残念昼食でした~。
「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」
時間ギリギリにはなったが、何とか全員の起動テストが終わった。ISを格納庫に移した俺たち一、二組合同班は再びグラウンドに整列していた。本当に時間いっぱいだったので全員が全力疾走。これでまた遅れでもしたら、鬼教師の特別授業が追加されてしまっていただろう。
そんなこんなで肩で息をしている俺たちに連絡事項を言って、山田先生とともに織斑先生はさっさと引き上げていく。
「あー……。あんなに重いとは……」
「まったくだよ。すっげえ疲れた」
訓練機はIS用のカートで運ぶのだが、このカートは動力なんてない。「人力」オンリーだ。
「お前のところの班はお前一人で運んでたな」
「まあな。でも、男の俺が運ばないで女子に運ばせるっていうのも普通におかしいというか、ありえないからいいんだけど」
「わからんでもないけど……」
確かに男の俺たちが女の子たちに仕事を押し付けるのはあまりいいことではないと思う。
ちなみに俺の班は全員で協力して運んだ。シャルルの班は「デュノア君にそんなことさせられない!」と数人の体育会系女子がそう言って訓練機を運んでいた。なんか三者三様な扱いだな。
「とりあえず、着替えに行くか」
「そうだな。シャルルも一緒に着替えに行こうぜ。俺たちはまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」
「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしてからいくから、先に行って着替えててよ。時間がかかるかもしれないから、待ってなくていいからね」
「いや、別に待ってても平気だぞ?」
「おう。俺も待つのには慣れ――」
「い、いいからいいから!僕が平気じゃないから!ね?先に教室に戻っててね?」
「お、おう。わかった」
「じゃあ、先行ってるからな」
シャルルの妙な気迫に押され、俺たちは頷いた。なんでこんなに必死なんだろうか。
「あ、そうだ」
更衣室に向かう途中、一夏が何か思い出したように言う。
「航平、昼って空いてるか?箒に昼飯に誘われてさ。けど俺だけってのもなんだし、良かったら一緒にどうだ?シャルルも誘うつもりなんだけど」
「………エンリョシトク」
一夏の鈍さに驚愕しつつ俺は断る。
その後何度も誘われたが、最終的にシャルルに学食案内する約束になっているということにしてどうにか回避したのだった。あとでシャルルにも口裏を合わせてもらわないと。
○
「へー、ここが学食かー。結構混んでるね」
「まあな。お昼だし、俺たちは着替えがあったから出遅れたしな」
着替え後、実際にシャルルに声をかけ、ともに学食にやって来た俺たちは、学食の込み具合に圧倒されつつ、食券を買うために列に並んでいた。
「あれが噂の転校生?かっこいい~」
「梨野君と並んでると絵になるわね」
「超絶美少年の梨野君と貴公子のデュノア君、アリね!」
「女装した梨野君をデュノア君が…。いける!これでこの夏ぼろ儲けね!」
なんか最後の方は不穏な声が聞こえた気がするが気にしない方向で。今日の学食が混んでいるのはどうやら転校生のシャルルを一目見ようとやって来ている人もいるようで、その込み具合はいつもの比ではなかった。空気読めてなくても一夏たちと一緒に行った方がよかっただろうか。
「お、俺たちの番だな」
券売機のところまでやって来た俺たちは並んでいるメニューに目を向ける。
「今日は…お!日替わりがサバ味噌定食か。俺それにしようかな。シャルルは何にする?」
「んー、どうしようかな。何かおすすめはある?」
「おすすめか。ここのごはんはどれもおいしいから全部おすすめだな。強いて言うならここのサバ味噌は絶品だぜ」
「じゃあ僕もそれにしようかな」
「おう。じゃあ日替わり二つだな」
券売機にお金を入れ、食券を取る。
ちなみに今日は大所帯にならないように二人で来ている。本当は三人目の男子争奪戦とばかりに一年一組には圧倒されるほどの女子が大挙して押し寄せてきたのだ。そんな女子達に貴公子のシャルルは、丁寧で見事としか言いようのない対応でお引取り願っていた。
女子一同はシャルルのそんな超絶丁寧な対応と姿に強くアピールするのが逆に恥ずかしくなったのか、嬉しいような困ったような顔をして引き上げて言った。何せその時のシャルルのセリフが、
『僕のようなもののために咲き誇る花の一時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』
こんなキザなセリフもシャルルが言えばまったく嫌味に聞こえない。本当にそう思ってるという感じの態度や堂々とした雰囲気の中にある儚げの印象がその言葉の輝きを引き立たせていた。それでいてどこか優しいと言うのが更に良かったのだろう。手を握られた三年の先輩が速攻で失神していた。俺がもし女で、同じセリフを言われたら確実に惚れていたね。
まあそんなこんなで俺はシャルルを誘って(一夏に対しては事情を話して口裏を合わせてもらい)、今現在学食にいるというわけだ。
ちなみに、一夏はあの後俺以外にもセシリアと鈴を誘っていたので、結局箒の一夏と二人っきりでの食事計画は失敗したことだろう。許せ箒。俺には真実を言って一夏を止めることはできなかった。
「おばちゃん、日替わり二つ」
「あいよ」
俺が差し出した食券をカウンターを挟んでキッチン側にいる恰幅のいいおばちゃんに渡す。
「あ、そうだ。おばちゃん、転校生のシャルル。三人目の男子だよ」
「シャルル・デュノアです」
「あら、あんたが噂の三人目かい。よろしくね。何か要望があったら言っとくれ。食べられないものとか」
「はい、その時はお願いします」
おばちゃんの言葉にシャルルが笑顔で答える。
「あ、じゃあさっそくですけど箸じゃなくてフォークでお願いします」
「あいよ」
シャルルのお願いを笑顔で聞くおばちゃん。
「おばちゃんのごはんはどれもおいしいから、好き嫌いとかなくなるぜ」
「おやおや嬉しいこと言ってくれるね。サービスでデザートにお饅頭付けといたげる」
「お、やった!ありがとうおばちゃん」
おばちゃんにお礼を言いつつ次の人に順番を譲る。
「いい人だろ?」
「そうだね」
俺の言葉にシャルルも笑顔で頷く。
「なんか学校生活とかで困ったことがあったら俺や一夏に言ってくれ。なんでも協力するぞ」
「ありがとう。航平は優しいね」
シャルルの言葉に俺は一瞬ドキッとする。落ち着け俺、シャルルは〝男〟だ…よな?
そんなことを考えていたところで先ほどのおばちゃんがトレーを二つ運んで来てくれた。
「あいよ、日替わり二つお待ちどうさま」
「お、ありがとうございます。わあ今日もおいしそうだ」
トレーを受け取り、シャルルとともに空いた席を探す。しかし生憎今日の込み具合では空いた席もなかなか見つからない。
「ダメだ、どこも空いてないな」
「あ、あそこが空いて…あ」
シャルルが一つのテーブルを指さすが、そこにいた先客の姿に言葉を止める。見るとそこには銀髪の少女が座っていた。
「まあ、しょうがないか……」
俺はシャルルとともにその席に向かい、先客に声をかける。
「相席いいかな?」
「………」
俺の言葉に先客――ラウラ・ボーデヴィッヒが食事の手を止め、顔を上げる。
「………」
数秒間じっと見つめられた後、無言のままボーデヴィッヒさんは食事を再開する。よく見ると俺たちと同じ日替わり定食だった。
「無言は肯定とみなす、ってことでいいかな?」
「………」
俺の言葉に無言で返すボーデヴィッヒ。
「失礼しまーす」
俺はシャルルを奥に座らせ、ボーデヴィッヒさんの向かいに座る。
「いただきまーす」
「い、いただきます」
二人で手を合わせて合掌。
「うん、うまいうまい」
「おいしい」
この味噌と煮込んだ鯖がなんとも言えないいい味を出している。ご飯が進む。
「くっ……。うっ……」
どこからか苦悩するような声が漏れ聞こえる。顔を上げると向かいのボーデヴィッヒさんが使いなれていないのか、苦戦しながら箸を使っていた。正直見ていてハラハラする。どことなくいつもと雰囲気が違ってかわいらしく見えた。
「フォーク使えばいいんじゃないか?」
「…………」
俺の言葉に一瞬手を止めるがすぐに食事を再開するボーデヴィッヒさん。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「……なんだ?」
ボーデヴィッヒさんが俺の言葉に数秒の間を空けて答える。
「なんで一夏をひっぱたいたんだ?」
「貴様には関係ないだろう?」
「そうかもしれないけど…一夏は俺の友達だしな。友達が目の前で殴られたら、その理由が知りたくなるってもんじゃないか?」
「ふっ、くだらん」
俺の言葉を一笑するボーデヴィッヒさん。その態度に俺は少しむっとする。
「私からも一つ質問だ」
「ん?」
「貴様は教官とどういう関係だ?」
「教官?……ああ、織斑先生か」
一瞬誰のこと言っているのかわからなかった。
「ん~、織斑先生は俺の身元保証人だな。あと、俺の師匠でもあり、目標だな」
「目標?」
俺の言葉にボーデヴィッヒさんが興味を持ったようだった。
「俺、記憶ないから、とりあえず強くなりたいんだ。強くなって有名になって俺のことを知ってる人を探す。そのためにトレーニングしてるし、毎週土曜には織斑先生に稽古付けてもらってる。間近で感じるとあの人の強さはすごいと思う。だから、織斑先生みたいに強くなりたい。だから〝目標〟」
「ほう。教官を目標にするとは、なかなか目の付け所がいいな。だが――」
俺の言葉にボーデヴィッヒさんが口を開く。
「お前のような奴が、教官のようになれるかな?」
「さあ?でも、初対面のやつをいきなりひっぱたくやつよりは望みはあるんじゃないかな?」
皮肉を込めて返してやると、今度はボーデヴィッヒさんが少しむっとした表情になる。
「貴様、私に喧嘩を売っているのか?」
「いやいや、そんなつもりはないよ。大体理由がない。理由のない争いはしたくない」
俺の言葉を聞いてもボーデヴィッヒさんの表情は晴れない。
「ま、あんまりピリピリするのはよくないぜ?これでも食べてリラックスしたら?」
そう言って俺はトレーの上に二つあった饅頭のうちの一つをボーデヴィッヒさんのトレーに乗せる。
「なんだこれは?」
「お饅頭。これでも食べて少し気分替えたら?」
「ふんっ、余計なお世話だ。こんなもの――」
「ちなみに、お饅頭は日本のお菓子だから織斑先生も好きかもね」
「………まあ貰っておこう。例は言わんぞ」
俺の言葉に一瞬の間をおいて、掴んでいた饅頭を自分のトレーに戻すボーデヴィッヒさん。
「ほい、じゃあもう一個はシャルルに」
「え、いいの?僕が貰ったら航平の分がなくなるけど…」
「いいんだよ。もともと俺とおまえの分だったんだ。それを俺がボーデヴィッヒさんに一個あげたんだから」
おばちゃんは何も言ってなかったけど、二つあったってことはそう言うことだろう。
「……じゃあ、半分こしよ」
そう言って手で饅頭を半分にするシャルル。そのうち半分を俺のトレーに乗せる。
「え、いいのか?」
「いいんだよ。これは僕の分なんでしょ?じゃあ、僕がどうしようと僕の勝手でしょ」
「ありがとう」
俺が礼を言うとシャルルが笑顔を見せる。うん、やっぱりいい奴だなシャルルは。
「さて、とっとと食っちまおう。午後の授業も遅れるわけにはいかないしな」
「うん、そうだね」
「………」
俺の言葉にシャルルは返事をし、ボーデヴィッヒさんは無言。まあもともと一緒に食べてたわけではないから期待はしてないけど。
そんなこんなでなんとも不思議な空気の中の昼食となった。
シャルルみたいなセリフをさらっと言えるようになりたいですね。
まあ、今の僕なら言った瞬間羞恥で顔真っ赤でしょうけどね。