IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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今回の話は途中で視点が変わります。
あらかじめご了承ください。


第38話 茜色に染まる教室

「おい、織斑一夏」

 

 ISのオープン・チャネルで声が飛んでくる。もちろんその声はラウラ・ボーデヴィッヒの声だった。

 

「……なんだよ」

 

 一夏は気が進まなそうに、だが無視するわけにもいかないので返事をする。すると言葉を続けながらボーデヴィッヒさんがふわりと飛翔してきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

 有無を言わせぬ迫力。流石は軍人だな。なんてその場の雰囲気にもかかわらずのんきに考えてしまう。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

 ボーデヴィッヒさんの言葉に、少し前に一夏に聞いたことを思い出す。

 なんでも、第二回IS世界世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦でのこと。一夏はその日に誘拐されたらしい。誘拐した組織は不明。目的も不明。拘束されて真っ暗な場所に閉じ込められ、時間の感覚もわからない中、しばらくして突然部屋が衝撃に揺れた。壁が崩れて光が差し込んでくる中、現れたのはISを装備した織斑先生だったらしい。決勝戦会場で一夏誘拐の知らせを聞き、文字通り現場に飛び込んできたそうだ。

 結果織斑先生は決勝戦を不戦敗となり、大会二連覇は果たせなかった。また、一夏の誘拐は世間的には一切公表されず、事件発生当時には独自の情報網から一夏の監禁場所に関する情報を提供したドイツ軍に『借り』を返すために大会終了後に一年ちょっとドイツ軍IS部隊の教官をしていたらしい。

 そこから少し足取りがわからなくなり、いきなりの現役引退。そして現在IS学園教師となっている、ということらしい。

 確かに結果的に見れば一夏の救出で織斑先生の将来にはマイナスになったかもしれない。しかしその責任のすべてを一夏と考えるのは少し違うのではないだろうか。誰が悪いというわけでもない。一番悪いのは誘拐した謎の組織なんじゃないだろうか。

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 言うや否や、ボーデヴィッヒさんの漆黒のISが戦闘状態へシフトする。その瞬間、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。

 

 

「「!」」

 

 ゴガギンッ!

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様等……」

 

 シャルルが即座にシールドを展開して実弾を弾き、俺は一夏に当たらないように身を挺した。それと同時にシャルルの右腕に六一口径アサルトカノン《ガルム》を展開してボーデヴィッヒさんに向ける。

 え?てか何?俺もなんか挑発的なこと言った方がいいの?

 

「……えっと。……そ、それとも!ドイツ人はバームクーヘンと同じで中身が空っぽなのかな!?」

 

 俺の言葉を聞いた途端、その場の雰囲気が少し緩む。

 

「ねえ、航平。それはどうなの?」

 

「いや、だってドイツ産のものなんてバームクーヘンくらいしか知らないしさ…」

 

「だからって無理になんか言わなきゃいけないとかないからな?」

 

 なんか無駄にかっこつけようとして逆に赤っ恥だ。

 

「貴様等のつまらん漫才を見に来たわけではないのだが?フランスの第二世代型と日本の量産型ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型よりは動けるだろうからね」

 

 俺がなんか言えばシリアスムードがまた壊れるので黙って睨んだままでいる。

 それにしても、シャルルの装備呼び出しには驚いた。

 通常は一~二秒かかる量子構成をほんの一瞬と同時に照準も合わせていた。それが出来るから二十の銃器を装備してるのだろう。事前に呼び出しを行わなくても戦闘状況に合わせて最適な武器を使用出来るだけでなく、同時に弾薬の供給も高速で可能だ。要するに持久戦では圧倒的なアドバンテージを持っており、相手の装備を見てから自分の装備を変更出来る強みがあると言う事だ。

 シャルルが代表候補生で専用機が量産型のカスタム機であることに納得がいった。

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 睨み合いの膠着状態が続く中、突然アリーナにスピーカーからの声が響いた。さっきの騒ぎを聞いて駆けつけた担当の教師だろう。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

 二度の横槍に興が削がれたのか、ボーデヴィッヒさんは戦闘体勢を解いてアリーナゲートへ去っていく。あの人の性格なら教師が怒り心頭で怒鳴っても軽くスルーするだろう。

 

「一夏、大丈夫?」

 

「怪我とかないか?」

 

「あ、ああ。二人とも、助かったよ」

 

 ボーデヴィッヒさんがいなくなった事で俺とシャルルは警戒を解いて一夏の方を見る。

 

「今日はここまでにしておこう。今の騒ぎでみんなこっち見てるし」

 

「そうだね。それに四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

 

「おう。そうだな。あ、銃サンキュ。色々と参考になった」

 

「それなら良かった」

 

 一夏の礼ににっこりと微笑むシャルル。なんとも無防備な笑顔だ。一瞬ドキッとする。まあ問題はここからだ。

 

「えっと……じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

 この言葉もいつも通りだ。シャルルと一緒に着替えたのは転校初日のIS実習前だけだ。それ以降はずっとこの調子だ。

 怪しい。この態度、そして俺の違和感の正体。それが、そう――シャルルが女であれば納得がいく。

 シャルルの雰囲気、行動や会話の端々に感じる身に覚えのある違和感。それは気付けば簡単なものだった。俺の感じていた不自然さは俺の体験したもの――俺の女装練習をしていた初期に感じたちぐはぐな感じによく似ているのだ。男の俺が女らしい行動を取ろうとしてもどうしたって不自然さが出てしまう。それと同じ不自然さ、違和感を感じるということは、シャルルも異性に変装――この場合ならシャルルが実は女で何かの理由から男装をしているということなら納得がいく。

 この結論に行きつくまでに長くかかった。不自然さの正体を知るためにできる限りシャルルのそばにいて、観察し続けてようやく昨日結論付けた。まあ、ずっとシャルルのそばにくっついて回っていたせいで変な疑惑かけられたけど、それはまた別のお話。

 でも、結局はこれは俺の推理でしかない。確かめるためにもやっぱり本人に聞くしかないだろう。

 

「というかどうしてシャルルは俺たちと着替えたがらないんだ?」

 

「どうしてって……その、は、恥ずかしいから……」

 

 これもいつものやり取り。一夏は着替えを断るシャルルを強引に誘おうとする。流石に嫌がってる相手と無理に着替えようとする一夏もどうかと思うから止めに入る。

 

「ほら、一夏。嫌がってる相手に無理矢理はよくないぞ」

 

「いや、でも…」

 

 まだ食い下がる一夏。いつもならもう少し聞き分けがいいんだが。

 

「ほら、さっさと着替えに行く。引き際を知らないやつは友達なくすわよ」

 

 鈴はそう言いながら一夏の首根っこを掴む。まったくもって同意見だ。

 

「こ、コホン!……い、一夏さん。どうしても誰かと着替えたいのでしたら、そうですわね。気が進みませんが仕方がありません。わ、わたくしが一緒に着替えて差し上げ――」

 

「こっちも着替えに行くぞ。セシリア、早く来い」

 

「ほ、箒さん!首根っこを掴むのはやめ――わ、わかりました!すぐ行きましょう!ええ!ちゃんと女子更衣室で着替えますから!」

 

 反論しようとするセシリアとそれを許さない箒。そう言えばいつの間にか女子同士は名前で呼び合うようになっていた。同じ一夏争奪戦のライバル同士で変な結束が生まれたようだ。

 

「じゃあ先に行ってるぞ」

 

「あ、うん」

 

 一夏も一応は納得したのかゲートへと向かって行く。

 

「………」

 

「………えっと」

 

 一夏を見送りつつ、俺はまだ残っている。

 

「航へ――」

 

「なあ、シャルル」

 

 シャルルが何か言おうとしたが、俺はさえぎるように口を開く。

 

「大事な話がある。今日この後教室まで来てくれ」

 

 

 ○

 

 

 教室へ向かう廊下を歩きながらシャルルは色々な感情が胸の中に渦巻いているのを感じる。

 先ほど航平に大事な話があると呼び出された。その後、シャルルの返事を聞かずに着替えるために更衣室に向かう航平の後姿をシャルルはぼんやりと眺めていた。

 

「……………。はぁ……」

 

 自分の胸の中に渦巻いている色々な感情を吐き出すように大きくため息をつくが、その胸の高鳴りは収まらない。

 

(何だろうこの気持ち…。不安と……期待?)

 

 自分の中にある気持ちの正体に自分でも理解ができないシャルル。

 最近の航平がなんだかおかしいことには気づいていた。何かにつけて自分と一緒に行動しようとするし、授業中や何かの拍子に航平からの視線を感じる。転校初日と同じように、いや、初日以上に自分に対して何かと親切にしてくれる航平。

 

(これってもしかして…そういうことなのかな?)

 

 シャルルの頭の中で〝告白〟の二文字がぐるぐると回る。

 

(で、でも航平は男だし、僕は…でも………)

 

 考えても考えても結論は出ない。出せないまま教室前までやってくる。

 

「……ふぅ」

 

 気合いを入れるために大きく深呼吸。そして、教室の扉に手をかける。

 扉を開けた先には夕焼けで茜色に染まった教室だった。その中、目の前の窓辺、窓を開けて窓の縁に手を着いて外を眺めている金髪長髪の後姿が目に入る。その姿に一瞬シャルルは見惚れる。とても絵になる後姿だった。

 

「ん?おう」

 

 シャルルが入ってきたことに気付いた少年――梨野航平が振り返る。

 

「悪いな。急に呼び出しちまって」

 

「う、ううん……」

 

 航平の言葉にシャルルが首を振る。

 

「………は、話って何かな?」

 

「………」

 

 シャルルの問いに答えず、航平はゆっくりとシャルルの方に向かってくる。その顔はしっかりとした覚悟を決めた真剣な顔だった。

 

「っ!」

 

 その真剣な眼差しにシャルルの胸がドクンと大きく高鳴る。

 

「先言っておきたいことがある」

 

 航平が口を開く。

 

「これから俺はだいぶおかしなことを言うかもしれない。でも、俺の話が終わってもできることなら今まで通りでいてほしい。場合によっては無理かもしれないけ…」

 

 航平は最後の方を口籠りながら言う。

 

「でも、どうしても言わなくちゃいけないと思ったんだ。聞いてくれるか?」

 

 その真剣さにシャルルは頷く。

 

「う、うん」

 

 航平はしゃべりだそうと、気合いを入れるように大きく息を吸い込む。

 

「実は俺――」

 

 シャルルにはこの時間が恐ろしいほどゆっくりに感じた。

 

「――女装が特技なんだ」

 

「…………え?」




告白だと思った?
ある意味告白でした。

次回!
「第39話 航平の告白(仮)」ご期待ください。
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