「なあ、これって何だ?」
「ああ、それはね――」
放課後、夕日を浴びながら図書室でシャルロットと航平は図鑑を机に置いて隣同士に座っていた。
「なるほど、流石はシャルロット。物知りだな」
「そんなことないよ」
「悪いな。俺が記憶ないから知識深めるのに協力してもらっちゃって」
「ううん。そんなの全然いいんだよ。でも、僕でよかったの?他にもセシリアたちだっていたのに」
「いいんだよ。俺がシャルロットといたかったんだよ」
「えっ?」
「なんていうか、シャルルと一緒にいると楽しいし」
そう言った航平の顔は少し赤く染まっていた。それは夕日だけではないだろう。
「航平…」
「でさ!もう一個聞きたいことがあるんだ」
話題を変えるように航平は図鑑を手に立ち上がりながら言った。
「ん?何が知りたいの?」
「うん、実はさ……」
シャルロットの後ろの本棚に図鑑をしまいながら、航平は口を開く。その顔はシャルロットに背を向けているのでシャルロットにはわからない。
「俺、最近変なんだ。シャルロットと一緒にいると楽しいのに、シャルロットが一夏と話してるの見てると、胸がざわついて苦しくなるんだ……」
「それって……」
「二人っきりの時もおかしいんだ。シャルロットと話してて、俺にもよくわからないけどなぜか――」
そこまで言ったところで航平は急に立ち上がり、イスに座ったままのシャルロットを抱きしめる。
「こうしたくなるんだ」
「え!?こ、航平!?」
驚いて慌てるシャルロット。しかし航平はさらにギュッとシャルロットを抱きしめる。
「なあ、シャルロット。俺、記憶が無いからわからないんだ。この気持ちはおかしいのかな?俺、なんか変な病気なのかな?」
「航平……」
航平の言葉にシャルロットは自分の体から力を抜き、航平を抱き返す。
「心配しなくてもいいんだよ、航平。その気持ちは何もおかしいことなんてないんだよ」
「……じゃあ…こうしたくなるのも?」
シャルロットから体を離し、シャルロットへと顔を近づけていく。
「航平……」
「シャルロット……」
ふたりの他に誰もいない図書室で徐々に二人の顔は近づいて行く。ふたりの瞳にはお互いの顔が映りこむ。
窓から差し込むオレンジ色の光が包み込む図書室の中で、ふたりの影が重なっていき――
「――あ、れ?」
寝起きでぼんやりする頭でシャルロットは状況を確認するために上体を起こし、周りを見渡す。
今いるのはIS学園一年生寮のシャルロットの部屋。時刻は六時半。
「………………」
徐々にはっきりとしてくる頭で現状を把握し始める。
「夢…かぁ……」
はぁぁぁぁ……っと大きくため息をつきながらベッドに倒れ込む。
(せめてもう十秒くらい……)
夢の内容を脳内でもう一度再生する。
「………………」
ぼっとシャルロットの顔が赤く染まる。
(と、図書室で、なんて……)
そう思いながらもシャルロットの胸はドキドキと高鳴っている。
(ぼ、僕は何を考えてるんだろうね……)
頭まで布団を被り、同室の人物にかを見られないように隠す。しかし、彼女の同室、ラウラは現在一夏の部屋にいるので隠そうと隠すまいとあまり変わらないのであるが…。
(……今眠れば夢の続きが見れるかな……)
そんな淡い期待を抱きつつシャルロットは瞼を閉じた。
(でもせっかく夢なら、もうちょっとエッチな内容でも僕は全然かまわな――)
そこまで考えたところで自分が今何を思ったのかを理解したシャルロットは顔を真っ赤にする。
「な、何を考えているんだろうね、僕は」
高鳴る鼓動を沈めながらシャルロットはさらに強く瞼を閉じた。
○
俺たちは現在寮の食堂で朝食をとっている。流石というかなんというか、一夏が絡むと箒もラウラも静かに朝食をとることはない。
ラウラが一夏にパンを口移しに食べさせようとしたり、そのことで箒が怒ったり、一夏が自分の好みを「おしとやかな女の子」と言ったりと、いろいろと騒がしかった。
そんなことをやっていると
「わああっ!ち、遅刻っ……遅刻するっ……!」
バタバタと忙しそうにシャルロットが食堂に駆け込んできて、余っている定食を手に取る。
「よ、シャルロット」
「おはよー」
「あっ、一夏……と、航平。お、おはよう」
ちょうど俺の横が空いていたので手招きする。
真面目なシャルロットがこんなに遅くやってくるとは珍しい。相当焦っている。確かに今から朝食を食べるのなら大急ぎで食べないと授業に間に合わないだろう。
「どうしたんだ?いつも時間にしっかりしてるシャルロットがこんなに遅いなんて」
「う、うん、ちょっと……その、寝坊……」
「へぇ、シャルロットでも寝坊するんだな」
「う、うん、まあ、ね……。その……二度寝しちゃったから」
食べるのが忙しいのだろう。少し歯切れが悪い。しかもさっきから気になっていたのだが、シャルロットは俺から距離を置いているような……。
「なあ、シャルロット」
「う、うん?」
「もしかして、俺のこと避けてる?」
「そ、そんなことは、ないよ?うん。ないよ?」
う~ん。怪しい。否定する割に俺の方見ないし。なんか警戒されている気がする……。
ま、いっか。あんまり問い詰めるのもなんだし。
しかし――
「こ、航平?ずっと僕の方を見てるけど、ね、寝癖でもついてる?」
「いや、大丈夫だ。ただなんて言うか、改めて女子の格好のシャルロットを見てると、なんだか新鮮だなって思って。もちろんいい意味で」
「いい意味って?」
「うん。似合ってるっていうか、かわいいと思うぞ」
「か、かわっ?」
俺の言葉に顔を赤くするシャルロット。褒められなれていないのかな?
と思っていたところに
キーンコーンカーンコーン。
「うわあっ!い、今の予鈴だぞ、急げ!」
という一夏の言葉を背中に受けながら俺たち四人はもうすでに食堂を出ようとしている。
「お、おいお前ら置いていくな!今日は確か千冬姉――じゃなくて、織斑先生のSHRだぞ!」
だからだよ。織斑先生の授業に遅れるなんて=死だ。
「悪い一夏。俺はまだ死にたくない」
「航平に同じく」
「私も二人に同じく」
「ごめんね、一夏」
「ぬああ。なんてやつらだ!どうせ死ぬなら一緒に死のうぜ!?」
「「「「無理!!」」」」
一夏の叫びに俺、ラウラ、箒、シャルロットが返事をしながら走っていく。
「行くよ、航平っ」
上履きを履き替えたところでシャルロットが俺の手を掴む。
「飛ぶよ」
「は?」
訊き返そうとした俺の言葉は専用機『ラファール・リヴァイブヴ・カスタムⅡ』の脚のスラスターと背部推進ウイングだけをシャルロットが部分展開したことで遮られる。
「うわっ!」
ぐんと体が下に引っ張られ、ISの飛翔能力によって俺とシャルロットはあっという間に教室に着いた。
「到着っ!」
「おう、ご苦労なことだ」
なぜだ。まだ授業は始まっていないのに。まだ本鈴は鳴っていないはずなのに、後ろから織斑先生の声が聞こえた気がする。
恐る恐る後ろを振り返った俺たちの目の前にいたのは我らが鬼教師織斑先生だった。
あ、終わった。
「本学園はISの操縦者育成のために設立された教育機関だ。そのためにどこの国にも属さず、故にあらゆる外的権力の影響を受けない。がしかし――」
スパァンッ!振り下ろされる出席簿アタック。
「デュノア、敷地内でも許可されていないIS展開は禁止されている。意味はわかるな?」
「は、はい……。すみませんでした……」
真面目なシャルロットが規律違反をしたことがクラスメイト達には信じられなかったらしい。みな唖然としている。
俺とシャルロットが怒られている間に箒とラウラは難なく着席。くそっ。
「デュノアと梨野は放課後教室を掃除しておけ。二回目は反省文提出と特別教育室での生活をさせるのでそのつもりでな」
「「はい……」」
織斑先生の言葉に俺たちは頷くしかない。
「それと――」
スパァンッ!
「お前はグランドを十周して来い、織斑」
「は、はい」
箒やラウラの時のようにはいかず、織斑先生に捕まってしまった一夏は意気消沈しながらとぼとぼと教室から出て行った。
相変わらず織斑先生は一夏には厳しい。身内だからかな?いやよいやよも好きのうち?
「おい、梨野。お前も織斑と一緒に走ってくるか?」
「い、いえ!結構です!」
毎度思うが、なんでわかるんだよ織斑先生。
久々でした。
お久しぶり?です。
とりあえずリアルの方が区切りがついたので投稿しました。
ここからまた投稿を再開しますが、毎日は無理だと思います。