。
「この場を借りて、わたくし、お二人に謝りたいんですの」
俺と一夏を見るオルコットさん。
「今まであなた方に無礼な態度をとって申し訳ありませんでした」
突然オルコットが俺たちに頭を下げて謝って……って、ええ!!?
「ちょ、ちょっと、オルコットさん!?」
「わたくし、エリートだと、自分は優れていると驕っておりました。そのことでお二人には不快な思いをさせてしまったと思います」
「いやいや、俺らもいろいろ言ったし」
「そうだよ。だから、頭を上げてくれ」
頭を下げるオルコットに俺と一夏が駆け寄る。
「そ、それでですね」
頭を上げたオルコットさん。
「お詫びと言ってはなんですが、お二人にはわたくしがISの操縦を教えますわ。特に一夏さん」
「い、一夏さん?」
「一夏さんは同じ専用器持ちですし、色々と教えやすいと思いますし、意見交換もできると思うのですが」
う~ん。何だろう、俺のついで感は。
「あの~、すごくありがたい申し出なんだけどな、オルコットさん」
「わたくしのことはセシリアでいいですわよ、航平さん」
「……えっと、セシリア。俺と一夏は――」
バンッ!
「あいにくだが、二人の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな!」
机を叩いて立ち上がった箒は物凄く殺気立っている瞳でセシリアを睨んでいる。
今、『私が』を特別強調したように聞こえた。
「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何かご用かしら?」
「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしてもと懇願するからだ」
(と、箒は言ってるけど?)
(俺、どうしてもとは言ってないんだけど)
「って、え、箒ってランクCなのか……?」
「だ、だからランクは関係ないと言っている!」
一夏の突っ込みに箒は怒鳴った。ちなみに一夏はB。けどそのランクは訓練機で出した最初の格付けだから、あんまり意味が無いって織斑先生が言っていたような。あれ?そう言えば、俺、自分のランクいくつなのか聞いてない。
「座れ、馬鹿ども」
すたすたと歩いて行きセシリア、箒の頭をバシンと叩いた織斑先生が低い声で告げる。
相変わらずの容赦ない攻撃だなー。
バシンッ!
「その得意げな顔はなんだ。やめろ」
いつの間にか一夏を出席簿で叩く織斑先生。一夏はまた変なこと考えてたのかな?
「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな」
織斑先生の台詞にセシリアは反論しなかった。何か言いたそうな顔をしていたが、相手が相手なので逆らわずに言葉を飲み込んだ。
「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」
規則に厳しい織斑先生らしい発言だ。
バシン!
「……お前、今何か無礼なことを考えていただろう」
「そんなことはまったくありません」
「ほう」
バシンバシン!
「すみませんでした」
「わかればいい」
どうやら一夏が織斑先生に対して何か考えていたらしい。
まったく、考える一夏も一夏だけどそれが分かる織斑先生も織斑先生だな。さすがは姉弟。一夏のことをよくわかっているというか。一夏のことが本当は好きなんだろうに。
バシン!
「お前も何か無礼なことを考えていただろう」
「……すみません」
なんでわかるんだよ、先生。
「お前もとっとと席に戻れ」
「はい」
俺は叩かれた頭をさすりながら席に戻るのであった。
やっと一巻の内容半分終わった。長かった。
最近、布仏さんの出番が(しゃべっているところ)があまりなかったので次回にはもう少し出したいですね。