IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第55話 水着

「さて、着いたわけだけど……どこに行けばいいんだろうね?」

 

 俺……私とシャルロットは一番近場で大きなショッピングモール『レゾナンス』へとやって来た。

 入り口付近に置かれていた簡易地図を手に取り、これからの行動を考える私は隣のシャルロットに訊く。

 

「あー……うん……そうだね」

 

 ここに来る道すがらシャルロットはずっとこの調子だった。何度か話しかけるのだが、このように生返事ばかり。なんだかどことなく落ち込んでいるように見えるので心配だ。

 

「元気ないけど、どうかしたの?」

 

「え?いや……うん。なんでもないよ」

 

「そう……」

 

 なんでもないとは思えないが、そう言ったその顔は先ほどよりは元気になったように見える。

 

「それで、どうする?私ここ来たことないからどこに行けばいいかわからないんだけど」

 

「うーん、どうしよっか?僕もここに来たのは初めてだし」

 

 シャルロットは私の手元の地図を覗き込む。

 

「とりあえず適当に見て回ろっか。見たところ水着とか臨海学校に必要そうなものは一か所に偏ってるみたいだし」

 

「それがいいかしらね」

 

 私はシャルの提案に頷く。

 

「それじゃあ、とりあえずまず最初の目的地として水着売り場にでも向かいましょうか」

 

「うん」

 

 地図で一度水着売り場を確認し、そこへ向かって歩き出す。

 

「そう言えば、航平は…っていうか、航平の水着どうするの?」

 

「……千冬さんからは〝彼氏へのプレゼント〟とか〝親戚へのプレゼント〟ってことにすればいいって言われた」

 

「そ、そう……」

 

 シャルロットは私の返答に苦笑いを浮かべる。

 

「なんていうか……大変だね」

 

「……ええ」

 

 ホントに面倒だ。でも、変装しないとまずいて言われるとこうするしかないわけで……。

 

「前から気になってたんだけど、ナナコとナナミの名字ってなんで〝渡辺〟なの?」

 

「ああー、それは――」

 

 私は以前千冬さんからされた説明を思い出す。

 

「千冬さん曰く、航平の〝航〟は〝わたる〟とも読めるから、〝わたるなべい〟…〝わたなべー〟で〝わたなべ〟らしい」

 

「……ダジャレ?」

 

「まあそう思えるかもね」

 

 シャルロットの言葉に私は苦笑いを浮かべる。

 

「まあそんなわけで、私とナナミの名字は〝渡辺〟になったの」

 

「へー」

 

 私の言葉にシャルロットはなんとなくは納得したようだ。ちなみにここまでの会話は万が一の監視者に備えて小声で話している。日曜でそこそこ混んでいるので耳を澄まさないとお互い聞き取りずらい。

 

「……監視の対策って言うのも疲れるわね」

 

 私は少しげんなりしながら言う。

 

「せっかく航平として出かけられると思ったのに」

 

「そういえば、航平って前に一人で買い物行ったんじゃなかったけ?その時は大丈夫だったの?」

 

「大丈夫だった…みたいよ。でも、この間のタグトーナメントで実際に〝航平〟のこと見たせいで各国の興味を引いちゃったらしいわ。特に女性権利団体とかに」

 

 少なくとも千冬さんからはそう聞いた。

 

「……航平って僕との買い物楽しみだったの?」

 

 シャルロットが訊く。

 

「楽しみにしてたわよ」

 

 実際久々のお出かけだったのでわくわくしていた。

 

「そっか……楽しみだったんだ……」

 

 なぜか私の返事にシャルロットの表情がほころぶ。

 

「………シャルロット?」

 

「えっ!?なにかな!?」

 

 私が声をかけるとなぜか焦ったように顔を上げる。

 

「いや、水着コーナーこっちよ?」

 

「……あっ」

 

 

 

 ○

 

 

 そんなシャルロットとナナコを離れたところから監視する二人組がいた。

 

「ねえ……本音。あれならデートとかじゃないからここまで追いかけてくる必要はなかったんじゃないの……?」

 

「ぶー。でもー……」

 

 

 それはどこか不機嫌そうな本音とそんな本音につき合わされた簪だった。

 

「買い物くらいいいんじゃない?」

 

「私もナッシーと買い物行きたかったのー!」

 

 隠れている壁にガジガジと噛みつきそうな勢いで本音はナナコとシャルロットを見つめる。

 

「でも、相手はナナコのバージョンだよ?」

 

「それでもー!」

 

 簪の方を振り向いて本音が言う。

 

「あっ、曲がった」

 

「追いかけるよ!」

 

「はいはい」

 

 やる気満々の本音とため息まじりの簪だった。

 

 

 ○

 

 

 

「ここが水着売り場だね」

 

 数分歩いたのち、私たちは目的の水着売り場へとやって来ていた。

 

「シャルロットも水着買うのよね?」

 

「う、うん。……ねえ、航平は僕の水着みたいのかな?」

 

 ん?そこは航平が見たいかじゃなくて、シャルロットが泳ぎたいかじゃないのだろうか?

 

「どうせ海に行くんだから一緒に泳ぎたいと思うわよ。航平は海で泳ぐの初めてだから楽しみにしてるわよ」

 

「そ、そうなんだ。じゃあかわいいの選ぼうかなー」

 

「じゃあ、男性用と女性用で別になってるみたいだから、ここでいったん別れましょうか」

 

「あっ……」

 

 私の提案にシャルロットはどこか心残りのあるように私を見つめる。

 

「どうかしたの?」

 

「あっ、ううん。なんでもないよ」

 

「そう。じゃあとりあえず三十分後にまたここで」

 

「うん。わかった」

 

 こくんと頷いたシャルロットと別れ、私は男性用のコーナーに移動する。

 移動した先でサイズなどが分からないので店員に背丈は自分と同じくらいの親せきに買うという名目でサイズを教えてもらう。

 シンプルな黄緑の水着と日焼け防止の黒のUVウェアーを買う。

 約束は三十分後ということにしたが、時間までまだまだ時間はある。

 速めに先ほどの場所に向かおうと店から出た私はよく周りを見ていなかったせいで人にぶつかってしまった。

 

「あっ、すいません。ケガはないですか?」

 

「いえ。こちらこそ前方不注意でした。すみません」

 

 相手は私にぶつかったことでバランスを崩したのか尻餅をつき、荷物を少しこぼしていた。

 散らばっている袋を拾い集めるのを手伝い、拾った袋を相手に渡したときになって私は相手の様子を詳しく見た。

 服装的に男性かと思いきや、よく見ると女性だった。

 水色のカッターシャツに紺色のスーツ。ネクタイはしておらず、少しサイズが大きいのかズボンの裾がダボついている。両手には白い布の手袋をしている。

 私の肩までしかない身長。化粧気のないが美形の整った顔。雪のような透き通った白い髪。白い髪を止める大きな機械部品のような髪留め。

 パッと見は男性っぽいところもあるが体のラインはちゃんと女性的なものだった。

 なんというのか、不思議な少女だった。年齢的には私とそんなに離れていないように見える。なのにすごく大人っぽく見えた。一言で言えば、私とは違う本物の美少女だった。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、もともと私がぶつかったせいだから」

 

 私に会釈する少女に向けてにっこりとほほ笑みながら言う。

 

「あの、ついでに少しお聞きしたいのですが」

 

「ん?何かしら?」

 

「実は人と待ち合わせているのですが、少し迷ってしまって。フードコートはどちらに行けばいいのでしょうか?」

 

「えっと、私もここに来たのは初めてで、あまり詳しくないのだけど…ちょっと待ってね」

 

 私はポケットから先ほどお世話になった地図を取り出す。

 

「えっと、今ここだから、このまま真っ直ぐ進んで書店のところで右に行けばいいみたいよ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「いえいえ。こちらこそぶつかってしまって本当にごめんなさいね」

 

 礼を言う少女に向けてもう一度私は謝る。

 

「さっきも言いましたが、私も前方不注意だったので」

 

「そう。まあ今回はお互いさまってことにしておきましょうか」

 

「ええ」

 

「それじゃあ、私も人と待ち合わせているから」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 私に会釈する少女に手を振りつつ、私はシャルロットとの待ち合わせ場所に向かった。

 

 

 ○

 

 

「お待たせしました」

 

 先ほどナナコにぶつかった少女は無事目的のフードコートに着き、待ち合わせ相手の二人に声をかける。

 その二人は、一言で言えば異様な凸凹コンビだった。

 片や(小柄な白髪の少女よりも)小柄な長髪の少女。もう夏目前だというのに本音よりもだぼだぼの袖の服を着込み、顔にはなぜか目元を覆うマスクをしていた。

 片や身長は二メートルを優に超えるような大柄な白髪長髪の男性。両腕にはブレスレッドとは思えないほどの、まるで拘束具のような腕輪をしている。

 

「お?どうした?なんかうれしそうだな」

 

 長身の男性が少女に訊く。

 

「ええ。少しかっこいい女性に会ったもので」

 

「ほー。相変わらずお前はかっこいい女が好きなんだな」

 

 男性がニヤニヤと笑いながら注文していたポテトフライをつまむ。

 

「さて、必要なものも買い揃えたし、お仕事の話でもいようか」

 

 小柄な少女の言葉に席に着いた白髪の少女とハンバーガーを頬張る長身の男性が頷いた。

 

「今度の任務は大口だよ。対象はなんと――IS学園」

 

 

 

 ○

 

 

 シャルロットとの待ち合わせ場所にやって来た私は、なぜか待ち合わせ時間になっていないにもかかわらず、シャルロットと会った。

 

「あれ?まだ時間まであるわよ?もう買い物終わったの?」

 

「あ、ううん。実はナナコの意見も聞きたいと思って」

 

「そう。じゃあ実物を見に行きましょうか」

 

 私の言葉にシャルロットも頷き、女性水着売り場へと足を踏み入れる。そこには、色にしても形にしても売り場の規模にしても、男性用売り場とは比べ物にならなかった。正直少し目のやり場に困るが、今の私は〝ナナコ〟だと自分に言い聞かせる。

 

「それで、どの水着が――」

 

「あれ?シャルロットと……ナナコさん?」

 

 シャルロットに訊こうとした矢先。私たちの背後から声が聞こえた。正直今の私が一番会いたくない人物の声だったような気がする。

 ゆっくりと振り返った先には

 

「どうも。お久しぶりです、ナナコさん」

 

 セシリア、鈴、ラウラを連れた、織斑一夏の姿がそこにはあった。




はい、というわけで最悪の人物との遭遇ですね。
ナナコの秘密は一夏にばれてしまうのか。
次回もお楽しみに~。

ちなみにナナコのシャルの呼び方がシャルロットなのは、自分のなかで航平とナナコは別として分けているからです。
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