「おいっす」
「おう、いらっしゃい」
夜。夕食後に一夏とシャルルの部屋に訪れた俺は二人に迎え入れられる。今日ここにやって来たのは男子三人で親睦を深めるためである。
「さて、何する?」
「「うーん……」」
シャルルの問いに俺と一夏がうなる。正直ノープランだ。マジで何しよう。
「あ!ちょうどいい。今日知り合いに昔の特撮ヒーローのDVD借りたんだけどこれから見ないか?」
「お、面白そうだな」
「日本のヒーローか。ちょっと興味あるかな」
二人の賛同もいただいたことだしさっそく部屋までDVDを取りに戻る。
今日寮に帰った時、更識さんは早速布仏さんに託けていてくれたらしく、布仏さんから三本ほどDVDの入った袋を渡された。中身を確認すると表紙にはあの時見たキーホルダーのヒーローが映っていた。
DVD片手に再び一夏たちの部屋へ。
というわけで、急遽「特撮ビデオの上映会」となった。
寮の部屋の設備は素晴らしいので、部屋一部屋一部屋に大画面薄型テレビが設置され、DVD&BD機器も完備。それどころかVHSまで見られる。金かけすぎじゃね?と一夏が以前驚いていた。
テレビの画面の中では主人公がとんでもないバイクテクを披露しながら敵怪人をバッタバッタと薙ぎ払っていた。そして変身シーン。バイクにまたがった状態で変身する主人公の姿はかっこよかった。
「ふう、面白かった」
気付けばいつの間にか借りていたDVDを全部見終わっていた。
「俺も初代の仮面ライダーは見たことなかったから新鮮だったよ」
「日本のこういう文化はすごいね。引き込まれちゃったよ」
一夏もシャルルも楽しんでいたようだ。
その後、一夏が入れてくれたお茶を飲みながら談笑。これまでにあったIS学園での生活を話していると、すぐに時間は過ぎて、もうすぐ消灯時間という時間になった。
「もうこんな時間か。そろそろ俺も部屋に帰らないとな」
「そうだな。俺たちもそろそろ寝る支度しないとな」
「そうだね」
俺の言葉にふたりも時計を見ながら頷く。
「あ、そう言えば、二人は放課後にいつもISの特訓してるんだよね?」
「ああ。俺らは他のみんなから遅れてるから、地道に訓練時間を重ねるしかないからな」
一夏の言葉に俺も頷く。今日はシャルルの引っ越しを手伝ったので休みにしたが、もうすぐ学年別トーナメントがある。明日からはまた再開しないと。
「僕も加わっていいかな?何かお礼がしたいし、専用機もあるから少しくらいは役に立てると思うんだ」
「おお、そりゃありがたい」
「ぜひ頼む」
「うん。任せて」
シャルルの申し出をありがたく受け取り、俺は二人の部屋を後にする。いやはや本当にシャルルはいい奴だ。
そして、それだけに俺は会った時から感じるシャルルの違和感が気になっていた。シャルルは本当にいい奴だ。気遣いもできるし物腰も丁寧だし。しかし、何か感じる。シャルルの行動、シャルルと会話するとその端々で何かを感じる。まるで何かが食い違っているような。そして俺はそれに見覚えがある気がする。一体どこで見たのだろうか。どこで感じたのだろうか。
結局考えても答えは見つからず、気付けば自分の部屋を通り過ぎていた。
○
「ええっとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「そ、そうなのか?一応わかっているつもりだったんだが……」
「……………」
シャルルが転校してきてから五日が経った。今日は土曜日で、IS学園では午前は理論学習、午後は完全に自由時間になっている。まあ土曜日はアリーナが全開放されるのでほとんどの生徒が実習に使う。そしてそれは俺たちも同じで、今日もこうしてシャルルにIS戦闘のレクチャーを受けている。
のだが、正直俺は集中していない。この五日間、俺は初日から感じている違和感の正体を探っている。………まあ実はもうその違和感の正体に気づいてはいるのだが、なんとなく信じられないでいる。だが、俺の予想が正しければこれまでのシャルルのおかしな行動にも腑に落ちるのだ。
これまでシャルルは普段はとても親切でいい奴だ。だが、なにかの拍子に急にぎこちなくなる。例えば訓練後の更衣室にて、
『おーい、シャルル。そこのタオル取って』
『こ、航平っ。なんで服着てないの!?』
『いや、着るためにタオルで汗ふきたいんだけど』
『あっ、そうか!はい、タオル!』
『どうしたの?』
『な、何でもないよ!』
………うん。怪しすぎる。しかし、俺の考えていることが正しければ。おそらくシャルルは――
「ねえ、航平はどうする?」
「へっ!?」
シャルルに急に名前を呼ばれ、声が裏返ってしまう。
「どうしたの航平?」
「い、いや?なんでもないぞ?」
「「???」」
俺の言葉に一夏もシャルルも納得していないように首を傾げている。
「えっと、すまん聞いてなかった」
「だから、俺が射撃の特性についてわかってないから射撃訓練するけど、お前はどうする?」
「あー、はいはいその話ね。……俺は見てるよ。俺ってたぶん射撃とか向いてないし」
「そう。…まあ気が向いたらやってみようよ」
「おう。ってあれ?そう言えば他のやつの装備って使えないんじゃないのか?俺らがシャルルの装備は使えないんじゃないのか?」
「普通はね。でも所有者が使用承諾すれば、登録してある人全員が使えるんだよ。――うん、今一夏と白式に使用承諾を発行したから」
シャルルから銃を受け取った一夏は緊張した表情になる。
「か、構えはこうでいいのか?」
「えっと……脇を締めて。それと左腕はこっち。わかる?」
素人同然の銃の構えをする一夏の後ろに回り、シャルルがうまく誘導する。
「火薬銃だから瞬間的に大きな反動が来るけど、ほとんどはISが自動で相殺するから心配しなくてもいいよ。センサー・リンクは出来てる?」
「銃器を使うときのやつだよな? さっきから探しているんだけど見当たらない」
あれ?そう言うターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送る為に武器とハイパーセンサーを接続する事に関しては、普通はどのISでも付いてる物だと聞いたはずなんだけど。
「うーん、格闘専用の機体でも普通は入っているんだけど……」
シャルルも首を傾げている。やはり白式は相当に厄介な機体らしい。
「欠陥機らしいからな。これ」
「一〇〇パーセント格闘オンリーなんだね。じゃあ、しょうがないから目測でやるしかないね」
そして、一夏が引き金に指をかける。
バンッ!
「「うおっ!?」」
ものすごい火薬の炸裂音に俺と一夏は同じように驚く。
「どう?」
「お、おう。なんか、アレだな。とりあえず『速い』っていう感想だ」
「そう。速いんだよ。一夏の瞬時加速も速いけど、弾丸はその面積が小さい分より速い。だから、軌道予測さえあっていれば簡単に命中させられるし、外れても牽制になる。一夏は特攻するときに集中しているけど、それでも心のどこかではブレーキがかかるんだよ」
「だから、簡単に間合いが開くし、続けて攻撃されるのか……」
「うん」
ふむふむなるほど。それで一夏は鈴やセシリアとの戦いであんなにも一方的な戦いになるのか。
「あ、そのまま続けて。一マガジン使い切っていいよ」
「おう、サンキュ」
シャルルの言葉に頷き、一夏が銃を何発か撃つ。
「そういえば、シャルルの機体もラファール・リヴァイヴなんだよな?前に見た山田先生の機体と違うように見えるんだけど」
「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラフォール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてある」
「倍?それはすごいな。一夏の白式もそれくらいあればいいのに」
「あはは。そうだね。そんなカスタム機だから今量子変換してある装備だけでも二十くらいあるよ」
「二十!?ちょっとした火薬庫だな」
そんなに多くの武器を積んでいても活用できないだろうに、それを分かっていてカスタマイズしているということは、シャルルには何か活用できてしまう何かがあるのだろう。
「ねえ、ちょっとアレ……」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」
急にアリーナ内がざわつき始めたので、俺たちはその声の主たちの見つめる方を見る。
「………………」
そこにいたのは真っ黒な機体に身を包んだシャルルと同じ転校生のドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
転校から今日まで数日のうちに彼女に話しかける者はいなくなっていた。いわば孤高の存在になっている。俺もたまに学食などで見かけて声をかけても大体無反応だ。
ボーデヴィッヒさんはただじっと一夏のことをにらみつけていた。
それを見た俺は、何かひと騒動起こりそうな予感を感じた。
長くなりそうだったので、いったんここで区切ります。