3話目だぜ~♪
セッシー&箒がでるぜ~♪
「う~む…」
見られてる。すっげぇ見られてる。
一時間目のIS基礎理論授業が終わっての休み時間、俺は自分の席(窓側&一番後ろ)に座り、頬杖をつきながら窓から外の景色を眺めている。背中にビシビシと突き刺さるような視線を感じていた。
ちなみにIS学園では限界までIS関連の教育をするために入学初日から授業がある。学校案内は無し。自分で地図見ろってさ。
ちなみに俺に向いている視線はクラスメイトだけのものではなかった。廊下にもほかのクラス、二、三年の先輩方が詰めかけている。行ったことないけど動物園の動物ってこんな感じなんだろうか。
女子だけの空間に慣れているせいなのかなかなか話しかけてくることはない。教室も廊下も『話しかけたいけど無理だから誰か行ってほしい。でも抜け駆けされるのは悔しい』と言った謎の緊張感が出来上がっていた。それに女子同士でもこそこそと話している。おそらく俺には聞こえていないと思っているのだろうが、結構聞こえてくる。
「あれが織斑くんと梨野くん?どっちもイケメンね」
「織斑くんはあの千冬様の弟なんだって?姉弟そろってIS操縦者なんだ」
「あっちの梨野くんって髪キレイ。女の子みたいだけど似合ってる~」
…全部まる聞こえだから結構恥ずかしい。ものすごく居心地が悪い。話しかけてくれた方が楽なんだけど。
そう思いながら近くの女子生徒の方を見る。その子もこっちを見ていたのか目が合う。あ、そらした。しかも『話しかけて』といった雰囲気はバンバンに伝わってくる。
よし、ここは同じ珍獣の織斑に話しかけよう。
そう思い、織斑の方に視線を持っていくと、ちょうど一人の女子生徒が話しかけているところだった。女子同士の牽制に勝ったのかとも思ったが、周りが少しざわついているあたりどうやらそうではないらしい。
その女子生徒は長い黒髪をポニーテールにしている。確か篠ノ之箒さんだったかな?平均的な身長なのだろうがどこか長身を思わせる。とても美人だと思うのだがなんだか不機嫌そうな顔をしている。
あ、織斑と一緒に出ていった。こうして俺には先ほどまで織斑に向いていた視線も引き受けるような形になった。
と言うかどうしよう。ISの参考書でも読んでようかな。
「ちょっと、よろしくて?」
視線を窓の外に戻しぼんやりしていたところに誰かが俺に声をかけてきた。
「へ?」
突然のことに素っ頓狂な声で返事をしてしまう。
俺に話しかけてきたのは、地毛の金髪が鮮やかな白人の少女だった。ブルーの瞳が少し吊り上がった状態でこちらを見ていた。髪がロールしていたり、腰に当てた手が様になっているあたり高貴ないい身分なのかもしれない。
ちなみにIS学園では無条件で多国籍の生徒を受け入れなくてはいけないという義務のせいで、いろいろな国籍の女子がいる。クラスの女子半分がかろうじて日本人だというくらいだ。
「確かセシリア・…オルコットだっけ?どうかした?」
「まあ! なんですの、その返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言う物があるんではないかしら?」
「……」
うーむ。これは前に織斑先生が言っていたような人種なのだろうか。そういう人に会ったことないからわからないけど、少し苦手かもしれない。
ISの出現により、世界各国は女性優遇の政策を行うようになった。それににより『女=偉い』と言う構図があっと言う間に浸透し、この十年で女尊男卑社会に至ったらしい。そうなると男の立場は完全に奴隷や労働力になったらしい。町中ですれ違った見ず知らずの女性にパシリをやらされる、なんてことも珍しくないらしい。顔がよかったり何か一芸に秀でているような奴は、アイドルだのなんだので女性に優遇されるらしいが…。
「悪いんだが、俺君のこと知らないんだ」
「そう言えばあなたは記憶が無いんでしたわね。それなら仕方がありませんわね」
俺の返事にオルコットが一人で納得している。いや、記憶あっても知ってたかどうか知らんが。
「わたくしの名前はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生にして入試首席ですわ」
「へ~、代表候補生なんだ。すごい」
「あら、記憶がないのに代表候補生については知ってますのね?」
セシリアが感心したように言う。
「まぁ、60日ほどで普通の日本人が9年かけて学ぶようなことと入学前に渡される必読の参考書で勉強したから」
勉強したというよりさせられた。あの時は大変だったなぁ。え?誰にって。鬼教官・織斑先生に。
「それで?俺に何か?」
「ええ。わたくしは優しいので、ISのことで…」
キーンコーンカーンコーン
あ、チャイム鳴った。
「えっと、チャイム鳴ったけど、続ける?」
「……続きは次の休み時間にしますわ」
そう言ってオルコットは席に戻っていく。あ、席近い。
何だったんだろう?
「席に着け、授業を始めるぞ!」
と、考えていたところに織斑先生と山田先生が教室に入ってくる。
そして、織斑と篠ノ之さんが教室に戻ってくると、
パァンッ!
「とっとと席に着け、織斑」
「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」
織斑にだけ出席簿で叩いていた。篠ノ之はいいのかな?
○
「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」
すらすらと教科書を読んでいく山田先生。内容がどっさりと積まれた教科書五冊あるが、それでも何とか付いて行っている。事前に勉強してなかったらやばかった。
ちらりと前を見ると織斑がまわりを気にするように見ている。
「織斑くん、何かわからないところがありますか?」
山田先生が織斑に問いかける。
「あ、えっと……」
織斑は開いている教科書に視線を落とす。
「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」
織斑の様子を見た山田先生がえっへんとでも言いたそうに胸を張った。妙に先生の部分を強調したような気がする。やっぱり自分の見た目が子供っぽいの気にしてるのかな?
「先生!」
「はい、織斑くん」
何か決意したかのように立ち上がり、山田先生もやる気に満ちた返事をした。
「ほとんど全部わかりません」
……元気よく言ってもダメなことって、あるよね。
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
案の定織斑の答えに山田先生が顔を引きつらせている。あらら、さっきまでの頼れる先生感が…。
「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
挙手を促す山田先生。
上がらない手。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
教室の端にいた織斑先生が問いかける。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パァンッ!
素直に答えた織斑の頭に出席簿が振り下ろされる。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」
織斑先生が呆れた表情を浮かべる。
「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい。やります」
ギロリと睨む織斑先生の言葉に織斑はうなだれるように返事をする。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても答えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」
まったくもって正論です。
でも俺はここに来たくて来たんじゃないんですが。
目が覚めたら何も覚えてなくて、仕方がないからここにいるっていう部分はあると思うんですが。
「おい、織斑、梨野。貴様等、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」
ギクリ。なんでばれた。と言うか織斑も同じこと考えてたのか。
「望む望まざるにもかかわらず、人は集団の中で生きてなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」
辛辣な台詞をどうもありがとうございます。要するに現実と直面しろと言いたいんだろう。
現実には嫌と言うほど直面しているんですが…。
「え、えっと、織斑くん。わからないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、がんばって? ね? ね?」
山田先生は両手をぐっと握って織斑に詰め寄っている。山田先生は織斑より身長が低いから、必然的に上目遣いになっていた。
「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」
そう言って、織斑は席に着く。織斑先生も教室の端に戻っていた。
「ほ、放課後……放課後にふたりきりの教師と生徒……。あっ! だ、ダメですよ。織斑くん。先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……」
山田先生はいきなり頬を赤らめてそんなことを言い始めた。そう言えば、俺が前にマンツーマンで勉強教えてもらった時も似たようなこと言ってたな。
そして山田先生の行動により、女子達が一斉に一夏を見ている。全部山田先生の妄想なのに。
「で、でも、織斑先生の弟さんだったら……」
「あー、んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ!」
妄想から戻ってこない山田先生を、織斑先生の咳払いが呼び戻す。
慌てて山田先生が教卓に戻って…あ、転んだ。
「うー、いたたた……」
いろんな意味で大丈夫なんだろうか。
だいぶ進んできましたね。
山田先生みたいな人は書いてて面白いですね。
次回もお楽しみに。