シャルルの問題の解決策をちゃんと考えきらずにここまで来てしまいました。
どうにかひねり出した解決策です。
コンコンっと扉をノックする音に俺と一夏、シャルルはそろってびくっと震える。
俺の思いついたシャルルを助ける方法を話そうとした矢先だった。
「一夏さん、いらっしゃいます?夕食をまだ取られていないようですけど、体の具合でも悪いのですか?」
セシリアだった。
「一夏さん?入りますわよ?」
何!?まずい!今入られるのは非常にまずい!だってシャルルは男装をしていないんだから。
「ど、どうしよう二人とも?」
「と、とりあえず隠れろ」
「で、でもどこに?」
「あ!ふ、布団!ベッドに入って布団で体を隠すんだ!」
俺は言葉とともにシャルルを押し倒し、その上から布団とともに覆いかぶさる。
ガチャッとドアが開く音が響いた。
「よ、よおセシリア!なんだ?どうした?」
「あら?航平さんもいらしてたんですの?……というか、何をしていますの?」
「あ、ああ。まあな」
セシリアの言葉に頷くがとっさに覆いかぶさっちゃった。どうしよう。
「い、いや、シャルルがなんだか風邪っぽいっていうから、布団をかけてやってたんだ。それだけだぞ、ははは……」
「……。日本では病人の上に覆い被さる治療法でもあるのかしら?」
「い、いやいや、俺らが大げさに心配してるだけだよ」
セシリアの言葉を一夏が否定する。
「ほら、風邪は万病のもとっていうだろ?だから心配になっちゃってさ……」
「とにかくあれだ。シャルルは具合が悪いからしばらく寝るって。夕食はいらないみたいだし、航平が見ていてくれるらしいから、仕方ないから俺だけで夕食に行こうって話をしてたんだ。な?」
「そ、そうそう」
「ご、ごほっごほっ」
一夏の言葉に俺は頷くがシャルルの咳の演技がわざとらしかった。そんなのでだませるのか?
「あ、あら、そうですの? では、わたくしもちょうど夕食はまだですし、ご一緒しましょう。ええ、ええ。珍しい偶然もあったものです」
だませた!
「そ、それじゃあごゆっくり」
「シャルルのことは気にするな。俺がちゃんと見てるから」
「デュノアさん、お大事に。さあ一夏さん、参りましょう」
そう言って一夏の手に腕をからませたセシリアは一夏とともに部屋から出ていった。
「「…………ふぅ」」
二人が出て言った後に、俺たちは同時にため息をついた。
「なんとかごまかせたな」
「う、うん」
そこで二人で可笑しくなって笑い合う。
「………さて――」
ひとしきり笑った後で、俺は顔を真剣な表情に戻す。
「シャルル。お前はどうしたい?」
「…………」
「さっき一夏に聞かれたときお前言ったな。『良いも悪いもない。そもそも選ぶ権利がないから仕方がない』って。でも、そんなのお前の本心じゃないだろ?お前はどうしたいんだ?大人のいいように使われてるままでいいのか?」
「そ、それは……」
「俺はお前の味方だ。シャルルがしたいことを全力で助けるから」
「僕は……」
俺の言葉にうつむく。しかし、すぐに顔を上げる。その顔はしっかりと覚悟の決まった表情だった。
「僕は……僕は女だよ。ちゃんと女の子として生きたいよ……」
シャルルはしっかりと、しかし、強張った声で言った。その眼からは涙があふれ出ていた。
「………わかった。じゃあ俺は全力で助ける」
シャルルの言葉に俺は頷く。
「よし!じゃあやってやるぜ!」
俺は大声で言って気合いを入れる。
「じゃあ、俺の作戦の詳細だ」
「うん」
「簡単に言えば、相手がほしい情報をあげちまうんだ」
「え!?」
「で、そのうえでその情報を渡す条件として家との縁を切るんだ」
俺の言葉にシャルルが困惑した表情を浮かべている。
「まあ今用意できる情報なんて俺の生体データくらいのものだろうけど、それだって各国がほしがっているだろうしな」
「で、でも――」
俺の説明の途中でシャルルが口を開く。
「そんなことをしたら、航平に迷惑がかかるじゃないか」
「俺はいいんだよ」
「でも――」
それでも食い下がるシャルル。でも俺は首を振ってシャルルの肩に手を置いて目線を合わせる。
「いいんだよ。……俺には記憶が無い。だから家族ってよくわからないんだ。でも、自分のことを俺の家族だと思えって、俺のことを家族みたいに大事にしてくれた人はいる。だからこそ、シャルルのところみたいな親がどうしようもなく腹が立つんだ。だから――」
そこで俺はシャルルににっこりとほほ笑む。
「俺に協力させてくれ、シャルル。大事な友達助けるためなら俺のデータなんていくらでも差し出してやる」
「航平……」
シャルルは俺の言葉に泣きそうな顔になる。
「…あ……ありがとう……」
「おう!」
目元の涙をぬぐうシャルルの頭を俺は優しくなでた。
「でも――」
そこで俺は一つの問題があるのを思い出す。
「それをするにはあの人たちを味方につけることは必須だな……」
○
俺は廊下を歩きながら、これから会う相手、そしてその人に話さなければいけないことを思い浮かべると、なんだか胃が痛くなってくる。
「大丈夫、航平?」
俺の横に立っているシャルルが心配げな顔をしている。ちなみにシャルルの服装は部屋と同じジャージだが男装に戻っていた。どうでもいいけどどうやって胸を縮めてるんだろう。さらし?
「お、おう」
笑顔で返事をするが、たぶんその顔は強張っていることだろう。
これから会う人物たちには事前に連絡してある。ぶっちゃけ俺のデータを勝手に渡せばその人たちが黙っていない。下手すれば……
「本当に大丈夫?」
ぶるるっと寒気で震えた俺をシャルルが心配そうに見ている。
「だ、大丈夫」
そんなことを言っている間に、俺たちは目的の場所に到着した。寮の一室だ。
俺はゴクリっとつばを飲み込み、その扉をノックする。
「はーい」
返事とともにドアが開く。
「待っていたぞ、梨野」
そこに立っていたのは、織斑先生と山田先生だった。
○
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
織斑先生の寮監室に入り、出されたお茶に手を出せずに、その場の誰も口を開かない。
「………あの、千冬さん」
「織斑先生とよ――」
「今は教師と生徒ではなく、俺の身元保証人の千冬さんとして聞いてほしいんです。真耶さんもお願いします」
「……わかった」
「わ、わかりました」
俺の真剣具合が伝わったのだろう。二人が頷く。
「千冬さん。単刀直入に訊きます――」
そこで大きく息を吸い込む。
「IS学園側はシャルルのことをどこまで知ってるんですか?」
「……………」
「???」
千冬さんは無言。山田先生は頭にはてなマークを浮かべている。
「………それは――」
数秒ほど黙っていた千冬さんが口を開く。
「デュノアが性別を偽っていることか?」
「はい」
「なっ!?」
千冬さんの言葉に頷いた俺。そして、そのやり取りに驚きの表情で口をパクパクしながら俺と千冬さん、シャルルの顔を見比べている。
「これは国際的な問題だから、学園の一部のものしか知らない。このことはできるだけ他言無用で頼む」
おろおろしている真耶さんに千冬さんが言う。
「で?お前はなぜそのことを知っている」
千冬さんが訊く。
「普通に気付きました。なんかシャルルに違和感があったんですが、それが俺の女装での不自然さと同じだったんで。そういう面では二人に女装させられたのも悪いことばかりではなかったって思いますよ」
「ぷっ。はははははっ!そんな理由で気づくとは、くくくくっ」
俺の答えに大笑いをする千冬さん。
「で?そのことを一夏は?」
「知ってます」
「そうか…」
「あ、あのー」
そこで真耶さんが恐る恐るといった顔で手をゆっくりとあげながら口を開く。
「デュノア君が女の子っていうことですけど…正直信じられないんですが…」
まあそりゃそうだ。
「あの、じゃあ女子に戻ってきましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。洗面所を使ってくれればいい」
そうしてシャルルが洗面所に消えてから数分。三人とも口を開かずに待っていると、洗面所の開く音ともにシャルルが出てくる。
その姿は先ほど一夏たちの部屋で見た通りだった。男子ではありえないくらい膨らんだ胸元が女子であると主張している。
「あ、ありがとうございます。納得です」
山田先生が少し照れながら頷く。
「で?話はその事か?シャルルの性別を知ってしまったのなら、誰にも言うな、としか言えんが?」
「いえ、俺が言いたいことはまだあります」
千冬さんの言葉に首を振る。
「俺は…友達を――シャルルを助けたいです」
「…………」
千冬さんは黙って俺の目をじっと見ている。
「どうやって?」
「そのためにここに来ました」
千冬さんの問いに俺は口を開く。
「俺のデータを渡す代わりにシャルルをデュノアの家から縁を切ることを交渉しようと思っています」
「「…………」」
俺の言葉に千冬さんも真耶さんも黙っている。
「お願いします!」
俺は椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「シャルルを助けるのに必要なんです!俺の体の詳細データを持ってるのは多分二人だと思います!だからお願いします!」
俺が頭を下げるのを千冬さんも真耶さんも何も言わない。俺の横ではシャルルがうつむいている。
「なぜそこまでする?」
「え?」
千冬さんの問いに俺が顔を上げる。
「なぜデュノアのためにここまでする?言ったら悪いが、お前にはシャルルがどうなろうと関係ないんじゃないか?」
「関係ないことはありません」
千冬さんの言葉に俺は首を振る。
「だって、知っちゃいましたから」
俺はつぶやくように口を開く。
「俺には記憶が無いから、家族の記憶もありません。そんな俺に千冬さん、言ってくれましたよね。『これからは私たちがお前の家族だ』って」
「…………」
俺は言葉を続ける。
「嬉しかったんです。家族なんてわからない俺は、これが家族なんだ、家族ってこんなにもあったかいんだって、思いました」
「航平君……」
俺の言葉に真耶さんが俺の名を呟く。
「もちろん世界中の家族が、みんながみんな温かいものだなんて思っていたわけではありません。シャルルみたいな家族だってあるでしょう。でも――」
そう。でも――
「だからこそ俺は納得できない。シャルルにも俺のように血じゃなくて絆で結ばれた家族を見つけてほしいって思ったんです。だから、俺はシャルルを助けます。助けたいんです」
「………そうか」
俺の言葉を最後まで聞いた千冬さんが口を開く。
「お前の考えはわかった」
「じゃあ――」
「だが、ダメだ。お前のデータを渡すことはできない」
「そんな……なんでですか!?」
千冬さんの言葉に俺が机に手を着いて訊く。
「お前が私たちのことを家族だと思っているように、私たちもお前のことを大切に思っているんだ。家族の情報を渡せるわけがないだろう」
「っ!」
そのことを考えていなかった。そりゃそうだ。俺が逆の立場でもそう言っただろう。
俺はへたり込むように椅子に座る。
「………ごめんシャルル。俺…何もできなかった」
「ううん。そんなことないよ」
俺の言葉にシャルルが首を振る。
「航平は今できることをがんばってやってくれた。僕のために全力で」
「でも、俺――」
俺の言葉を遮るようにシャルルが首を振る。
「航平はこれ以上ないってくらい僕に協力してくれた。それだけで僕は幸せだよ」
シャルルは俺に微笑む。その顔はなんだか吹っ切れた顔をしていたが、シャルルの目じりには涙が浮かんでいた。
「んんっ!何を二人だけで完結しているんだ。話は最後まで聞け」
「「え?」」
千冬さんの言葉に俺とシャルルが首を傾げる。
「でも、俺のデータは渡せないって――」
「航平のデータは…な。だからと言ってこの問題を解決しないわけではない」
「え?」
そこで千冬さんはコップに手を伸ばし、中のお茶を一口飲む。
「現在IS学園ではフランスとデュノア社の関係を洗っている」
千冬さんの言葉に俺は首を傾げる。
「はぁ。ちょっと考えればわかることだろう。デュノアはフランスの代表候補生だ。しかし、デュノアは世間的には男ということになっているが実際は女だ。そのことをフランス政府が知らないはずがないだろう?」
「……あっ!」
確かにその通りだ。つまりそれは――
「デュノア社とフランス政府の間には何かよからぬ関係があるってことですか」
「ああ」
真耶さんの言葉に千冬さんが頷く。
「だが、いかんせん。決定的な証拠がない。だが――」
そこで言葉を区切り、千冬さんがシャルルを見る。
「デュノア。お前が証言すれば決定的な証拠になる。デュノア社との交渉の材料になるだろう。お前をデュノア社と縁を切らせることもできるだろう」
シャルルは黙って千冬さんの言葉を聞いている。
「まあ、どうするか決めるのはお前だ、デュノア」
「…………やります。お願いします!」
「よし、わかった」
シャルルが力強く頷き、千冬さんも頷く。
「ありがとうございます、千冬さん!!」
「礼を言われることじゃない。デュノアはIS学園の生徒だ。生徒を助けるのは教師として当たり前だ」
そう言って顔を逸らす千冬さんの表情は照れているように見えた。
「あー、照れてますねー。本当は航平君に家族として頼ってもらって、しか、その悩みをちゃんと解決できて嬉しいんですよね?ホント先生って素直じゃないですよね。息子のこと心配する素直になれない父親みたいですね」
楽しそうに笑う真耶さん。
「……山田先生?」
「はい!すみません!」
千冬さんが真耶さんを睨み、真耶さんがすごい勢いで頭を下げる。
「ぷっ。ははははははっ!」
俺はその光景をついつい笑ってしまう。
「なんだ急に」
「いや、すみません。ただ、俺の家族は面白なーと思って。あと頼りになるなーって」
「ふんっ。いつまでも家族に頼ったままではいかんからな?」
「はい。わかりましたよ、〝父さん〟」
「っ!」
俺の言葉に千冬さんが俺のことを睨み素早い動作で俺に手を伸ばし、俺の頭を掴む。俗にいうアイアンクローだ。
「あだだだだだだだだ!!!」
「誰が〝父さん〟だ。誰が」
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
「ぷっ」
そんな光景を見て、今度はシャルルが噴き出す。
「なんだ?」
俺へアイアンクローする手を放し、シャルルの方を見る千冬さん。
「あ、いえ。なんていうか、羨ましくなっちゃって。僕の家族も織斑先生や山田先生みたいだったらよかったのにって」
そう答えたシャルルの顔は少し寂しそうだった。
「だったら、シャルルも俺の家族になればいいじゃん」
「「「え?」」」
俺の言葉に三人が驚きの声を上げる。シャルルは顔を真っ赤にしている。
「航平。そ、それって……」
「そうだな。シャルルしっかりしてるし俺の姉ちゃんかな?」
俺の言葉にシャルルの顔が一気に暗くなる。え、何?もしかして妹の方がよかった?
「って!あだだだだだだ!!」
放していた手でもう一度俺の顔を掴んでアイアンクローする千冬さん。
「もう少し自分の言葉に責任を持て。お前の鈍感具合は一夏並なときがあるぞ」
「え~!?」
俺何か変なこと言ったんだろうか。という疑問も千冬さんのアイアンクローで深く考えることができないのだあった。
というわけでシャルの問題も一応これにて解決です。
え?航平何もしてないじゃないかって?
…………まあそういうこともありますよ。
いや、違うんですよ!
本当は別の方法で解決するつもりだったんですよ!
でも書いてたら航平のキャラじゃなくなったんですよ!
なので急遽変更してこういった結果に……。
変更した方法はもう一個書いてるほうの主人公のキャラだったのでそっちで書きます。……たぶん。