「ふい~。疲れた疲れた」
訓練を終え、俺はアリーナを出た。一夏は箒と共にまだアリーナの中にいる。箒の一夏への指導に熱が入り、一夏への指導が長引き、二人でまだアリーナにいるのだ。
「そういや、今日は夕食の後にパーティーだったな」
今日はこれから夕食後の自由時間に『織斑一夏クラス代表就任パーティー』をやる事になっている。パーティーと言ってもジュースやお菓子での簡単なものらしいが、布仏さんは「お菓子がたくさん食べられる~♪」と満面の笑みを浮かべていた。
布仏さん前に、お菓子たくさん食べるからご飯少なくても大丈夫~、みたいなこと言ってたし、実際いつも少食だけど、体に悪いんじゃないだろうか。同室なんだし、気を付けてあげるべきなんだろうか。
「ねえ、そこのアンタ。ちょっといい?」
「へ?」
ぼんやりと考え事しながら歩いていると、後ろから誰かに呼び止められた。振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
肩にかかるかかからないかくらいの黒髪を左右それぞれを高い位置で金色の留め金で留めていた。もっと目を引くのが小柄な体に不釣り合いなボストンバックを背負っていることだ。
「ちょっと本校舎一階総合事務受付って所に行きたいんだけど、教えてくれない?」
「ああ、いいぜ。えっとな――」
俺は今来た方に視線を向ける。
「このまままっすぐ行くと、アリーナがあるんだけど、その後ろにあるんだ。さっきちらっと見たとき灯りがついてたから、行けばわかると思うぞ」
「ふーん、なるほど。わかったわ。ありがとう」
ツインテールの少女はお礼を言って去って行こうとするが、立ち止まって振り返る。
「あんたが噂のもう一人の男性IS操縦者?」
「噂かどうか知らないけど、そうだよ。君は?転校生か何か?」
「ええ、そうよ。中国から来たの」
中国かー。中華料理とカンフー映画くらいしか思い浮かぶものがない。
「もう一つ聞くんだけど、織斑一夏って何組?」
「一組だよ。ついでに言えば俺も一組」
「そっか」
俺の返答を聞いて何かを考え込んでいる転校生。
「同じクラスだったらよろしくな」
「ん。まあ、別のクラスだったとしてもきっとそっちのクラスには挨拶に行くから、その時にまた会いましょ。それじゃあ」
そう言って、今度こそ去って行く転校生。
なんというのか、よく言えば勝気そう、悪く言えば図々しそうな少女だったな。
「……あ、名前聞き損ねた」
まあ、いっか。ああ言ってたし、また会う機会はあるだろう。
○
「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと~!」
ぱん、ぱんぱーん!!
クラッカーが乱射される。ちなみに俺も鳴らした。覚えている限り初めてのことなのだが、なかなか楽しいな、これ。
みな一夏に向かってクラッカーをするので一夏の頭には紙テープがのっかていた。
「……………………」
一夏の顔を見る限り、あまりめでたそうじゃない。しかも壁にかけてある『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙をちらりと見ている。きっと知らなかったのだろう。サプライズパーティーというわけだ。
主役の一夏を中心にみんなワイワイ騒いでいる。俺も真ん中近くにいる。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
さっきから相づち打ってる女子は二組の子じゃなかったっけ?俺の気のせいかな。というか、明らかに三十人以上いる。なんでクラスの集まりがクラスの人数超えてるんだよ。
ちなみに一夏の隣では箒が鼻を鳴らしてお茶を飲んでいる。なんか不機嫌そうだ。一夏が何かしたのかな。
「パーチー♪パーチー♪」
俺の左隣では満面の笑みで甘いお菓子に甘いジュース飲んでる布仏さん。食べ合わせ悪くないのかな。
「……なあ、布仏さん」
「んー?何、ナッシー?」
「前から思っていたんだけど、そんなにお菓子ばっかり食べてて体は大丈夫なの?」
「んー。大丈夫大丈夫」
そう言いながら笑顔でグビグビとジュースを飲んでいる。
「……これは俺が管理した方がいいのかな。手始めに部屋に戻ったらお菓子隠すか」
「え~!?それは困るよ~!」
俺の言葉を聞いた途端、泣きそうな顔で俺の体をゆする布仏さん。
「お願いだよー!お願いだよー!」
ゆさゆさゆさゆさゆさ。うわー、すごい揺れる。このままだと気持ち悪くなりそう。
「わかった、わかった。でも、これからはもう少し自分でも食べる量、気を付けろよ」
「うん!ナッシー大好きー!」
そう言って俺の左腕に抱き着く布仏さん。うん、腕にね、心地いい感覚がね、うん、伝わってくるんだなあ。
「いいなー、本音。梨野くんと仲いいよねー」
「やっぱり、同室だからかなー」
「私も織斑くんや梨野くんと同室になりたいなー」
俺の周りでみな羨ましそうにしている。正直女子との同室って結構きついんだけどなあ。特に布仏さんは時々ものすごく無防備な時がある。マジで勘弁してほしい。一夏も箒と同室だけど一夏は幼なじみの箒でよかった、とか言ってたなあ。俺も幼なじみとかいたらいいのに。
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と梨野航平君に特別インタビューをしに来ました~!」
オーと盛り上がる一同。って、俺もか。
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」
名刺を受け取って、名前を見る。おお、画数多いな。
「ではではずばり織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
ボイスレコーダーをずずいっと一夏に向け、無邪気な子供のように瞳を輝かせる黛先輩。
「えーと……」
一夏が何を言おうか考えているようだが、あまり乗り気ではないようだ。
「まあ、なんというか、がんばります」
「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」
なんだそりゃ。
「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的」
一夏、お前のそれも何?なんか元ネタあるの?記憶ないから知らないんだけど俺。
「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして」
おいおい、いいのか新聞部副部長。変な誤解が出来上がってしまいそう。
「それじゃあ、今度は梨野君。何か意気込みをどうぞ!」
今度は俺の方にボイスレコーダーが向けられる。
「え、えっと、とりあえず強くなります!」
「え~。どうせなら、『IS学園最強』目指します、くらい言ってもいいんじゃない?」
「いやいやいや!最強って!流石にそれは……。できればそれくらい強くなれたらいいですけど……」
流石にそれはデカすぎる目標だ。
「まあ、いいか。こっちも適当にねつ造するかな」
おいおい、変な噂やら誤解やら偏見ができるのだけはやめてほしいなー
「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方がないですわね」
とか何とか言いつつもやる気満々だ。俺らの近くにいたし、写真対策なのか髪のセットもいつもより気合いが入ってる気がする。
「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかというと、それはつまり――」
「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」
「さ、最後まで聞きなさい!」
「いいよ、適当にねつ造しておくから。よし、織斑君に惚れたからってことにしよう」
「なっ、な、ななっ……!?」
ボッと赤くなるセシリア。すごいな黛先輩。適当なのか感づいてるのかは知らないけど。
「何を馬鹿なことを」
「え、そうかなー?」
「そ、そうですわ!何をもって馬鹿としているのかしら!?」
一夏は援護射撃のつもりだったのだろうが、それじゃあ意味ないなー。
「だ、大体あなたは――」
「はいはい、とりあえず写真撮ろうかな。まずはセシリアちゃんと織斑君で」
「えっ?」
意外そうなセシリアの声。しかしなんとなく声が嬉しそうだった。
「注目の専用気持ちだからねー。ツーショットもらうよ。その後は織斑君と梨野君で。あ。握手とかしてるといいかもね」
「そ、そうですか……。そう、ですわね」
モジモジし始めるセシリア。そりゃ、好きな奴とのツーショットは嬉しいだろうな。
「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」
「そりゃもちろん」
「でしたら今すぐ着替えて――」
「時間かかるからダメ。はい、さっさと並ぶ」
黛先輩は一夏とセシリアの手を引いて、そのまま握手まで持って行く。
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え?えっと……2?」
「ぶー、74.375でしたー」
パシャッ。
デジカメのシャッターが切られる。
「なんで全員入ってるんだ?」
恐るべき行動力をもって、一組の全メンバーが撮影の瞬間に二人の周りに集結。俺もいつの間にか真ん中の二人の近くまで押し込まれていた。
ブーブー文句を言うセシリアをみんなが丸め込んでいく。これはセシリアの気持ちは周知なのかもしれない。
ともあれその後、パーティーは十時近くまで続いた。みんな元気だなー。
女子に抱き着かれるとかいいなー。
羨ましすぎる展開じゃん。