「――んっ……」
深いまどろみの中から浮かび上がる感覚と共に目を開けると、俺はベッドの上に横になっていた。前にも似たことがあったな。あれはセシリアとの試合の後だった。あの時と同じでオレンジ色の光が窓から差し込む。あの時と同じ保険室のベッド。あの時と同じように俺の脈や血圧を表示するモニター。あの時と違うものがあるとすれば、布仏さんがいないことくらいだ。
「目が覚めたようだな」
仕切られていたカーテンを開け、織斑先生が現れた。
「あ、織斑先生。どうも――ふぐっ!」
寝たまま話すのも失礼だと思い、体を起こそうと片肘をついた俺は、体を走る痛みに顔をしかめた。
「楽な姿勢でかまわん」
「すみません。でも、大丈夫ですから」
なんとか起きあがり、ベッドの上に座る。
「調子はどうだ?」
ベッドの横の椅子に座る織斑先生。
「んー。全身が痛いです」
「そうか。安心しろ、致命的な怪我はない。全身に軽い打撲があるくらいだ。治るまでの数日は地獄だろうがな」
「そうですか」
これは慣れるまで大変かも。
「結局今日のことって何だったんですか?」
「今のところは調査中だ。ただ――」
織斑先生が言葉を途中で切る。
「――織斑曰く、『あいつは無人機だと思う』だそうだ」
「む、無人機っ!?」
織斑先生の言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「ISの無人化って可能なんですか?以前、まだその技術は完成されていないって……」
「ああ。だからそれはないと思う。だが、今のところはなんとも言えん」
「そうですか。………あれ?そう言えば、あのISってどうなったんですか?誰かとどめを刺したんですか?」
俺があの謎の物体を上に押し上げて爆発させたときにはまだ動いていたはずだ。
「爆発が収まってから織斑がとどめを刺した。……今回の件で一番の負傷者はお前だ。他のやつらはぴんぴんしていたよ」
「そうですか。まあ、被害があまり大きくなくてよかったんですかね」
「人への被害はな。あの爆発のせいで第二アリーナへの被害は大きい。復旧には時間がかかりそうだ」
まあ、あの規模の爆発なら仕方がないかもしれない。
「聞きたいことはそれだけか?」
「……最後に一つだけ」
織斑先生の言葉に一瞬考え、一番知りたかったことを訊く。
「あれは…あの爆発物はなんだったんですか?」
「………その質問に答える前に、私からも訊きたいことがある」
「?」
織斑先生の言葉に首をかしげる。俺に何を訊こうっていうんだろう。
「……梨野航平。貴様、何者だ?」
「…………え?」
先生の質問は意味も意図も分からなかった。
「何者も何も、それはこっちが知りたいです」
「そうか、やはり思い出してはいないんだな」
「思い出してたら、とっくに話してますよ」
「……そうだな」
織斑先生が一人納得している。
「……あの。そのことが何か関係があるんですか?」
「………このことは国家機密も含まれる。他言無用だ。いいな?」
「……はい」
先生の言葉に俺はうなずく。
「……七年ほど前のことだ。ある研究チームが数種類の化学物質を化合し、高密度で特殊なエネルギー源となる液体を作り出すことに成功した。……その液体の名は『星水』」
「『星水』?」
「『星水』のエネルギーは膨大で、通常のエネルギー源――電気やガスや石炭、石油なんかとは比べ物にならないほどだった。この『星水』の発見はISに次ぐ大発明になるかと思われた。しかし『星水』の実用化には問題が出てきた」
「問題?」
「……確かに『星水』のエネルギーは膨大だ。しかし、『星水』の生成には膨大な手間とコストがかかってしまった。また、『星水』のエネルギーは実用化するにはまだまだ安定していなかったんだ」
「……なるほど」
「そこで各国は『星水』の使用は実用化の目途が立ってからということになり、発表はされたが、今日まで『星水』の実用化の目途はたっていない。――表向きはな」
「表向きは?」
「五年前、『星水』をエネルギー源とした発明が完成した。……それが今日の一件であのISが撃った謎の物体、――通称、『星水爆弾』だ」
「『星水爆弾』……」
「とある国のとある一人の科学者が発明した。その威力は同サイズの他の爆弾よりもはるかに強力なものだった。もしこれが戦争で使われればとんでもない被害をもたらしていただろう」
「”だろう”って?」
「そう。あくまでも仮定の話だ。実際にこの爆弾が軍事利用されることはなかった。そしてこれからもないだろう。なぜなら、この『星水爆弾』の使用は協定参加国全体で条約で原則使用禁止となっている。しかも面白いことに、この条約は現物である『星水爆弾』が完成する前に締結が決定したんだ。なぜだかわかるか?」
突然の織斑先生の問いに少しの間考えるが答えは全く分からない。
「わかりません」
俺が素直に答えると織斑先生が頷く。
「なぜ現物の完成前に条約が締結されたか。理由は簡単だ。その開発者である科学者自身が開発と同時に自分の発明品の使用制限の条約締結に動いたんだ。自分の発明が悪用されないようにな」
「なるほど」
「結果、その『星水爆弾』の完成と条約締結、また、その驚異的な威力から、この『星水爆弾』は秘匿され、各国の上層部のみが知るものとなり、この爆弾の軍事利用もされることはなかった。だが、条約で禁止されているからと言って使われていないわけではない」
「え?」
「実はこの爆弾、協定参加国などは使っていないのだが、ある一部のテロリストなどが使用したとういう事件が起きている。表沙汰にはなっていないがな」
そこで一度言葉を切る織斑先生。
「……そこで最初の質問に戻るわけだ。梨野航平、お前は何者だ?この『星水爆弾』の存在をなぜ知っている?」
「…………」
俺は答えることができなかった。記憶が無いということもあるが、それ以上に今ほど自分の過去を知るのが怖いと思ったことはなかった。
「……わかりません。自分のことも、なぜこの爆弾のことを知っていたのかも」
「そうか」
織斑先生は立ち上がり、窓辺へと行く。
「まあ、無理に思い出すこともない。過去はどうでも、今のお前は『梨野航平』だ。私の生徒で、私の大事な弟を二度も助けてくれた『梨野航平』だ」
織斑先生の言葉に俺は先生の方を見る。先生は窓枠に寄り掛かるように立っていた。
「気にするな……というのは無理だろうが。お前はお前だ、今のままの生活を送ればいい。何か困ったことがあれば私や山田先生、仲間たちに相談すればいい」
「………はい。ありがとうございます」
俺は礼を言いながら頭を下げる。正直頭を下げるだけで体を走る痛みはなかなかにきついが、それ以上に織斑先生の言葉がうれしかった。
「……では、私は後片付けや事後処理があるので仕事に戻る。お前も、少し休んだら部屋に戻っていいぞ」
「はい」
俺の返事を聞いてから、すたすたと歩いて行き、保健室から出ていく織斑先生。と、保健室から出ていく前に立ち止まり、俺の方を向く。
「言い忘れたが、お前の見舞いに織斑や篠ノ之、オルコットに凰、布仏が来ていたぞ。先ほどの話など聞かれたらまずいこともあったので、部屋に戻らせたがな。みなお前のことを心配していた。速めに寮に戻って安心させてやれ」
「はい」
俺の返事を聞くと、今度こそ織斑先生は保健室を後にした。
はい、というわけで前回、そして今回のお話ではトライピースに登場する『星水爆弾』を登場させてみました。
ISの世界観を壊さないようにするつもりで『星水』の設定も変えました。
「こんなもん『星水』でも『星水爆弾』でもねえよ(怒)!!」な方もいるかもしれませんが、あくまでこれはISの世界がメインなので、ISの世界観を壊さないためだとご了承ください。
ではでは、また次回♪