IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第35話 思春期だもの

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はい!」

 

 今日は合同実習なので人数はいつもの倍になっている。聞こえてくる返事も妙に気合の入ったものだった。

 

「くうっ……。何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」

 

「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」

 

 叩かれたところがまだ痛むのか、セシリアと鈴は涙目になりながら頭を押さえている。

 ずいぶん不穏なことを言ってるけど、自業自得じゃないかな鈴。

 どかっ!

 

「なんとなく何考えているのかわかるわよ……」

 

 一夏を蹴る鈴。やっぱり一夏の周りはエスパーだらけだ。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

 あらら、完全なとばっちりだ。でもまあ、鈴と一緒に騒いでたんだししょうがないんじゃないかな。

 

「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」

 

「だからってどうしてわたくしが……」

 

「一夏のせいなのになんでアタシが……」

 

(なあ、俺が悪いの?)

 

(さぁー)

 

 小声での一夏の問いに首を振る俺。

 

「お前らすこしはやる気を出せ。――アイツにいいところを見せられるぞ?」

 

 ん?織斑先生が今何か言った?

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

 なんか急に二人がやる気になった。あれか?一夏がらみか?

 

「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「慌てるなバカども。対戦相手は――」

 

 キィィィン……。

 ん?なんだ、この空気を切り裂くような音は。まさか――

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

 あ、まずい。

 ドカーン!

 声の聞こえた方を見るが、時すでに遅し。謎の飛行物体の突進を、俺は咄嗟に展開した打鉄で受け止めようとするが、吹き飛ばされる。ちなみに同じようにぶつかった一夏は白式を展開して謎の物体とともに数メートル地面を転がって行った。

 

「いって~」

 

 打鉄を解除して上体を起こした俺が見たものはISを展開した状態の山田先生を押し倒して胸を鷲掴みにする一夏の姿だった。

 

「あ、あのう、織斑くん……ひゃんっ!」

 

 何かを確かめるように何度も山田先生の胸を揉む一夏。

 

「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。いえ! 場所だけじゃなくてですね! 私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね! ……ああでも、このまま行けば織斑先生が義姉ねえさんってことで、それはとても魅力的な――」

 

 うん、山田先生は相変わらずの妄想具合なようだ。

 そして、この状況でいまだ山田先生の胸から手を離さない一夏。

 べ、別に羨ましいとか思ってないからな!

 ギュムー!

 そんな俺の思考は頬をつねられた痛みで掻き消される。

 

「……ひはひへふ、ほほほへはん」

 

「むー。今ナッシー鼻の下伸びてたー」

 

 なぜか不機嫌な布仏さん。

 

「ほはひはっへひひははいは、ひひゅんひはほほ」

 

「相田みつをか!」

 

 お、通じた。ちなみに今のは「伸ばしたっていいじゃないか、思春期だもの」と言っていました。

 

「ぶー」

 

 文句ありげな目をしながら布仏さんが手を放す。あー痛かった。

 俺はつねられていた頬をさすりつつ一夏の方に顔を向ける。

 現在一夏はセシリアからのレーザー攻撃をよけた状態で固まっている。あ、鈴が《双天牙月》を大きく振りかぶって投げた。間一髪で避けるが、そのままの勢いで仰向けに倒れる一夏。そんな一夏に向かって方向転換し戻ってくる《双天牙月》。その形状からブーメランのように戻ってくるらしい。……って!

 

「んなこと思ってる場合か!?」

 

 そう叫びながら立ち上がるが間に合いそうにない。

 ドンッドンッ!

 短く二発聞こえた火薬銃の音に俺が足を止める。弾丸は的確に《双天牙月》の両端を叩き、その軌道を変える。

 キンッキンッと地面に薬莢が跳ねる音を聞きながら、俺は一夏の危機を救った人物に目を向ける。それはアサルトライフルをしっかりと両手でマウントする山田先生だった。

 何よりも驚きなのは山田先生の姿で、倒れたままの体勢から上体だけをわずかに起して射撃を行ってのあの命中精度だ。いつものバタバタとした子犬のような雰囲気はどこへやら。落ち着き払っている。

 

「…………」

 

 どうやら驚いているのは俺や一夏だけではなく、セシリアや鈴はもちろん、他の女子も唖然としていた。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし」

 

 謙遜しているが、先ほどの射撃を見ていると候補生でも十分にすごい。てか、いつの間にか雰囲気がいつもの山田先生に戻っている。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」

 

「え?あの、二対一で……?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける」

 

 負けると言われたことが気に入らなかったのか、セシリアと鈴の瞳に闘志がたぎる。特にセシリアにとっては一度勝っている相手だというのも大きいだろう。

 

「では、はじめ!」

 

 号令とともにセシリアと鈴が飛翔する。それを目で一度確認してから、山田先生も空中へ躍り出た。

 

「手加減はしませんわ!」

 

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

「い、行きます!」

 

 言葉こそいつも通りの山田先生だが、その眼は先ほど一夏を助けたときのように鋭く冷静なものへと変わっていた。先制攻撃をしたのはセシリアと鈴だったが、それは簡単に回避された。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あっ、はい」

 

 織斑先生の指示を受け、シャルルがしっかりとした声で説明を始める。

 

「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です――」

 

 シャルルの説明を聞きつつも、俺は空中での戦いに目を向ける。

 そこでは二対一という不利なはずの状況で互角に戦う山田先生の姿があった。いや、あれは互角ではない。山田先生の攻撃は二人に避けられるように放たれたものばかりだ。では、なぜそんな攻撃をするのか。それは、二人をうまく誘導し、いっきに攻撃するためだろう。その証拠に山田先生の攻撃を避けていた二人がお互いにぶつかってしまう。

 

「デュノア、いったんそこまででいい。……終わるぞ」

 

 見ると、山田先生の射撃がセシリアを誘導し、鈴とぶつかったところでグレネードを投擲。爆発の煙から二つの影が地面に落下した。

 

「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……」

 

「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ……」

 

「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちの台詞よ!なんですぐにビットを出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐっ……!」

 

「ぎぎぎぎっ……!」

 

 なんというか、二人の主張がそこそこあってるのがより一層みっともない。これで専用気持ちの代表候補生のイメージがどんどん落ちていくだろう。

 結局二人のいがみ合いは一、二組の女子のくすくす笑いが起こるまで続いた。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 ぱんぱんと手を叩いて織斑先生がみんなの意識を切り替える。

 これってやっぱり、普段生徒からなめられている山田先生への配慮だったのだろうか。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では七人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちと梨野がやること。いいな?では分かれろ」

 

 織斑先生が言い終わるや否や、俺と一夏とデュノアの元に女子たちが殺到。

 

「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

「梨野君、わかんないところ教えて~」

 

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」

 

「ね、ね、私もいいよね?同じグループに入れて!」

 

 なんというか予想通りだ。ちなみに俺の元に一番早く来た布仏さんは何も言わずになぜか俺の背中におぶさっている。

 

 その状況を見た織斑先生は面倒くさそうに額を指で押さえながら低い声で言った。

 

「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」

 

 織斑先生の鶴の一声により各専用機持ち+俺のグループ分けは二分とかからず完了した。

 

「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」

 

 ため息を漏らす織斑先生。それにバレないようにしながら、各班の女子はぼそぼそとおしゃべりをしている。

 

「……やったぁ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ……」

 

「……うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。はぁ……」

 

「……鳳さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」

 

「……デュノア君!わからないことがあったら何でも聞いてね!ちなみに私はフリーだよ!……」

 

「……梨野君だ。やったねっ。今日ほどこの名字でよかったって日はないわ……」

 

「…………………………」

 

 ちなみに例のドイツからの転校生ラウラ・ボーデヴィッヒの班だけはおしゃべりがない。グループリーダーの雰囲気や視線がコミュニケーションを拒んでいる。あそこの班の子がかわいそうに見えてくる。

 

「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一斑一体取りに来てください。数は『打鉄』、『リヴァイヴ』がそれぞれ三機づつです。好きな方を班で決めてくださいね。あ、速い者勝ちですよー」

 

 山田先生がいつもの五倍はしっかりして見える。先ほどの模擬戦で自信が出たのだろう。

しかし堂々とした態度を見せるのは良いんだが、十代の乙女には無い豊満な胸までも惜しげなく晒すのは…。特に山田先生が時折見せる眼鏡を直す癖。それをする事であの大きな胸に自らの肘が触れて、弾力があって柔らかい果実を揺らしている。正直、目が行ってしまう。自分、男なんで。

 

「む~~~」

 

 ギュウ~~~~!

 

「ぐるじいです、布仏ざん」

 

 俺の背中におぶさって俺の首に回していた手に急に力が籠められる。

 

「む~~~」

 

 しかし俺の言葉は聞き入れてもらえない。布仏さんの手を何度かタップし、ギブの意思を示す。

 そんな俺の反応で渋々といった顔で布仏さんが手を放す。

 

「急に首絞めるのはやめてよ、布仏さん」

 

「つーん」

 

 あらら、へそ曲げてる。なんで不機嫌になってんの?

 いくら考えても分からないので、とりあえず用意されているISを取りに行く。

 

「自分の使ってる機体だし、『打鉄』の方が教えやすいかな」

 

 打鉄を借りて、布仏さんたちの元に戻った俺の耳にオープンチャネルでの音声が聞こえてくる。

 

『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』

 

 どうやら、とりあえずは装着と歩行をやればいいようだ。

 

「じゃあ、俺が手伝って装着を行うから、そこから歩行をしようか」

 

「「「「は~い」」」」

 

「じゃあ、出席番号順に――」

 

『はいはいはーいっ! 出席番号一番! 相川清香! ハンドボール部! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!』

 

『お、おう。ていうかなぜ自己紹介を……』

 

『よろしくお願いしますっ!』

 

 俺が最初の人物を指名しようとした時、一夏の班で相川さんが自己紹介をして深く礼をしながら右手を差し出していた。その事に一夏が戸惑っている。

 

『ああっ、ずるい!』

 

『私も!』

 

『第一印象から決めてました!』

 

 相川さんの行動に一夏の班にいる他の女子達も同様に頭を下げたまま右手を突き出していた。

 

『『『お願いしますっ!』』』

 

 更に見ると、シャルルの班でも女子達がお辞儀と握手待ちの手を並べていた。

 

『え、えっと……?』

 

 シャルルも戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「何やってんのあれ?」

 

「あれはね――」

 

 俺の疑問に答えようとした布仏さんを遮るように、うち班の女子たちも

 

「いいなー」

 

「じゃあ、わたしたちも!」

 

 と、言いだす人たちが現れる。

 

「あ、ストップ!やめといた方がいいよ。たぶんこういう場合…」

 

 班の女子たちを止めつつ、シャルルたちの班に視線を戻すと

 スパーン!

 

『『『いったああっっ!』』』

 

 織斑先生に頭を叩かれ、見事にハモって悲鳴をあげていた。一列に並んでいるからさぞ叩き易かったことだろう。

 

『やる気があってなによりだ。それならば私が直接見てやろう。最初は誰だ?』

 

『あ、いえ、その……』

 

『わ、私たちはデュノア君でいいかな~……なんて』

 

『せ、先生のお手を煩わせるわけには……』

 

『なに、遠慮するな。将来有望なやつらには相応のレベルの訓練が必要だろう。……ああ、出席番号順ではじめるか』

 

『『『ひぃっ』』』

 

 織斑先生の言葉が彼女たちには死刑宣告に聞こえたことだろう。南無。

 

「ああなってもいいなら――」

 

「うん、真面目にやろう」

 

「そうだね、これは授業なんだから」

 

「さあ、梨野君。私たちにISのことを教えてちょうだい」

 

 さっきまで浮ついた雰囲気はどこへやら。いっきに真面目モードになった俺の班員たちであった。




山田先生みたいな先生がいれば思春期な男子高校生には目に毒でしょうな。

ちなみに主人公が相田みつをの詩を知っていたのは、山田先生にお勧めしてもらった本の中に入っていたからです。
別に今考えたわけじゃないですよ?


追伸
これまでの描写で航平くんの傷跡の向きを間違えていました。
正しくは「右肩から左の脇腹にかけて」でした。
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