「ああああああっ!!!!」
突然のボーデヴィッヒさんの身を裂くような叫び声が響く。一夏たちへ挑もうとしていた俺はその足を止め、ボーデヴィッヒさんに目を向けた俺は驚愕した。
「いったい何が……。――!?」
「なっ!?」
背後では同じようにボーデヴィッヒさんの様子を見ていたシャルルと一夏も驚きの声をあげる。それもそのはず。俺たちの目の前でボーデヴィッヒさんが……そのISが変形していた。
いや、それは変形なんてものではない。装甲はドロドロのゲル状になり、ボーデヴィッヒさんの体を包んでいく。そのさまはまるで、真っ黒な深く濁った闇にボーデヴィッヒさんが飲み込まれていくようだ。
「なんだよ、あれは……」
一夏が呟くが、その場の誰もその問いに答えられるものはいない。むしろ聞きたいのはこっちだ。
ISは原則変形をしない、と聞いている。しかし、その当たり前を否定するように、ありえないことが着実と目の前で起こる。
変形とも言えない、まるで粘土を作り替えていくようにグニャグニャと形を変えていくシュヴァルツェア・レーゲン。いや、もはやシュヴァルツェア・レーゲンだったもの、と言った方がいいかもしれない。
それはボーデヴィッヒさんを飲み込んで、まるで心臓のように脈動を繰り返しながら地面に降り立つ。
それが地面に降り立った瞬間に先ほどの倍のスピードでその形が変化し、形成されていく。
その変化が終わった時、その場に立っていたのは黒い全身装甲のISのような何かだった。
ボディラインはボーデヴィッヒさんのまま表面化したようなものあり、最小限のアーマーが腕と足についている。。その頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の部分には装甲の下にラインアイ・センサーが赤く光っている。
そして、その手には唯一の武器が握られていた。
「《雪片》……!」
背後から一夏が呟く。確かに言われて見てみると、何度か見た織斑先生の試合映像の中で、先生が使っていたものにそっくりだった。いや、似ているなんてものではない。それはまるでそのまま複写したようだ。
俺は咄嗟に身構える。
「――!」
その瞬間、黒いISが俺の懐に飛び込んでくる。
「っ!」
一閃をかろうじてよけ、すぐに真後ろへバックステップ。黒いISとの距離を開ける。
すると今度は一夏の懐に飛び込む黒いIS。居合に見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いからの必殺の一閃が一夏を襲う。特訓で何度も見た。あれは紛れもなく織斑先生の太刀筋だ。
「ぐうっ!」
一夏の構えた《雪片弐型》が弾かれ、敵はそのまま上段の構えへと移る。――まずい!
「はあ!!」
瞬間加速を使って一夏に接近。その場で停止する余裕はないのでほとんどラリアットを食らわせるように一夏を回収。
「ぐえっ」
耳元で一夏が変な声を出すが構わず加速。どうにか黒いISとの距離を空ける。しかし、少しかすったらしく、一夏の白式が光とともに消える。一夏の左腕にはじわりと血がにじんでいる。
「ふう、危なかったな」
一夏を放し、敵に警戒しつつ一夏に言った俺の言葉は一夏には届いていないようで
「………がどうした……」
「はい?」
一夏が何かを呟いている。
「それがどうしたああっ!」
叫ぶと同時に握りしめたこぶしを振り上げ、生身で敵に向かって行こうとする。
「ちょ!?お前何してんだよ!!」
慌てて一夏を止める俺。
「落ち着け一夏!」
「離せ!あいつ、ふざけやがって!ぶっ飛ばしてやる!」
ぶちっ。
やべえ、いい加減我慢の限界だ。
「落ち着けって言ってんだろうが!!!」
「へぶっ!」
打鉄を展開したままの拳を一夏の頭に叩きこむ。涙目になりながら頭を押さえて地面を転がりまわる一夏。
「何すんだよ!」
「うるせえ!!」
頭を押さえながら俺を睨む一夏を睨み返しながら叫ぶ。
「お前らいい加減にしろよ!お前も、お前もだよラウラ・ボーデヴィッヒ!!」
一夏から敵ISに視線を向ける。
「お前なんなんだよ!人のこと無理矢理タッグにしたくせに自分だけで戦うとか言いやがって!!しかも一人で十分とか言ってたくせに!!負けてんじゃん!!ダメじゃん!!全然じゃん!!ぜんっ~~~~ぜんっダメじゃん!!!!!!」
ズビシィィィィ!っと黒いISを指さす。指された方は何の反応も示さずにそこに立っている。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「…その……大丈夫、航平?」
俺の横にゆっくりとシャルルがやってくる。
「はぁ…。叫んだらちょっとすっきりした」
大きく息を吐き出す俺。
「で?どうすんの?」
「とにかく、俺はあいつをぶん殴るぞ。そのためにはまず正気に戻してからだ。止めないでくれよ」
「残念ながら止める。目の前でお前が無残に殺されるのは見たくないんでな」
「なんで殺される前提なんだよ!」
「だってお前の白式エネルギーがないだろ?」
「ぐっ……」
俺の指摘に一夏が図星といった顔になる。まあ、あの黒いISがもとはシュヴァルツェア・レーゲンだったのだから、おそらくやつのエネルギーも残り少ない。一撃叩き込めばそれで終わるだろう。でも、その一撃を叩きこめない。現在のこのメンバーで当てれば確実に倒せるであろう攻撃力は白式だ。でも、その白式はエネルギー0。一撃どころか装甲すら展開できないだろう。
『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』
「だってさ。このままいけばお前がやらなくても状況は収まる。それでもお前はやるのか?」
「……ああ。俺が『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ。これは『俺がやりたいからやる』んだ。他の誰かがどうとか、知るか。大体、ここで引いちまったらそれはもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」
「……いいぜ。だったらのってやる!最大限協力してやる!で?エネルギーはどうする?」
「ないなら他から持ってくればいいんだよ」
「シャルル……」
俺の横でシャルルが口を開く。
「普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」
「本当か!?」
「だったら頼む!早速やってくれ!」
「けど!」
びしっとシャルルが俺たちに指をさしていう。珍しくその声には有無を言わせぬ迫力があった。
「けど、ふたりとも約束して。絶対に負けないって」
「もちろんだ」
「ここまで啖呵を切って飛び出すんだ。負けたら男じゃねえよ」
「じゃあ、負けたら明日からふたりは女子の制服で通ってね」
「えっ!?」
「うっ……!い、いいぜ?なにせ負けないからな!」
冗談のおかげで少しその場の雰囲気が和らぐ。ただ、これが冗談で終わってくれることを願ってるよ。
「じゃあ、はじめるよ。……リヴァイヴのコア・バイパスを展開。エネルギー流出を許可。――一夏、白式のモードを一極限定にして。それで零落白夜が使えるようになるはずだから」
「おう、わかった」
一夏のガントレットにリヴァイヴから伸びたケーブルが接続され、見ている俺には分からないが、おそらくエネルギーが一夏に流れ込んでいることだろう。
「完了。リヴァイヴのエネルギーは残量全部渡したよ」
その言葉通り、シャルルの体からリヴァイヴが光の粒子となって消える。
それと同時に一夏の白式が再度一極限定で再構成を始める。
「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」
「充分さ」
そう言って一夏は敵ISに向き直る。俺もそちらを向く。
「一夏。お前はやつに一発当てることだけを考えろ。俺がお前への攻撃を全部防いでやる」
「いいのか?」
「そこは、任せる、って言ってほしいかな」
「……わかった。任せたぜ」
「おう。でも、任せられるのはいいが、倒してしまってもいいのだろう?」
「ははは。なんだそりゃ」
「この間見たアニメのセリフ」
「じゃあ、俺の準備が整うまでに倒せそうなら倒してもいいぜ」
「おう。それじゃあせいぜい頑張るさ」
そして、俺たちは一歩づつ黒いISに近づいて行く。
「じゃあ、行くぜ偽物野郎」
一夏が気合いを入れるように右手の≪雪片弐型≫を握る。俺も近接ブレードを展開――しようとしたところで展開したままだったのを思い出す。一度解除し、もう一度手元に展開。俺も近接ブレードを強く握る。
「零落白夜――発動」
ヴン……という音とともに一夏の≪雪片弐型≫が本来の二倍ほどの大きさになる。
と、同時に黒いISこちらを認識する。片手の雪片もどきを構えこちらに来る。どうやら狙いは一夏のようだ。一夏に向かって行く敵ISと一夏の間に割り込み、斬りかかってきた敵の一撃を受け止める。
「悪いけど、俺が相手だ」
キンッキンッキン、と俺のブレードと敵のブレードがぶつかって火花を散らす。
くっ、やっぱり強い。太刀筋も織斑先生そっくりだ。マネはマネ、と割り切れない強さだ。確かに本物ほどの強さはないような気がする。でも、強い。何とか捌いているが正直手一杯だ。少しでも集中力を切らせば即やられるだろう。
「航平!いけるぞ!」
「おう!」
ここで返事をしたのが悪かった。その瞬間、一瞬ではあるが敵から意識を逸らしてしまった。
俺の意識が一夏に向いた瞬間、下から斬り上げるような一閃が俺を襲う。
「くっ!」
一瞬の判断で後ろに飛ぶが、その切っ先は俺の右腕をとらえる。体の浮遊感が消え、打鉄が光の粒となって消える。でも、俺は構わず叫ぶ。
「行けえ!」
「おう!」
俺の叫びに一夏も大声で返事をし、頭上に構えていた≪雪片弐型≫を敵ISへと振り下ろす。
「ぐっ」
後ろに背中から着地した俺が見たのは、真っ二つに切り裂かれた黒いIS、そしてそこから出てくるラウラ・ボーデヴィッヒだった。ボーデヴィッヒさんは眼帯が外れ、金色の左目があらわになっている。
いつもの強く、冷たい雰囲気はなく、ひどく弱っているようだった。
「……まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」
力を失って崩れるボーデヴィッヒさんを一夏が抱きかかえ、そうつぶやいた。ボーデヴィッヒさんに聞こえたかどうか、それは本人のみわかることだろう。
てなわけで、タッグトーナメントもこれにて終了ですね。
バトルシーンは日常話の倍は時間かかる気がします。
毎度毎度難産です。
あー疲れた。
追記
題名入れてませんでした。
編集しました。