試合当日、第二アリーナ第一試合。組み合わせは一夏と凰さん。
噂の新入生同士の戦いとあって、アリーナは全席満員。それどころか通路まで立って見ている生徒でアリーナ全体が埋め尽くされていた。会場入り出来なかった生徒や関係者は、リアルタイムモニターで鑑賞するしかない。
俺、箒、セシリアは織斑先生や山田先生のいるピットで見ている。
目の前のモニターには一夏と『白式』、凰さんと『甲龍』が試合開始の時を静かに待っている姿が写っている。『甲龍』はブルー・ティアーズ同様、非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が特徴的。肩の横に浮いた棘付き装甲(スパイク・アーマー)が、やたら攻撃的な自己主張をしている。
「なあ、箒」
「なんだ?」
俺は隣同じようにモニターを見ている箒に顔を向ける。
「凰さんのIS、あれでなんて読むんだっけ?」
「『シェンロン』だろ?」
「……だよな」
いや、別にいいんだけどさ。でも、『シェンロン』って言うと、織斑先生に借りたマンガにあった、願い事かなえてくれる龍と同じ名前でややこしいんだよな。ここはあえて『こうりゅう』と呼んでおこう。
『それでは両者、規定の位置まで移動してください』
アナウンスが流れ、それによりモニターに移ってる一夏と凰さんは空中で向かい合う。距離は大体五メートル。
向こうでの会話はここまでは聞こえない。が、二人が何か話しているのはわかった。
「何か話しているようですわね」
「きっと、今謝れば手加減してあげる、とかそんなことだろう。誰かさんも試合の時同じこと言ってたし」
「な、なるほど。だとすれば一夏さんのことですから」
「まあ、断るだろうな」
これまで一夏と共に過ごしてきて分かったのだが、一夏は真剣勝負の類で手を抜かれるのが嫌いらしい。
『それでは両者、試合を開始してください』
アナウンスの試合開始宣言と同時にピーッとブザーが流れる。それが切れる瞬間に一夏と凰さんは動いた。
瞬時に展開した≪雪片弐型≫が弾き返される。
「お、一夏がセシリアに習った三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を使って凰さんの初撃をかわした」
「なかなかうまくできていましたわね」
モニターを見ながら自分が教えたことを一夏が使ってくれたことがうれしかったのか、セシリアが少し微笑んだ。
しかし、うまくかわしてはいるが、一夏は凰さんの攻撃をかわすのが大変そうだ。凰さんの手にある異様な形の刀。それをまるでバトンのように高速回転させ、自在に角度を変えながら切り込んでいる。
凰さんの攻撃から逃れるために一夏が距離を取った途端、ばかっと凰さんの肩アーマーがスライドして開いた。そして中心の球体が光った瞬間、一夏が何故か殴り飛ばされたかのように吹っ飛ぶ。
「な、なんだあれは……?」
箒が驚きの声を上げる。
「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す兵器です。ブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」
セシリアの解説、しかし、箒はもう聞いていなかった。心配げにモニターの中の一夏を見つめている。
「つまり、凰さんは見えない砲弾を見えない砲身で撃ったってことか?」
「ええ。しかもあの衝撃砲は砲身斜角がほぼ制限無しで撃てるようですわ。真上真下はもちろん、真後ろまで展開して撃てるようです。ただし射線はあくまで直線ですが」
「どうにか感知できないのか?ハイパーセンサーとかでさ」
「空間の歪み値と大気の流れを探らせる事は出来ますが、感知しても既に撃っているから手遅れですわね」
「そっか……」
これはどうにかして一夏の方が先手を取る必要がある。そのために重要になってくるのが≪雪片弐型≫の存在だろう。
○
「――『バリアー無効化攻撃』?」
聞き返す一夏に織斑先生が小さく頷いた。
セシリア戦の後、俺と一夏と箒は反省会として、どうしていきなり試合が敗北になったのかを考えていた。
試合後のIS活動記録を見ても、今一つよくわからなかった。そこに数日間考えて答えの出せない俺たちに焦れた織斑先生が説明してくれた。
「≪雪片≫の特殊能力が、それだ。相手のバリアー残量に関係なく、それを切り裂いて本体に直接ダメージを与えることができる。そうすると、どうなる?篠ノ之」
「は、はいっ。ISの『絶対防御』が発動して、大幅にシールドエネルギーを削ぐことができます」
「その通りだ。私がかつて世界一の座にいたのも、≪雪片≫のその特殊能力によるところが大きい」
さらりと言ったが、今のはすごいことだと思う。三年に一度行われるISの世界大会『モンド・グロッソ』、その第一大会で優勝し、初代世界最強となったのが織斑先生だ。
「ってことは、最後の一撃が当たってたら俺が勝利を飾ってた?」
「当たっていればな。大体、なぜ負けたと思う」
「え? 何でか知らないけどシールドエネルギーが0になったからだろ?」
「なぜか、ではない。必然だ。≪雪片≫の特殊攻撃を行うのにどれほどのエネルギーが必要になると思っているのだ。馬鹿か、お前は」
「……あー」
納得したようにうなずく一夏。
「つまり、自身のシールドエネルギーを攻撃に転化してるんですか?」
俺が尋ねると、また織斑先生が頷いた。
「つまり、欠陥機だ」
欠陥機って……。もうちょっと言い方あるでしょうよ先生。
「欠陥機!?欠陥機って言ったよな、今!?」
バシンッ!
即座に頭を叩かれてしまった一夏。教師への言葉遣いには気を付けような。
「言い方が悪かったな。ISはそもそも完成していないのだから欠陥も何もない。ただ、他の機体よりちょっと攻撃特化になっているだけだ。おおかた、拡張領域も埋まっているだろう?」
「そ、それも欠陥だったのか……」
「人の話を聞け。本来拡張領域用に空いているはずの処理をすべて使って≪雪片≫を振るっているのだ。その威力は、全IS中でもトップクラスだ」
ん?織斑先生も一夏と同じ≪雪片≫なら、もしかして織斑先生も≪雪片≫だけしか装備していなかったのだろうか。それで最強だったのなら、どれだけ人間離れしていたのか。
「大体、お前のような素人が射撃戦闘などできるものか。反動制御、弾道予測からの距離の取り方、一零停止、特殊無反動旋回、それ以外にも弾丸の特性、大気の状態、相手武装による相互影響を含めた思考戦闘……他にもあるぞ。できるのか?お前に」
「……ごめんなさい」
がっくりとうなだれる一夏に織斑先生は短く「わかればいい」と頷いた。安心しろ一夏。俺にもよくわかんなかったから。たぶん俺にも射撃戦闘は無理。
「一つのことを極める方が、お前には向いているさ。なにせ――私の弟だ」
○
それからの特訓はすべて近接戦闘と急加速急停止といった基礎移動技能に費やした。また、箒との剣道訓練で、『刀』の間合いと特性を再度把握できたと言っていた。あとは一夏の気持ち次第だろう。
「お?」
その時、モニターに映されている一夏の様子が少し変わった気がした。
「一夏のやつ、何かするつもりですね」
「『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』だろう。私が教えた」
「『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』?」
織斑先生の言葉にセシリアが首をかしげる。
「一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。出しどころさえ間違えなければ、アイツでも代表候補生クラスと渡り合える」
そんな技を教えてもらっていたのか、一夏は。
「しかし、通用するのは一回だけだ」
織斑先生の言葉で、その場の全員の目が再びモニターを向く。
一夏が雪片弐型を構え、凰さんの隙を突いて瞬時加速を使い、接近したところを雪片で凰さんに攻撃しようとした瞬間――
ズドオオオオオンッ!!!
突然大きな衝撃がアリーナ全体に走った。この場にいた誰もが突然の出来事に驚愕していた。
「何が起きたっ?」
「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」
織斑先生の問いに山田先生がすぐさま調べ、原因を伝える。
「試合は中止!織斑と凰はただちに撤退だ!」
織斑先生は即座に一夏と凰さんに退避命令を出した。が、その直後にアリーナ全体は異常態勢になり、アリーナ席は完全封鎖状態になる。
アリーナ内では一夏と凰さんが何か言い争いをしている。この非常時に何を。と思っていると、一夏が咄嗟に凰さんを抱きかかえてさらった後、二人がさっきまでいた空間が熱線で砲撃された。
「い、今のはっ…」
「ビーム兵器だ。しかもセシリアのISよりも出力が上だった」
俺の言葉に当の本人であるセシリアも同じ意見だったのか、驚愕していた。
モニターでは一夏に抱きかかえられている凰さんが恥ずかしがっているようなしぐさを見せている。そにまた煙を晴らすかのようにビームの連射が放たれた。
「あの出力で連射可能か」
「き、規格外にもほどがありますわ……」
ビームの連射がやみ、煙の中から一体のISがふわりと姿を現した。
「な、何だあれは…!」
箒が呟くように言った。
そのISは異形な姿をしていた。深い灰色をしており、手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びていた。しかも首と言う物が無い。まるで肩と頭が一体化しているような形だ。
そして、何よりも特異なのが、敵ISは『全身装甲』だった。
本来、ISは部分的にしか装甲を形成してない。なぜなら必要無いからだ。防御は殆どシールドエネルギーによって行われている。だから、見た目の装甲というのはたいして意味が無い。もちろん、防御特化型ISで物理シールドを掲載している物もあるが、敵ISのような全身装甲はしていない。
そして、その巨体も普通のISではないことを物語っていた。腕を入れれば二メートルを超える巨体は、姿勢を維持するためなのか全身にスラスターが口があるようだ。頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並んでいる。敵ISの腕にはおそらく先ほどのビームを撃ったであろうビームの砲口が左右合計四つついていた。
「織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」
アリーナに残っている二人に向かって山田先生が言った。心なしかいつもより威厳を感じる。
『――いや、先生たちが来るまで俺たちで食い止めます』
それに対する一夏の返答は拒否だった。
「織斑くん!?だ、ダメですよ!生徒さんにもしものことがあったら――」
山田先生の言葉を遮るように敵ISが二人に向かって突進を開始。二人はそれをよけるのに集中したらしい。きっと山田先生の言葉は途中から聞いていなかっただろう。集中したおかげか、二人はうまく敵の攻撃をかわすことに成功。
モニターの向こうでは二人が作戦を立て終えたのか、試合開始とばかりにお互いの武器の切っ先をぶつけ合っていた。
だいぶ進んできましたねー。
戦闘シーンの描写がへたくそな僕としてはここからは少し大変ですが、頑張って書きたいと思います。
次回もお楽しみに~。