もう少し、スピードおとします。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
突然話しかけられた織斑が素っ頓狂な声を出した。
二時間目の休み時間、俺はオルコットが織斑に話しかけている横にいた。
なぜ俺が横にいるのかと言えば、休み時間になった時、先ほどできなかった話があるとオルコットに話しかけられ、どうせなら二人まとめて話してしまおうと言うオルコットに半ば無理やり織斑の席までやってきたのだ。
「聞いてます?お返事は?」
「あ、ああ。聞いてるけど……どういう要件だ?」
「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「…………」
俺に言ったことと同じセリフをオルコットさんが言った。織斑も知らないんじゃん。オルコットさんってホントは有名じゃないのかな?
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
織斑が答えるが、どうやらその答えが気に入らなかったらしく、吊り目を細めて、見下したように続ける。
「わたくしを知らない?このセシリアオルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」
そんなに自分を知らない人間が珍しいんだろうか、オルコットさんは。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
がたたたっ。聞き耳を立てていたクラスメイトの女子数名と俺がずっこけた。
「あ、あ、あ……」
「『あ』?」
「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」
うわぁ、すごい剣幕。もし俺も知らなかったらこんな風に怒られたのか。勉強しててよかった。
「おう。知らん」
「…………………」
オルコットさんは怒りが一周して逆に冷静になったのか、頭が痛そうにこめかみを人差し指で押さえながらブツブツと言い出した。
「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」
いや、テレビくらいあるに決まってるじゃないか。忙しくて見なかったけど
「で、代表候補生って?」
「国家代表のIS操縦者の候補者のことだよ」
俺は織斑の問いに答える。
「へ~、と言うか、さっきから気になってたけどなんで一緒にいるんだ?」
「なんか俺も呼ばれて」
俺は苦笑いしながら答える。
「そうか。そう言えば挨拶がまだだったな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ。同じ男同士仲良くしてくれ」
「おう。俺は梨野航平。俺のことも航平でいいぞ。よろしくな一夏」
お互いに挨拶をしあいながら握手をする俺たち。
「ちょっと。わたくしを差し置いて二人だけで話を進めないでくださいません?」
と、オルコットさんが会話に戻ってくる。
「おお、悪い。えっと、つまり、代表候補生ってのはとりあえずすごいんだな?」
一夏が話を戻す。
「そう!つまりエリートなのですわ!」
おお、復活した。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運ですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「「そうか。それはラッキーだ」」
俺は思ったことを言うと、偶然にも一夏とハモってしまった。
「……あなた方はわたくしを馬鹿にしていますの?」
確かにハモって言われれば馬鹿にしてるように聞こえるかもしれない。でも幸運だって言ったのはオルコットさんなのに。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね。こちらの方はまだましですが」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「それに勝手に期待されても困るんだけど」
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」
へー、優しさってこんな態度のこと言うんだはじめて知った。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
一時間目の休み時間にコレが言いたかったんだ。おまけに唯一、を物凄く強調してるし。――って、ん?
「入試って、あれか?IS動かして戦うやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官。航平は?」
「一応倒したよ」
「は……?」
オルコットさんは素っ頓狂な声を出して信じられない顔をしていた。
「まぁ、俺の場合はほぼまぐれみたいなもんだよ。運が良かっただけ。ギリギリ勝てただけだから。一夏はどうだったんだ?」
「俺の時は倒したっていうか、いきなり突っ込んできたからかわしたら、勝手に壁にぶつかってそのまま動かなくなっただけだ」
「それって自滅じゃん」
誰だったのか一度会ってみたいな、その人。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
一夏の台詞にピシッと嫌な音が聞こえた。例えるなら氷にヒビが走ったような音だ。
「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」
「いや、知らないけど」
一夏のセリフに俺も横で頷く。
「あなたたち! あなたたちも教官を倒したっていうの!?」
「うん、まあ。たぶん」
「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」
一夏の返事にオルコットさんは一夏に詰め寄る。
「まぁまぁ、落ち着けよオルコットさん」
「こ、これが落ち着いていられ――」
キーンコーンカーンコーン!
そう言ってる間に三時間目開始のチャイムが鳴った。
「っ………! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
なんだろ、めんどくさいからすごく逃げたい。と思ったけど言ったらややこしそうなので言わずに頷き、席に戻った。
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
一、二時間目とは違って、山田先生ではなく千冬さんが教壇に立っている。よっぽど大事なことなのか、山田先生までノートを手に持っていた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
ふと、思い出したように織斑先生が言う。クラス対抗戦?代表者?
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで」
へー。なんかめんどくさそうな役だな
「さて、誰か立候補はあるか?推薦でも構わんぞ?」
織斑先生がクラス内を見回す。
「はいっ! 俺は織斑くんを推薦します!」
お、一夏に票が入った。
「私もそれがいいと思います!」
お、また入った。一夏は人気者だな。
「私は梨野くんがいいと思います」
ん?梨野ってまさか俺?いやいや俺みたいな記憶喪失な奴に票が入るわけないな。きっと梨野がこのクラスにもう一人いたんだろう。
「私もそれががいいと思います」
おお、もう一人の梨野くんも人気者だなー。でも、くんって……ねぇ?
「では候補者は織斑一夏と梨野航平……他にはいないか?」
やっぱりか~!
「お、俺?」
同じように推薦されていた一夏が立ち上がっていた。
「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないならこの二人の多数決で決めさせてもらうが」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらないから――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「あのー。俺まともに仕事できるかわからんのですが」
「できなければ覚えろ」
わー、一刀両断。
「い、いやでも……」
まだ反論を続けようとした一夏を突然甲高い声が遮った。
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
パンッと机を叩いて立ち上がったのはオルコットさんだった。もしかして記憶のない俺を気遣って?めんどくさい人かと思ったけど謝ります。あなたはいい人だよオルコットさん。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
あっれ~?なんか貶されてない?
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
俺ら猿っすか?というかオルコットさん。俺記憶ないんで日本人かわかりませんよ?一応今は日本人のつもりでいるけど。あとイギリスも島国じゃなかったっけ?
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
ますますエンジンがかかってきたのかオルコットさんは怒涛の剣幕で言葉を荒げる。代表にはなりたくないけど、ここまで言われるのは癪だな。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
一夏が耐え切れなくなったのか、言い返した。
「なっ……!?」
言った後にしまったと思ったのか一夏が恐る恐る後ろを振り向く。そこには怒髪天と呼ぶに相応しいオルコットさんが顔を真っ赤にして怒りを示していた。
「あっ、あっ、あなたは! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
これは止めた方がいいかもしれない。そう思った俺は二人を仲裁に入ろうとする。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなって。クラスメイトなんだから仲良く――」
「わたくしの祖国を侮辱されて黙っていられませんわ!自分の祖国がどこかも分からないようなどこの馬の骨とも知れない記憶喪失の猿は黙っていてください!」
ブツン。
「人のこと猿呼ばわりする奴が一番キーキーとうるさいじゃないか!記憶のない俺だってどこかのプライドの高いうるさい猿よりはましなんじゃないでしょうかね!」
あ、やば。止めるつもりが俺まで乗ってしまった。
「な、な、なんですって!?」
吐いた唾は呑めない。一度言った言葉は取り消せない。オルコットさんの怒りの矛先は一夏だけではなく、俺にも向いたようだ。まぁいい。ここまで言われたら引き下がれない。
「決闘ですわ!」
バンッと机を叩いてオルコットさんが言った。
「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
「ここまで言われたんだ、俺だってやってやる」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「あたりまえだ」
「真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
オルコットさんは余裕の笑みを浮かべている。その顔がまた何とも言えない憎たらしさがある。
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」
一夏の台詞にクラスからドッと爆笑が巻き起こった。
「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑くんや梨野くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
みんな本気で笑っている。残念ながら一理ある。
確かに女子達の言う通り、今の男は圧倒的に弱い。腕力は何の役にも立たない。確かにISは限られた一部の人間しか扱えないが、女子は潜在的に全員がそれらを扱える。それに対して、男は原則ISを動かせない。もし男女差別で戦争が起きたとしたら、男陣営は三日と持たないだろう。それどころか、一日ともたないかもしれない。ISは過去の戦闘機・戦車・戦艦などを遥かに凌ぐ破壊兵器なのだから。
「……じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」
さっきまでの怒りはどこへやら、オルコットさんは明らかに馬鹿にしたように笑っている。
「ねー、織斑くん。今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」
一夏の丁度斜め後ろの女子が気さくに話しかけて、ハンデを付けるように促している。だが、その表情は苦笑と失笑が混じった物だ。
「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデは無くていい」
「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」
一夏に対する問いかけではあるが、正直俺にも言えることだ。俺はIS同士の戦いを知らないのである。記憶が無いというのもこういう時に不便である。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑と梨野、オルコットはそれぞれ用意をしておくように」
ぱんっと手を打って織斑先生が話を締める。
(一週間。その時間をうまく有効活用しないと)
俺は一抹の不安を頭の隅に追いやるように授業へと頭を切り替えた。
セッシーとのバトルに主人公も無理やり混ぜてみました。
ここからどうなるんですかねぇ。
お詫び
ここの話の中で主人公の名前が他の方の作品の主人公の名前になっておりました。不快に思った方もいらっしゃるかもしれません。今後このようなミスのないようにいたします。申し訳ございませんでした