IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第42話 アヒル口

「た、ただいま……」

 

「おう、おかえり……って大丈夫か?」

 

「なんだかふらふらしてるよ?」

 

「ああ、いや、気にしないでくれ。大丈夫だ。それよりお腹すいただろう。二人に焼き魚定食をもらって来たんだ」

 

「うん、ありがとう。いただくよ」

 

「ありがとう」

 

 一夏からトレーを受け取る俺たちだったが、それをテーブルに置いた途端シャルルの笑顔が固まった。

 

「どうかしたのか?」

 

「え、えーと……」

 

「食べないと冷めるぞ。せっかく作ってもらった料理なんだから、温かいうちに食べないともったいない」

 

「そ、そうだね。うん、いただきます」

 

 どこかぎこちない笑みのシャルル。その理由もすぐに分かった。

 

「あっ……」

 

 ぽろっ。

 

「あっ、あっ……」

 

 ぽろっぽろっ。

 おかずを落としては情けない声を上げるシャルル。

 魚をほぐすまではできるようだが、どうやらうまく使えないらしい。

 

「シャルル、これ使えよ」

 

「え?」

 

 一夏が気を利かせて俺の分をフォークにしてくれていたので、それを差し出す。

 

「箸、苦手なんだろ?」

 

「う、うん。練習してはいるんだけどね」

 

「ほら」

 

「いいの?」

 

「おう」

 

 シャルルが恐る恐るといった感じで俺のフォークを受け取る。

 

「俺は箸使うよ」

 

 そう言ってシャルルが結局口を付けなかった箸を受け取る。

 

「ありがとう航平」

 

「おう」

 

 返事をしつつ箸でご飯を食べる。

 

「なあ、航平」

 

「ん?」

 

 箸で焼き魚をほぐして食べていると、その様子をじっと見ていた一夏が口を開く。

 

「前から思っていたんだが、お前って箸苦手なんじゃないのか?」

 

「おう、苦手だぜ」

 

「その割にはちゃんとつかえているように見えるけど」

 

「いやいや、ぜんぜん」

 

 俺は笑いながら否定する。

 

「食べる分には問題ないけど。俺、まだ飛んでるハエとか掴めないし」

 

「「……はい?」」

 

「ん?」

 

 俺の言葉に一夏とシャルルが首を傾げる。

 

「ハエを…掴むの?」

 

「そう教えられたぜ?箸は飛んでいるハエを掴めるようになってからが一人前だって」

 

「それ誰から聞いたんだ?」

 

「ん?織斑先生」

 

「あ~」

 

 俺の言葉に一夏が納得したような顔をする。

 

「航平。それ千冬姉にだまされてるぞ」

 

「ええ!?」

 

「俺出来ねえぞ、飛んでるハエを掴むとか」

 

 まじで!?

 

「え?でも織斑先生やってたぜ?できてたぜ?」

 

「逆にすげえな千冬姉!」

 

「あ、でも山田先生にもやってって言ったら苦笑いしてたな」

 

「そりゃそうだよ」

 

 俺の言葉にシャルルも苦笑い。

 思わぬところで千冬さんに担がれていたことを知った瞬間だった。

 

 

 ○

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー」

 

「お、おかえりなさい」

 

 部屋に戻ると一人分多い返事に不審に思い顔を上げると、着ぐるみみたいなパジャマの布仏さんの他に眼鏡の少女がいた。

 

「あ、更識さん。いらっしゃい。どうしたの?」

 

「…読み終わった頃かと思って続き持ってきた」

 

 そう言って傍らに置かれていた紙袋を見せる更識さん。

 

「おお、ありがとう。続き気になってたんだ」

 

 紙袋を受け取り、中身を確認すると先日借りたマンガの続きだった。

 先日、仮面ライダーのDVDを返した後。他にもおすすめがあるということで更識さんセレクトの何種類か漫画を借りた。ジャンルはいろいろあった。恋愛、アクション、シリアス、SF、ギャグなどなど。しかもどれも続きが気になり、読む手を止められない。結果どんどん読んでしまい、この五日間で五シリーズほど読破してしまった。

 

「そう言えば、ナッシーはどこに言ってたのー?」

 

「ん?ちょっとシャルルが困ったことになっていたから相談にのってた」

 

「フーン…」

 

 頷きながらお菓子を頬張る布仏さん。本日のお菓子はポテトチップス(うす塩)。

 

「あ、借りてたマンガ返さないとな」

 

「うん」

 

 俺は自分の机の上に置いてある紙袋に手を伸ばす。

 

「ほい。ありがとうな。面白かったよ」

 

「…どういたしまして」

 

 俺の差し出した紙袋を更識さんが受け取る。

 

「またおすすめがあったら貸してくれ。更識さんのおすすめはどれも面白いから」

 

「うん……また選んどく」

 

 俺の言葉に嬉しそうに微笑む更識さん。

 

「ねえねえ、ナッシー、かんちゃん」

 

「ん?…………何してんだ布仏さん」

 

 呼ばれて布仏さんの方を見ると二枚の半だ円に反ったポテチを二枚、反った向きを逆にし、口にくわえていた。

 

「アヒルー」

 

「…………」

 

「……本音。行儀悪い」

 

 なんて返したものかと悩む俺と的確に突っ込む更識さん。

 

「えー、このポテチ食べるときはこうするのがマナーなんだよ」

 

「え?そうなの?」

 

 知らなかった。

 

「梨野君。それ…本音の冗談だから、間に受けちゃダメ」

 

 信じてしまった俺とそれを訂正する更識さん。

 

「ぶーぶー。かんちゃんネタばらしはやいー。ナッシーってすぐウソ信じるから面白いのにー」

 

 そう言えばちょいちょい変なこと教えてくれてたけど、あれの何個か、もしくは全部うそか?

 

「ほらほらー。二人も食べるー?」

 

「まあ貰おうかな」

 

「…いただきます」

 

 布仏さんの差し出す袋から二、三枚抜き取る。

 

「うん、うまい」

 

「あー、ナッシーもかんちゃんも普通に食べてるー。ここは私みたいにやろうよー」

 

「い、嫌…」

 

「俺も普通でいいよ」

 

 布仏さんの言葉に俺も更識さんも拒否するが布仏さんはそれからも俺たちが同じ食べ方をするまで納得してくれないのであった。




ポテチのアヒルの嘴みたいにして食べるのはやりますよね。
他にもとんがりコーンを手の指にそれぞれつけて十本の指から一個ずつ食べたり。


今回は、まあ息抜きの回だったと思ってください。
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