「で?どういうことなの?」
一年生用食堂。その床に正座させられた俺は、腕組して仁王立ちした鈴に見下ろされていた。
「なんで、あの写真を持ち去ったの?梨野航平」
なんでフルネーム?と思ったけどそれを言えるような立場ではない。俺は探偵気分で人探ししていた鈴からその証拠である写真を持ち去った、いわば第一容疑者なのだ。下手なことを言えばどんなことをされたかわかったものじゃない。
「なんでと言われましても……」
俺と鈴の周りは先ほどの人だかりのメンバー、主に1年1組のメンバーに囲まれている。セシリアも鈴のすぐ隣に立っている。
俺はその中から助けてくれそうな人を探すが、残念ながら全員もれなく興味と好奇心に満ちた視線でこちらを見ている。布仏さんも楽しそうにニコニコとしている。まあ、布仏さんが言わないだけありがたいのだが。
次に俺はすぐ近くの席に座り黙々と昼食を食べている、この場にいる唯一の教師二人に目を向ける。そこで織斑先生と目が合う。と、織斑先生の口の端がくっと上がる。あの顔は覚えがある。人をからかって、心底楽しんでいるときの織斑先生の顔だ。これは期待できそうにない。 次に俺は山田先生の方に視線を持って行く。が、山田先生も申し訳なさそうな、しかし、この状況を楽しんでいるといった表情をしていた。おい、あんたら教師だろ。なに生徒の不幸楽しんでんだ。てか、もともとの原因はあなたたちでしょ?
「黙秘していても罪が重くなるだけよ?さっさとゲロっちゃいなさい」
鈴が黙ってしまった俺に言う。おそらく何かの刑事ドラマの真似だろう。
「まあまあ、鈴さん落ち着いて」
鈴と俺の間に入って鈴を落ち着かせようとするセシリア。
「航平さん、あきらめて理由を話した方がいいですわよ。鈴さんのことですから、話すまで開放してくれませんわ」
セシリアの言う通りだ。この場を脱する方法はもう残されていないだろう。この状態ではまともに嘘が言えるとは思えない。下手に嘘をつけばより怪しくなってしまうだろう。正直に話すしかない。
「………どうしても〝ナナコ〟の正体がばれるわけにはいかなかったんだ」
俺はあきらめて口を開く。
「ふーん。てことは、アンタはこの写真の人物を知ってるってわけね。しかも、写真を持ち去ってしまうほどの秘密を彼女は持っていると」
「ああ。でも――」
鈴の言葉に頷きつつも、俺は鈴の言葉に訂正しにかかる。
「――鈴。お前の今の言葉には間違いがある」
「なに?言ってみなさいよ」
「まず、その写真の人物の正体を俺は知っている。知っているなんてもんじゃない。そして、その写真の人物には大きな秘密がある。それも事実だ。でも……」
そこで俺は言葉を区切る。正直ここから先を言いたくない。言ったらきっとその時点で勘のいい奴は気付くだろう。でも、もう真実を言う以外の選択肢は俺には残されていない。
「……鈴の言葉で間違っていたのはたった一つ。その写真の人物、〝ナナコ〟は〝彼女〟じゃない。…〝彼〟なんだ」
「…………は?」
俺の言葉を聞いた鈴が数秒黙り、首を傾げる。まわりの真実を知っている人除く全員が困惑の表情を浮かべる。
「だから、その写真の人物、〝ナナコ〟の性別は〝男〟なんだ」
「「「「…………えぇっ!!!!」」」」
その場にいた真実を知っている人除く全員が数秒の間を空けて驚きの声を上げる。あまりの声の大きさに食堂内が震えた気がした。
「ちょ、ちょっと待ってください!この方が男性っていうんですの!?」
「ああ、そうだ。その写真に写っている〝ナナコ〟は正真正銘、男だ」
俺の言葉がみな信じられないようで、鈴の持っている写真をのぞき込んでいる。
「で、でも、仮にそうだとして。なんで梨野くんはそのことを知っているの?」
沈黙の中、人だかりの一画からクラスメイトの鷹月さんが質問する。
「そ、それは……」
みんな思っていたのだろう。鷹月さんの言葉にみな俺の方を見ている。でも、ここからは言いずらい。言えるわけがない。〝ナナコ〟=俺、だなんて。一応俺は女装をすること自体は別に平気だ。俺の数少ない特技だしな。だが、その特技が誇れるものではないということは理解している。だから、できることなら隠し続けるつもりだった。
「……ん?ちょっと待って。もしかして……」
そこで、鈴が何かに気づいたようだ。
「ねえ、ちょっと……」
「なんですの?」
写真をセシリアに見せつつ何かこそこそと話している。鈴の言葉を聞き、セシリアの顔に驚愕の色が浮かぶのが分かる。
「確かにそれなら腑に落ちますけど…」
「でしょ?ってことはさ…」
鈴とセシリアが写真から顔を上げ、俺の方を見る。二人の顔を見る限り、どうやら気が付いたらしい。
「ねえ、航平。ひとつ聞いてもいい?」
「……ああ」
「……この写真の〝ナナコ〟って、アンタなんじゃないの?」
やっぱり予想通りだ。二人は答えに辿り着いたらしい。これはもう認めるしかないだろう。
「……ああ、その通りだ。その写真の人物、〝ナナコ〟は俺だ」
「「「「……ええっ!!!!」」」」
再度、食堂内に驚愕の声が広がる。音量はさっきのよりも大きく、今度は気がするなんてものではなく、食堂の壁や床が揺れた。
「ただ、一つ言わせてもらえば、決して俺は女装が趣味なわけじゃない。ただ得意なだけだ。いたってノーマルだ」
そこだけはわかっていてもらいたい。女装が得意なのと女装が趣味なのでは、どちらも変態だがたぶん度合いが違う。まあ、結局は変態扱いされるだろうがな。ああ、グッバイ俺の青春。
「私からも言わせてもらえば――」
それまで黙っていた織斑先生が口を開く。全員がぴしっとそちらを向く。よく調きょ…教育されている。まるで軍隊のようだ。
「――女装をしたのはそいつの意思ではない。必要に駆られて私と山田先生が特技と言えるレベルまで練習させた」
織斑先生が擁護してくれる。なんか泣きそう。よかった、ただ面白がってるだけかと思ってたけどちゃんと助けてくれる気があったようだ。
「まあ、最初は変装の延長としてやらせてみたら意外と似合ってしまってな。山田先生ともども少し楽しんでしまった」
「って!やっぱ、楽しんでたんじゃないですか!!あの時先生、『お前のためなんだ。嫌でもやってもらう。やらなければどうなっても知らんぞ』とかもっともらしく言ってたのに、結局嘘だったんですかっ!?」
「いやいや、嘘ではないさ。IS学園は女しかいないのだから、お前も女装して女のふりをするのが一番効果的だったんだ」
そう言われると納得するしかない。言ってること自体は筋が通っているし。
「とりあえず、なんとなくわかりましたわ。つまり、航平さんが女装したのは隠れて生活するために必要だったんですね?」
セシリアが織斑先生に確認するように訊く。
「ああ、その通りだ。こいつはもともと身元も分からないからIS学園でも詳しく発表はしなかった。そのため各国からの接触や監視、様々な組織から狙われることを警戒して、できる限り宿直室から出さない形を取っていたわけだ。だが、人が生活する上で二か月も一つの部屋に閉じ籠っていることは無理だ。しかも、こいつは記憶が無い。だから、色々な経験も積んで、常識を知っておかなければいけなかった。そのため、必要最低限の外出の時に怪しまれないために女装という形で監視の目を欺いたわけだ」
織斑先生の言葉でその場にいる全員が納得したようだ。どうやら、俺の青春はまだあきらめなくてもいいかもしれない。
「ちなみにこいつの女装の種類は〝ナナコ〟以外にもあるぞ」
そこに織斑先生の爆弾発言。ちょっと、何言ってんすか先生。その情報いります?
「え?どんなのですかー?」
布仏さんが興味持っちゃったよ。しかも、みんなも興味津々だし。
「あ、写真ならここにありますよ」
そう言ってポケットから二枚の写真を取り出す山田先生。アンタも何してんだよ!
「これが初めにやった女装。『女装No.0 ナナ』です」
そう言って見せたのは、俺が初め女装した時のものだった。髪はくくらず、ナナコ同様ストレートのまま。なぜかその時の山田先生のチョイスでセーラー服を着ていた。
「へー。ナナコさんとは雰囲気が違いますわね」
「そうね。ナナコがお姉さん系ならこれはあたしたちと同い年くらいに見える」
セシリアと鈴の言葉に他の人たちも同意するように頷く。
「そうですね。このときは特に設定なんかを決めずにやったんですよ。で、その次にお姉さん系をコンセプトにしたのが『女装No.1 ナナコ』です」
なんか山田先生楽しそうだな。眼鏡を押し上げながら説明したら眼鏡がキラッと光った気がする。
「で、その次にやったのが、後輩とか年下をコンセプトにした『女装No.2 ナナミちゃん』です」
そう言って見せた写真には、金髪をサイドで括り、丸い輪っか状にしてリボンで止めた、IS学園(もちろん女子)の制服を着た俺だ。他の二つが俺の背丈に合わせて胸を大きめにしているのに対し、このナナミちゃんでは控えめとなっている。
ちなみにこれらの女装の名付け親は山田先生だ。
「へー。すごい。他の二つと全然雰囲気が違う」
「確かに年下っぽい」
写真を見たあっちやこっちで色々な感想が飛び交っている。
「いろいろ試行錯誤しましたかねー。メイクの雰囲気とか、服装の細かなところとか」
うんうん頷きながら言う山田先生。そう言えば一番俺の女装を楽しんでいたのは山田先生だった気がする。
「でも、やっぱりまだ信じられませんわね」
セシリアが俺の女装写真(ナナミ)を見ながら言う。
「確かに。この写真の中の人たちが全部ひとりの人間で、しかも男だなんてね」
セシリアの言葉に賛同する鈴。みな同じ意見なのか頷いている。
「だったら、どうせなら見せてやったらどうだ、梨野?」
「………は?」
今何とおっしゃいましたか織斑先生。見せるって女装を?
「いいですね。百聞は一見に如かずって言いますし」
織斑先生の言葉に山田先生も賛同する。
そこからのその場の意見が統一されるのは早かった。
どうせならナナ、ナナコ、ナナミ全種を見たいということになり、なぜか昼食後に俺の一人女装ファッションショー&撮影会が行われることになった。
ちなみに、男の女装は気持ち悪くないのかと訊く俺への解答は
「かわいいと美しいは正義。それが女でも男でも関係ない」
ということだった。やっぱりここの女子は全体的に変な人ばかりだった。
今回やこれまでの話で登場した航平の女装姿。
僕の描写が下手なせいでわかりずらいと思います。
そんな人は「トライピース 女装」で画像検索すると少しはイメージしやすくなるかと思います。