「………………………」
「………………………」
場所は保健室。現在第三アリーナの一件から一時間ほどが経過し、治療を受けて包帯を巻かれたセシリアと鈴がむすーとした顔でベッドの上にいた。ちなみに怪我は打撲ですんだらしい。軽くはないが命にかかわるような怪我じゃなくてよかった。
「別に助けてくれなくてよかったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
感謝するかと思ったが、思わぬ憎まれ口。まあ別に感謝されたくて助けたわけじゃないけど。
「お前らなぁ……。はぁ、でもまあ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」
「こんなの怪我のうちに入らな――いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」
………お前らバカだろ。
「バカってなによバカって!バカ!」
「一夏さんこそ大バカですわ!」
俺も一夏も口には出していない。なのにわかるとは、やはり一夏の周りには以下略。
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
「ん?」
「あー……」
飲み物を買って戻ってきたシャルルの言葉に一夏は首を傾げ、俺は納得する。どうやら一夏は言葉の意味が分からないというよりシャルルの言葉が聞こえなかったようだ。前から思っていたが、一夏って突発的に謎の難聴が起こるよな。耳鼻科行け耳鼻科。
聞こえていなかったのは一夏だけだったらしく、セシリアと鈴の顔がかぁぁっと顔を真っ赤にして怒りはじめた。
「なななな何を言ってるのか、全っ然っわかんないわね!こここここれだから欧州人って困るのよねえっ!」
「べべっ、別にわたくしはっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」
これも前から思っていたが、こいつら図星の時の反応が分かりやすすぎるだろ。本当に見てて面白いな。
「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」
「ふ、ふんっ!」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
鈴とセシリアは渡された飲み物をひったくるように受け取って、ペットボトルの口を開けるなりごくごくと飲み干す。こいつらホント面白れえな。
「何よっ?」
「いや別に?」
「と言いながら、なんなんですのそのニヤニヤとした笑いはっ?」
「ナンデモアリマセンヨ?」
「「嘘だっ!」」
「へぶっ!」
からかいすぎたらしく、空になったペットボトルを顔面に投げつけられた。空だったからそこまでダメージなかったけど。
「いっつ~!」
「~~~っ!」
俺にペットボトルを投げつけたことで肩を押さえる二人。
「こらこら。ちゃんと安静にしてろよ。先生は落ち着いたら帰っていいって言ってたから、しばらく休んだら――」
ドドドドドドドッ……!
「な、なんだ?何の音だ?」
「じ、地鳴り?」
廊下から響いている音に一夏が戸惑い、俺たちは保健室のドアに視線を向ける。
すぐにドカーンッ!と保健室のドアが吹き飛んだ。いや、冗談とかじゃなく本当に吹き飛んだ。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「梨野君!」
文字通り雪崩れ込んできたのは数十名の女子生徒だった。ベッドが五つもあってかなり広い保健室なのに、室内はあっと言う間に人で埋め尽くされた。俺たち三人はなだれ込んだ女生徒たちに取り囲まれた。ものすごいホラーだ。人垣から無数の手が伸びてくる。
「な、な、なんだなんだ!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
「「「「これ!」」」」
状況が呑み込めていない俺たちにパン!と女子生徒一同が出してきたのは緊急告知文の書かれた申請書。
「えっと、なになに?……『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」
「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」
そこでまた伸びてくる手。怖いっ!
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「梨野君、ぜひ私と!」
どうしていきなりトーナメントの内容が変更になったのかわからないが、女子生徒たちの行動も腑に落ちた。学園内に三人しかいない男子と組みたいがために先手必勝でここまで来たのだろう。でも――
「え、えっと……」
そう、シャルルは女だ。もし誰かと組むことになればそのことがばれてしまうかもしれない。実際現在シャルルは困った顔をしている。
パンッパンッ!
「悪い、みんな!今ここは安静にしなきゃいけないやつがいるから、あとでゆっくり聞くってことでいいか!?」
「まあ、そうね」
「絶対あとでね!絶対だからね!」
俺の言葉にその場に来ていた女子たちがとりあえずは納得してくれたようだ。ぞろぞろと保健室から出ていく女生徒たち。
「ふう…。とりあえずこれで良し」
「あ、あの、航平――」
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
安堵のため息をついた俺に何かを言うおうとしたシャルルの声は背後から聞こえた声に遮られた。見ると、鈴とセシリアがベッドから飛び出して一夏に詰め寄っていた。
「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」
「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」
一夏を締め上げない勢いだ。ケガ人なんだから安静にしろよ。
「ダメですよ」
いきなりの山田先生の登場に一夏や鈴とセシリアも驚いている。
「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
いやいや、そんな説得でこのふたりが納得するだろうか…。
「うっ、ぐっ……!わ、わかりました……」
「不本意ですが……非常に、非常にっ!不本意ですが!トーナメント参加は辞退します」
あれ?意外とあっさりしている。なんで?と、俺も隣の一夏も首を傾げている。
「わかってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分が支払うことになりますからね。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念なことです。あなたたちにはそうなってほしくありません」
「はい……」
「わかっていますわ……」
山田先生に諭されてか、ふたりは素直に納得している。
「一夏、航平、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だよ」
えーと……あれ?
「……『ISは戦闘経験を含むすべての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼動も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼動に悪影響を及ぼすことがある』」
「おお、それだ!」
「さすがはシャルル!」
なかなか思い出せない俺たちに代わってシャルルがすらすらと解説してくれる。
「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ?」
「え、いや、それは……」
「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」
俺も疑問に思っていたことを一夏が訊き、なんだかふたりが言いにくそうにしている。何かしらの挑発があったんだろうが、代表候補生のふたりが簡単に挑発に乗るんだろうか。
「ああ。もしかして一夏のことを――」
「あああっ!デュノアは一言多いわねえ!」
「そ、そうですわ!まったくです!おほほほほ!」
何かに閃いたらしいシャルルをふたりがすごい勢いで取り押さえた。ふたりから口をふさがれてシャルルが苦しそうにしている。
「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎだぞ。ほれ」
そう言って一夏は鈴とセシリアの肩を指でつつくと、
「「ぴぐっ!」」
おかしな声かつ甲高い声をあげてその場に凍り付く鈴とセシリア。
「………………」
「………………」
「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」
恨めしそうな顔でふたりが一夏を睨む。
「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……」
「あ、あと、で……おぼえてらっしゃい……」
あらら。一夏は後で何か奢らされるかもな。
「で、でだ!トーナメントのパートナーどうする?」
話を変えようと一夏が俺とシャルルに訊く。
「……こうしよう。一夏とシャルルが組め」
「え?」
「訓練機の俺よりも専用機同士の一夏とシャルルが組んだ方がボーデヴィッヒさんには対抗しやすいと思う」
「でも……」
俺の提案にシャルルが口を開くがその先は言葉になっていない。
「大丈夫だよ。俺だって出るからには優勝したい。誰かパートナー見つけて優勝目指すさ」
「……そうか。そういうことなら俺は異論はないぜ」
「シャルルもそれでいいか?」
「う、うん。……僕…も別にいいよ」
俺の言葉に一夏とシャルルが頷く。
「試合でぶつかっても絶対負けないからな?」
「もちろんだぜ」
俺と一夏はそう言ってお互いの拳をゴツンとぶつけ合った。
「……僕は航平とが……」
ん?今なんかシャルルが……
「ちょっといいですか梨野君」
俺を呼ぶ山田先生の言葉に俺は一瞬前に考えていたことから頭が切り替わる。
「あ、はい。なんでしょうか」
「梨野君に書いてもらわないといけない書類があるので、これから職員室に来てもらってもいいでしょうか?時間はそれほどかかりませんので」
「はい、わかりました。悪いけどふたりとも、寮には先に帰っててくれ」
「おう」
「うん」
俺の言葉に一夏とシャルルが頷く。
そこから俺は山田先生とともに職員室に向かった。
○
「さて、トーナメントのパートナーどうしようかな」
職員室での用事も終わり、寮に帰ってきた俺は部屋に向かいながらパートナーについて考える。
「布仏さん…は戦うタイプじゃないし…。あ!そう言えば更識さんは日本の代表候補生だったな…」
そうやってパートナーの候補の顔を思い浮かべていた俺の思考は、突然横道に引っ張られたことでかき消される。
背中には壁。俺の顔の右には誰かの手が壁をついている。俺は引っ張られたことで体勢を崩して中腰になっているようだ。
目の前には銀色の髪と赤い瞳の目が一つ。もう一つの目は黒い眼帯に覆われている。
「おい」
俺の目の前で俺を壁に押し付けている人物――ラウラ・ボーデヴィッヒさんが口を開く。
「今月行われる学年別トーナメントで私のパートナーになれ、梨野航平」
思わぬ人からの誘い。……というか脅し?
次回!航平の選択やいかに!
絶対に見てくれよな♪