IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第54話 待ち合わせ

「えーっと、財布は持ったし……あとは特に忘れ物はないな」

 

 日曜日。以前約束した通り俺はシャルとの買い物の仕度をしていた。

 現在の時刻は九時半。待ち合わせは十時に寮の玄関に待ち合わせなので十分間に合う時間だ。

 同室の一夏も誰かと約束があるらしく俺よりも先に部屋を出た。現在俺は部屋で一人服装をチェックしたり忘れ物がない確認している。

 ちなみに今日の俺の服は上は白の無地の白いTシャツと、その上から赤と白のチェックの半袖のシャツを前で止めるボタンを全部開けている。下はブラウンのカーゴパンツ。

 確認もすぐに終わったので少し早いが部屋を出ることにした。

 

「もうすぐ臨海学校だしな。必要なもの買っておかないと」

 

 実際俺の持っているものなんて最低限の身の回りの物。あと以前出かけた時に千冬さんや真耶さんに買ってもらったいくつかの服だけ。その服もこうやって出かけない限り気ないものがほとんどだ。

 臨海学校なので水着すら持っていない俺は手に入れておく必要がある。

 

「お、航平じゃないか」

 

 曲がり角を曲がったところで千冬さんと真耶さんに出会う。

 

「あ、ちふ…織斑先生、山田先生。おはようございます」

 

「今は休日だ。普段通りでかまわん」

 

「あ、はい」

 

 千冬さんの言葉に俺は少し緊張をほぐす。

 ふたりは俺がIS学園で保護されてから何かとお世話になっていたので普段は千冬さん、真耶さんと呼んでいたのだが、学校の時は他の生徒の手前、特別扱いはなしということで織斑先生、山田先生で通している。

 

「これからお出かけですか?」

 

「はい」

 

 真耶さんの問いに俺は頷く。

 

「臨海学校に向けて必要なものを揃えようと思って」

 

「一夏のやつも今日は買い物に行くと言っていたが一緒に行くのか?」

 

「いえ、俺はシャルと」

 

 俺の返事を聞いた千冬さんの片眉がピクリと動く。

 

「……それはデュノアと二人っきりでか?」

 

「ええ……そうですよ。シャルは男装してたんで、水着持って無いらしくて。俺も持って無いんでちょうどいいんで他の必要なものも含めて一緒に買いに行こうと思って」

 

「そうか……」

 

 あれ?なんか千冬さん少し不機嫌そう?なんで?

 

「あっ、てことはこれからデュノアさんとデートなわけですね?」

 

 山田先生の言葉にさらに眉をひそめる千冬さん。

 

「デートって大げさな。ただ買い物に一緒に行くだけですよ」

 

「あはは、ですよね」

 

 笑いながら俺は否定し、真耶さんも笑う。

 

「山田君、ちょっといいかな?」

 

「はい?」

 

「ああ、航平はそのまま少し待て」

 

「はい……」

 

 そう言って千冬さんは真耶さんを連れて俺から少し離れる。

 何かをぼそぼそと話しているが、俺のところまでは二人の声は聞こえてこない。

 千冬さんは少し難しい顔をしているし、真耶さんは楽しげに笑っている。あ、真耶さんが千冬さんにヘッドロックかけられた。痛そうにワタワタ暴れながらヘッドロックをかける千冬さんの腕をタップしている。

 ある程度ヘッドロックをした後、千冬さんは真耶さんを解放し、痛そうに頭を押さえる真耶さんに千冬さんは何かを言い、涙目になりながら千冬さんに頷いている。

 いったい何だというのだろうか。

 

「すまなかったな」

 

 話は終わったのか二人が俺のところに戻ってくる。

 

「いえ。それで、何の話だったんですか?」

 

「ああ、実はな、表立って行動するところは今のところはいないが、いまだお前のことで学園に追及してくる国は多くてな、しかも、最近では女性権利団体までそれに加わってな。お前の詳しい情報の開示を要求するとな」

 

 俺が学園に入学する前からそれはあったらしい。俺の入学と同時に今わかる限りの情報は開示したらしいが、それでも他の国はまだ隠していることがあると思っているのだろう。

 

「だから、いまだにお前のことを監視する国や団体は多いだろう。下手をすれば行動を起こすものも出てくるかもしれん」

 

「うへ。まだ監視ついてるんですか?」

 

「あくまでも可能性だがな」

 

 他国やいろんな団体の監視のおかげで入学するまでは結構肩身の狭い生活だった。

 

「まあ大丈夫でしょう。俺もそこそこ鍛えてますし、シャルも代表候補生ですし」

 

「いや。そこは万全を期すべきだ」

 

 俺の言葉に千冬さんが首を振る。

 何だろう。嫌な予感がする。千冬さんの後ろでも真耶さんが苦笑いを浮かべている。

 

「そこで、今日でかけるなら万が一のことも考えて〝あれ〟をするべきだろう」

 

「………〝あれ〟って……〝あれ〟ですか?」

 

「そう、〝あれ〟だ」

 

 俺が苦笑い気味に訊いた俺の言葉に千冬さんは笑顔で頷く。この顔は知っている。何か悪いこと考えているときの千冬さんの顔だ。千冬さんの背後では真耶さんも苦笑いしつつも少しワクワクしているようだった。

 どうやら俺の予感は的中したようだ。

 

 

 ○

 

 

 

「~~♪~~♪~~♪」

 

 寮の玄関でシャルロットは楽しそうに鼻歌まじりで立っている。

 時々ガラスに映る自分の姿を見ながら髪型を確認したり、服の確認をする。

 

(アハハハ~。航平と買い物……これってデートかな?デートって思ってもいいのかな?)

 

 ガラスに映る自分ににっこりと笑顔を向けながら頭の中ではお花畑をルンルンとスキップをするイメージが浮かんでいる。

 

(航平は買い物に付き合ってほしいって言ってたけど、これってやっぱりデートだよね~)

 

 現在の時刻は九時四十分ごろ。待ち合わせは十時なのだが、楽しみすぎて九時にはここに来ていたシャルロット。待っている時間も苦ではない。むしろ楽しむ過ぎて昨夜から興奮しっぱなしなのである。あまりに上機嫌なもので同室のラウラは首を傾げていた。

 

(やっぱり早く来すぎたかな。……航平早く来ないかな~)

 

 時間を確認しながらガラスに映る自分を見て、前髪をいじるシャルロット。

 

「~~~♪~~♪~~~♪~~♪」

 

 上機嫌で航平を待っているシャルロットの携帯がメールの着信を告げる。

 

「ん?誰からだろう……。あっ、航平からだ」

 

 メールの送り主を確認し、それが待ち合わせ相手であるのを見て、すぐさまメールを開く。

 

「えっと…『千冬さんと真耶さんに捕まった。悪いけど少し遅れる。すまん』……って、どういうこと?」

 

 メールの文面に首を傾げるシャルロットであった。

 

 

 

 ○

 

 

 メールの着信から三十分後。

 シャルロットは同じ量の玄関で時計を見ながら手持無沙汰でぼんやりとしていた。

 

(織斑先生と山田先生に捕まったって……いったい何があったんだろう)

 

 さっきからメールの文面がぐるぐると回る。

 メールには遅れるとしか書いていなかった。何があったとも詳しくは書かれていなかった。そのことが少し不安感を増させる。

 

 時計をもう一度確認するとそろそろ十時十五分。

 

(大丈夫かな…航平)

 

 時計を見ながら大きくため息をつく。と――

 

「お待たせ、シャル」

 

 背後から自分を呼ぶ声がした。その瞬間心配していた気持から一変。安堵する。

 

「もお、遅いよ航平――」

 

 笑顔を浮かべながら振り返ったシャルロットの顔は、そこに立っていた人物を見た瞬間凍り付く。

 

「ごめんなさい、待たせちゃって。それじゃあ行きましょうか」

 

 そこに立っていたのは長い腰まである美しい金髪のIS学園の女子の制服を纏った人物だった。

 

「え……えっと…どちら様ですか?」

 

「あー………」

 

 その人物はシャルロットの言葉に若干の苦笑いを浮かべる。

 

「えっと……渡辺ナナコこと…航平…です…」

 

「えっ!?」

 

 少し照れたように顔を逸らしてその人物は言った言葉にシャルロットは驚きながらその人物、ナナコの顔を覗き込む。

 

「ほ、ほんとに航平……?」

 

「おう」

 

 先ほどまで裏声を使っていた声を戻していつもの声でしゃべる航平。

 

「……なんで女装?」

 

「実はここに来るまでに千冬さんと真耶さんに会って、出かけるって言ったら、俺は各国やいろんな団体から狙われる可能性があるから変装して行けって無理矢理……」

 

「あぁ……」

 

 シャルロットは納得したような納得しきっていないような微妙な顔をする。

 

「というわけで、今日はナナコで買い物行くことになったんだ」

 

 航平の言葉に、先ほどまでデート気分で上機嫌だったシャルロットは足元が崩れたような感覚に見舞われたのだった。




キリよく今日はここまで。
買い物は次回からです。

急遽航平との買い物がナナコとの買い物に変わってしまったシャルロット。
千冬さん……それはシャルロットがかわいそうっすよ…。
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