「おっかし~♪おっかし~♪」
鼻歌まじりに手足を大きく振って歩く布仏さん。
「ねえねえ、どんなお菓子買ってくれたの?ナッシー」
「ん?色々だな。いっぱいあったからどれにしようか迷って、そんなに値の張らないお菓子をいくつか買っといた」
「そっかー。どんなのかなー、楽しみだー」
布仏さんを見ているとルンルンという効果音が聞こえてきそうだ。終いにはスキップでもしそうだ。そんなに喜んでくれると買ってきた俺としても嬉しい。
と、そこで俺はコツンと小さな何かを蹴飛ばした感触がした。それが何なのか確認しようと屈んで拾う。
「なんだろうこれ」
俺が拾い上げたそれは親指サイズのキーホルダーだった。
数珠状の小さな金属のチェーンにぶら下がった人形。どこか昆虫を思わせる顔をしている。右手の拳を握り腰に添え、左手を右肩の前を通ってまっすぐに伸ばしている。首に巻かれた赤いスカーフが風になびいているようだった。腰のところにはチャンピオンベルトのようなものがついている。
「これは、仮面ライダーだねー。しかも初代だー」
「かめんらいだー?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げる俺。
「うん。簡単に言えばヒーローかなー。悪の組織と戦う正義の味方」
「へー」
言われてもう一度その人形に目を向ける。俺がチェーンの部分をつまんでいるので俺の顔の前でゆらゆらと揺れている。なるほど、確かになかなかかっこいいな。
「ちなみに、それはだいぶ丸っこくなってるけど、実物はちゃんと実写だよー」
「へー」
なんか興味がわいてきた。一度見てみたいな。
「でも、なんでこんなところにこれが?」
「んー。普通に考えたら誰かの落とし物じゃないかなー?」
「まあ、そりゃそうだな」
学園内にあったのに持ち主が学園外の人だったらおかしいだろう。
「どうしようか、これ」
「んー、このまま置いて行くのもあれだし、一応預かっといて明日先生に落し物として渡したら?」
「まあ、そうするのが一番いいかな」
頷いて、俺はそのキーホルダーをズボンのポケットに入れる。
「よし、部屋に戻るか」
「うん!おっかし~♪おっかし~♪」
さっきのように鼻歌まじりに大股で歩く布仏さん。その後ろをついて行く俺。
「ん?」
少し進んだところで、分かれ道にやってくる。そこで普通なら右に行くのだが、真っ直ぐに進むその先に床をきょろきょろと見ている女の子がいた。
「どうしたの、ナッシー」
立ち止まった俺を不審に思ったのか布仏さんがまがった先で首を傾げている。
「……悪い。先に戻っててくれ。ちょっと用事が出来た」
「えー、でも…」
「お菓子は俺の机の上にある黒いエコバックの中だ」
「飲み物準備して待ってるから早くねー」
満面の笑みとともにスキップで部屋に行く布仏さん。最近布仏さんの扱いに慣れてきた気がする。
「さてと…」
布仏さんを見送ってから、俺は体の向きを変えて真っ直ぐに進む。
「あの…」
床をきょろきょろと見ている女の子の元に行き、声をかける。
「………」
俺の言葉を聞いて、女の子が顔を上げる。セミロングの髪が癖毛なのか内側にはねている。どこか陰りのある女の子だった。眼鏡越しの瞳が俺をとらえている。
「……何?」
俺の顔をじっと見つめたままその女子が口を開く。
「えっと、何か探してるのか?」
「……………」
俺の問いへの答えは沈黙だった。
「あの……」
「……キーホルダー。落としたから……」
あ、答えてくれた。
「それって、もしかしてこれか?」
俺はポケットに手を入れ、先ほど拾ったキーホルダーを取り出す。
「っ!」
「さっき向こうで拾ったんだ。これで合ってるか?」
「……うん、それ」
「そっか。じゃあこれ」
俺は持っていたキーホルダーを差し出す。相手が出した右手に乗せる。
「あ、あの、……ありがとう」
「おう。よかった、持ち主見つかって」
礼を言う女子に俺は笑顔で答える。
「俺、梨野航平。よろしく」
「し、知ってる。……噂で聞いてる。あと、本音に聞いてる」
「ん?本音?」
「うん。…布仏本音」
「へー、布仏さんと知り合いだったのか。えっと…」
「あ、……私は、更識簪」
「更識さんか。よろしくな」
「よ、よろしく……」
「ところでさ、更識さん――」
そこで俺はずっと思っていたことを訊くことにする。
「――それって、仮面ライダーって言うんだよな?」
「うん、そう……」
「俺記憶ないから知らないんだけど、それって面白いの?かっこいいから興味湧いてさ」
「お、面白い…」
なんかさっきまでより語調が強くなった気がする。
「そっか。じゃあ何かの機会に見てみようかな」
この世にはレンタルビデオというものがあるらしいし、そこで今度の休日にでも借りてくるかな。
「あ、あの……」
「ん?」
「よかったら……DVD貸そうか?」
「え?いいのか?」
俺の言葉に頷く更識さん。
「じゃあ……本音に託けると思うから……」
「おう。ありがとう」
俺の言葉に首を振る布仏さん。
「お礼と……布教活動…だから……。それじゃあ……」
「おう。またな」
そう言って俺は更識さんと別れた。
○
「ただいま」
「おかえりー」
部屋に戻ってきた俺に一足先に帰って来ていた布仏さんが出迎える。
「さあさあ、早くお菓子食べようよー」
俺の左手を掴んで布仏さんが机の方にぐいぐいと引っ張る。
「先に食べててよかったのに」
「ナッシーと食べたかったのー」
椅子に座り、机に広げられた俺の買ってきたお菓子とジュースに目を向ける。
「じゃあ、いただきまーっす」
手を合わせて言ったあと、目の前のお菓子の袋を手に取る布仏さん。
「そふひへばひょうひっへはんはっはほー?」
「飲み込んでからしゃべりなよ」
お菓子を頬張りながらしゃべる布仏さんに俺がジュースの入ったコップを渡す。
「んっく、んっく、ぷはー。うまい!」
お菓子をしっかり飲み込み、ジュースを飲んだ布仏さんが笑顔で言う。
「で、用事って何だったのー?」
「あー、キーホルダーの持ち主っぽい人がいたから声かけてた。案の定持ち主だった」
「へー」
「あ、お前の知り合いだったぞ。名前は更識簪って言ってた」
「あ、かんちゃんかー」
「か、かんちゃん?」
簪だからかんちゃんか。布仏さんのいつものあだ名らしい。
「かんちゃんならあれは納得だなー。かんちゃん特撮とか漫画とかアニメ好きだし」
「ふーん。布仏さんは更識さんと仲いいの?」
「まあねー。幼なじみだし、私の家は更識家の使用人の家系だし」
「使用人って…あの使用人?布仏さんが?」
「そうだよー。ちなみに更識家の人はこの学園にもう一人いて、私はかんちゃんの専属メイドなんだー」
「へー」
あの子使用人がつくほどの家柄だったのか。しかも家系的な使用人って…。
「そう言えば、もう一人のお嬢様がそのうちナッシーに挨拶に行くって言ってた」
「へ?なんで?」
見ず知らずの俺になんで?
「その人って何者?」
「それは会ってからのお楽しみー」
布仏さんはもったいぶって楽しそうに笑っていた。
いったいどんな人が来るのやら。
てなわけでかんちゃんこと更識簪登場。
簪ちゃんもかわいいですよね~。
ああいう無口っ子もいいですよね~。
しかもオタク少女。
ありですね!