超嬉しいっす。
てなわけで始まるよ♪
「もしもし!?織斑くん聞いてます!?凰さんも!聞いてますー!?」
ISのプライベート・チャネルは声に出す必要は全くないのだが、そんなことを忘れてしまうくらい山田先生は焦っていた。
「まあまあ、落ち着いてください、山田先生」
「そうだぞ。本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」
「な、な、梨野くん!織斑先生!何をのんきなことを言ってるんですか!?」
「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」
騒いでいる山田先生をなだめて、織斑先生は近くに置いてあったコーヒーに容器からスプーンで白い粒子を入れていた。というか塩だった。
「……知らなかったです、織斑先生」
「なにがだ?」
「先生ってコーヒーに塩入れるんですね。コーヒーには砂糖とかミルクくらいしか入れるものはないと思ってました」
「…………………………」
ぴたりとコーヒーに運んでいたスプーンを止め、塩を容器に戻す。
「コーヒーに塩っておいしいんですか?」
俺は今まではコーヒーには砂糖やミルクしか入れたことなかったので、正直塩を入れたコーヒーには興味がある。
「あっ!やっぱり弟さんのことが心配なんですね!?だからそんなミスを――」
「………………………」
山田先生が言ったことを聞いた途端、織斑先生が無言で山田先生を見ている。ものすごく嫌な沈黙だ。まさか図星……?
「……えっと、織斑先生。コーヒーに塩はミスですか?」
沈黙に耐え切れず、俺は織斑先生に訊く。その瞬間、織斑先生が無言のまま俺の方を見る。例えるならそう、猛獣が新たな獲物を見つけたかのようだった。
「………はっはっはっ。そんなわけないだろう、梨野」
「で、ですよね?」
なぜだろう、織斑先生笑ってるのに目が笑ってない。
「なんだったら飲んでみるか?おいしいぞ」
「いやー、先生のコーヒーをいただくわけには――」
「人の厚意は素直に受け取るものだぞ」
「……いただきます」
だめだ、逃げられない。
「熱いので一気に飲むといい」
「織斑先生それはちょっと――」
「山田先生もどうぞ」
「えっ!?」
山田先生にも新しく入れたコーヒーを押し付ける織斑先生。もちろん塩入。
俺と山田先生は二人で顔を見合わせ、受け取ったコーヒーをぐいっとあおる。
「………織斑先生」
「なんだ?」
「……口の中が気持ち悪いです」
「……苦じょっぱいです……」
山田先生は渋い顔している。俺も似たような顔をしていることだろ。途中からわかっていたが、確実にこれは織斑先生がミスっただけだ。コーヒーに塩なんて合わない。
「先生!わたくしと航平さんにIS使用許可を!すぐに出撃できますわ!」
「そうしたいところだが、――これを見ろ」
織斑先生がブック型端末の画面を数回叩き、表示される情報を切り替える。表示された内容はこの第二アリーナのステータスチェックのレベル数値だった。
「遮断シールドがレベル4に設定……? しかも、扉がすべてロックされて――あのISの仕業ですの」
「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできないな」
落ち着いた様子で話す織斑先生だが、よく見るとその手は苛立ちを押さえきれないとばかりにせわしなく画面を叩いている。
「で、でしたら! 緊急事態として政府に助勢を――」
「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」
言葉を続けながらますます苛立ちを募らせる織斑先生の眉がぴくっと動く。それを危険信号と受け取ったセシリアは、頭を押さえながらベンチに座った。
「はぁぁ……。結局、待っていることしかできないのですね……」
「何、どちらにしてもお前達は突入隊に入れないから安心しろ」
「な、なんですって!?」
「なんでですか!?」
俺とセシリアはそろって疑問の声を上げる。
「オルコットのISの装備は一対多向きで、梨野が使ってる打鉄は一対一向けだからだ。多対一とではむしろ邪魔になる」
「そんなことはありませんわ!このわたくしが邪魔などと――」
「では連携訓練はしたか?その時のお前たちの役割は?ビットをどういう風に使う?味方の構成は?敵はどのレベルを想定してある?連続稼働時間――」
「わ、わかりました!もう結構です!」
「俺ももうあきらめました」
「ふん。わかればいい」
放っておけばそれこそ一時間でも続きそうな織斑先生の指導を、セシリアは両手を揺らし、『降参』のポーズを取る。俺もがっくりとうなだれる。
「はぁ……。言い返せない自分が悔しいですわ……」
「俺もだよ。言い返せるくらい強くなりたいよ、まったく」
どっと疲れた気がして、俺もセシリアも大きくため息をついた。と、そこで俺はふと違和感を感じ、周りを見渡す。
「………なあ、箒はどこ行った?」
「……えっ?」
俺の言葉にきょろきょろと周りを見渡すセシリア。それと対照的に織斑先生だけはさっきまでとは違う異様に鋭い視線をしていた。
「っ!まさかっ!?」
「ちょ!どこへ行くんですの航平さんっ!?」
セシリアの言葉に返事をせず、俺はピットから飛び出した。
○
「……っ!……っ!」
外に出たと思われる箒を追って外に出た俺だが、だいぶ走り回っているのだが見つけられない。
「くっそっ!あいつどこ行ったんだっ!」
さっきから走り回ってるのに箒はおろか誰にも会わない。緊急事態で避難勧告が出ているのかもしれないが、誰かいないのか。箒を見たって人がいてくれないだろうか。
「たぶん一夏のところに向かっただろうからアリーナに向かっているはずなんだが……」
走りながら通路の右や左に、全方位に目を向ける。
「っ!?いたっ!!!」
走りながら交差点状になった通路を走りながら左側を見ると扉を開けて入っていく箒がいた。焦っていたせいで通り過ぎてしまい、急いでブレーキをかける。
すぐに戻り、箒の入って行った扉の前に来て、扉に手をかける。
「……って、あれ?開かない?」
ガチャンッ。ガチャンッ。
「くっそ、こうなったら…!」
左手のブレスレットを右手で包むように握る。
(こい!打鉄!)
ブレスレットを中心に俺を包む光。そして、やってくる浮遊感。
「そいやっ!!」
向かいの壁のところまで後退り、全体重を乗せたドロップキックを扉にお見舞いする。
「ごめんなさい!非常事態なもんで!後で反省文でもなんでも書きます!」
扉を蹴破った勢いのまま、部屋に突入。
「どこ行った!?」
『一夏ぁっ!』
ハイパーセンサーが箒の声を感知する。
「こっちか!」
声の聞こえた方向へ向かう。すぐにアリーナ全体を見渡せる場所に来た。
「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
すぐ近くから箒の声が聞こえてきた。声の聞こえた方を見ると箒がアリーナの方に向かって叫んでいた。その表情は、怒っているような焦っているような不思議な表情をしていた。
アリーナの方を見ると、アリーナの全員がこちらを――箒を見ていた。敵ISも一夏達からセンサーレンズを逸らして、ジッと箒を見ている。
『箒、逃げ――』
逃げろと叫ぼうとしているが、間に合わないと気づいたらしく一夏は突撃姿勢に移行する。
敵ISは砲口の付いた腕を箒に向けているが、箒は逃げようともせずにただ睨み返していた。
「箒のことは任せろ一夏っ!」
俺は箒をかばうように箒と敵ISの間に入る。
「なっ!?航平!!」
驚愕の声を上げる箒。でも、今はそれに答える余裕なんてない。
『おうっ!鈴、やれ!』
『わ、わかったわよ!』
一夏の指示に凰さんは両腕を下げて、肩を押し出すような格好で衝撃砲を構える。最大出力砲撃を行うために、補佐用の力場展開翼を後部に広げる。
そして一夏は、凰さんの射線上に躍り出る。
『ちょっ、ちょっと馬鹿! 何してんのよ!? どきなさいよ!』
『いいから撃て!』
『ああもうっ……!どうなっても知らないわよ!』
凰さんが一夏に向けて衝撃砲を撃つ。衝撃砲を背中に受け、一夏は『瞬間加速』を作動させる。
一夏とともに織斑先生に教えてもらったところによると、『瞬間加速』の原理はこうだ。後部スラスター翼からエネルギーを放出し、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速するらしい。らしいというのは、俺は原理などの解説はしてもらったが一夏と違い一度も試していないのだ。特訓は一夏がメインだったので俺は練習しなかったのだ。
ちなみに、『瞬間加速』で内部に取り込むエネルギーは外部からのエネルギーでもいいということだ。そして、『瞬間加速』の速度は使用するエネルギー量に比例する。
背中に巨大なエネルギーの塊を受け、一夏は加速した。
『――オオオッ!』
一夏の右手の≪雪片弐型≫が強く光を放つ。中心の溝から外側に展開したそれは、一回り大きいエネルギー状の刃を形成していた。
一夏は零落白夜を展開して『瞬時加速』で突進。一夏の繰り出した必殺の一撃は敵ISの右腕を切り落とした。
しかし、その反撃で一夏は左拳をモロに受けた。さらに敵ISは一夏に左腕を向ける。ゼロ距離でビームを叩きこむつもりらしい。
まずいっ!!
「ここにいろっ!」
背後の箒に叫び、箒の返事も聞かずに今出せる最高速度で突進する。
ダメだ、間に合わない!!
『……狙いは?』
『完璧ですわ!』
よく通る声が聞こえた。あの自信に満ちた声、なぜかすごく頼もしく聞こえた。
その瞬間、客席からブルー・ティアーズの四機同時狙撃が敵ISを打ち抜いた。
どうやら、一夏の先ほどの一撃が遮断シールドを破壊していたらしい。
ボンッ!
敵ISは小さな爆発を起こして地上に落下した。シールドバリアーが無い状態でブルー・ティアーズのレーザー狙撃を一斉に浴びたら、ひとたまりもないだろう。
「一夏も考えたな」
「おう、うまくいっただろ?」
遅れて、一夏の元へやって来た俺に一夏が笑顔を見せる。
『ギリギリのタイミングでしたわ』
ISのオープン・チャネルでセシリアの声が聞こえてくる。
『セシリアならやれると思ってたさ』
一夏が確信じみた口調で答えた。俺も同じ立場だったら、同じようにセシリアを信頼しただろう。一度戦った相手だ。その強さは何よりも俺たちが分かっている。
『そ、そうですの……。とっ、当然ですわね!何せわたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生なのですから!』
一夏に信頼されていたことが相当嬉しかったようだ。セシリアはだいぶ狼狽していた。
「ふう。何にしてもこれで終わ――」
――敵ISの再起動を確認!ロックされています!
「「!?」」
片方だけ残った左手をこちらに向け、左手の形状を変えたISが地上から俺を狙っていた。その左手はまるで何かの砲台のようだった。
プシッ!!
その砲身から何かがこちらに向けて発射された。
(――オレハ)
こちらに向かって飛んでくる物体は奇妙な形をしていた。
(――アレヲ)
バスケットボールサイズの何か。太い円柱のような物体に先端と末端部分に棘のように尖ったものがついている。そして全体に何本もの管が絡みついている。
(――知ッテイル!!?)
そこまでの結論が俺の頭の中に生まれたとき、俺の中にいくつものビジョンが広がる。
あの物体が爆発するイメージ。
泣き叫び、悶え苦しむたくさんの老若男女。
焼け焦げ、瓦解した建物。
そして、そんな荒廃した場所に立つ一人の人間。
長身で腰のあたりまである豊かで美しい金髪。表情は読み取れない上に、イメージがはっきりしないのか少しぼやけて見えるため性別は分からない。
しかし、一つだけはっきりとわかることがあった。――笑っているのだ。凍えてしまいそうなほど冷たい、そして、鋭利な刃物のように鋭い笑みを浮かべている。
そこまでのビジョンが見えたところで、横から与えられた衝撃で俺の意識は現実へと戻される。とても長くそれらのビジョンを見ていたように感じたが、実際には一、二秒程度だったらしい。
衝撃の発生源に目を向ける。そこには右手に≪雪片弐型≫を握り、左手で俺を突き飛ばした姿勢のまま俺に顔を向ける一夏がいた。
その顔はまるで「ここは俺に任せろ」とでもいうような笑顔を浮かべていた。
そこから、飛んでくる物体に向けて切っ先を向ける一夏。なぜだか、すべての動きがゆっくりとしている。まるで意識だけが加速しているような…。
(ダメだ、一夏っ!それはっ――!)
一夏を止めるために一夏のところへ戻りたい。なのに一夏に押された勢いと下へと落ちていく勢いから立ち直ることができない。このままでは間に合いそうにない。
(――ダメだダメだダメだ!!まだだ!!!)
そこからは勢い任せだった。
(やり方はわかってるんだ!あとはやるだけだ!失敗?知るかそんなもんっ!!)
背中のスラスター翼からエネルギーを放出。それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。下から背中を押し上げるような力を感じながら俺は加速する。――『瞬間加速』だ。
「一夏ぁぁぁぁっ!!」
知識と一夏がやっていた見本だけで『瞬間加速』できたことへの嬉しさなんて感じている暇はなかった。一夏の方へただただ向かって行く。
「っ!?」
突然、真横から向ってくる俺に一夏が驚く。
そのままの勢いを殺すことができず、一夏にぶつかり、一夏を吹き飛ばして止まる。
でも、一夏に謝ってる暇はない。すぐに飛んでくる謎の物体に意識を戻す。
「っはああああああ!!」
目の前にまで迫ってきていた謎の物体を右手で下から押し上げる。できるだけ衝撃を与えないように、かつ、できるだけ被害が出ないように真上へ。
うまくいったのか、真上に飛んでいく謎の物体。俺が押し上げてから真上に十五メートルほど飛んだところで謎の物体がカッと発光する。
(やばいっ!)
そう思った時には、もう遅かった。謎の物体を中心に光が広がっていき、一瞬にして俺の元に光が到達。その瞬間、すさまじい衝撃とともにまるで地面に吸い寄せられるように落下していく。
俺が最後に見たのはどんどんと大きくなっていく地面。そして、全身に走った以前織斑先生に背負い投げされた時の十倍くらいの衝撃。
一瞬にして俺の意識は以前のセシリアとの戦いのようにブラックアウトした。むしろ以前より衝撃が強かった。
途中の描写がものすごく長かったですが、一応内容としては一瞬のつもりで書いてます。へたくそですんません。
謎の物体の形状についても描写が下手ですみません。
へたくそなところだらけですんません。
次回もお楽しみに~。