「織斑くん、梨野くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
朝、教室に入るなりクラスメイトに話しかけられた。
「転校生? 今の時期に?」
一夏の疑問ももっともだ。今はまだ四月。なぜ入学ではなく転入なのだろうか。このIS学園、転入にはかなり厳しい条件があったはずだ。試験を行うのはもちろん、国の推薦がいるはずだ。
そこで俺は、昨日の夜に会ったツインテール少女を思い出す。
「転校生って、もしかして中国から?」
「あ、梨野くんは知ってるんだ。なんでも、中国の代表候補生なんだって」
「「ふーん」」
俺と一夏がハモってうなずく。あいつ、代表候補生だったのか。まあ、国から推薦されるんだし当たり前か。
あ、代表候補生といえば。
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
一組のイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。今朝もまた、腰に手を当てたポーズを取っていた。最近見慣れてきた。なんかもう、セシリアと言えばこのポーズ、このポーズと言えばセシリアだな。
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
さっき自分の席である、窓側最前列に行ったはずの箒が、気が付くと側にいた。やっぱり女子は噂話には敏感なのかな。
「でも、意識しておく必要はあると思うぞ。たぶんその転校生。一夏に何かしらの関係があるんじゃないかな」
「む?なぜそう思う?」
「そうですわ。根拠は何ですの?」
俺の言葉に箒とセシリアが反応する。
「だって、俺。その噂の転校生に会ってるから」
『……ええっ!!!』
俺の言葉を聞いた途端、周りにいた人間が全員驚いたように叫ぶ。
「昨日の放課後に特訓終えて、寮に戻ろうとしてる時に道聞かれたんだ。その時に、織斑一夏は何組だって聞かれてさ。俺と同じ一組だって教えたら、そのうち挨拶に行くって」
「なんだよ、梨野くん。そういう大事なことは早く教えてよー」
「そうだよ、そうだよ」
「ごめんごめん。パーティーとかいろいろあって忘れてた」
周りの女子がブーブーと文句を言っている。噂好きの女子としては、そう言った面白そうなネタは早めに仕入れておきたかったのだろう。
「そうか。どんなやつだった?」
「む……気になるのか?」
「ん? ああ、少しは」
「ふん……」
一夏の俺への質問に割って入り、不機嫌になる箒。これって…。
「なあ、箒」
「なんだ?」
「嫉妬?」
「なっ!誰が嫉妬なんか!」
俺の質問に顔を真っ赤にする箒。
「そ、そんな事より!今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」
話題を逸らすように箒が言う。
「そう!そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう。ああ、相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットと航平さんが務めさせていただきますわ。なにせ、専用機を持っているのはまだクラスでわたくしと一夏さんだけですし、航平さんも無期限で訓練機を貸し出してもらっている状態ですから」
『だけ』という部分をえらく強調しているセシリア。一夏と二人っきりになる口実がほしいのだろう。あと、専用機を持ってない箒への牽制も兼ねて。
ちなみに、クラス対抗戦とは読んでそのまま、クラス代表同士によるリーグマッチだ。本格的なIS学習が始まる前の、スタート時点での実力指標を作る為のものらしい。
また、クラス単位での交流及びクラスの団結の為のイベントでもあるそうだ。
やる気を出させる為に、一位クラスには優勝商品として学食デザートの半年フリーパスが配られる。そのせいか、女子が燃えている。
「まあ、やれるだけやってみるか」
「いやいや、やれるだけじゃダメだと思うぞ」
「そうですわ!やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」
「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」
「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよ!」
一夏の言葉に一斉にセシリア、箒、クラスメイトが一夏に応援と言う名のプレッシャーをかけている。
そう言ってる間に俺たちの周りはあっという間に女子に埋め尽くされていた。いい加減パターンなので慣れてきた。
「おりむー、がんばってねー」
「フリーパスのためにもね!」
「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」
やいのやいの楽しそうな女子たちに「おう」と返事をする一夏。この場はそれ以外返事できんだろうなー。と言うか布仏さん。さりげなく俺の背中にのっかってくるのはやめてください。
「――その情報、古いよ」
ん?教室の入り口からふと声が聞こえた。なんか聞き覚えある声だな。ほんのつい最近、それこそ昨日くらいに聞いた声。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
そこにいたのは、腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていたものすごく見覚えのある奴だった。というか昨日会った噂の転校生だった。
「鈴……?お前、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
ふっと小さく笑みを漏らすファンさん。中国人ってことは名前は漢字なんだろうが、ダメだ。どんな漢字を書くのかわからん。というか、一夏はファンさんのこと知っているらしい。
「何格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!?なんてこと言うのよ、アンタは!」
あ、口調が変わった。さっきまでの口調は演じたものだったらしい。
「おい」
「なによ!?」
パシンッ!
後ろから掛けられた声に聞き返した瞬間、ファンさんの頭には痛烈な出席簿打撃が食らう事となった。ファンさんの頭を叩いたのは言うまでも無く、一夏と俺が鬼教官と称している我等が担任の織斑先生だ。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません」
すごすごとドアからどくファンさん。あの態度は100%織斑先生にビビっている。一夏と同じく織斑先生とも面識があるようだ。
「またあとで来るからね!逃げないでよ、一夏!」
一夏はこの人から逃げないといけない何かがあるのだろうか。
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
二組へ猛ダッシュしていくファンさん。
「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」
「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」
「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で――」
箒とセシリアが詰めより、更にはクラスメイトからの質問集中砲火を喰らう一夏。俺はこの後どうなるかなんとなく想像ができるので、背中に布仏さんを背負ったまま移動開始。
「布仏さんも席に戻った方がいいよ。でないと――」
バシンバシンバシンバシン!
「席に着け、馬鹿ども」
「…ああなるから」
「うん」
俺の言葉が終わる前に一夏に詰問していた面子の頭に織斑先生の出席簿が落ちた。それを見ていた布仏さんも素直に席に戻っていく。
そして、今日も一日ISの訓練と学習が始まる。
こうしてみるとほんとに千冬さんって容赦ないっすよね~。
せっかく美人なのに。